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レヴオル・シオン  作者: 群青
第六部 「神の章」
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第300話 第4魔王 ~遺言~


「その程度で魔王を殺すなど不可能だ、これなら500年前のほうがまだマシだったな」

「くっ……!」


 ジークの負けだ、完全敗北だ。

 結果だけ見れば傷一つあたえられなかったんだからな……

 やはり第4魔王は強いな、特に呪いが凶悪だ。

 ミューズ・ミュースの歌姫人魚(ディーヴァ)も汎用性が高かったが、敵にデメリットを与えるという意味では呪い移し(カースシャッター)に軍配が上がるだろう。


 もちろん俺なら勝てる、超躍衣装(ハイ・ジャンパー)を使えば呪刀などカスリもしない、完封できるだろう。

 しかし魔王の力を得る前の、以前の俺だったら厳しかったかもしれない。


「あぁ…… ジーク……」


 その場から動くことを禁じられたネフィリムが為す術もなくうなだれる。

 ジークが心配なのは……まぁいいよ、でもお前は他にもっと心配しなければいけない事があるんじゃないか?

 たとえば…… この始末どうつけるつもりだよ?


 今回の戦闘は完全にジークの暴走だ、しかし捕らえ方によっては第2魔王から第4魔王に刺客が送られたと見られてもおかしくないぞ?

 何と言っても巨人四天王の一人が案内役なんだからな。


 一種の外交問題だ、もしかしたら戦争に発展するかもしれない……

 俺も責任を問われたりするのだろうか? 取りあえず未だに燃えているそこの筋肉は魔王スサノオ殺害未遂事件の犯人として差し出すとしよう。


「うぅ…… ジーク…… ジィークゥ~……」


 ネフィリムがメッチャ泣いてる…… あれれ? おかしいな、何故か罪悪感が…… 俺なにも悪くないよな?

 悪くは無いハズなんだが、この後どうすればいいのか……

 ジークを助けるべきか? 放っておけばスサノオに殺されるだろう、魔王に挑んだんだ、無罪放免ってワケにはいかないだろう。


 しかし助けたら第4魔王と敵対する事になるのかな? 大体どうやって助けるんだよ? 超燃えてる……

 ガワだけ燃えてるなら…… こう…… ジークをツルッと剥いてやれば助かるのかな? 相当キモい絵になりそうだ、理科室に置かれている人体模型のマッチョバージョン…… キモ……


 最悪、白の事象破壊(ジエンド)で炎だけ破壊してもらうしか無いか、身体の内側まで燃えてたらジークごと破壊する事になるが……


 いやチョット待て、ジークは確かに仲間だが、俺が助けるのは筋違いだ。

 これはジークが勝手に始めた戦い、俺は関与しないと宣言している、やはり首を突っ込むのは間違いだ。


 決して常日頃からアイツを始末する機会を伺っていたからではない、良い機会だからココでケリを付けようと思っている訳でもない。魔王スサノオが不死身の生ゴミを処理してくれるならラッキーとか思ってない。

 ホントだぞ?


 でもなぁ~…… ジークを見捨てたら女の子たちからの評価が下がらないか心配だなぁ~……

 ミカヅキからの評価が下がるコトは無いだろうけど。



 俺が燃える筋肉を見捨てるべきか見殺しにするべきか悩んでいる間に、魔王スサノオが先に動いた。


「ここ迄だなジークフリート……」

「…………」


 スサノオが呪刀を掲げる、とどめを刺すつもりか!? まだ考えてるんだからチョット待て! 急かされると思わず「買います!」って言いそうになる!

 ……て、不老不死のジークにとどめを刺すのは容易じゃないんだっけ?


呪い移し(カースシャッター)、『炎滅の呪い』」


 !?


 スサノオが呪刀を軽く振る、ジークにかすり傷程度の傷をつけると紫色の炎は消え失せた。

 炎滅の呪い…… ジークを助けた?


