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レヴオル・シオン  作者: 群青
第六部 「神の章」
298/375

第292話 ヘルムガルド


 羅刹孔の上は砦になっていた。

 穴の周りを石造りの砦がグルリと取り囲んでいる……

 思ってたよりもずっと厳重だった。


 ここまで厳重な警備が必要なのだろうか?

 言っちゃあ何だが、一体誰がココまでやってくるのだろうか? 大軍が攻め込んでこれるような地形じゃない。

 断崖絶壁に荒れ狂う海…… 俺だって帰りたかった……


 それ以前に不毛の地と呼ばれるヘルムガルドにわざわざやってくる者も少ないだろう。


 少なくともこんな立派な砦は必要ないよな?


「誰もいないな……」

「相変わらず……です」


 砦の中には数名のオーラが見えるが気配は感じない、鬼族(オーガ)の特徴だな、その数は少ない。

 どうやら俺達の存在にも気付いていない様だ…… 何の為の砦なのだろうか?


 まぁいい、どのみち置き去りにしたジークとネフィリムを待たねばならないからな。


「マスター、お茶にしましょうか?」

「そうだな、ゆっくり待たせてもらおう」


 魔神器から紅茶セットを取り出し優雅なティータイムと洒落込む。

 しかしこの辺の地面は岩がゴツゴツしていてピクニックシートではケツが痛くなりそうだ、下は波で岩が削られて丸くなってたから良かったが……


 流水魔術で大波を作り出して岩を削るか? 当然その水は羅刹孔に流れ込みジークとネフィリムを押し流すだろう…… 恋愛脳筋の頭を冷やすにはちょうどいいかもしれないな。

 てか何年かかるんだよその作業……


 まてよ? 『神魔制剣(テオフィルス)』を使えば魔術を行使しなくても魔力だけで結果を作り出せるんじゃないか?

 いい機会だ、試してみるか。



---


--


-



 日が暮れ始めた頃…… ようやくゴリラ夫妻が姿を現した。


「遅いぞ? ゆっくりで良いとは言ったがいくら何でも遅すぎる」


 遅れて現れたジークとネフィリムを俺は椅子に腰掛け、ミカヅキにいれてもらった紅茶を飲みながらふんぞり返って出迎える。

 ミカヅキも向かいの席につき紅茶を飲んでいる…… 逆の立場だったらキレてたかもしれないな。


「コレでも飲まず食わずで登り続けてきたんだがな」

「あぁそうなの? じゃ仕方ないな」


 確かに…… ジークは平然としてるがネフィリムは死にそうだ。

 てか、未だに吐いてる…… アレは船酔いじゃなくジークの無茶なペースに付き合わされた結果だろう。


「ぅおぇええぇぇ~~~……」


 これはジークが凄いのか、ネフィリムがショボいのか…… 前者かな?

