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レヴオル・シオン  作者: 群青
第六部 「神の章」
312/375

第306話 バリスティック


 アウストレイリア


 デクス世界で一番小さな大陸、シニス世界で言うヘルムガルドのような大陸だ。

 もっともあそこまで不毛の地でもないし、あそこまで特殊な地形もしていない。

 しかし内陸部は砂漠化が進み人の居住に向いていない、そのため都市は沿岸部に集中している。


 そんな大陸のほぼ中央に存在している唯一の大都市がアリスリング市である。


 しかしリリスのゲートでこれるのは沿岸部の大都市に限られる、直線距離でおよそ2500km…… うんざりだ。

 仮に車を調達して時速100kmで飛ばしても、丸一日以上かかる…… その上、今は魔物たちが闊歩しているから移動には余計に時間が掛かることだろう。


 本来なら面倒な仕事を持ち込んだリリスを一人で行かせ、目的地に着いたらゲートで迎えに来い……というトコロだが、今回の旅にはナゼか現役アイドルが同行することになった。


 2400年前から今をときめくアイドル魔王、第5魔王 “風巫女” ウィンリー・ウィンリー・エアリアルだ!


 彼女が移動手段を提供してくれる…… そう言われるとリリスだけをパシらせる訳にもいかない、ぶっちゃけヘルムガルドの時みたいにダチョウに乗って移動ってのも悪くない気がするんだが、こっちのダチョウは乗鳥じゃ無いからな……

 さらに白もウィンリーも後ろに乗せても世界の真理に迫れないからなぁ……

 一度ミカヅキで世界の真理に迫った身としては例えリリスでも力不足だ、最低でも琉架やミラレベルが…… いやいや! 別に誰が悪い訳じゃない! 別に貧が悪い訳じゃ無い!


 貧には貧の価値がある!

 まして俺の嫁たちだ! 黄金を上回るほどの価値を秘めている!


 …………


 俺は一体何を考えているのだろう?


 ま、そんなワケで、今回の旅は俺と白とウィンリーと案内役のリリスの4人だ。

 前回の旅とはエライ違いだ、だって筋肉がいない!! むさ苦しさ0%の爽やかな旅になることだろう。

 まぁ旅と言ってもそんなに長期にわたって出かける気は無い、多分日帰りで済むだろう。



---


--


-



「おぉお~~~! ここがデクス世界……なのか?」


 目の前には破壊し尽された大都市のなれの果て…… NYを思い出す。

 沿岸部の大都市は軒並みこんな感じになっている事だろう、やはり南極が近すぎたんだ…… 一体どれだけの人が内陸部へ逃げられたのだろうか?

 たった一人の魔王が襲来しただけで、想像を絶するほどの被害が出た。


「マリア=ルージュがやりたい放題やらかした跡だ、ウィンリーにはいずれデクス世界をキチンと案内する機会を設けるよ」

「そうか…… あの女が…… 一体何がやりたかったんじゃろな?」


 どうやら神様になりたかったらしいよ? ホントに迷惑なヤツだ。


 恐らくシニス世界だったらこれほどの被害は出なかっただろう、良くも悪くもアッチの人は魔王になれてるからな……

 やっぱり魔王はデクス世界に来ちゃいけないよな……


 …………


 あ、俺達みんな魔王だ……

 まぁ魔王の威厳とか欠片ほども無い集団だけどね……




「出来ればカミナとルカの生まれた街に行ってみたかったのぉ」


 俺に肩車されてるウィンリーが残念がっている、悪いね? 俺の所為で…… 違う、マリア=ルージュの所為だ!

 数年も経てば案内してあげられると思う、変装は必要だろうけど。


「少し…… 肌寒い……」


 アウストレイリアは秋だからな、特にこの辺りは南寄りだし。

 白は俺に寄りかかり後ろから抱きしめる様、無言で要求してくる…… うむ、カワイイ。


「……………………」


 そしてそんな俺達を見ているのが案内役のリリス…… 何かを訴えかける様なジト目だ……

 俺には理解る、あの視線に込められている想いを言語化すると「おまわりさんこっちです」……と言っている。


 お願いだからおまわりさんを呼ばないで…… 今はちょっと言い訳できない感じだから。

 ちなみにみんな第三魔導学院の制服を着ている、こんな日の為に用意しておいたのだ、ウィンリーのは背中に翼用の袖まで付いてる特別仕様だ。


「おぉ~♪ カミナの耳フニフニ♪」


 そして俺は琉架に擬態魔法を掛けて貰っていて、現在 狐族バージョンだ。

 ウィンリーは面白そうに俺のケモ耳をいじくってる、あん♪ 乱暴に扱っちゃらめ~! ウソウソ、そこまで敏感じゃ無い、頭皮を触られてる感じだ。

 本物の獣人族(ビスト)は頭を撫でると尻尾を振って喜んでくれる、白以外の獣人族(ビスト)に試した事は無いけど……


「それでウィンリー、移動手段を用意してくれると言ってたけど?」


 その移動方法とやらは人が増えるとスピードが落ちるというので、今回は必要最低限の人員になってしまった、出来ればD.E.M. 同盟全員で参加したかったのだが……

 あぁ、もちろんジークは修行があるから空気を呼んで置き去りで……


「うむ、一気に飛んでいく、なかなか刺激的な体験になること請け合いじゃぞ?」


 やはり飛んでいくのか、いかにも有翼族(ウィンディア)って感じだな。

 しかし空を飛ぶのは慣れている、D.E.M. は要塞龍・ホープを使役していたからな、ついでに言えば飛び降りる事にも慣れている。


「目的地はリリスが知っておるのじゃな?」

「えぇ」

「距離はどれくらいじゃ?」

「え? えぇと…… 北西に2500kmくらいかしら?」

「では後半の姿勢制御はリリスに任せる、魔力で制御してくれ」


 ? 姿勢制御? 後半?


