第296話 第4魔王 ~和解~
八咫霊山……
見た目はマウント・フジっぽいが、高さはそれ程でもない、1500メートル前後ってトコロか。
もちろんこの大陸の殆どは高地だ、海抜で言えば4000メートルを優に超える。
ここの所、野宿しかして無くて疲れが溜まり気味なんだが、ミカヅキのお兄さんはコッチの事情など気にも留めず山を登り始めた……
村に泊めてはくれないらしい…… 仕方ないか…… ミカヅキはガッツリ掟破りをしてるわけだしな、他の家族や親戚が苦言を呈する姿が目に浮かぶ。
しかし鬼族には鬼族のルールがある、そんなもの関係無いと跳ね退けるのは簡単だが、出来るだけ尊重したい。
今回の魔王城突入作戦はケンカしに来たワケじゃ無いからな、わざわざ敵対行動を取る必要は無い。
種族序列第4位・鬼族……
ここに来る前ヴァレリアも「傍若無人な振る舞いは控える様に」的な事を言っていた、鬼族は魔王スサノオの命令には絶対服従しそうだからな、ワガママは言うまい。
呪樹海を抜け、山道を登る…… 山道と言っても石の階段になってるからかなり登りやすい。
だからと言って頂上まで登るのは嫌だぞ? そんな事するくらいなら飛んでく。
傍若無人な振る舞いは控える? 知るか! なんで魔王様が鬼族のルールに従わなければならないんだ!
数秒前の発言は取り消す!
我ながら前言撤回が早いなぁ……
「おや?」
薄暗くなった石段の先に鳥居が見える、神社でも建ってるのだろうか?
そこが魔王の住処だと有難いんだが……
「スサノオ様はあの先の魔王窟に居られます」
おぉっ! 登頂する必要ないのか! 助かったぁ~
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……と、思ったのだが……
洞窟が長い!
まぁ登山しないで済んだだけでも良しとするべきか…… 微妙に上り坂だけど……
しかしこの洞窟…… 昔、溶岩でも流れた跡なのだろうか? ヒトの手で掘ったモノとは思えない。
この山って火山……なんだろうな、いきなり噴火とかしないだろうな? もし魔王スサノオを倒したらきっと噴火するだろう、そんな気がする。
お約束ってヤツだ。
そんな道をひたすら何百メートル…… 何千メートルだろうか? 歩き続ける…… この道は階段になってないから歩き難い。
洞窟の入り口までは他人の手が加わってたんだから、その先も整備しろよ?
仮にも魔王様がお住まいになられる場所、それくらいしたって罰は当たらない。
そんな事を思っていると、急に広い空間に出た。
洞窟は唐突に途切れ、恐らく球状の空洞が広がっている、その中央には巨大な台座があり、洞窟の出口と台座を木製の橋が繋いでいた。
かつてマグマが溜まっていた場所だろうか? 暗くてよく見えないが、音の反響からして相当広い。
壁を掘ればダイヤモンドがゴロゴロ出て来そうだ…… まぁあんな物幾らでも作れるからどうでもイイが……
上を見れば遥か遠くに小さく星が見える…… どうやら山頂の真下らしい…… アレは火口か?
要するに山の中をくり抜いて作られた場所だ、もちろん自然にできた物を加工したのだろう。
そして……
「…………」
篝火が焚かれた幻想的な光景……
そんな空間のど真ん中に一人の男が佇んでいる……
…………
てか、ジーサンだ…… 第4魔王スサノオってお年寄りだったのか……
「懐かしい……顔だな……」
低い声…… うん、普通の魔王だ。
アレが第4魔王 “鬼神” スサノオ…… 白髪のロン毛と髭を蓄えた老人…… しかしその眼光は鋭い、何かの達人のような雰囲気を漂わせている。
たぶん居合だな、後ろに馬鹿でかい刀が置かれているから…… しかし長すぎて居合切りには向かないっぽいが…… あれって直刀だろ?
しかし間違いなく武闘派だ、マリア=ルージュとガチでやり合ったってのも頷ける、だって見た目が怖い……
何気に年寄りの魔王って初めて見たな…… 第2魔王や第8魔王はオッサンだった、だが女性魔王は全員若かった、有り難くもアリ、迷惑でもある、美女を殺さなければならなかった禁域王の葛藤と言ったら……
第9魔王も初代はジャバウォックの娘だったワケだしな……
魔王がどういう基準で選ばれたのかは分からない、コレは予想だが各種族から最も魔力が高い者、或いは最も才能あふれる者が選ばれたのではないだろうか?
ただ内蔵魔力は若いほど多い、これは人族のみならず長命種にも言える事だ。
そして身体の老化に伴い能力値も落ちていく、見るからに老人のスサノオは…… あ。
そうか…… 鬼族には元々魔力が無いんだ、魔王選定基準で能力値は関係無かった……と考えれば老人でも不思議はない。
まぁただの予想だ、あまり関係ないかも知れないな。
……でも、アレ?
