第298話 第4魔王 ~素戔嗚~
「そうか…… お前達が終焉の子を見つけたのか……」
そう…… そしてその所有権をリリスに奪われた…… チクショウ!
「よもやあの大迷宮を攻略できる者が現れようとは…… やはり運命はここに帰結するのか……」
「? 運命?」
なんか暗黒臭いコト言いだしたぞ? なんだよ運命の帰結って武尊や師匠が喜びそうなフレーズだ。
「魔王 霧島神那よ…… お前はエネ・イヴ様の封印を解くつもりか?」
「俺個人にはその必要があるかは分からない……」
未だに女神像が俺の所有物なら封印は解かない、しかし……
「しかしリリスはそのつもりだろう、方法があるならどんな犠牲を払っても封印を解く、そんな気がする」
「リリス……か…… そうだな、彼女ならどんな犠牲も厭わないだろう……」
どんな犠牲も厭わない…… 実に立派な心構えだ、その犠牲を俺に押し付けなければなお良かったんだが……
やっぱりリリスとエネ・イヴの間には何かしらの関係があるのか? 結構取り乱してたからなぁ、琉架と伊吹みたいにお姉様と妹みたいな関係が……
………… 無いか、神族と人族じゃ立場が違い過ぎる、リリスが勝手に敬愛していたのかも知れないな。
「……で、俺がわざわざ出向いた理由がソレだ」
「なるほど…… 呪いの解呪を知りたいのはリリスか……」
あとそこに居る不能不死者もな。
「呪いを解呪する方法は三つある、一つは呪われた者が死ぬ事……」
それって解呪って呼べるのかな? 死んだら呪いが残っていようがいまいが関係ない…… まぁ呪塊が残るから解呪って言えるのか……
「二つ目は反対の性質を持つ呪いを重ねる事……」
「反対の性質?」
「例えば『質量増加の呪い』に『質量低下の呪い』を重ねれば打ち消される」
「なるほど……」
反魔術の法則と同じだな。
しかしそれだと打ち消せない呪いもあるだろうな、『不老不死の呪い』の反対の性質の呪いって何だ? 『老化絶命の呪い』とか? そんなのあるのかな?
「そして三つ目は……」
「三つ目は?」
「その呪いを生み出した者の死……だ」
………… それはつまり第4魔王 “鬼神” スサノオの死……ってコトだよな……
うん、良し帰ろうか、俺が知りたかったのは解呪方法であって、この場で解呪する必要は無い。
それは契約外だ、俺は絶対やらないからな!
「そうか…… 自分が不利になる情報をわざわざ済まなかったな? それだけ知れれば十分だ」
「カミナよ、下がっていてくれ」
俺が〆の挨拶をしようとしてたら、ジークに止められた、余計なコトすんなよ。
「おいジーク、お前ホントにやる気か? 魔王スサノオは人類に敵対する魔王じゃ無い、俺は倒す必要は無いと思う。
お前の個人的な恨みに関しては…… まぁ…… 同情するけど……」
「これは俺の問題だ、一切の手出しは無用」
本当に? 前にも槍の人が似た様なセリフを言ったけど、結局コッチに丸投げされたんだよな、アテにならん!
大体この件は確かにお前個人の問題かもしれないが、一緒に来た俺達、そして俺達を連れてきたネフィリム、更には紹介した第2魔王にも責任の所在が発生するんじゃないか? つまり迷惑が掛かる……
その結果、ラグナロクとヘルムガルドの戦争に発展とかしたらどうする? 責任とれるのか? 俺は取らないからな?
それでもイイなら……
「勝手にしろ、ただし俺は関わらないからな?」
「あぁ、感謝する」
そう言ってジークが一歩前へ出る……
こいつマジでヤル気かよ?
「ジ……ジーク! 待って下さい!!」
ここへきてネフィリムがようやく再起動を果たす、さて、どう出るかな? ジークを止めてくれるのか? それともジークの前に敵として立ち塞がるのか?
巨人四天王の立場を考えると、このまま黙って見ている訳にはいかないよな?
「ジーク……」
「ネフィリム……」
二人の視線が絡み合う…… そして俺の背中がむず痒くなる。
イイ雰囲気なんだが…… まさか「私も一緒に戦います」とか言わないだろうな? 恋する乙女ならそれくらい言いかねない。
「ジークは本当に…… 勇者……なんですか?」
「あぁ、事実だ、ただし正確には“元”勇者だがな」
「では…… グリム様の事は……?」
「魔王グリムと敵対する気は無い、現役だった頃なら考えたかもしれないが…… 俺の知る魔王グリムは俺の敵では無い」
なんだその都合の良い解釈は? 勇者にとって全ての魔王は滅ぼすべき相手なんじゃないのか?
なんか警察官と893の娘のラブロマンスみたいだ。
まぁジークは“元”勇者だからな、魔王討伐の義務なんてどうでもイイんだろう、実際 禁域王も放置されてたし…… だが頻繁に邪魔はされたな…… あれも勇者のサガなのだろうか?
「分かりました、貴方の戦いを見守ります」
えぇ~…… イイのかよ? 見守っちゃって?
