第284話 終末戦争
「いいわ、教えて上げる、結論から言うと私が古代神族を滅ぼしたからよ」
「…………は?」
古代神族を滅ぼした?
………………?
………………??
………………???
分からん!
「古代神族ってのは元々衰退してたんだろ? リリスが一人ずつ殺して回ったのか? 相手は仮にも神だろ?」
「いいえ、結果的に古代神族を滅ぼした…… と言うべきね」
結果的に? しかし人族はもともと古代神族陣営だったハズ、魔王グリムみたいに自分の陣営を裏切ったってコトか?
う~ん…………推理するより聞いた方が早いな。
「カミナ達には創世神話についての知識はある?」
「あぁ、大まかにだがな」
嫁達にもあらましは話してある。
あ、ジークには話してなかったっけ? ま、いいか。
「もともと古代神族は衰退していて滅びるのも時間の問題だった、そして最後の子『終焉の子』が産まれ、さらに次代神族が現れた……
カミナはきっと察してると思うけど、デクス世界っていうのは次代神族が創った世界なのよ」
やはりか…… 1200年前の時点で天使の生き残りとか居たくらいだからな。
「次代神族は古代神族の遺産を要求し、それを拒んだことから始まったのが終末戦争…… 実に1000年以上戦い続ける事になったわ。
その戦争の課程は私もよく知らない、生まれる前の話だからね……
しかしその戦争の終局で事件が起こった、祝福が世界に放たれたの」
「魔王の誕生……か」
「その通り、終焉の子エネ・イヴが覚醒者となり世界で初めてのギフトを使用した……」
古代神族最後の子、終焉の子エネ・イヴ…… 世界初のギフトユーザーというワケか。
「そう言えば……」
「うん?」
「その終焉の子の恩恵を受けて次代神族の一柱が死んだって話だったな……
それって実話なのか? だとしたら終焉の子の恩恵ってどんな能力だったんだ?」
「終焉の子の恩恵…… それは『進化神化』……
生物に進化を促す能力よ」
強制進化促進能力…… なるほど、そりゃ狙われるワケだ。
その死んだ一柱は恩恵を受けすぎたんだな、そして進化の行き着く先は“死”か……
「この恩恵は私を含め12人のヒトを超越者へと進化させた、その力は神族に匹敵するほどだった……
そして古代神族の希望に成り得た……」
! そう言うコトか……
「進化に行き詰まり、滅びの時を待つのみの存在だった古代神族にとって、『進化神化』は自分たちをさらなる高みへと導いてくれる光明…… そう考えだす神が居たの……
自分たちが更に進化すれば、侵略者を滅ぼし、更なる繁栄を遂げる事ができる……」
「つまり次世代の人類に世界を譲り渡す必要が無くなるってワケか」
「そう…… 実際にそういう動きが出始めていた、だから私たちは終焉の子を攫い、封印し、隠した……」
だから「結果的に古代神族を滅ぼした」のか、それが故の“原罪”か……
ん?
「…………」
リリスが何か視線をそらして戸惑っているようにみえる、アレは何か言い難いことがある顔だ。
「リリス」
「え~と…… 今回のマリア=ルージュのデクス世界侵攻の目的ってそれだったん……です」
「それ? …………あ、そう言えば赤木キャプテンも言ってたな「神に至るために必要な“鍵”を得に……!」とかナントカ」
「…………ハハ…ハ………」
やっぱりリリスの所為じゃないか、まぁ俺の能力目当てじゃなくてよかった。
「それでその「終焉の子」を手に入れれば本当に神になれるのか?」
「そう……ね…… 自らを進化させることができれば可能性は高いわ」
神の力……ねぇ?
そもそも超越者ってのは神族に匹敵する力があるんだろ?
コレ以上の力って必要なのか?
そんなもの無くたってアイツは最恐最悪最凶だったんだ、まぁ俺のほうが上だったけどな?
あ、つまり強さが欲しかったのか、自分を脅かす者の居ない世界を作りたかった……
アイツよりも上位の魔王、第1魔王カオスと第2魔王グリムが目障りだったんだ。
余計なことを考えなければこんな結果には成らなかったものを……
「ちなみにその終焉の子ってドコに封印されてるんだ?」
「……もしかしてカミナも神を目指すの?」
んなモノいらん、魔王同盟は現在7人の超越者が居るんだからな、ぶっちゃけ第1魔王にだって負けないだろ?
更に! 非常に重要なコトが一つある! それは神に繁殖能力が無いことだ!
