第305話 不意打ち
「あ、私から一つ、事件ってワケじゃ無いけど報告があるわ」
「? 報告?」
リリスからの報告…… 嫌な予感がする。
いや、事件じゃない報告だ、さすがに大丈夫か。
「ザックとノーラの無事が確認されたわ」
「ざっくとのーら? …………あ、あぁ、ザックとノーラか! そうか、二人とも無事だったのか、良かった」
「今、忘れてたでしょ?」
忘れてないよ、ちょっと記憶の引き出しの奥の方に入ってただけで……
アレだろ? え~と…… 大昔の夫婦デュオだっけ?
「アウストレイリアの内陸部、そこにある街に立て籠もって魔物の流入を抑えてたみたい。
先日ようやく衛星回線が復旧して連絡が付いたの」
アウストレイリア? あ、創世十二使の序列が下の先輩か……
「え? 確か行方不明になったのって1年前の話だったよな? よく生きてたな? あの師匠ですら半年が限界だったのに……」
「気候に適応できる魔族が少なかったからね、数が少なかったから何とかなったのよ。
近年、急激に砂漠化が進行したために助かったのね」
それにしてもよく1年も耐えられたな…… やっぱり魔族とか喰ってたのかな?
いや、それよりも…… よもやこの後 救助隊を出すから手伝えとか言わないだろうな?
ジ~~~~~~
「な……なに? カミナ…… その目は?」
「いや、リリスがそんな喋り方をする時はロクでもない用件が付いてくることが多い気がするからな」
「……………………
そんなコトないですヨ?」
なんだその間は?
「ただ…… ちょっとだけ問題があるのは事実なんだけど……」
「………………」
「そっ…そんな目しないでよ! その…… 魔王の力……戦闘力が必要なほどの案件じゃないんだけど……」
聞いてもいないのに勝手に話し始めた。
あと魔王の力を戦闘力に言い直した辺りに作為的なものを感じる。
「アウストレイリアの魔族は少ないんだけど、逆に魔物の数が多すぎるのよ」
「はぁ? 単純に繁殖してるだけだろ?」
「それにしても多いのよ、マリア=ルージュは今回のデクス世界侵攻で多くの魔物を使役していたわ、シニス世界でアリアの雨を降らせた時はほとんど魔族で固めていたの」
魔族じゃなく魔物だから雨粒は回収されなかったのか…… もしかしたらβやγには回収する設備がなかっただけかもしれないが……
てか魔物と魔族ってナニが違うんだっけ?
「魔物は野生動物と大差ないわ、魔族ってのはあの女の純粋魔力を浴びて変質した生物のことよ。
肝心なのは魔族に生殖能力が無いってことね」
なるほど…… 呪われてるなぁ……
「つまり生態系を変えるつもりだったんだろ? 魔族より魔物を多用したってことは、もしかしたらマリア=ルージュは南極を出てアウストレイリアを拠点にするつもりだったんじゃないか?」
「そうなんだけど……ね、アウストレイリアに魔物をばら撒いてから1年足らずにしては増えすぎのような気がするの……
魔物ってのは統率が取りにくいから兵として運用するのは難しいのよ、それに種類も多い上に偏ってるのよね」
「つまりリリスはナニが言いたいんだ?」
「アウストレイリアの魔物の増加にはマリア=ルージュの思惑とは別の要因がある」
それを俺たちに探せとか言わないだろうな? そんな地道な調査は魔王向きじゃない、動物学者に依頼しろ。
現地調査は命がけになるが……
「その要因らしきものは見つけたのだけど……」
なんだ、既に巣を見つけてるのか。
「問題はそれがなんだかよくわからないのよね」
「よくわからないってなんだよ? その説明じゃコッチもよく分からんぞ」
「ん~…… 何と言えばいいのか…… アウストレイリアのほぼ中央、アリスリング市近郊に直径10メートルほどの不可視化領域…… いや、見えるんだけど見えないというか……」
リリスの説明は要領を得ない、どうやら本当に正体不明みたいだな。
そんなモノを俺が調査しても事態が好転することはない……
あぁ、そういう事か……
「そこでね? シロの能力を貸してもらえればな~……って」
確かに白の『摂理の眼』なら解析可能だろう。
だが白は俺のものだ! 誰にもやらん!
……と、突っぱねるのは簡単だが、ここは白自身の意志を尊重すべきだな、白は八大魔王同盟の一翼なんだから。
ミカヅキが白を連れてきてくれた。
寝起きらしく目をコシコシしてる…… その仕草がとても可愛い。
「おはよ……」
「おはよう白」
白はまだ半分以上開いてない目を擦りながらフラフラと俺の側にやってくる。
そのまま徐ろに俺に膝に座ると、胸に寄りかかりまた目を閉じてしまった……
「うにゅぅ」
あぁっ! もうっ! 可愛いなぁっ!!
「あの…… これじゃ話もできないんですけど……」
おネムな白を見てリリスが遠慮がちに話しかけてくる、お前は白に頼む立場だろ? だったら白が自分で起きるまでひたすら待ち続けろ。
その間に俺も可愛い白を堪能させてもらう。
決して無理矢理起こそうとするんじゃねーぞ? その時は俺が怒るからな?