お前が連れてきた客が魔王の命を狙ってるんだぞ? どんな結果になっても問題になるだろ? リスク計算が全くできてない、これが恋愛脳筋か……
もっとも恋愛の為に同僚を病院送りにする奴だ、端からリスクを計算する頭脳など存在して無いんだよな。
「ジーク…… 貴方の幸運を祈っています」
漢の背中を見送る女の図……
旦那を戦場に送り出し、その無事を祈っている自分に酔ってるみたいだ…… 本当ならお前はジークを止める立場だと思うんだがなぁ。
「待たせたな」
「別れはもう良いのか?」
「必要ない、あとはお前を殺すだけだ」
…………
まさか対魔王戦を観戦する日が来るとは…… いっつも俺はリングに上らされてたからな。
もうあとのコトなど知らん! 勝手にやってろ!
「スサノオ様…… ガンバレ!」ボソ
となりで観戦しているミカヅキは、どうやら赤コーナーを応援しているようだ。
まぁ当然だな、ミカヅキは常にジークの死を願ってたんだから。
対する青コーナーサイドは……
「ジーク~♪ ガンバレ~♪」
ネフィリムが自分の立場を忘れて堂々とジークを応援している、このアウェイのど真ん中で良くやるよ……
てか、さっきまでの貞淑な雰囲気はドコ行った?
俺は中立の立場を取らせてもらう、ぶっちゃけ結果がどうなろうと関係ない、俺にさえ火の粉が掛からなければどうでもイイ。
「…………」
「…………」
第4魔王と元勇者が対峙している…… しかし見た目が問題だ。
片やヨボヨボのお爺ちゃん、片や筋骨隆々の大男…… どう見てもジークの方が悪者だ、今から老人虐待が始まる気分だ、ジーク負けろって思っちゃうな。
しかしあそこまでヨボヨボで魔王スサノオはまともに戦えるのか? 鬼族である以上、スサノオが魔法を使ってくる可能性は殆んど無い。
もちろん魔王である以上、魔力を宿しているんだから魔法だって使えるだろう、しかしスサノオが使うとは思えない。
「お?」
スサノオが玉座の裏に置かれていた刀を取り出した、刃渡り1.5メートル程もある直刀…… 使い辛そうだな。
あんな刀をまともに振り回せるとは思えないんだが……
「あれは素戔嗚です」
「は?」
となりで見ていたミカヅキが妙な事を言った、いや……スサノオはさっきから目の前に居るんですが?
「あの刀です、伝説の三刃が一振り、神剣『素戔嗚』……」
「伝説の三刃…… するとアレが……」
「はい、お嬢様の『天照』と同格の神器ですね」
魔王スサノオの武器が神剣『素戔嗚』…… 鶏が先か、卵が先か…… まぁ多分、神器の方が先だろうけど。
しかし『天照』と同格の神剣『素戔嗚』……か、同格という以上、天照並みの性能を秘めているのだろうか?
ここで見ていて巻き込まれないか不安になって来た。
「早速出して来たか…… しかしその体でまともに使えるのか?」
一方、素手であるジークは余裕を見せる、もしかして『素戔嗚』の能力を知ってるのか? どうやら500年前にも見ているようだが……
「ワシの事より自分の心配をしたらどうだ?」
「もっともだ…… ならば!!」
ジークが突然飛び出した!
その鍛え抜かれた脚力を使い、一気に距離を詰め自慢の豪拳を叩き込む!
ズドオォォン!!!!
これが素手による攻撃の音かよ……
軽く不意打ち気味の一撃が決まった!
しかしスサノオはビクともしない、防がれたのだ……
「な……に?」
スサノオの身体は光に包まれていた、“気”を使って防いだのか?
「あれは?」
スサノオの体を覆っていた光がまるで翼を広げる様に開かれた。
肩の辺りから新たな腕が生えているようにも見える…… てか、光る腕が生えてる。
「あれは“気”と“魔力”の混合体の様にも見えますね……」
「ミカヅキも見るのは初めてなのか?」
「え…えぇ、あんな技術があったとは……」
傍目には機人族の仮想体に似てる、そう言えばジャバウォックも似たような事をしてたな。
仮に仮想体と同じ仕組みなら、物理干渉は可能だろう、それをもってジークの豪拳を防いだのか。
そしてあの腕があれば……
「次はこちらの番か?」
「ちっ!」
スサノオの仮想体の腕が『素戔嗚』を構えた…… なんか紛らわしいな。
しかし考えたな、アレならいくら身体がヨボヨボでも刀を振れる。
それどころじゃ無い、仮想体は伸縮自在、コレで間合いは関係無くなった、恐らく射程距離は数十メートルはくだらないだろう。
…………
もうちょっと離れようかな?
「さあ、お前が本当に魔王を倒せる力を得たのか見せてみろ」
スサノオが『素戔嗚』を振り上げ、ジーク目掛けて振り下ろす……
スサノオ、素戔嗚、ウルセーな!
思わず自分の思考にツッコミ入れちまったよ!
そうこうしている間に、振り下ろされた一撃をジークは横へ飛び回避した。
ドゴオオオォォォォォン!!!!
俺たちが居た柱状の高台は砕け散り、空間全体が…… いや、山全体が激しく揺れた!
「うおぉぉお!? ナンダコレ!!?」
「うわっ!? っと!! スサノオ様やり過ぎ!!」
対戦者の二人だけじゃ無い、観戦者も含めた全員が球状空間の底へ落とされた。
「何だこの威力は? 尋常じゃ無いぞ?」
「これが神剣『素戔嗚』の能力、星をも砕く剛力が附与されている…… そんな伝説を聞いたコトがあります」
マジかよ…… さすがは『天照』と同格の神器だ、威力が洒落にならん。
てか場所変えない? ここでやってたらホントに噴火するぞ?
せめて俺とミカヅキだけでも避難させてもらおうかな?