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レヴオル・シオン  作者: 群青
第六部 「神の章」
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第308話 選択ミス


「ほら、あそこだ、あの店で車を借りられる」

「えぇ~? ホントにぃ~? ありがとうございますぅ~♪」


 親切なザック先輩が俺達を店まで案内してくれた、道すがら色々聞かれたけどリリスの見事な演技のおかげで全て有耶無耶にする事ができた。

 大した女優っぷりだな。


「それでお前達は…… あ~…… ま、いいか、それじゃ……」

「はいぃ~、ありがとうございましたぁ~♪ し~ゆ~♪」


 ザック先輩はUMAに遭遇でもした様な顔をして去っていった、その気持ちは分かる、俺も同じだ……


「クッ!」


 ガクッ!!


 ザック先輩の姿が見えなくなると同時にリリスが崩れ落ちた。


「…………」


 どうしよう…… なんて声かけよう?


「私は…… 何でこんな選択をしてしまったのでしょう……?」


 同感だ、何故それを選んだ? 頭蓋骨を抉じ開けて中身を確認したい気分だ、砂糖でも詰まってるんじゃないか?


「ねぇカミナ……」

「何だ?」

「私を殺して……」

「…………乗り越えろ」


 本人が望むなら殺してやるのも優しさかも知れないが、これ以上美人を殺したくないので却下する。

 乗り越えろ、いつの日かこの恥辱が糧になる日が……来ると良いね。


 自分のしでかした所業で精神に大きな傷を負ったリリスが何とか立ち上がり店へ入った。


「いらっしゃ……い」

「車を一台貸して欲しいのだけど、荒地でも走れるタイプがいいわね」

「え? そんな荒野の果てにあるのか?」

「それもあるけど誰かさんが道を吹っ飛ばしちゃったからね」


 あぁ、そりゃ悪い事したな。

 しかし悪路大丈夫かな? 車酔いは経験したことがないけど……


「お嬢ちゃん、悪いけど貸せないよ?」

「ハァッ!? どうしてっ!?」

「お嬢ちゃん何歳だい? 免許持ってないだろ?

 そっちの3人はどう見たってシニス世界出身者、車の運転なんて出来ないだろ?」


 もっともな話だ、俺達は見た目は少年少女だ、そんな奴に車を貸せるワケ無い。

 シニス世界なら馬でも鳥でも馬車でも年齢制限無しに借りられた、操獣技能も関係ない。

 しかしデクス世界ではそういう訳にはいかない。


 ちなみに俺はオリジン機関で無理やり習得させられたEx.Lライセンスを持っているから運転できるんだよね……

 もっとも使ったら速攻でザック先輩にバレそうだから使えないけど。


「私…… こう見えても24……」


 ×100な。


「そうなのか? だったら免許証は?」

「今は……無い……」

「だったらダメだ」


 リリスは笑顔を崩さない…… ただしかなり引き攣っているけど……


「お……お金なら出すわ、なんだったら買い取ったっていい!」


 魔神器から札束を5つほど取り出しカウンターに積む。

 新車だって変える額だ、さすが世界一の金持ち、マネーのパワーで強引に押し通す。


「そういう問題じゃない、諦めな」


 暖簾に腕押し…… なかなか手強い。

 融通の利かないオヤジだ、しかし金に屈しない立派なオヤジでもある。

 信じられん…… 世の中にこんな高潔な人間が存在するのか? どんなに金を積まれても自分の信念を貫き通す、誰にでも出来る事じゃ無い。


 そして実に迷惑なやつだ……


「しかもコレ統一通貨ENだろ、金持ちの令嬢なのか? 今この街でこの金は使えないよ」


 ?? なんでENが使えないんだよ?


