表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レヴオル・シオン  作者: 群青
第六部 「神の章」
310/375

第304話 春


 春が来た……


 俺と琉架が初めて神隠しに遭ってから3度目の春だ……

 まぁ春の事はどうでもイイ、重要なのは俺達が16歳になったという事だ!


 16歳…… これは単純に年齢を表す言葉じゃ無い……

 16歳…… この言葉には大人の女性と少女の間で揺れ動く、目には見えない魅力が込められている……


 もっとも、最近全然『時由時在(フリーダイム)』を使ってないから身体は16歳じゃないけど、生まれてから16年間生きてきたのは間違いない!


 16歳……


 そう! とうとう琉架の準備が整ったのだ!

 何がって? そんなの決まってるだろ? 禁域王のお嫁さんになる準備がだ!!


 ただし肝心の禁域王が未だ準備不足な為、後2年は我慢が必要だ……

 いや、色々障害が多いから2年後も無理っぽいけど……


 まぁ魔王同盟で年齢的に結婚できないのは俺と白だけだからな、ミカヅキは一つ年上だし、ミラは俺達より半年ほど誕生日が早い、旧世代魔王に関しては結婚適齢期など悠久の時の彼方へ置き去りにしている!

 そもそもこのルールは大和の法律であって、シニス世界では関係無い、第12領域では男女ともに17から結婚、飲酒、喫煙が可能だという……

 更に言ってしまえばティマイオスのルールは俺だ! この愛の国に暮らす以上、俺の法律『禁域法典』が適応されて然るべきだ!


 と、まぁ色々言ったけど、俺自身が結婚と言う言葉を恐れている。

 あぁそうだよ! ヘタレだよ! 余計な行動を起こして関係が壊れるのが怖いんだよ!


 これはあと2年、みんなの意識を少しずつ誘導する事で解決しよう、大丈夫! 俺なら出来る! 誰も滑り台送りになんかしない!!

 急いては事をし損じる、なんて言葉もある、決して負けられない戦いならレベルをカンストし、アイテムや装備を整え万全の体制で挑めばいいんだ。


 打倒魔王同盟! 目指せコンプリート! 俺たちの戦いはこれからだ!!



---



 ここは禁域王宮の2階の階段前ホールに作られた共用スペース、要するにリビングの代わりだ。

 みんなの部屋と玄関との動線に当たる場所で自然とみんなが集まる。

 俺の……じゃなくて俺達の憩いの場だ。

 ただしジークだけは滅多に顔を出さない、アイツの部屋は1階の隅っこだからわざわざ階段を登ってくる理由がないのだ……

 そう、それでいい…… 良く判ってるじゃないか、ここは魔王のみが立ち入ることを許される禁断の花園、筋肉は部屋にこもって筋トレでもしてろ。



「こんちは~♪」


 1階から聞き覚えのある声が聞こえた。


 ドドドドドドドド!!


 何者かが猛烈な勢いで階段を登る音が聞こえる……


「ぅをねぇさむわぁぁぁーーー!!!!」

「え? 伊吹ちゃ……っ!? きゃああ!!」


 何の前触れもなく現れて突然琉架に襲いかかったのは俺の妹だった……

 琉架の胸に顔を埋めて擦りつけてる…… 弟だったら殺してたな。

 それより伊吹さん、ここは魔王のみが入れる禁断の…… いや…… もういいです。


 …………


 おい! 伊吹! いつまで琉架の胸に顔を埋めてるんだ! 俺と代われ!!




「え~と…… ただいま?」


 伊吹の後を追うように現れたのはリリスだった、お前が連れてきたのか。


「なんでリリスが伊吹を連れてくるんだよ?」

「う……ん「春休みだからティマイオスに行きたい!行きたい!行きたい!」ってメールが1日何百通とくるもので……」


 完全にストーカーのそれでした。

 ウチのアホ妹がご迷惑をお掛けしました。


「か…神那ぁ~ 助けてぇ~」

「ハァハァ ヲネェサマ ヲネェサマ ハァハァ クンカクンカ!」


 ストーカーどころじゃない、完全に変態だ、暫く見ない間に成長したモノだ、もう立派な変態淑女だな。

 ペロペロしだす前に止めよう、さすがの俺でも妹には変態の深淵にまで落ちて欲しくない。


「まったく……」


 俺は『神血(ディヴァイレッド)』で伊吹の動きを止め。琉架を拘束している腕を開いて開放してやる。


「なっ!? ナニコレ!? 体が動かない!? お姉さまのかほりで身体が麻痺したの!?」


 発想がゴリラと同レベルだ……

 そこら辺で止まれ、それ以上進むとロリコンゴリラの同類になるぞ?


 そんな俺達兄妹の心温まるやり取りを見ていたリリスが聞いてきた。


「カミナ…… 今のってもしかして?」

「あぁ、これが『神血(ディヴァイレッド)』だ」

「『神血(ディヴァイレッド)』…… メモリーを大量に使いそうな能力ね、覚えるのは難しいかな? あんまり劣化させたら意味がないし……」


 欲しいのか?

 もしかしてリリスは“運命の刻”に龍人族(ドラグニア)・魔王グリム連合軍に参加するつもりなのだろうか?

