第307話 隕石落とし
ジ~~~~~~…………
建物崩れたりしてないよな?
…………よし! 大丈夫! フゥ……
俺とウィンリーのハジメテの共同作業、隕石落としは魔物にだけ大きな被害を与えた。
無実の一般市民を怯えさせていた魔物の大軍に正義の鉄槌を喰らわせたワケだ、うん、いい仕事した。
「あ、ウィンリー、今の衝撃で上空へ巻き上げられた魔物とか瓦礫とかその他諸々が街へ落ちない様に風を操作してもらってイイか?」
「ふむ、任せよ! 超下降気流」
ゴオオォォォ…… ベチャッ! グシャッ!
上空に巻き上げられた生き残りの魔物たちも墜落死…… アフターケアも万全だ。
チョット嫌な音が響いてるけど……まぁ……いいか。
ウィンリーの風により煙が散らされると、そこには直径200メートル程のクレーターができてた。
窓ガラスとか割れたかもしれないなぁ…… まぁ魔物に攻め込まれるより遥かにマシだろ?
しかし俺とウィンリーが揃えば核弾頭搭載のICBMが撃ち放題だな、それだけで全世界を支配できるほどの脅威だ。
もっとも距離と方向だけを参考に撃つからピンポイント爆撃は出来ない、当てずっぽうの弾道ミサイルだ、核融合の起爆タイミングとかも難しそうだ…… いや、使う気は無いけどね?
「カミナ…… やり過ぎ」
デクス世界を支配する魔王リリスから苦言を呈された…… どうやらお気に召さなかったらしい。
当然か、荒野へ続く道路が吹っ飛んだからな。
それでも街が滅ぼされるよりはマシだろ? まぁ放っておいても街が滅んだかは別問題だが。
「ハァ…… まぁいいわ、それじゃ街に向かいましょう」
「は? なんで?」
「車を調達するのよ、歩くにはまだ距離があるから」
そうなのか? こんな事なら街なんか放っておけば……ってワケにもいかないか……
「?? また飛んでいけばよかろう?」
「イヤイヤイヤ! そこまで遠くないから! 宇宙に出る必要ないから!」
ウィンリーの提案を一蹴するとリリスはさっさと街へ向かって歩き始めた。
あぁ…… 怖かったのか…… 俺はもう一回くらいやってもいいけどな、死ぬまでに一度は宇宙に行ってみたいと思ってた、だが白とリリスが怖がるならヤメテおくべきか、確かに距離が近いとさっきより高度が上がる恐れがあるからな。
100km圏内ならわざわざ宇宙に出る必要は無い…… いや、そもそも時間さえ掛ければ2500km移動するのも宇宙に行く必要は無いんだけどな……
「ちょっと待てリリス」
「ナニ? 置いてくわよ? あ、手を繋いで欲しいの?」
「いや、現状をよく見ろ、獣人族二人と有翼族一人だぞ? 1年も外界とまともに連絡が取れなかった街に俺達が行ったら目立つだろ?」
今更だが白とウィンリーを人族に擬態させた方が良かったんじゃないだろうか? 俺自身は変装して……
「大丈夫よ、あの街にも他種族の移住者が流れ着いてるから、確か…… 3回目だか4回目だかの異世界間転移の帰還・移住者だったハズよ」
げ! マジか? よりによって封鎖された大陸に飛ばされるとは…… 運の悪い奴らだ、それでも第3魔王の侵略から生き残っただけマシか。
「あの街が魔物に滅ぼされなかったのは、そのトラベラー達のおかげでもあるのよ」
「まぁトラベラーは高い戦闘能力を有している可能性があるからな」
つまり俺のおかげだな。
ホント俺って人類助けまくってるな、魔王だけど平和賞もらっても良いレベルなんだが…… 要らないけどね? 授賞式に出たら会場で暗殺されそう、平和の祝典が血に染まるな……
「あの街には何十万人もの人が暮らしてるのよ、見かけない顔が居たって誰も気にも留めないわよ」
果たしてそうだろうか?
俺はともかく、真っ白な美少女獣人族と、誰一人移住していない有翼族の美幼女だ…… 俺なら注目するけどね。
ロリコンだからじゃ無く、純粋に珍しいからだ。
仕方ない、行くか……
本当ならリリスが一人で行って、車を調達して俺達を迎えに来てもいいハズなんだけど……
「おぉ! 壊れてないデクス世界を見物できるのか! ラッキーじゃのぅ♪」
俺に肩車されてるウィンリーがご機嫌だ…… こんなに喜ばれたら面倒臭いなんて言えない…… ハァ……
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アリスリングの街は活気に溢れていた…… 予想外だ。
俺はまたてっきり道には燃え尽きた車やバイクが放置され、人々はやせ細りみんな下を向いて歩いているか、ならず者が老人から大切な種もみを奪い、金色夜叉ヨロシク蹴りを入れてる光景が見れると思ってた……
そんな事は無かったぜ。
隕石が落ちて魔物が全滅したからかな? もしそうなら新しい宗教が誕生しそうな予感…… ミーティアの奇跡とかそんな感じの……
しかしついさっきの出来事だ、みんなにソレが伝わるのが早過ぎる、むしろ大爆発と地震が起きたら不安になってもおかしくないだろ? 地震馴れしてる大和人だって爆発は不安になる。
もしかしてあの程度の事は日常茶飯事、防衛隊に全幅の信頼を寄せているのかも知れない。
それに通信が回復して、もうじき救助が来るだろうコトが周知されていれば、それで活気に溢れているのかもな。
まぁ元気なのは良い事だ、俺の予想通りだったら車の調達は困難を極める、ならず者のアジトに乗り込んで組織を壊滅させてバギーを奪うイベントだ。
「タクシーは……全然走ってないわね、レンタカーは駅の近くまで行かないと無いかな?」
リリス、あまりキョロキョロするな、よそ者感丸出しだぞ。
「おぉ~♪ なんじゃあのカラフルな箱は1? 整列して走っておるぞ!?」
ウィンリーは車が珍しいようだ、当然か、初めて見るんだからな……
それよりもウィンリーさん…… だいしゅきホールドやめて! 首が絞まってる!