 そんな疑問が顔に出たのかオヤジが丁寧に教えてくれた。


「この街は魔物に囲まれて外から物資が入ってこなくなった、また街で生産される物資も十分な量じゃなかった。

 この状況で統一通貨を使ってたら金持ちだけが物資を独占することになる」


 まぁそうだろうな、金持ちってのは分け与える気持ちなど持っていないから金持ちなんだ。


「そこでこの街限定の独自通貨を作った、主に街の防衛や医者、生活物資の生産者などが多く貰える通貨だ。

 これはこの街に住居を持たないトラベラーの為のものでもある。

 この独自通貨のお陰で暴動なんかも起こらない、戦闘能力の高い者が一番稼いでるんだから文句も出ないってワケさ」


 なるほど…… 一応、理にかなってる……かな?

 しかし金持ちを狙い撃ちにしたようなかなり強引な政策だ、普段の恨みや嫉妬が込められてたんじゃないか?

 まぁ税金で運用される軍隊も似たようなモノだからな。

 ただ街を見る限り、稼げなくても食うに困ることはなさそうだ。


「へぇ…… そうなんだ……」


 リリスのこめかみ辺りがピクピクしてる、アレもうじきキレそうだ。


 たしかに今この街では統一通貨は使えないだろう、しかし価値が無いとは思わない。

 もうじき救助も来るんだ、むしろENを持っていた方が都合がいい気がするんだが……


「むぅ~、あのカラフルな箱には乗れんのか?」

「大丈夫大丈夫、リリスが何とかしてくれるさ」


 残念がるウィンリーをなだめつつ、リリスにプレッシャーをかける。

 もう裏技使っちゃえよ。


「今この街には独自のルール…… 法律がある、それを破ればこの街から排斥されるかもしれない。

 と、いうわけで悪いが嬢ちゃんに車は貸せない」

「…………」プチ


 あ、キレた。


幻想追想(メメント・モリ)精神誘導(インダクション)』!」


 精神誘導(インダクション)? 精神操作系能力か?


「お前は私の言うことに逆らう事ができなくなる…… できなくなる…… くなる…… るぅ~……」


 セルフエコー? 思ってたのとなんか違う、チョット間抜けだ。


「リリス…… それは?」

「これは精神誘導(インダクション)、精神操作系のギフトよ、ただ魔法抵抗力の低い生物にしか効かない、要するに人族(ヒウマ)専用能力よ、劣化版だから仕方無いわ」


 人族(ヒウマ)限定か…… でもデクス世界でなら超有用な能力だ。


「昔はこの能力、結構使ったのよ…… 世界を支配するために」


 やはり使ってたのか、今でこそアイリーン・シューメイカーの名前が使えるから必要ないが、かつてやりたい放題していた頃は猛威を奮っていたのだろう。

 てか、最初から使えばよかったのに…… まさか昔 俺に使ったなんて事ないだろうな?


「リリス・リスティスの名の下に命じる! 今すぐ車を用意しなさい! もちろん燃料満タンで!

 その後、今日起こったこと、会った人物について、全てを忘れなさい!」

「イエスマム!」


 オヤジは軍人っぽく背筋を伸ばし回れ右をして駆け足で出ていった。


「記憶操作も出来るのか?」

「そこまで強力な能力じゃないよ、1日分の記憶を禁ずると、自分で都合の良い改ざんをしてくれるの、一番多いのは夢の中の出来事みたいに認識する人ね」


 夢の中の出来事か…… 記憶を完全に消せるわけじゃないのか。


「ちなみに2番めに多いケースは宇宙人に誘拐されたって思い込むパターンね、1日分の記憶が欠落するとそういう超常的な事で辻褄を合わそうとする人が結構多いのよ」


 え? あの胡散臭い宇宙人誘拐事件被害者たちをアブダクションしてたのってリリスなの?


「あ、全部じゃないわよ? 何十万、何百万人って被害者がいるのよ? そんなに攫ってない……

 神隠しには…… 遭わせてるけど……」


 ソッチのほうが余計に質が悪いぞ。



---


--


-



 これ以上余計なイベントに巻き込まれたくないのでさっさと街を出る、ちなみに運転手は俺だ、リリス…… ホントに免許持ってなかったのかよ……

 世界一の金持ちにそんなもの必要なかったのか。


 クレーターを迂回して街から南西方向へ30kmほど移動した所で街道から離れて荒れ地に突っ込む。

 しばらく進むと水の枯れた谷底のような場所を走っていた、深さはせいぜい3メートル程、観光資源にはならないか。

 しかし…… あぁ…… 揺れる…… 酔いそうだ。

 自分で運転してて良かったかもな、気が紛れる。


「キャハハハハハ♪」


 車の屋根の上でウィンリーがはしゃいでる、ナニがそんなに楽しいのやら? この揺れが楽しいのかな? 子供って車が大きく揺れると喜ぶイメージがある、どうでもいいけど落ちるなよ?

