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レヴオル・シオン  作者: 群青
第六部 「神の章」
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第280話 カミングアウト


 ホワイトパレス……


 高天市に数ある豪邸の中でも抜きん出た存在……

 もし俺の親父がコレほどの豪邸を建てようとしたら、寿命が1000年位必要だ、それもブラック企業並みの働き方をしてだ。

 そんな人生を1000年続けるくらいなら、「もうひと思いに殺せ!」って叫ぶね俺なら。

 正攻法じゃ無理だろ? 一般人じゃたどり着けない高みだ。


 俺なら出来るけどね? 財宝もあるし、テレポートで銀行の金庫に忍び込むのも容易い。

 血を金やプラチナ、宝石に変換して売り払うって手もある。


 正攻法でやれって?


 正攻法なら…… 950年は必要かな?



「あ、神那」


 門の外で琉架が待っていた、これから一緒に魔王城に突入だ。

 これがデートの待ち合わせだったらどれだけ良かったことか……

 ヤバい、ディグニティ突入より緊張する。


「ゴメンね神那、ホントは私が……」

「いいんだよ、いつかはやらなきゃならない事だし」


 俺は再びココへ戻ってきた……

 先日も来たばかりだが、チョット意味が違う。

 制服をきちんと着込み、ネクタイもまっすぐつけている。

 もちろんシャツもズボンにINだ。


 そう、初めて琉架の家にお呼ばれした時と同じだ。

 手土産も持った、開いてる店が少ないからわざわざシニス世界から輸入した。

 かの第5魔王様にも大好評だったリルリットさん御用達、クラシックスのケーキセットだ。


 本日のミッションは「琉架のカミングアウトに付き合う」だ。

 結婚の挨拶みたいだろ? 個人的にはそれくらいの意気込みだが、それをするとスレンダーな小姉様に殺されそうだ。


 大丈夫だ、落ち着け…… ゴリラはシニス世界だ。

 前回同様、うまい具合にやって気に入られればいい。


 …………


 気に入られればいいんだが、難しいだろうなぁ……

 今回のカミングアウトは受け取り方によっては琉架を誘拐するようなものだ。

 琉架も緊張してるようだし、援護射撃は望めない…… もっとも俺が援護射撃するために来たんだが。

 果たして琉架の助けになれるのだろうか? 援護射撃した瞬間、本物の銃弾が飛んできそうで怖い。



---



 この日、ホワイトパレスには有栖川家の面々が全員集合していた。

 一人だけ異世界に居て仲間はずれ状態だが居ないものは仕方ない。

 むしろ居ないでくれて助かる、敵が一人減った。


 有栖川志乃…… 有栖川財閥現総裁。

 有栖川家の最高権力者、孫に激甘。


 有栖川誠蔵…… 有栖川十蔵・志乃の一人息子。

 有栖川財閥次期総裁、娘に激甘。


 有栖川奏恵…… 有栖川誠蔵の妻。

 有栖川財閥総裁の秘書室長、娘に激甘。


 有栖川美影…… 有栖川家の長女。

 父・誠蔵の秘書をしている、妹に激甘。


 有栖川静香…… 有栖川家の次女。

 大学生。

 帰国中、現在渡航自体が困難な為することがない、ニート気味、妹に激甘。


 有栖川琉架…… 有栖川家の末娘。

 学生 兼 第8魔王。

 マスコット的存在で溺愛されてる。


 映画やドラマで見たことのある妙に長いテーブル、正面にお婆様を中心に、両脇にお父様とお母様、お姉様と小姉様が座る……

 そしてその対面に俺と琉架が並んで座っている…… 凄まじいプレッシャーだ。

 今すぐ逃げ出したい……


 この席は琉架が「大事な話がある」と言ってセッティングしてもらった。

 その為、後ろに黒服がズラリと並ぶことはない。

 それは良いんだが、代わりに緊張感が留まる所を知らずに高まっていく。


 言葉のチョイスを間違えたら殺されそうだ…… 大袈裟でもなんでもなくってね……

 俺達にみんなの視線が突き刺さる…… 俺達と言うよりも、琉架の隣りに座ってる俺に……だ。


 「誰に断わってそこに座ってるんだ? あぁん?」 ……って心の声が聞こえてくるようだ。


 この部屋の中で俺以外の唯一の男性、お義父様の目が怖い。

 完全に殺気を放っている、血は争えないと言うか…… 蛙の子は蛙と言うか…… いや、ゴリラの子はゴリラと言うべきか……

 あのジジイ程じゃ無いが結構筋肉質でガッチリしてる、さすがはゴリラの息子、同等の殺気を撒き散らしている。

 あ~…… ヤバいなぁ…… また拳と拳で語り合わなければならないのだろうか?