あと浮かれるのは構わないが、物理的に浮き上がるのはやめて! 首吊る! 首吊る!
リリスはレンタカー屋を探しながら歩き、白は俺と手をつなぎながら歩き、そして俺はかるく浮きながら歩く。
「おに~ちゃん…… 見られてる……」
「そうだな……」
周囲の人々はチラチラと視線を向けてくる、やっぱり白とウィンリーは目立つ。
ついでにリリスも思わず振り返るほどの美人だ……
なんか俺だけ地味だな……
隠れて生きる魔王としては目立たないほうが都合がいい、幸い周囲の人々もわざわざ絡んでこない、だったら無視でいいや。
…………
でもこういう時に限って面倒くさい奴が現れて絡んでくるんだよな…… そういう奴に限ってしつこくて、昔2ヵ月近くストーキングされた経験がある。
「おい、そこのお前たち!」
…………
「お前たちだよ、人族と獣人族と有翼族……か? お前たち4人だ」
案の定だよ…… もし振り向いてそこにいたのが勇者だったら殺す。
「何か用……ん?」
そこにいたのはクリクリパーマの金髪ロン毛の男。
どっかで見たような顔だ、彫りの深い彫刻顔…… コイツはきっとホーケーだ。
ん? ホーケー顔?
…………
……………………
………………………………!!
ザックじゃねーか!! ロン毛になってたからわからなかったよ。
何でこんなトコロに……って、そう言えばここに立て籠もってたんだっけ?
何十万人も暮らす街で、最初に出会った第一市民がザックの確率って…… もはや宝くじレベルじゃない、ギャグだ。
「あれ? お前…… ドコかで会ったことないか? 何となく見覚えが……」
よく覚えてるなぁ……
俺なんかクリクリパーマ → 古代彫刻 → 彫刻顔 → ホーケー顔 = ザックって連想ゲームしてようやく答えに辿り着いたのに。
今の俺は狐族に擬態してる、多分ザックは狐族を見るのも初めてだろう、絶滅寸前だし……
それなのに違和感に気付くとは…… もしかして俺の写真をロケットとかに入れてないだろうな?
ちょっ…… 勘弁してください!
「お前たちの服…… それって魔導学院のモノだよな?」
違わい! これは魔王同盟正式ユニフォームだい!
あんな魔王殺しの尖兵が育てられてるとこのと一緒にするな!
「その色は第三魔導学院だろ?」
目敏い…… きっと女の子が毛先を揃えただけで「髪切った?」って聞いてくるタイプだ。
俺もそんな観察眼が欲しいヨ。
もっとも俺以外の男が持ってても鬱陶しいだけのスキルだ、今みたいに……
「お前たちトラベラーなんだよな? 何でその制服を着てる?」
さて…… どうしよう?
ウソで切り抜けても良いんだが、俺はこれ以上しゃべらない方が良いだろう。
この分だと俺の声すら覚えてそうだ。
リリスにアイコンタクト。
『ナ・ン・ト・カ・シ・ロ・!』
『ム・リ!』
アッサリ拒否しやがった、無理じゃねーよ、お前が持ってきた案件だ、責任持って仕事しろ!
何とかしないとオッパイ揉むぞ! という強い意志を視線に込めるとリリスは諦めたようなため息をつき前に出た、通じたのだろうか? 何故かちょっと残念だ。
まぁ、お手並み拝見だな。
「この服は私たちがガイアを出発する直前に流行ってたモノなんですぅ~♪」
「…………」
「なんでもぉ~、魔王殺しのギルドメンバーが着用してたらしくってぇ~、密かに大人気だったんですよぉ~?」
「…………」
「それを手作りしたんですぅ~♪」
「…………」
ハッ!? 寝てた? 今空気が氷りついた?
ナニそのキャラ!? どうしたんだリリス!?
「へ……へぇ~…… そう……なんだ」
ザックが引いてる、俺も引いてる、リリス本人も引いている…… 何故そのキャラを選択した?
「一体どうしたんじゃリリスは? 何か悪いモノでも食ったのか?」
ウィンリーも若干引き気味だ、白だけはいつも通り無表情だけど……
これはきっとアレだな、1200年間、色々な人に成りすまし擬態パターンを使い果たしたリリスが無理やり捻り出した苦肉のキャラ……
ゴメン…… 無理させて悪かったよ……