 …………落ちるわけ無いか、空飛べるんだもんな。


「おに~ちゃん…… あそこ……」

「ん?」


 白の指す方向、前方の崖の上に犬っぽい生き物の群れが見える、野犬か?


「アレ…… ロンリーウルフの群れ」

「ロンリーウルフ?」


 確か中央大陸に生息していた犬型生物群だったか? アレも魔物といえば魔物か…… マリア=ルージュはあんなのも連れてきてたのか。


「襲ってこないんだな」

「魔王が4人もいれば勘の鋭い生き物は襲ってこないわよ。

 まぁ例外はいるけど、あと魔族は別ね」


 なるほど、つまり勇者は勘が鈍いってことだな。

 犬畜生にも劣るとは哀れな奴……


「カミナよ」

「うぉっ!?」


 ウィンリーがいきなりフロントガラスに顔面を貼り付けてきた、ちょっとビビった。


「どうしたウィンリー?」

「正面からビッグボアの群れが突っ込んでくるぞ?」


 ボア? 群れってことはイノシシか、勇者と同じ猪突猛進系だな。


「大人のビッグボアは体長4メートルにもなり、その突進は一撃で馬車を50メートル吹っ飛ばすと言われておるぞ」


 この車と互角くらいか? いや、突進力は向こうの方が上か? しかし相手は群れだ、このまま進めば確実に負ける。

 面倒だが一度引き返すか、わざわざ相手にする必要ない。


「カミナよ、このまま直進するがよい! 余が何時ぞやの約束を果たそうぞ!」

「へ? 約束?」


 個人的には例え魔物と言えど、直接被害が無い限りは「命は大事に」で行きたいんだが、ウィンリーは「ガンガンいこうぜ!」と提案してくる、まぁ戻るのも面倒だし、放っておいて街に突っ込んで行かれても困る。


「分かった、それじゃウィンリーに任せる」

「フハハハハ! 任されよう!」


 しかし約束って何の話だ? ちゃんと敵を倒してくれるのかな? まさかいきなり結婚式を始めるとか言わないだろうな?


真空鎌・超かまいたち(ストームブリンガー)!」


 ウィンリーは真空の鎌を作り出すと、迫りくるイノシシの群れに向かって唐突にそれを放った!


 両腕でそれぞれ作り出した目に見えない透明の2本の真空鎌は、僅かな時間差をつけて飛ぶ。

 1本目が先頭を走る一際大きなイノシシに直撃した!


 ズバッ!!


「うおっ!?」


 イノシシは何の抵抗もなく真っ二つに切り裂かれていた。


「スゴイ切れ味だな……」


 しかもそれだけじゃ無い、1本目の真空鎌はイノシシを切り裂いても勢いが衰えることはなく、後ろを走るイノシシ達を次々と切り裂いていった。

 そして鎌が飛んだ場所に真空の道が作られる、真空の道は周囲の空気を激しく吸い込み鎌から逃れたイノシシ達を一直線に並ばせる……

 そこに迫るのは2本めの真空鎌……


 ズババババババッ!!!!


「…………スゲ」

「フハハハハハハ! コレが余のカマイタチじゃ! ようやく披露で来たぞ♪」


 あぁ、披露ってアレか、キモ龍を惨殺した時に披露できなかったって言ってた…… よく覚えてたな。

 威力は確かに凄まじい…… だがなウィンリー……


 大量のイノシシの死骸が道を塞いでしまった、小型の竜巻とかで吹き飛ばした方が都合が良かったと思う。




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