 ネフィリムは巨人四天王の一人だ、ショボいってことは無いだろう。

 むしろその巨人四天王を遥かに上回る体力、尋常じゃない…… が、こいつの正体を考えればコレくらい不思議でもないか。


「うっ…… うぅっ……おぇ」


 これで目が冷めただろうか? お前が恋い焦がれている相手は筋肉と体力の化物だ。

 これで息子が完全復活したら例え規格外の筋肉と体力を持つネフィリムでもひとたまりもあるまい。


「さすがジーク…… 私もまだまだ精進が足りなかった……です…… うっぷ!」


 恋は盲目……

 よくそんなポジティブな感想が出てくるものだ、ある意味感心するよ。


「さて、そろそろ行くとするか、せめて今日中に入国くらいは済ませておかないと、この岩場で野営するハメになるぞ」


 俺が立ち上がるとミカヅキがテキパキと片づけを始めてくれる、そして残されていた椅子とテーブルを見てジークが疑問を口にする。


「そのディテールが少し怪しい椅子とテーブルはどうしたのだ? それも持ってきていたのか?」

「ディテールが怪しくて悪かったな、うろ覚えで作ったんだから仕方ないだろ?」

「作った? この場でか?」

「『神魔制剣(テオフィルス)』で魔力を術を使わずに直接変換して擬似物質として構成したんだ」

「そんな事ができるのか?」

「普通は出来ない、しかし『神魔制剣(テオフィルス)』があれば可能だ」


 やってること自体は普通の魔術と同じだ、この椅子とテーブルだって森樹魔術で樹を作ってそれを加工したに過ぎない。

 当然、擬似物質だから放っておけばそのうち消える。


「ちょっと思いついたから実験してみただけだ、理論上はあらゆる物質を創造できるが実際は無駄な技術だ」

「無駄なのか? 話を聞く限りでは万能魔法のように聞こえるが……」

「燃費が悪い、魔術ってのは高度な呪印や複雑な詠唱などを用いる事によって魔力の消費を押さえ威力を高める為に創られた技術だ。

 そういった補助を使用しない以上、どうしたって燃費が悪くなり、威力や精度が落ちる」

「なるほど……」


「椅子やテーブルを魔術で作りたかったら、そういった魔術をリリスに創らせた方が低コストだ。

 何と言っても全ての魔導魔術を生み出した『魔術創造(スペルクリエイター)』だからな、アイツは……」


 ただ、もっと単純な物なら魔術を使う必要も無いだろう。

 今回はディテールにこだわり過ぎて試行錯誤をしたのが魔力の無駄遣いにつながった、挙句ジークに指摘されるレベルのクオリティーになってしまった。

 更に俺には『神血(ディヴァイレッド)』がある、血液を消費する代わりに擬似物質では無い物質を作れるんだ、全く必要のない技術だな。


「では…… 行くとしましょう」


 まだフラフラのネフィリムを先頭に、壁に向かって進みだす。


 ちなみに俺とミカヅキがお茶を飲み始めた頃に砦内のオーラが慌ただしく動いた、そこでようやく客人の存在に気付いたらしい。

 しかし接触はしてこなかった、鬼族(オーガ)であるミカヅキを見れば何かしらのリアクションがあると思ってたんだが……

 警戒しているのか、或いはミカヅキの事を覚えているのかも知れない。


「我は第2魔王 “神殺し” グリム・グラム=スルト様の配下、四天王が一、ネフィリム・G・アースブール!

 我が主の命により第4魔王 “鬼神” スサノオ様への拝謁を願う!」


 ゴゴゴゴゴゴゴ……


 ネフィリムの言葉に呼応するかのように砦の壁の一角が開く…… しかしネフィリムが見ている場所じゃ無いけどな、10メートルはズレてるぞ? このドジッ娘め。


 ザッ!


 開かれた通路から二人の人影が進み出てくる。

 一人は老人、もう一人は比較的若い女性…… 二人とも額から立派な角が生えている、鬼族(オーガ)だ。

 ミカヅキ以外の鬼族(オーガ)は初めて見たな。


「四天王ネフィリム殿…… ヘルムガルドへ足を踏み入れるのは20年ぶりですかな?」

「ご……ご無沙汰しております」


 20年? コノヤロー、そんなんでよく案内役とか買って出れたな?


「しかも…… いつもとお顔触れが異なりますな? どういったご用件で?」

「顔ぶれは違うが要件はいつもと同じだ」


 いつもと同じ…… たしか第2魔王は第4魔王を説得してたんだっけ?

