第302話 第2の龍・前編
浮遊大陸ラグナロク
数日ぶりにココへ戻ってきた。
今回の旅を振り返ってみると、もっと時間を短縮できる箇所がいくつもあった。
つまりこの旅には足を引っ張る敵が紛れ込んでいたのだ!
一体誰がスパイだったんだ! ……とか言うまでもない、あのビキニアーマー・ウォリアーだ。
コトあるごとに遠回りや時間稼ぎをしやがって、アレって地元民のミカヅキが居なかったら1ヵ月以上掛かってたぜきっと。
そんなネフィリムは帰る時もゴネた……
自分でも無理があるのは分かってたんだろう、表立って反対はしなかったが、ゲートによる帰還を主張する俺を射殺さんばかりの視線で睨みつけてきた。
睨みつけるくらいならもっと良いプランを自分で提示しろよ、それをせずに俺に殺気を放つのは八つ当たりだ。
そもそもゲート帰還より良い案など存在しなかっただろうが……
ジークが賛同すると諦めの視線に変わった。
魔王スサノオは密入国には厳しいが、密出国には特に思うところはないらしい。
なので遠慮なくゲートによる帰還を実行させてもらった。
確かに鳥に揺られてゆっくり帰還するのも悪くはない、ミカヅキを後ろに乗せればそれだけで幸せだ。
だがいくらなんでも時間がかかりすぎる、これ以上ウチを開けると嫁たちが寂しがるから。
「あぁ…… とうとう戻ってきました……ね」
ネフィリムは実に残念そうだ、お前は残念がるより先に考えなければならないことがあるだろ?
俺は助けないからな? この問題に関しては口を挟む立場じゃない。
「さて、それじゃ俺達は帰るから魔王グリムにはヨロシク伝えといてくれ」
「はぁっ!? いやいや、まだ報告してないでしょ!?」
俺達が報告するべきことはナニもない。
ナニが起こったか報告するためにネフィリムが着いて行ったと言っても過言じゃない。
報告するのは一人で十分だ、ナニが悲しくてみんな揃って報告にいかなきゃならないんだよ。
だからそんな捨てられた子犬みたいな目をするんじゃない!
どう見たってサバンナを徘徊する猛獣なんだから。
だが俺も鬼じゃない……
「ネフィリム、ちょっと……」
「?」
ネフィリムを連れて城門前広場の隅っこへ行く。
「ネフィリム…… お前が望むならジークを貸し出してやってもいい」ヒソヒソ
「!? なん……だと!?」
声がデカイよ、何の為にヒソヒソ話をしてると思ってんだ?
「報告するならジーク一人いれば十分だろ? まして第4魔王といろいろあった張本人なら誰も文句は言わない。
俺の方は適当に理由を作って数日間は迎えにこれない事にしよう」
「なっ……!! なにが望みなの? 私にどんな代償を求めてるの?」
両腕で胸を隠すな! 俺を一体何だと思ってんだ?
お前の体脂肪率が限りなくゼロに近いオッパイに興味はない!
「代償などいらん、ただジークとネフィリムが幸せになってくれればそれでいい……」
「そんな…… 私にとって都合が良すぎることを容易に信じるわけには……」
ニヤニヤしながら言っても説得力がないぞ?
「どうしても代償が必要というなら一つだけ要求しよう。
できるだけ早くジークと結ばれてラグナロクで二人で暮らしてくれ」
「なっ!? そ……それは私としては願ったり叶ったりだけど…… 一体ナゼ?」
そんなの決まってる、俺の禁域王宮から筋肉を追放するためだ。
もちろんこんな理由を正直には言わない。
「ジークは500年もの間一人で孤独に戦い続けてきた……
そろそろ幸せになってもいい頃だと思っただけさ」(遠い目)
「………… アナタは神か?」
恋愛脳筋はちょっと恋を応援すれば簡単に釣れる…… チョロい。
ただ応援しているのは本心だ、ぜひ頑張って欲しい。
そして呪われた筋肉を俺の城から引き取ってくれ。
よし、それではジークを置き去り……じゃ無くて、派遣する方向で進めよう。
…………と、思ってたのだが……
世の中そんなに甘くないな。
ゴゴゴゴゴゴゴ…… ゴゴォン!
ばかデカイ正面城門が開かれると…… そこにはヴァレリア女史が出迎えに来ていた。
あ、ネフィリム、オワタ。
「皆様おかえりなさいませ、そちらの目的は遂げられましたか?」
あれ? そう言えばナニ目的で行ったんだっけ?
ミカヅキの里帰り……? ジークとネフィリムの婚前旅行……?
あぁ、呪い解除法を探しに行ったんだった、結構本気で忘れてた。
「色々あったけど一応は目的を達成できた……かな?」
「それはおめでとうございます。
それで…… ネフィリム?」
「あ、私の方もちゃんと任務をやり遂げました!」
ホントか? えらい足引っ張られた気がするんだが?
