第312話 異変
種族序列第3位・妖魔族……
種族全体が非常に傲慢で高圧的でイヤミったらしい、格下と思った相手は徹底的に見下すクソ種族……
そんなクソ種族の中でも特にヒドイのが大貴族達だと言われている。
“右席”ルストナーダ家
“左席”サダルフィアス家
“天席”ブラッドレッド家
この三大貴族の内、ルストナーダ家とブラッドレッド家は滅亡した。
最後に残ったサダルフィアス家もボンクラ息子が一人残っているだけだ、滅亡は時間の問題だな。
そんな妖魔貴族最後の生き残りは今……
「ハハァ~~~~ァ!!」
「あの…… 坊ちゃま?」
目の前で俺にひれ伏してる、土下座だよ土下座、妖魔族に土下座文化があったとは驚きだ。
「え~と…… ナニしてるの?」
「そうですよ坊ちゃま! サダルフィアス家の直系たる坊ちゃまがするようなポーズじゃないです!
頭を上げてください!」
「止めるなベルタ! 今が最後のチャンスなんだ! 妖魔貴族の未来が掛かってる! プライドなど捨ててしまえ!」
先程、久方ぶりに正気に戻った坊ちゃまにリリスが現状を説明したことが始まりだ。
第3魔王は討たれ、侵略戦争に敗北した妖魔貴族は一人を残して全滅、そして妖魔族という種族自体が絶滅危惧種になっている……
それらの説明を聞き終えた瞬間、坊ちゃまが五体投地した。
ちなみに話を聞いてる間に坊ちゃまの顔は元通りに戻っていた、さすが上位種族、放っておいても勝手に治る驚異的な回復力。
「どうか! 何卒お願い致します!!」
「えぇ~……」
つまりこういう事だ、リリスが現状を説明した時、高度な印象操作テクニックを使用した。
その結果、坊ちゃまの頭の中では俺は妖魔族の王にされてしまった……
つまりマリア=ルージュの後継だ……
ふざけんな! 印象悪すぎだろ!
要するに坊ちゃまは妖魔族最後の貴族として返り咲きたいわけか、その為に新・第3魔王である俺の後ろ盾が欲しいと……
侵略戦争では兵の殆どを失う大失態をやらかし、実質お家取り潰しになった貴族が返り咲くには魔王の後ろ盾が必須だろう。
自分の野心のために俺を利用しようってのか? 図々しい奴め……
確かに…… 俺ならコイツをもう一度貴族にしてやることが出来うだろう。
しかしソレをする理由が俺にはない。
このバカ貴族のボンボンを新しい貴族にするくらいなら、もっとまともな奴を任命して、ソイツに生き残った妖魔族を纏めさせる。
妖魔族ってのはみんな貴族っぽかったからな……
…………
まともな奴?
まともな妖魔族なんて存在するハズ無いだろ?
だって妖魔族だぜ?
そんな奴を見つけるのはお祭りのクジで一等賞を当てるより困難だ…… てか当たりなんか無い。
「何卒っ! 何卒! コンラート・サダルフィアスをっ! どうか!! どうかよろしくお願いいたします!!!!」
…………一人選挙活動? 悪いけど俺 選挙権無いんで、ほか当たってください。
能力はともかく意欲だけはある…… 意欲だけな。
誰がやっても同じ結果になるならやる気満々の奴がやるべきか。
でもなぁ~…… そもそも俺には関係ない話だし、それにコイツってさぁ……
「キミさぁ…… 前に俺のコトなんて呼んだっけ? 確か「デコ助野郎ォ!!!!」って言われた気がするんだけど……」
「……ッ!!!!」ダラダラ
おぉ~、顔色が一気に悪くなって汗が滝の様に流れてる、おもしれ~♪
こんな古い話、全然気にしてないんだけどね。
「その節は…… 大変失礼なことを申しました…… 何卒ご容赦を!」
そして坊ちゃまは頭を床へガンガン打ち付けだした、えぇ~…… そこまでしなくてイイのに、だってお前等すぐに治っちゃうし……
「坊ちゃま…… おいたわしや……」
貴族に有るまじき姿をさらしている坊ちゃまを見て、ベルタは一人涙をこぼした……
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「そこまで言うならお前を貴族にしてやろう、ただし条件がある」
「ハッ! 何なりとお申し付けください我が主よ!」
まだ主じゃねーよ、気が早い奴だな。
「妖魔族の生き残りがアリアのルートに居る、そいつらをまとめ上げて他種族を見下さないよう教育しろ」
「教育……ですか?」
「妖魔族はナチュラルに他種族を見下す傾向がある、人族と接触したら問題が起こる確率100%だ、そうなったら今度こそ妖魔族は根絶やしにされるかも知れないぞ?」
「……それは我々妖魔族が人族如きに後れを取ると仰られますか?」
ほら、如きだってさ、ナチュラルに見下す。
「妖魔族の生き残りが何人いるのか知らないが、ここはデクス世界だ、数が圧倒的に違う。
更にお前達の最大の抑止力であった魔王マリア=ルージュはもういない」
俺は妖魔族を守る気は無い。
「たとえ数で劣っていても人族如きに……」
「アリアは南極にある、人族が一人もいない地だ、場合によっては核兵器が山ほど打ち込まれるかも知れない。