 もっとも拳で語り合ってもジジゴリラとは分かり合えなかったが。


「えぇ……と……」


 琉架が一言目から言葉に詰まってる…… さすがにこれじゃ援護のしようが無い。


「琉架」

「ひゃいっ!?」

「落ち着きなさい、話があると言ったのはあなたでしょう?

 ゆっくりでいいから話して?」


 有栖川財閥現総帥のお婆様…… ジジゴリラの奥様だ。

 てっきりあのゴリラを素手で制する事ができる女傑か、メスゴリラっぽい人かと思ってたが、物腰柔らかな優しそうな人だ……

 琉架のDNAはコッチ由来だろう。

 ただ総裁をやってる人だ、優しいだけってコトは無いだろうな。


「は…はい、えぇと…… どこから話せばいいのか……」

「「「「「…………」」」」」

「うぅ……」


 打ち明けにくい…… だろうな、テーブルの下の死角で琉架の手を握ってあげる、大丈夫、俺がついてる。

 決してお義父様の眼力が怖くて手を繋いだワケでは無い。


「じ……実は…… ずっと隠していた事があるんです…… ゴメンなさい!」


 早い早い、謝るのが早過ぎるよ。


「わ……私……! 魔王になっちゃったんです!」

「「「「「……………………は?」」」」」


 ポカ~ンって擬音がピッタリだな、みんな唖然としてる。


「か…神那ぁ~、お願い説明して!」


 頼ってくれるのは嬉しいんだが、この場所でそんな甘えたような声を出されると殺気が膨れ上がるから控えめにして欲しい……

 とは言え琉架は完全にテンパってる、自分では詳細を説明できそうに無い、これくらいなら代わりに喋ってもいいか。


「え~…… 端的に申し上げますと、魔王を倒した者にはその魔王の力が宿る…… つまり次の魔王として力が継承されてしまうんです。

 我々は残念ながらこの事実を知らなかったため、その力を継承してしまいました」


「我々?」

「自分も琉架…さんと時を同じくして魔王の力を継承してます。

 自分は二代目・第11魔王…… 琉架さんは二代目・第8魔王です」


「それはつまり最初の帰還時には既に魔王だったと?」

「そうです、しかし今まで隠していたことについて彼女を攻めないであげて欲しいです。

 当時、世界中で発生していたテリブルが魔王の仕業だと噂されてました」


 実際、第12魔王の仕業だったんだが……


「それにより魔王に対する反感も高まっていた。

 色々なモノから身を守るために魔王化のコトを隠すよう自分が提案したんです」

「ち…違います! 私たちは話し合って決めたんです! 決して神那が悪いワケじゃ……」

「確かに話し合った上だけど、そう指示したのは俺だし……」

「ダメだよ、すぐ神那は自分を悪者にして私を助けようとするけど……

 すごく嬉しいんだけど、その所為で神那が人に嫌われるのは…… イヤだよ……」

「琉架……」


「コホン!」


 !!

 しまった、ご家族の目の前で琉架とイチャついてしまった。

 ……てかお義父様、目が怖いです。


「つまり今の話をまとめると…… キミが魔王を二人倒していれば琉架が魔王になることも無かった……と言う事かな?」


 そんな御無体な……


「お父様、そんなの無茶ですよ、いくら神那でも……」


 俺がレイドとウォーリアスを連戦で倒すのは不可能だ、ただし琉架だったら可能だったかもしれないがな。



「魔王になった…… 具体的に何がどう変わったんですか?」

「えっとそれは……」


 お婆様からの質問、琉架が助けを求める様に見てくる、ココは真実をそのまま話すしかない。


「能力値の上昇、魔眼の取得、ギフトの継承、そして……」

「そして?」

「半不老不死化です…… 俺達は寿命が無くなりました」

「「「「「!!」」」」」


「魔王の力を継承した後、俺達の肉体的成長は止まりました、その後1年ほどは琉架…さんの『時由時在(フリーダイム)』で強制的に体を成長させて誤魔化してきました」

「なるほど…… 最近琉架が成長していないと思ったらそういう理由だったのね……」


 お義姉様…… もしかして琉架の成長記録でも付けてるのかな?

 ホントに付けてそうだな。


「魔眼……と言うのは? もしかしてその朱い左眼のこと?

