第318話 第1魔王 ~反撃~
それは突然だった……
今日も盛り上がりに欠ける最終決戦を永遠に続けるのかと思っていた……
観戦者は俺と琉架とジークの3人だけ、白はおネムだし、リリスは今頃風呂の中だ。
他のメンバーは当たり前のように居ない。
停滞していた戦場に、何の前触れもなく突如として動きがあった。
『ギャアアアァァァアアァアァ!!!!』
何巡目かも忘れたいつものローテーション攻撃に、今まで機械的な反応しか見せなかった魔王カオスは突如として鋭い反撃を開始した。
ビックリした、この魔術って音も伝わるのか? 今まで爆発音とかは脳内で補完してたんだが、急にドラゴンの叫び声が禁域王宮のリビングに響き渡った。
『ヴェルノ!?』
どうやら声だけは伝わるらしい、今までは小声すぎて聞こえなかったのか。
ヴェルノってのは今攻撃を受けたリンドブルムの名だったか?
リンドブルムは突然の反撃を受けていた……
警戒はしていた…… しかし予想を上回るほどの鋭い反撃は想定外、リンドブルムは片方の翼を根本から切り落とされていた。
魔王カオスの攻撃、見た目はただのタックルだ。
巨大な龍であるリンドブルムにヒトサイズのタックルなど簡単に弾き返せるレベルだ、しかしこのタックルが絶対無敵の能力者が行うと話が別になる。
至近距離で強力な大砲でも撃たれたかのように、片翼は抉られるように切断された。
『グオオオォォォォオ!!!!』
それでもリンドブルムは怯まずに反撃を行う。
技後硬直状態っぽい魔王カオスに超至近距離から岩をも溶かす火炎ブレスを全力で浴びせかける!
バカな…… せっかく硬直してるんだから距離を取れよ。
相手は絶対無敵だぞ?
魔王カオスはブレスをモノともせず反撃する、ま、当然そうなるわな。
今度はリンドブルムの顔面めがけてパンチを繰り出した。
ドラゴンの頭が吹き飛ぶグロ映像が来ると覚悟した瞬間、大量の水が一人と一匹をまとめて飲み込んだ!
リンドブルムの巨体は鉄砲水に飲まれ数十メートル流される、しかしカオスは殆ど動いていない……
水の発生源はレビィ・グラン・ドラグニアだ……
きっとアレだ、今のが大海嘯だ。
リンドブルムを助けるための鉄砲水だな。
どんな攻撃も物ともしない『絶対無敵』を逆手に取った味方だけを押し流す攻撃回避法、さすがに1000年以上準備してただけはある。
「んぅ…… うるしゃい……」
おっと、白が起きてしまった、今すぐ中継を切って安らかな眠りを提供したいトコロだが、それをしたらリリスに怒られそうだから止めておく。
「何が起こったんだろう…… 何で突然……」
「琉架、悪いんだがリリスを呼んで来てくれ」
「え? あ、そうだね」
女神様を使いパシリにしてしまった、俺はなんて罪深いんだ…… ホントはジークを行かせたかったが、リリスは現在入浴中だ、いくら不能でも男を派遣するワケにはいかない。
…………
しかし…… 琉架の言う通り、一体何が起こったんだ?
突然真面目に反撃し始めた…… 見ていた限り特別な変化は無かった……
何かの準備が整ったのだろうか?
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そこからは凄惨な戦いが繰り広げられた……
そんな戦いをみんなで見てる…… 女の子たちにはあまり見せたくない場面も多い。
龍人族は全員龍の姿に代わり、世界が終焉を迎えるんじゃないか?ってくらい苛烈な攻撃を連発する。
世界はともかく浮遊大陸が落ちるんじゃねーか?
東洋龍っぽい見た目のリヴァイアサンがウォーターカッターのような攻撃を放つ…… 大地がザックリ裂けた……
ティアマトがウィンリーの真空鎌・超かまいたちっぽい真空の刃を作り出しぶつける…… また大地が裂けた……
ファフニールが禍禍しい呪弾のようなものを吐き出した…… 大地が腐った…… ヴァレリアさんエグいな……
バラウールが光線を放つと大爆発が起こった…… ジーサンやっぱり強いんだな……
ヴリトラが輝く息を吐き出すと、大地も炎も全てが等しく凍りつく…… おい、攻撃の属性を合わせろよ……
リンドブルムが吐いた光の玉は物に当たると目もくらむような放電を引き起こす、強烈なサンダーブレスだ……
…………
もともと何もない荒野のような場所だったが、あっという間に1000年はペンペン草一本生えないような、何かの爆心地のようになってしまった……
あの地に一歩足を踏み入れるだけでも人体に有害そうだ…… 主にヴァレリア女史のせいで……
しかしソレだけの猛攻を受けてなお魔王カオスは反撃に転ずる。
真っ先に狙われたのは…… 既に手負いのリンドブルムだ。
『グオオォォォオオッ!!!!』
リンドブルムはサンダーブレスを放ち、残った片翼で強烈な風を叩きつけ、更に天候を操作し雷を落とす!