繁殖力の低下、それが古代神族衰退の原因であり、俺が絶対に神になりたくない理由だ。
魔王も非常に子供ができにくい生物だ、しかしミラが生まれた様に可能性はゼロでは無い、俺は子供が…… と言うより子作りがしたい! 精神年齢は中防だし興味津々だ。
神になったらどっかの誰かさんみたいに立たなくなるかも知れない…… そんなモノはただの呪いだ。
神になど金貰ったってなりたくないね。
と、いうワケで……
「ただの興味本位だ」
「だったら知らない方がいい…… というか、実は私も所在までは知らないんだ」
「なんでだよ? お前がやったんだろ? “原罪” リリス・リスティス」
「うぐっ! 私がしたのは計画の立案実行、誘拐までよ。
封印は別のヒトに任せたの、魔力で追跡できないよう細心の注意を払ったんだから」
なるほど、対マリア=ルージュ戦で穴だらけの作戦を考えたリリスらしからぬ慎重さだな、その才覚をこの間披露して欲しかったよ……
「それで…… どうかな?」
「ん? どうって?」
「いや、だって面接でしょコレって…… 魔王同盟の……」
あぁ、そう言えばそうだった。
とは言えこの質問では肝心なことが解決して無い。
「何故…… 同盟に入りたいんだ?」
「それはカミナの……」
リリスの眼を真っ直ぐに見つめる……
「うぅ…… はぁ…… 運命の刻に備えてって理由が大きいわ」
「運命の刻?」
はて? この暗黒臭いワードはどこかで聞いた気が……
「第二次封印から1200年…… 近い内にエネ・イヴェルトが現れる、その時の為……」
「待て、新しい単語をポンポン出すな、順番に話せ」
「1200年前…… 第一次魔王大戦直前に『黎明の子エネ・イヴェルト』が復活したの」
「黎明の子エネ・イヴェルト…… ? チョット待て、生きてたのか? いや…… 今も生きてるのか?」
「次代神族の三柱の神は終末戦争で全員死んだ…… 誰もが死んだと思っていた……
でもそうじゃ無かった、どうやってかは分からないけど生き延びていた……
これは推測だけど、エネ・イヴェルトは肉体が滅んでも魂だけで生きていられるのよ」
魂だけで? それは生きていると言えるのだろうか? それこそがエネ・イヴェルトの『黎明の子』としての能力なのかもしれないな。
便利な様な…… 不便な様な……
「他の二人は復活しなかったのか?」
「えぇ、他の二柱神の死は確認されてる、一人はさっきも話した進化促進により死亡……
もう一人は魔王グリムが殺したわ」
あぁ、第2魔王 “神殺し” グリム・グラム=スルトか。
「俺はてっきり第一次魔王大戦はリリスがデクス世界に渡った事が原因だと思ってたんだが……」
「いいえ、その考えであってるわよ、私が姿を消すことによりバランスを崩して戦争が起こった。
エネ・イヴェルト復活を知るのは私とグリムとカオスの3人だけよ、もしかしたらマリア=ルージュも知ってたかも知れない…… ただその時に色々起こってしまったの」
「色々って?」
「色々は色々よ、エネ・イヴェルトの肉体を永遠に封印するのにギルディアス・エデン・フライビを使った為に、厄介な魔王達が野心を出しちゃってね…… それが第一次魔王大戦の真相よ」
厄介な魔王達ってのは今はお亡くなりになられた好戦的な魔王たちの事だろう。
1200年前から迷惑な所は変わらずか。
「その封印にギルディアス・エデン・フライビを使ったってのはどういう事だ? かの浮遊大陸には黎明の子が封印されてるってコトか?」
「ん~…… そうじゃなくって、シニス世界生まれの子たちは知ってるだろうけど、カミナとルカは『禁断の地・エデン』って知ってる?」
「あぁ、世界地図の端っこの方にある島だろ?」
あの如何にも最強召喚獣とかが隠されてそうな島だ。
「あの島はかつてギルディアス・エデン・フライビの一部だったの、エネ・イヴェルトの肉体を海に沈めてその上に浮遊大陸から切り離した島を落として封印したの」
「な……!」
なんてスケールのデカい封印だ、島丸ごと一つを重石にして封印するとか…… 何兆トンだ? もっとか?
う~ん…… 重そう。
「そしてその時から魔王カオスはエネ・イヴェルトの精神を監視するために眠り続けいる……
精神世界を見張る為に……」
眠り続ける魔王にこんな真相があったとは……
しかし神族の生き残り……か、うぇ~…… ラスボスっぽいなぁ……
「でも魂だけで生きているってのは推測なんだろ?」
「そうね、でもアイツは確実に存在している、その証拠に勇者が現れるんだから」
「勇者…… 確か勇者は魔王のカウンターとして創造されたって……」
「そう、勇者システムを生み出したのはエネ・イヴェルトよ」
勇者が…… そう言うコトだったのか。
エネ・イヴェルトが復活した場合、最も邪魔になるのが魔王だ、その魔王を倒す存在として創り出されたのが勇者……
あ、エネ・イヴェルトってそう言えばプロメテウスが今際の際に残した言葉だ、アイツだけは未だに次代神族側だったんだな。
にも拘らず勇者はプロメテウスを倒す気満々だったけど、勇者継承には倒すべき敵の詳細な情報は含まれないのか。
まぁどちらにしてもアイツがプロメテウスを倒す事など不可能だったワケだが。
新事実が大量に噴き出した所為で頭がごっちゃになってるが、一つだけ確かな事がある。
黎明の子エネ・イヴェルトは…… 人を見る目が無い!
もし人を見る目があったら、あんなバカは選ばないからな!