 だからこそ未だに強能力を求めている……

 魔王同盟としては不参加を決めてるが、リリスが個人で参戦するなら止はしない。

 リリスは遥か昔からこの件に関わってるからな。


 つーか今度は助けないからな? 自己責任でやってくれ。


 …………


 まぁ…… 命の危機に見舞われたらさすがに介入するかもしれないけど…… この事は教えないほうがいいな、でないとワザとピンチになったりしそうで……


 リリスならヤりかねない。



「うぎぎぎぎ! をねぇさま! をねぇさま! をねぇさま! をねぇさま! をねぇさま!」

「ヒィィ!? かっ…神那ぁ!! 伊吹ちゃんがっ!!」


 どうしよう…… 伊吹が気持ち悪い。

 動きを完全に封じられているにも関わらず、琉架への執着はとどまるところを知らない、このままではいずれ皮だけベリっと剥いで、血まみれの中身だけで琉架に這い寄りそうだ…… 自分で想像しておいて何だが…… キモッ!!

 実際は中身ごと固まってるからそんなホラーにはならない、もちろん動脈や静脈、生命活動に必要な血液の流れは止めてないから死ぬ心配も無いんだが……


 …………


 煩悩という名の愛は時として魔王の力を上回る…… それは俺自身が証明している。

 だがその為には魔王に匹敵するだけの“力”がなければならない。

 思いだけでは奇跡は起こらないんだよ。


 てか、いい加減止めるか。


「戻ってこい伊吹」


 ズビシッ!!


「アタッ!!?」


 伊吹のツムジ辺りにチョップ!

 コレで正気に戻らないようなら水風呂にでも放り込むか。


「あ……あれ? あ、おにーちゃん? 久しぶり」


 同じ部屋に兄がいた事に、今ようやく気づいたらしい…… まぁいつもの事だ。


 伊吹が正気に戻った所で能力を解除してやる、自由になった途端また襲いかかったりしないだろうな? 次は丸一日くらい放置するからな?


「ふぅ~~~、失礼しました、ちょっと取り乱しました」


 ちょっと?

 魔王 有栖川琉架を怯えさせた暴走がちょっとのハズ無いだろ?

 相当気持ち悪かったぞ? お前……


「ところで伊吹、そっちはどんな感じになってる?」

「あれ? おにーちゃんはデクス世界の近況を知らないの?」


 知るのが怖くてな、琉架の里帰りでちょくちょく大和へ戻ってはいるが、極力向こうの情報には触れないようにしている、どうせロクな事になってないから。


「う~ん…… 一応、英雄扱いはされてるよ?」


 え? マジで?


「ただまぁ…… 懐疑的な意見も多いよね、一部のコメンテーターからは詐欺師扱い、他にもデクス世界へ魔王を引きこんだ真犯人扱い、あと魔王説も一緒に広まってるね、特にネットは酷い」


 やっぱりか……

 しかし赤木キャプテンの罪まで俺の所為にされるのは納得いかん。


「テレビや新聞では魔王説は取り上げられてないところを見ると多分……」


 伊吹の視線の先にいるのは…… リリスだ。


「レイフォード財団を使って風評被害が広がらないようにはしてるよ?

 圧力に屈しない頑固なのもいるし、ネットはさすがに止められないケド……

 こんな事になったのは私の所為でもあるからね」


 そうだよ、全部リリスの所為だ、だから俺の所に面倒事を持ち込むな。


「あ、ちなみにおにーちゃんの首に賞金がかけられてるよ、「美女殺し霧島神那の首に20億EN」だって、ネット上の噂だからただのシャレだろうけどね。

 やったねおにーちゃん、人気者だよ?」


 世界中のアホ共に人気爆発とか嬉しくねーよ。


「それで実家の方は? 落書きされたりとか、家の前に犬のフン放置されたりとか、俺宛の不幸の手紙とかは?」

「今のところ不都合は無いかな? おにーちゃんはまた神隠しに遭ったことになってるからね、本人も居ないし、世間的には英雄扱いだから、ネットの人たちはわざわざ動かないよ」


 だといいけどな、ウチの周りでデモとかされても困る。

 一応、リリスが押さえてくれてるから俺の討伐隊とかは結成されてない、このまま姿をくらませていれば半年くらいでみんな忘れてくれるかな?


 この考えは幾ら何でも甘すぎるか、何か…… 魔王殺しを上回るインパクトのあるニュースを提供できればいいんだが……

 そんな都合のいいニュース、ドコに転がってるんだよ?


「何か大きなニュースとか無かったのか? 魔王討伐を上回るビッグニュース」

「いやいや、ある訳ないでしょ? 魔王殺しって歴史の教科書に100%載るレベルの大事件だよ?」


 そうだよな…… まさに偉業だ、簡単に忘れてくれはしないか。


「そう言えば……」

「?」


 リリスが急に話題を変えた、何か企んでるフラグだ。


「エネ・イヴ様の封印はどうなってる?」

「あぁ、ジークが絶賛修行中だ、だが正直 期待薄だな」

「え……? そうなの?」

「俺達が入手してきた呪い解除法では恐らくあの封印は解けない、どうしてもエネ・イヴの封印を解きたければ第4魔王を殺すしかないな」


 かなりヨボヨボだし、リリスなら勝てるかも知れないな、今は『素戔嗚(スサノオ)』も無いしな。

 もっとも、そんなに慌てなくてもアイツそのうち勝手に死ぬだろうが……


「そう…… それじゃ呪われた妖魔族(ミスティカ)のお坊ちゃまの方はどうにか出来そう?」

「あ~…… そっちは多分行けると思うぞ? 今度試しにジーク連れてってみな」


 俺は行かないからな? だって有名人だから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