第287話 強制送還
みなさんコンニチハ。
本日はガッカリな報告から始めさせて貰います。
俺達の愛の巣の整理が終わった昨日の夜の事、白に俺の能力値を見て貰いました。
第3魔王 霧島神那の能力値は、縁起が良いのか悪いのか…… 120000ジャストでした。
…………
8000しか増えてない!? んなアホな!?
俺は全世界でたった一人の兼任魔王だぞ? そして上位種族の妖魔族出身の魔王の力を継承したんだ。
なのにたった8000しか増えてない……
この数値は3年前の琉架と同等のモノだ、まさに周回遅れって感じだな。
ちょっとワクワクしてたんだけどなぁ…… ガッカリだよ!
コレもきっとマリア=ルージュの嫌がらせだ、アイツ性格悪そうだったし。
だがこれで少し納得がいった気がする、神器『神魔制剣』が封印されていた理由だ。
推測通りマリア=ルージュの能力値が異常に低かったのなら納得だ。
自分では使えない…… しかし誰かに与えるにはあまりにも惜しい一品…… 故に厳重に封印されていた。
普通なら第一使徒あたりに持たせるものなのだが、反射能力者には不要の長物だな。
もしかしたら部下の事もあまり信用していなかったのかも知れないな、まぁ側近が狂った男だったんだからしょーがない。
だが…… マリア=ルージュと戦って、それほど能力値が低いとは感じなかった。
むしろあんな無茶苦茶な能力を、僅かな魔力で使えるとは思えない…… 今思い返してもマリア=ルージュは琉架に匹敵するくらいの莫大な能力値を誇っていたと思う……
とは言えマリア=ルージュは既に故人、今では真相は闇の中だ。
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首都ガイア
本日は琉架の移住許可の条件であるお婆様からの依頼、シニス世界に住み着いたロリコンゴリラの強制送還を実行する。
あのゴリラをシニス世界から叩き出す…… その時初めて俺のハーレムは現実のものとなるのだ!
だってアイツがこの世界に居ると安心して琉架とイチャつけない…… 何らかの手段でティマイオスに乗り込んで来そうで、ロケットを自主開発したり…… ドラゴンを手懐けて騎乗したり…… 修行の末 舞空術を習得したり……
デクス世界に送り返しさえすれば後はお婆様が抑えてくれる。
しかしこの強制送還は少々問題がある。
それはあのゴリラがシルバーストーン財団の会長職についていることだ。
そんな人間をいきなり行方不明にする訳にはいかない、あんな奴でも居なければ困る人が大勢いる。
ただゲートが開放された時、帰還に向けて準備すると言っていた気がする……
それがどれだけ終わってるかにもよるな。
琉架がいないシニス世界にあのゴリラが好き好んで残るとは思えない、帰りたくても帰れない…… つまりまだ引継ぎは終わってないってことだ。
終わっていればとっくに帰還しているハズだからな。
…………あれ? ちょっと待てよ?
そうか、まだ第3魔王が倒された事をシニス世界の住人は知らないのか。
もしかしたら引き継ぎは完了してるかもしれないな、しかし帰還は大きな危険を伴う。
まぁ実際のところは確認してみないと分からない。
しかしどうやって確認する?
俺が出向いていって素直に教えてくれるだろうか? くれるワケ無い。
琉架が出ていったらどうなる? 確実に暴走する。
そして琉架がコッチに居る限りデクス世界に帰るとは言わないだろう。
それじゃ困る。
どうしたものか…… ま、いいか、とにかく確認だけはしておこう。
最悪、強制送還してやれば良いんだ。
クスリで眠らせて箱に閉じ込めて密輸出してやればいい、ゴリラにすれば犯罪だが、分類学上 一応人類だから密貿易には当たらない。
別の犯罪に引っかかる気もするが、気にしないでおこう。
琉架と二人でシルバーストーン財団本部ビルへ向かう。
「どうやってお爺様を説得しよっか?」
「説得……するだけ無駄だと思うけどな」
「あはは…… やっぱりそう思うよね? でも何とか説得して帰ってもらわないと……」
「琉架がいる限り、梃子でも動かないと思う」
「うぅ…… 確かに…… でもそれじゃ困る、お婆様からのご依頼を遂行できなかったら私の移住許可も取り消されちゃうかもしれない……」
別に取り消されても監禁とかはされないと思うんだよなぁ、だって有栖川家の一族はみんな琉架に激アマだから……
だからそんなの無視すればいいとも思うんだが、琉架の性格上それは出来ないだろう。
なるべく穏便に済ませたいし、有栖川家とわざわざ敵対関係にはなりたくない。下手をしたら俺の首に賞金がかけられる。
久しぶりに訪れたシルバーストーン財団本部ビルの受付、ドコかで見覚えのあるお姉さんが今日も営業スマイルで客に対応していた。
「あの、すみません」
琉架が受付に話しかけると……
「はい? あれ? あなた確か会長のお孫さん?」
「はい、お爺様は居られますか?」
よく覚えてるな…… いや、琉架はしょっちゅう来てたから顔馴染みなのか、俺は2~3回しか会った事が無いから覚えられていないようだ。
「会長もお喜びになるでしょうね、もしかしたら臨時ボーナスが出るかも。
それにしても随分お久しぶりでしたね?」
「えぇ…… ちょっと…… 色々ありまして……」
孫が訪ねてくるとボーナスが貰えるのか…… 財団職員にとっても琉架は女神みたいな存在だな、さすが俺の女神。
「会長、ロビーにお客様がお見えです、えぇ、お孫さんです。
もしもし? 会長? もしも~し?」
ゴリラとの通信が途切れたらしい…… この後予想される展開は2つだ。
ゴリラの死体が発見されるパターン、名探偵が必要だな……
或いは……
死体発見パターンのほうが個人的には助かるのだが…… まぁもう一つのパターンだろう。
ズドン!! ドドドドドドドドド……
遠くからデカイ音が近づいてくる、やっぱりそっちのパターンか。
「うおおおぉぉぉぉぉおおおおーーー!!!! 琉架あああぁぁぁあ!!!!」
「お爺様ぁ♪」
ゴリラ登場、一体ドコに居たんだろう? 連絡してから10秒くらいしか経ってないぞ? どこぞの筋肉みたいに床をぶち抜いて来たのか?