「チッ…… 余計な事を……」ボソ


 ミカヅキさん、心の声が漏れてます……


 しかし呪いの力はかなり強いらしい、魔導書の力を簡単に打ち消した…… つまりジークの奥の手ではどのみちスサノオは倒せなかったってことだな。

 もちろん呪いである以上代償はある、ジークは今後一生、火を使えないってことだ…… まぁ他の人に使って貰えばイイだけだから、大したデメリットじゃ無いが……


 しかしスサノオが何を考えてるのか分からん、一応問いただしてみるか。


「魔王スサノオ…… どういうつもりだ? なぜお前の命を狙ってきたジークを助ける?」

「そうです! スサノオ様! 伝説の通りならスサノオ様に挑んだ愚か者は死ぬよりも苦しい目に合わせてきたはず!

 もう2~3個、呪いでその筋肉を縛り付けるくらいはやって然るべきです!

 一体どうしちゃったんですか!」


 ミカヅキが俺の影に隠れながらスサノオを問いただしてる… 俺達は同格だから堂々と言って良いんだぞ?

 まぁ大先輩ではあるんだが……


「別に手心を加えるつもりはない、ただコイツには今後、やって貰わなければならないことがある…… それだけだ」

「やって貰うコト?」


 ナニをさせる気か知らないが、ジークはもう歩くことも出来ないんだぜ?

 あのガタイだ、介護は超重労働になるコトは間違いない。

 まぁ、持って帰るのも大変だから、ここで引き取ってくれるなら異存はないが……


「それじゃ元・勇者に襲われたことは気にしてないんだな?」

「あぁ……」


 おぉ! 大人だ…… やはり穏健派の魔王は話が通じていいな。

 これがマリア=ルージュだったら人族(ヒウマ)ごと滅ぼすとか言い出してたぞ。

 もし俺の所にバカ勇者がやって来て同じことをしたら、もっと惨たらしい目に遭わせていただろう……


 それに比べて魔王スサノオの理性的なこと……

 密入国者には厳しいが、それ以外には案外優しいのかも知れないな。




「ジークフリートよ、契約に基づきお前に呪刀を預ける」


 ん?


「それを持って成すべき事を成せ」


 え? 呪刀? 預ける? ナニ言ってんの?


「分かった、預かろう……」


 おいジーク、お前ボロ負けしたくせになんか偉そうだな? そもそも契約って何だよ? お前勇者だったクセに魔王と契約してたのか?

 一体どんな契約すればボロ負けしたヤツに呪刀を預けるって契約が成り立つんだよ?

 百歩譲ってお前が勝ったなら理解できる、でも負けたよな?

 これも鬼族(オーガ)特有の文化なのだろうか?


 全く理解できない!



 スサノオは禍々しい霧を纏った『素戔嗚(スサノオ)』を鞘へ納めると、ジークに手渡した……

 マジかよ…… 数分前まで命を狙っていた相手に神器と呪い発生器をよく渡せるな。

 そもそもギフトを他人に移譲なんて出来るのか?

 普通は出来ない……が、呪い移し(カースシャッター)が使用者本人から離れても機能するなら不可能では無い……か。


「その呪刀を使えば『両足緊縛の呪い』を解除することも出来るだろう。

 ただし幾つかの呪いには反対の性質を持つ呪いは存在しない、肝に銘じておけ」

「幾つかの呪い?」

「呪いには直接的に相手に死を(もたら)すモノは無い」


 ………… やはり『不老不死の呪い』は解除不可能ってコトか…… 世の中そんなに甘くない、そんなモノを貰ってもジークは喜ばないんじゃないだろうか?

 世界最長の引きこもり息子が部屋から出てくるのはまだまだ先の話かな?

 いや、別の呪いを駆使すれば、或いは…… 精力爆発の呪いとか……


「だが心しろ、お前には私の力が託された、その意味を履き違えるな」

「………… あ……あぁ……」

「そしてその力が借り物として使えるのはワシの寿命が尽きる時までだ、その意味を考え続けろ」


 寿命? 魔王スサノオの寿命? 2400歳越えのお前に寿命があるってのか?