道案内としてはほぼ役立たず、最後に魔王スサノオとチョット話しただけじゃないか。
「そうですか、ではその話はアナタの取り調べの後で聞きましょうか」
「?? 取り調べ?」
「ネフィリム・G・アースブール、アナタには現在、殺人未遂の容疑がかけられています」
「え゛……?」
そうそう、同僚を血祭りに上げた件だ、コイツ本気で忘れてやがったな? それなのに現場にノコノコ戻ってくるとは……
本当ならお前はジークと駆け落ちとかするべきだったんだよ。
まぁそんな事したら神を殺せる第2魔王を敵に回すことになるから、確実に悲惨な末路を辿ったコトだろう。
「アナタを拘束させてもらいます」
ヴァレリア女史が指を鳴らすと、身長20メートル前後の巨人騎士が取り囲む。
ネフィリムは両腕を捕まれ、囚われの宇宙人みたいに連行されていく……
縮尺はだいぶおかしいけど……
「あのっ! ちょっと待って!! これはっ!!」
ネフィリムは必死に何かを訴えようとしているが、あの行為はどんなに頑張っても弁明できない。
往生際が悪い、こうなることなど普通の脳みそがあれば予想できただろ? 不幸はネフィリムにこの状況を予想できるほどの脳みそ無かったことか。
「待って! ホントにチョット!!」
縋るような目をするな、俺は助けないしどうにもならん。
完全に自業自得だ。
まぁ殺人罪じゃなく殺人未遂で良かったな? どうやら生きてはいるみたいだ。
こうしてネフィリムはフェードアウトしていった…… 結局ジークは引き取ってもらえなかったなぁ……
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした」
「あ~……うん、気にしてないから、早く真相が分かるとイイね?」
「えぇ…… 何故あのような暴挙に出たのか…… ハァ……」
しかし生殖能力の無い龍人族にネフィリムの行動が理解できるとは思えないな……
まぁ、ぶっちゃけ、俺にも理解できないけど。
普通なら思い留まる場面だ、後々問題になるのは目に見えてたんだから、それでも問答無用で突っ走るのが恋する乙女の恐ろしいトコロだな。
「それじゃ俺たちもそろそろ……」
「あ、少々お待ちいただけますか?」
「ん? 魔王スサノオとのやり取りの報告が必要ならジークを置いていくけど?」
今や呪いを振りまく存在になった元勇者をそのまま引き取ってくれれば有り難い。
「いえ、それは結構です」
やはり無理か…… ネフィリム以外にこの筋肉を引き取ってくれる人は現れないのか……
それじゃ何の用だ? たしか魔王グリムは接客中だとかで挨拶してなかったんだよな。
リリスに押し付けられた仕事とはいえ、一応仲介役をやってくれたんだから挨拶はしなきゃいけないかな?
まぁ派遣された案内役は糞の役にもたたなかったが、ジークとの間にフラグが立った。
その収穫があっただけマシと考えよう。
「実は貴方に会いたいという方がいるのです」
「……俺?」
「はい、第3魔王を倒した貴方に……です」
そうか、俺もすっかり有名人だな、しかしデクス世界のネット上ではあの女の信奉者が掃いて捨てるほどいた、まさかいきなり攻撃とかしてこないだろうな?
マリア=ルージュ様の仇ー!! とか言って……
その可能性も無きにしも非ず……だから困る、それもこれもあの女が美人だったからだ。
「え~と、それはどういった人物なんですか? いきなりケンカ売られるなら会いたくないんだけど?」
「いえ、彼女はそういった事をする人物ではありませんので……」
! 彼女? 女か…… ならば会う価値が…… いや落ち着け、第2のビキニアーマーとか出てきたらどうするんだよ?
そんなのに絡まれるくらいなら「美人だったかもしれない」という希望を胸に現実から目を逸らして生きていく、そういうのは得意だ。
「ヴァレリア、貴方の話はまどろっこしいわ」
「あ」
「ん?」
ネフィリムが連行されていった門の奥から一人の女が歩み出る。
白色に近い水色の髪、肌は褐色に近く、そのカラーリングは今はもう見れない白の夏バージョンに近い。
若干露出度の高めの格好をしている。
そして金色に輝く目を持っている…… 龍人族だ。
龍人……か…… 幸い今まで好戦的な龍人には会ったことがない、眼力は強いけど比較的温和な種族だ。
全部で10人にも満たない超少数絶滅危惧種族だが、一人一人が魔王に匹敵する力を持っている……
なんとも厄介なフラグが立ちそうな相手を紹介してくれたものだ…… これからは龍人族が女の子を紹介してくれると言ってきたら警戒しよう。
とんでもない地雷を掴まされるかも知れない、きっと自分より可愛い子を連れて来ないタイプだ。
「彼女が……」
ヴァレリア女史が紹介しようとすると、女は手を上げそれを制す。
そして……
「私は龍人族・第2龍リヴァイアサンのレビィ・グラン・ドラグニアよ」