「では始めるぞ? 『無限空域(エンリル)』」


 ウィンリーが呟くと、彼女がかざした手の間から大量の雲が噴き出る……

 『無限空域(エンリル)』…… それがウィンリーのギフトの名前か…… 初めて知り合った魔王なのに、その能力名を今初めて知った。

 あ、違った、初めて会った魔王はリリスだった。


 俺達の周りはあっという間で薄い雲に覆われていた……


「お…… おぉ?」


 身体が浮き上がった? ナンダコレ? 風で吹き上げられてるワケでも、重力を遮断されてる感じでも無い、一体どういった仕組みで浮き上がってるんだ?


「高度は200kmくらいでいいかのぅ」


 え? 今ナニか不吉な言葉が……


「『弾道軌道(バリスティック)』」

「ちょっ! 待っ!!」

「発射ぁー♪」


 ドゥンッ!!!!


 間に合わなかった…… 俺達は弾道ミサイルよろしく発射されてしまった……


「ッッ!!」

「ヒィィィイ!?」

「うぉっ!?」

「キャハハハハハハハ♪」


 みんな声も出ないって感じだ、そんな中ウィンリーの能天気な笑い声だけが響いている…… 流石というか何というか……


 凄まじい速度で上昇していく、てかなんだこの速度!? 弾道ミサイルなんてレベルじゃ無い!? もしかして第一宇宙速度超えてる?

 アッという間に空は暗くなり、眼下に広がる地球がその丸みが分かる位置まで一気に昇る、風圧もGも一切感じない。


「ほれ、ここからはリリスに任せる」

「えっ!? チョッ……!? えぇっ!!?」


 高度200kmでいきなりバトンタッチ……  ミニマムエナジー軌道ってヤツかな? 本気出せば1時間もあれば地球の裏側まで辿り着けるかも知れないぞ。

 そんな状態でいきなりハンドルを渡されるとは…… せめて先に何をするか言っておいてくれればいいモノを……


「ウ…ウィンリー! せめて落下速度は抑えてもらえないかしらっ!?」

「え~、音速を超える速度で落ちるのが楽しいんじゃろう?」


 ちっとも楽しそうじゃ無い……


「おっ…お願いよ!!」

「仕方ないのぅ」


 いやいや俺達はICBMじゃないんだから、目で見て目標地点を調節しないといけないんだ、リリスの訴えは正当なモノだ。

 知ってはいたけどこの魔王様…… 無茶苦茶だ!


 そして俺達の落下が始まった……


「ひうっ!!」

「うぇー、うぁー、もお~~~!!」

「うむ、絶景じゃ♪」


 白は俺に抱きつき、リリスは俺の手をきつく握りしめ、ウィンリーはご機嫌だ……

 さすが普段から空の上で暮らす種族、余裕あるなぁ……

 リリスは位置を調節しなければならないから目を瞑ることも出来ない…… ガンバレ!


 徐々に速度は上がっていくが、いつものスカイダイブ程じゃ無い、かなり遅めだ…… 上昇より下降の方が時間が掛かるってのは妙な感覚だ、地上が遠いなぁ……



---

--

-



 どれくらい経っただろう? 今は高度10000メートル位だろうか? 魔王レイド戦を思い出す。

 茶色だらけの大地の中に街が見える…… あれがアリスリング市かな? マジで荒野のど真ん中って感じだ。


 ん? 街の外に大きなオーラが幾つも見える…… 人間のモノじゃ無い、魔物だろう…… もしかして戦闘中?

 まぁ俺達の目的地は街じゃないから関係ないんだが……


「あ……」


 どうやらリリスも気付いたようだ。


「えっと…… カミナ?」


 ハァ…… ま、人助けだしな。


「いいよ、リリスの好きにしな」

「あ、ありがと」


 微妙に位置調整……

 魔物の群れは南側から迫っているのか、このまま行くとあのど真ん中に落ちるな。


 ふむ……


「なぁウィンリー、今から速度を上げる事って出来るか?」

「おぉ、出来るぞ♪ 音速超えてみるか?」

「ちょっ!? カミナ!?」

「折角だからこの位置エネルギーを使わせてもらおう。

 第4階位級 岩石魔術『質量弾』グラビトン」


 重い岩の塊を作り出す。


「カミナ…… まさか……」

「コレを魔物の群れの真ん中に落とす」

「いや…… あの…… 私たちは? 一緒に吹っ飛ぶよ? さすがに死ぬと思うけど……」


 そりゃそうだ、まさに隕石の落下だ。


「その前に瞬間移動で脱出するさ、跳躍衣装(ジャンパー)を使えば運動エネルギーをキャンセルできる」

「あ~~~…… なるほど」

「よしウィンリー、GO!!」

「ご~♪」


 急加速! うぉっ!? ヤバイ、思ったよりスッゲー速い、さっさと脱出しなければ!


 『跳躍衣装(ジャンパー)』で脱出し運動エネルギーを消す、その後続けざまに『超躍衣装(ハイ・ジャンパー)』を使用し安全圏まで退避する。

 よし、コレで安全な場所から隕石衝突の瞬間をライブで……



 ―――キュン!!!! チュドオオオオォォォォォォオォォォオォォン!!!!!!



 …………


 結構大きめの地震が起こった…… キノコ雲ができてるよ……


 やっちゃった……




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