 まさか鬼族(オーガ)出身の魔王特有のモノなのか? だとしたらミカヅキも……


 …………


 いや、違うな、魔王スサノオはここ数年でめっきり老け込んだらしい、あの衰弱には何か理由があったんだ。

 考えられる理由はやはり……


「魔王スサノオ、お前は自分に呪いを掛けているのか?」

「ほぅ、新しい第3魔王はなかなか賢いようだな?」


 いやぁ~ それほどでも♪


「お前の戦い方はまるで先を見通しているかの様だった、自分自身にメリット型の呪いを掛け、そのデメリットが本来不老であるハズの魔王に老いをもたらした……ってトコロか?」

「ほぅ…… 続けろ……」


 え? まだ続けるの? え~と……


「予想だが、お前は自分に運命が見える呪い……を掛けたんじゃないか?」

「ほぅ………… 恐ろしいな、たったコレだけの時間でそこまで推理するとは……

 そう、ワシが自分に掛けた呪い、それは『宿縁視の呪い』だ。

 物事の行く末が…… 可能性が見える呪いだ」


 微妙に分かり辛い説明だな…… 未来視とは違うのか?

 琉架の『事象予約(ワークリザーブ)』は僅かな時間だが確定した未来が見える、そして本人のみがその未来を改変できる。


 しかしスサノオは可能性が見えると言った……ってことは何通りもの行く末が見えるってコトだ、それが遠い未来になればなるほど道は分岐する、それを全て見るとしたらとんでもない負担になるだろう。

 琉架も遠い未来を見ようとすると頭痛がすると言っていた、未来の情報を認識するのは恐らく脳に多大な負荷が掛かるのだろう。


 それこそが『宿縁視の呪い』のデメリットで、衰弱の理由……

 そして寿命……か。


「何故そんな呪いを自分に掛けた?」


 そんなモノに頼らなくても、コイツは十分強かったハズだ。


「コレがワシの使命…… いや、罪滅ぼしだな」


 罪滅ぼし…… それは『終焉の子エネ・イヴ』の封印のコトか。

 だとしたらコイツの言う使命ってのは『黎明の子エネ・イヴェルト』関連だろう。


 …………


 そっちにはなるべく関わりたくないな…… よし、ノータッチで行こう。

 今の話で大体の予想は付いたしな、魔王スサノオは『宿縁視の呪い』でエネ・イヴェルトの復活を探ってたんだ、第2魔王の協力要請はその情報を寄越せって事だったんだ。

 そしてスサノオの寿命が尽きる前にエネ・イヴェルトの復活はやって来る…… それも近い将来の話だろう。

 つまりジークが呪い移し(カースシャッター)を使えるのもその時まで……


 いや、その後も何かあるっぽいコトをゴチャゴチャ言ってたな、まぁそれは俺には関係ない話だ。

 とっととそこの筋肉を起こしてずらかるとしよう、俺は呪いのプレゼントとか欲しくないし。


 …………


 あれ? 今重大な事に気付いた…… ジークは勇者の定年直前、或いは直後に『不老不死の呪い』を受けた、そこから年を取らなくなったってコトだよな?

 ジークの目的を考えれば恐らく覚醒勇者の力を維持したかったんだろう、つまり定年前に呪いを受けた……


 …………え゛ 嘘だろ? つまりコイツこの見た目って24歳当時のままなの?

 確かに年齢が分かり辛かったが、もっとオッサンだと思ってた…… てか、未だにオッサンにしか見えない!


 『不老不死の呪い』は魔王化と異なり精神は年老いるみたいだ、つまりジークは立派なお爺ちゃんソウルを持ってる。

 しかし肉体は20代中盤…… とても信じられん!


 ジークが掛けられたのは本当に『不老不死の呪い』だったのだろうか?

 実に疑わしい。




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