妖魔族がどんなに強くても、何千kmも離れた所から攻撃されたら反撃のしようがないだろ?」
「うぐっ!?」
「人族をあまり甘く見るなよ? シニス世界の人族とデクス世界では人族は違う」
こと遠距離からの大量破壊兵器運用では全種族中最強だ。
「くっ…… 畏まりました、全て主の仰せのままに……」
凄く不服そうだ、ま、いいか。
「ではお前に貴族の称号を授ける、お前は俺の名代として妖魔たちをまとめ上げろ!」
「イエス・ユア・ハイネス!」
「あぁ、あとお前、ディグニティに住んでいいよ」
「なぁっ!? ま……真でございますか!?」
「俺の城はシニス世界にあるし、アレは要らない」
お宝は既に根こそぎ奪った後だからな。
「有り難き幸せ! ご厚意謹んでお受けいたします!」
うむ、良きに計らえ…… あ、そうだ。
「それはそうとちょっと聞きたい事がある」
「はっ! 何なりとお聞きください!」
「アリアはどうやってデクス世界にやって来たんだ?」
「それは…… 雲に包まれたらいつの間にかデクス世界に居た……としか…… 申し訳ございません! 正確なトコロは誰にも分かりません!」
雲に包まれたら…… クラウニア王国での目撃証言と一致するな……
雲…… やはり次元トンネルか…… 浮遊大陸が通れる程のトンネルが開いていたのか? 或いは大きさは関係ないのか……
「あと一つ、ディグニティ中央塔の最上階が構造的に不自然だったんだが、あの上って何があったんだ?」
「はっ! あそこには先代魔王の私室がございました、あの部屋には聖遺物の一部が置かれており、城から切り離して使う事ができました!」
なるほど、やはりアソコにあの女の私室があったのか、切り離して使えるってコトは…… アルスメリアの首都DCの上空にその部屋が浮かんでるってコトかな?
お宝とかもそのままに……
未だに発見されてないってコトはティマイオスみたいな不可視化結界があるのかも知れないな……
それはまぁどうでもいいか。
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その後、坊ちゃまたちをゲートで南極送りにした。
クックックッ…… 第3魔王 霧島神那の盤石なる支配体制が完成しつつある、これでいざという時妖魔族を手駒として使えるぞ。
まぁそんな機会は永遠に訪れないと思うけど……
「さて…… それじゃそろそろ帰るとするか、これ以上用事は無いだろ?」
「そんな疑わしいモノを見る目をしないでも大丈夫よ、予定終了よ」
そりゃ良かった、リリスの事だからデクス世界に来たついで……とか言って幾つか面倒事を押し付けられるかと思ってた。
プルルルルル プルルルルル
「え?」
「ん?」
リリスがゲートを開こうとした時だった、壁に掛けられている電話が鳴った……
「リリス?」ジト
「違っ!? 濡れ衣よ! アクシデントよ! そんな目で見ないでよ!」
本当に? 仕込じゃ無くて?
「ちょ……ちょっと待っててね? もしもし?」
リリスが電話に出る…… いやいや、ゲート開いてから電話に出ろよ、先に帰ってるからさ。
「セリーヌ? 緊急の用事以外では電話はしないよう言っておいた筈ですが、何かありましたか?
……………………
え?」
何故か芝居臭く感じるのは俺だけだろうか? 口調を変えてるトコロが疑惑に拍車を掛ける、疑い過ぎかな?
「データを送って、こちらでも検討してみるから、それでは……」
やっぱり怪しい……
「それで? 何だって?」
「えぇっと…… それが……」
お次は何だ? どっかの街がドラゴンに襲われたか?
「次元トンネルらしきものが新たに確認されたわ」
「またか…… また消しに行くのか?」
「いや~…… それがちょっと……」
? 歯切れが悪いな…… それはいつものコトか。
「それが……ね? 未確定なんだけど…… 2000箇所以上で発見されたの」
「………………
………………
………………は?」
「だからぁ! 次元トンネルが2000箇所以上発見されたの!」
聞こえてるよ…… 大事なコトだけど2回言う必要は無い。
つーかフザケンナ! どれだけ苦労して門を開きし者を習得したと思ってんだ!
「発見された場所は殆んどが上空、地上にあるモノも僻地が殆んどね、だから直ぐには混乱に繋がらないわ」
上空…… 未だに空の魔物の所為で航空機は殆んど使用できないからな、でも……
「上空に次元トンネルが大量に出現したらシニス世界からどんどん空の魔物がやって来るんじゃ無いのか?」
「その可能性は……ある」
これは何とかしないといけないぞ、ラグナロクやギルディアス・エデン・フライビまでこっちに来てしまう可能性だってある。
しかし2000個も有ったら一つ一つ潰してなんかいられない……
てかティマイオスだって例外じゃ無い、もしそれが琉架のじーさんにバレたら大変な事になる!
何とかしなければ! 俺の禁域王宮崩壊の危機だ!!