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「……調査?」
「えぇ、その『摂理の眼』で見て欲しいのよ」
今回は特別反対しない、調査だから危険もないだろう。
…………いや、リリスが持ってきた仕事だ、何かしらのトラブルも予想される。
「ん~…… おに~ちゃんが一緒なら……イイよ」
あら白ちゃんったら甘えん坊さんなんだから♪
もしリリスが同じことを言ってきても「一人で行け」と返したトコロだが、言ったのが白なら話は別だ。
白のためならこの程度の苦労など問題ない、決してロリコンだからじゃない。
最近自分がノーマルなのかどうか自信が無くなってきたけど……
「でも神那はデクス世界で有名人なんだよね? 大丈夫?」
琉架の心配は当然のものだった。
人けの無い所を調査するだけなら大丈夫だと思いたいんだが……
「リリス?」
「あ~…… マーキングの関係上、どうしても街には寄らなくちゃならないわね…… 沿岸部はまだ魔物が多いし車も調達しないといけないし……」
じゃあダメじゃん。
てか、車で目的地を目指すのかよ? アリスリング市ってアウストレイリアのド真ん中辺りだろ、何日かかるんだよ?
船に乗れとか言われないだけマシだけど、まだ向こうじゃ飛行機やヘリは自由に使えないのか?
「おに~ちゃんが行かないなら…… 白も行かない……」
「そんなぁ~~~」
リリスが情けな~い声を上げる。
「でも……」
「え?」
「おに~ちゃんが…… 擬態すれば…… 行ける?」
あぁ、擬態魔法か、大和を歩くのは危険だけどアウストレイリアなら種族が違えば確かに問題無いかな?
「それだああぁーーーあ!!」
リリスうるさい。
それでも移動手段の問題が解決されてないがな。
魔物が大量に闊歩する大地を車で移動するのはかなり骨が折れる…… そっちの処理は全部リリスがやれよ?
そんな時だった……
ソイツは突然現れた……
「フハハハハハッ♪」
バァーーーン!!!!
謎の高笑いと共に窓が激しく開かれる。
「話は聞かせてもらった! 人類は滅亡する!」
窓から騒々しく侵入してきたのはウィンリーだった……
な… 何だってーーー!!??
貴様! ナゼそのネタを知っている!? これも2400年以上生きる魔王の叡智か……
てか、できれば二度と使わないでくれ、魔王が言うと結構シャレにならないから。
「ウィンリー?」
「フハハハハ! みんなのアイドル・ウィンリー参上じゃ!」
唐突に現れたな…… 先日、琉架と会いに行った時はツアーファイナルとかで忙しくて会えなかったんだよな、あの雲の城の中でツアーしてたのかな?
取りあえず玄関から入ってこいよ……
「ウィンリー…… よくティマイオスが何処にあるのか分かったな? 今は不可視化状態だから誰も近付けないと思ってた」
「風の声を聴けば造作も無いコトよ!」
そうなのか…… てコトは有翼族には不可視化結界は無効なのか?
その割にはティマイオスは誰にも見つからずに天空を彷徨っていたのは何故だ? いや、単純に誰も探してなかったからか。
「キャアァァァーーー!!! ウィンリーちゃーーー……ん!?
また体が動かない!? おにーちゃんの仕業か!!」
「落ち着け伊吹」
お前の暴走は魔王すら怯えさせるんだ、一回冷静になれ、後で好きなだけ撫でまわせばイイ、ウィンリーは嫌がらないからな。
「それよりツアーの方は大丈夫なのか?」
「うむ、おかげさまで大好評で終わった」
「そりゃ何よりだ、って事はいまはオフなのか?」
「クフフ♪ 春の長期休みじゃ♪」
ほう? こんなにちっちゃいのに社畜みたいに働かされてるウィンリーにも長期休暇が存在したのか、労働基準監督署に密告ろうかと思ってたんだが……
「おぉ? リリスがおる? 久しぶりじゃのぉ、1200年ぶりくらいか?」
「え……えぇ、久しぶり…… てか何でウィンリーがココに居るの?」
「余もアイドルを引退したらココに住むからな、カミナの妻の一人として!」
おぉう! いや、何と言いますか…… ウィンリーは相変わらず明け透けだな。
ココは余計なコメントはしないでおこう、みんな分かってる事だし……
「へぇぇぇ~ そうなんだ……」
リリスの言葉にどことなく嫉妬の香りが含まれている気がするのは俺の自惚れだろうか?
いや、チョット待て! おい! リリス! 性犯罪者を見る目をヤメロ!
「話は聞かせて貰ったぞカミナよ! デクス世界へ行くんじゃろ? 余も行ってみたい!」
たった今 爆弾を落としたウィンリーは既に次の話題に移ってる、何という切り替えの早さか……
別に遊びに行くワケじゃ無いんだが……
「代わりに余が移動手段を提供してやろう!」
「なに?」
予想外にもウィンリーパートが来た?