角は?
スサノオの角はミカヅキ同様、頭の両脇から生えている2本だけ……
男性鬼族の中ではかなり位が低い感じだ、少なくとも都に住んでた鬼族は肩、腕、背中等から邪魔くさい角がガンガン生えてた。
しかしスサノオにはそういった角が見当たらない、ここから見えないだけで背中に大きな角が生えているのか? 或いは股間から立派な第3の角が生えてるとか?
まぁそんな事はどうでもイイか、ここへ来た目的を果たそう……
…………
……アレ? 俺達ここまで何しに来たんだっけ?
ミカヅキの里帰りと…… ジーク&ネフィリムのデートの付き添い?
「お休みの所を失礼しましたスサノオ様、この者達がスサノオ様にお目通りを願っております」
ミカヅキのお兄さんが事情を説明してくれるらしい、しかし本人の目の前に連れてきてお目通りを願うって言うのは…… なんかおかしくないか?
もうお目通っちゃってるじゃん。
これも鬼族の文化なのだろうか? 相変わらずよく分からん。
「ミカヅキか…… 随分変わったようだな?」
「はい、ご無沙汰しておりますスサノオ様…… スサノオ様も…… 随分お変わりに成られましたね?」
? 不老の魔王はそう簡単に見た目は変わらないと思うんだが…… やはりあのロン毛か? ここ数年でロックに目覚めたか?
以前のスサノオを知らない俺にはどれだけ変わったか想像も出来ない。
「呪いでは無く力を得て戻って来たか…… なるほど、確かにこれではワシにお前を裁く権利は無いな」
「??」
ミカヅキのお兄さんは何を言ってるのか分からないって顔してる。
まさか従妹が魔王になって戻って来たとは思いもしないだろう。
「魔力を得てワシと同格となったお前を鬼族の掟で縛ることは出来んな……
よかろう…… 今こそお前の咎を許し、名を返そう…… これからは好きに生きるが良い」
「…………っ ありがとうございます」
ミカヅキが深々とお辞儀をする。
名前を返す…… つまり第10魔王 千夜三日月になるってコトか……
今のやり取りだけでミカヅキのステータスは変わるのだろうか?
「頭を下げる事は無い、お前はもう自由なのだからな」
「………… わかりました」
「???」
…………
終わった? 和解したのかな? ずいぶん簡単というか…… アッサリしてたな、正直もっとこじれるかと思ってたんだが。
まぁバトル展開にならなくて良かった、下手に戦ったら火山が噴火して脱出イベントが始まる所だ。
大人の事情が俺を守ってくれたんだな。
「ス……スサノオ様? よ…宜しいのですか? ミカヅキは掟を……いえ、許して頂けるなら有り難いのですが…… あれ?」
お兄さん混乱中、キツイ処分でも下ると思ってたのかな? 或いは殺されるとか?
「よい、下手にミカヅキ達と敵対しようものならこちらの命が無いだろうからな」
「は? え?」
「なんだミカヅキ、家族には明かさぬつもりだったのか?」
「……いえ、帰る時にでも……と思っていたのですが…… 兄上」
「な……なんだ?」
「私は第10魔王を倒しその力を継承しました」
「…………は?」
「つまり私が新・第10魔王……………… です」
二つ名は名乗らなかったか…… アレを家族の前で言うのは恥ずかしいよな? だって姫だもん。
「……………………」
お兄さんフリーズ、取りあえず放っておこう。
「そして…… 久しいなジークフリート・レーヴェンガルトよ…… 500余年ぶりになるか?」
魔王スサノオが次に語りかけた相手…… その視線の先に居るのはジークだ。
禁域王を無視して筋肉王に声を掛けるとはナイス度胸だ、もっともそんな事で腹を立てたりはしない、それよりも気になるコトがあるからだ。
声を掛けられたジークは偉そうに腕を組み目を閉じたまま反応しない……
「……500……4年?」
「ジーク……フリート?」
「…………」
ネフィリムもミカヅキも困惑気味だ、ジークという名が偽名だったんだから…… いや、偽名というか略称というべきか?
「あぁ…… 久しぶりだな…… 戻って来たぞ」
ジークはゆっくりと目を開きスサノオと見つめ合ってる…… 違った、睨み合ってる。
「ジークフリート・レーヴェンガルト……か、やはりそういう事だったのか……」
「なんだカミナ、気付いていたのか?」
「フン! テメー俺を誰だと思ってんだ? 29代目勇者ジークフリート・レーヴェンガルト!」
「!?」
「……え?」
まぁ偉そうに言ったけど、気付いたのは割と最近だ。
だがそんな事はおくびにも出さない、俺なら出来る、さも最初からすべて知っていましたって顔が出来る! ここはドヤ顔一択だ!