ゴリラは人の溢れるロビーを最短距離で突っ込んでくる、当然車線上にある障害物はすべて跳ね飛ばして……
まるで人がゴミのようだ……
たまたまそこに居合わせた人たちは残らず吹き飛ばされる、なんて迷惑な奴だ。
そして琉架を抱きしめ持ち上げた。
なんかムカつくな……
「うおおおぉぉぉぉお!!!! ワシの女神が再臨したぁぁぁ!! 再臨祭だーーーぁ!!!!」
今ゴリラの目には琉架しか映っていない…… 隙だらけだ、今なら殺れる……
まぁ琉架の目の前で殺るワケにはいかないんだが……
「お爺様、落ち着いてください…… キャーーー」
ゴリラは一人再臨祭を勝手に始め、琉架をグルグルと振り回している、コラ! 女神様は丁重に扱え!
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「はふぅ~…… お爺様はしゃぎすぎです」
「いやぁ~スマンスマン、思わず血沸き肉踊ってしまった」
祖父と孫の心温ま……りはしない、再臨祭は15分ほどで終了した。
てっきり1時間くらい続くかと思ったが、ゴリラのくせに生意気にも理性が存在したらしい。
衆人環視の中で孫をペロペロするわけにもいかないからな。
もしそんなことを始めたらぶっ殺してやるが……
「なんだ小僧、お前も居たのか?」
どうやら今はじめて俺の存在を認識したらしい。
「チッ! どうしてお前はいっつもいっつも琉架と一緒なんだ?
なぜワシじゃない?」
ふふん、羨ましかろ?
残念だったな、この席は死んでも譲らん! 魔王専用シートだからな!
お前は吊革につかまりながら羨望の眼差しを向けているが良い!
たとえお前がヨボヨボでも絶対に譲らん!
「それより琉架よ、お前はデクス世界に帰ったのだろう? なぜココにいるのだ?」
今頃か…… 真っ先に聞くべきことだろ。
「えぇ~と…… お爺様を迎えに来ました。
それでお爺様、引き継ぎは完了してるのですか?」
「いやまだだ、デクス世界への渡航規制がかけられてから、どうにもやる気が起きなくてな……」
なんだ、規制かかってたのか、だったら勇者も止めろよ。
しかしいつ帰れるか分からなければモチベーションが落ちるのも仕方ない。
「琉架」
「うん?」
琉架に耳打ちして指示を与える。
たったそれだけなのにゴリラは親の敵でも見るような目をしてくる、なんて心の狭い奴、もしここで琉架の耳を一舐めしようものなら確実にボス戦が始まるな。
試したいけど我慢だ、もしやったらゴリラより琉架が怒りそうだし……
「大丈夫かな?」
「イケるイケる」
「コホン! お爺様、政府から近い内に発表があると思いますけど第3魔王マリア=ルージュは倒されました、渡航規制は解除されます」
「第3魔王が? 何かの間違いでは? あの街一つを簡単に滅ぼせる魔王がだぞ?」
「ナイショなんですけど…… 実は神那が倒したんですよ?」
「………… 小僧がぁ~~~?」
コラ! 神の言葉を疑うんじゃねーよ。
胡散臭いモノを見る目をするな。
「だから私、お爺様と一緒に帰りたかったんですけど…… 引継ぎがまだ終わってないのなら仕方ないで……」
「1日待っていておくれ! すぐに片付けてくる!」
ゴリラは来た時と同じ勢いで、人をはね飛ばしながら戻って行った。
見た目はあんなだけど、あのゴリラ、常人とは一線を隔す才能を持っている、3日分の仕事を1時間で終わらせる事ができるんだ。
きっと有言実行するだろう、それさえ終われば後はデクス世界へ追放してやればいい。
琉架と一緒に帰る事は出来る、もっとも琉架はすぐにシニス世界へ戻って来る事になるがな……
うん、嘘はついてない。