しかし魔王カオスを止めることは出来ない…… いや、僅かにスピードが落ちたようにも見えるが、それは微々たるものだ。
しかしその僅かな隙を突き、リヴァイアサンが先程と同じく鉄砲水を作りまとめて押し流す!
だが……
『グオオォォォオオッ』
先ほどとは結果が違った。
数十メートル離れた位置にリンドブルムとカオスがいる……
カオスは宙に浮いた状態でリンドブルムの首の一部を握りつぶし捕まえている……
恐らく『絶対無敵』を解除して一緒に流されたんだ……
味方を殺さないために威力を落とした鉄砲水など、一緒に流されても問題ないと考えたんだろう。
その予想通りだったワケだ、元々龍人族で一番強かった男が魔王化したんだ、能力未使用でも頑丈なのだろう……
魔王カオスは…… いや、エネ・イヴェルトは馬鹿じゃない!?
戦況に応じて能力を使い分けるだけの脳みそがある!?
絶対馬鹿だと思ってた、だって勇者に馬鹿を任命した張本人だから。
なんかズルくね? 今の第1魔王はハイスペックすぎだ。
『グルル……ゴブッ!!』
血を吐くリンドブルム……
カオスはその様子を見ると、ニタリ……と薄気味悪く笑った。
そして……
ズバッ!!!!
次の瞬間、カオスは手刀でリンドブルムの首を落とした!
「ヒッ!」
「うっ!」
観戦者から小さな悲鳴が漏れる、てか琉架と白だ、二人はグロ耐性値が低いから……
ドザッ!
リンドブルムの首が地面に落ちる、しかしその目はまだ死んでいなかった。
首を斬られた巨大な龍はその状態で動き出し、身体すべてを使って魔王カオスを抱きかかえた!
まさか……!
キュィィィィイイン ――― カッ!!!!
映像は真っ白に塗り潰され、激しいノイズが走る!
マズイ、覗き術式が切れそうだ!
「ちょっと待って!」
リリスが制御に割り込み無理やり安定化する、ふぅ…… 一人だったら切断されてたな。
遠隔視の視点を動かし広域化する。
巨大な火柱が天を衝く勢いで昇っている……
「自爆した……」
首を斬られてなお……だ。
まるで核爆発でも起きたかのような巨大な爆炎、他の龍たちはその様子を遠巻きに眺めている…… 犠牲が出るのは覚悟の上だったのだろうが……
どことなく寂しげな表情をしている気がする、まぁドラゴンの表情は読み取れないがな……
しかし…… あぁ! 世界にたった7人しか居ない絶滅危惧種の龍人族が一人死んでしまった!
今すぐにでもレッドデータブックに乗せねば! まさか今日ココで絶滅とかしないだろうな?
「あ……」
琉架が誰よりも早く次の事態を察知した、まだ終わっていない!
ヒュッ――― ズドオォン!!!!
「!?」
ノイズだらけの映像に一筋の流星が映し出された、流星は遥か上空から飛来し一匹のドラゴンを貫いた……
あれは…… バラウールか? 要塞龍の管理人のジーサンだ!
『……ッ……ッ ……ガフッ!!?』
バラウールは断末魔の悲鳴を上げる間もなく地に落ちた…… ドラゴンの心臓が何処にあるのかは知らないが、バラウールの胸には大きな穴が開いている、恐らく急所……心臓を突かれたのだろう。
地に倒れ伏すバラウールの脇には魔王カオスが片膝をついていた……
あの爆炎に紛れて上空へ移動していたんだ、そして音速を超える速度で体当たり、バラウールの身体を貫通しやがったんだ。
しかもまだ終わらない、カオスは立ち上がるより早く手に持っていた何かを近くの龍ファフニールへと投げつけた!
それはバラウールの時と同じく、胸…… 心臓へと寸分違わぬ精度で突き立てられた!
『ギャアアアァァァァア!!』
ファフニールの胸に突き刺さったモノ…… それは骨だ…… バラウールの肋骨を圧し折り、槍の代わりにして投げつけたのだ!
そしてファフニールもバラウール同様、地に倒れ伏した……
いくら一番近かったとはいえ、数百メートル離れているドラゴン相手に、投擲で頑強な体皮を貫けるモノなのか? そこら辺も計算の上でバラウールの肋骨を使ったのか……
ほんの一瞬の内に更に二人落とされた……
これが魔王カオスの…… エネ・イヴェルトの本気ってワケか……!