 じゃあ要件違うじゃねーか、テキトー言いやがって。


「本当ですかな? では何ゆえ忌み子を連れているのです?」

「忌み子?」


 忌み子…… それじゃ生まれる前から望まれて無かったみたいじゃないか。


「その者は呪いをその身に宿していない限りヘルムガルドへ立ち入ることは許可できません、掟ですので……」

「その者……? 少々お待ちを……」


 ネフィリムが早足で戻ってくる……


「ちょっと…… 忌み子とか呪いって何の話です? 分かる?」


 案内役ならそれくらいのネゴシエイトはやってくれよ、まぁ恋愛脳筋にそんな高度な交渉など期待できないが……


「それは私が鬼族(オーガ)にとって禁忌の力を生まれ持った為に追放された身だからです」

「え? 禁忌? 追放?」


 コイツに任せておいても話は進まないな、仕方ない……


「俺が話すよ」

「え? あ~…… ではよろしくお願い致します」


 ラッキー♪ ……みたいな顔をするな、使えない案内役目。

 ネフィリムの代わりに前に進み出る。


「貴方は?」

「失礼、名乗り遅れました、自分は第3魔王 霧島神那といいます」

「第3魔王? 何を言っておられる? 第3魔王はマリア=ルージュ・ブラッドレッド、この世界に暮らす者なら常識ですぞ?」

「えぇ、その第3魔王を倒し、その力を継承したのが自分です」

「!?」


 知らないのも無理はない、ガイアですら第3魔王が倒された事実は噂程度しか出回ってないんだからな。


「は? え? 第3魔王を? 倒した?」


 ネフィリムでさえ狼狽えている…… てかリリス! そのこと第2魔王に伝えてねーのかよ!


「何か証拠を見せましょうか? 俺がマリア=ルージュの『深紅血(ディープレッド)』をこの場で使って見せれば信用できますか?」


 深紅血(ディープレッド)は既に存在してないし、血液変数(バリアブラッド)でも似たような事は出来たけどな。


「いえ、結構です、魔王グリム様の使者が連れて来られた方なら真実なのでしょう」


 信じるんだ…… 魔王グリムは随分信頼されてるんだな……


「しかし、いくら魔王グリム様のご紹介があったとしても、忌み子をヘルムガルドに入れる事は出来ません。

 これは鬼族(オーガ)の掟です」


 やはりミカヅキの事を覚えているのか、まぁたかだか4~5年前にこの場所から追放されてった女の子の事だ、20年ぶりに訪れたネフィリムを覚えてるんだから当然か。

 さすがに500年ぶりに訪れた筋肉ダルマは覚えて無いだろうが……


鬼族(オーガ)の掟というモノは、当然鬼族(オーガ)に適応されるモノですよね?」

「はぁ……?」

「彼女は既に鬼族(オーガ)よりも上位の存在、魔王スサノオと同格の存在です」

「同……格? スサノオ様と? 何を言っておられるのですか?」


 混乱している二人の鬼族(オーガ)を無視し、ミカヅキに目配せを送る。


「お久しぶりです小角様、改めて自己紹介させて頂きます、私は新・第10魔王 “夜叉姫” ミカヅキと申します」

「新…… 第10魔王 “夜叉姫” ?」


 あ、ミカヅキの頬がちょっと赤い、照れてる、やっぱり二つ名って目の前で言われると恥ずかしいよな?

 俺は言わないどいて良かった、復唱されたらたまらん。


「同格の魔王である彼女を招き入れてはくれませんか? どうしてもというなら出直しますが、次は穏便に済むとは限りませんよ?」

「む……むぅ……!」


 ちょっと脅してみる、ここでダメなら魔王グリムに言いつけてやるんだから!

 ぶっちゃけダメならダメで別に構わない、俺とミカヅキは帰らせてもらうし、後はジークとネフィリムに任せるだけだ。

 その方がネフィリムも喜ぶだろうし、俺も嫁達の元へ帰れて喜ぶ、誰も不幸にならない。


 そもそも魔王になったからと言って鬼族(オーガ)の掟の対象外になったワケじゃ無い、ミカヅキは魔王の力を持った鬼族(オーガ)であって、魔王という生物になったワケじゃ無い。

 もっともそれを知る者は世界中を探しても殆んどいない、一部の魔王本人だけ……だろう。


 要するに俺が言ったことはただの屁理屈だ。

 しかし魔王という存在を良く知らない者にとっては無視できない言葉でもある。


 さあ…… どうする?


「……………………

 ………………わかりました」

「小角様!? よ…宜しいのですか!?」

「魔王様を追い返したとあっては後々問題になりかねない、それに魔王グリム様の紹介でもある……

 お前は中央へ知らせなさい」

「……畏まりました」


 そういうと鬼族(オーガ)の女性は砦の中へと走っていった。

 中央ってのは魔王スサノオの居る場所かな?


「それではお客人、中へどうぞ……」



 ヘルムガルドへの扉は開かれた。




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