 確か龍人族(ドラグニア)との戦闘による後遺症って話だったけど……?」

「スミマセン、それも嘘です、魔王だけが持つ魔眼「緋色眼(ヴァーミリオン)」です」

「ちょっと待って、それじゃ今うちに泊まってる娘たちって……」

「そうです、彼女たちも魔王の力を継承してます。あ、ウチの妹は違いますけどね」


 いつの間にかホワイトパレスは魔王の溜まり場みたいになっちゃった、ホントはウチで引き取りたかったんだけど、生憎と狭いモノで……


「その事実を知る者はどれだけいるのですか?」

「ギルドD.E.M. のメンバーと…… あとは現在生き残っている旧世代魔王とその関係者……くらいですかね?」

「旧世代魔王?」

「いわゆる穏健派の魔王です、その内数名とは同盟を結んでます」


 実質俺のハーレムなんだが、心証が悪くなるので当然言わない。


「では今になってその事実を打ち明けた理由は? 何か理由があるのですよね?」


 来た…… 一番触れて欲しく無いポイントだ、いや、言わない訳にはいかないんだが……


「実は…… 自分は先日、アルスメリアで第3魔王マリア=ルージュ・ブラッドレッドと戦いました。

 その時の戦闘が映像に残ってしまいまして…… 更に個人特定された上に、ネット上では霧島神那魔王説で盛り上がってます。

 この情報は近い内に大和にも入ってくるでしょう、そうなるとこの国に留まり続ける訳にもいきません。

 故にシニス世界に移住しようと思ってます…… 少なくともほとぼりが冷めるまでは……」


 あ、お義父様の顔が綻んでる…… 俺が居なくなることが余程嬉しいらしい。

 だが数秒後、その笑顔が絶望に染められる事になろうとは…… 心中お察しします。


「あの…… 私も神那について行こうと思って…… いえ、ついて行くことに決めました!」

「……ッッ!!!!」


 お義父様がフラフラだ、ノックダウン寸前だな、レフェリー止めろ。


「る…琉架!? なんで!? どうして琉架が……っ!?」

「私はここ数年、ずっと神那と一緒に居ました。更に同じ朱い眼を持ってます…… それはマリア=ルージュも同様だったはずです。

 私にも魔王の疑いが向けられるのは避けられません」

「そ……そんな……」


 おぉ、なかなかの説得力、これは反論し辛い。

 なんかお義父様から魂抜け出てない?


「えっと…… 神那は異世界間移動用ゲートを作り出せるんです、だから…… いつでも帰ってはこれるんだよ……ね?」

「あぁ、琉架が望むなら……」


 大事な娘さんを頂くんだ、それくらいは幾らでもしましょう。


「でも……いくらなんでも……」

「琉架はまだ15よ? せめて……」

「いつかはこうなるんじゃ無いかと思ってたけど……」

「やはりあの時始末しておけば……」


 今なにか物騒なセリフが聞こえたぞ? やっぱり俺って狙われてたのか?


「………… わかりました」

「お婆様?」

「琉架の意志は固いようなので、移住を許可します」

「はっ…母上ぇぇぇぇえええーーー!!!!??」


 お義父様がこの世の終わりみたいな顔をしてお婆様に詰め寄っている、コラコラ、お年寄りを揺するんじゃない。

 てか母上って呼んでるんだ、古風だな。


「仮にここで認めなかったとしたら、駆け落ちでもされるのが落ちです。良いんですか? 駆け落ちされても?」

「……ッ!!」


 お義父様ノックダウン、ゆっくりとスローモーションのように倒れていき、テーブルの向こうへ消えていった…… 南無……


「ただし幾つか条件を出させて貰います、良いですか?」

「は…はい!」

「一つ、なにか特別な事情でも無い限り2週間に1回は顔を見せる事……

 一つ、それは琉架が年齢的に成人を迎えるまで続ける事……

 一つ、シニス世界での生活環境をこちらに観察させる事……」

「……はい」

「最後にもう一つ、有栖川十蔵を早期にこちらへ送還する事…… 以上です、良いですか?」


 願っても無い提案だ、特に最後の一つ、これでシニス世界からロリコンゴリラが絶滅する。


「分かりました、お婆様…… ありがとうございます」

「子はいつか成長し親元を離れていくものです、琉架が私たちに相談せず移住を決断した時、成長したな……と思いました」


 お婆様の慈しむような目…… どうやら有栖川家は男性より女性の方が冷静で理性的なようだ。

 男はみんな琉架狂いだ、そういう意味では俺も有栖川家に婿入りできる資格がある…… まぁ暗殺の恐怖に怯えながら暮らさなければならないだろうが……


「それから霧島神那さん……でしたね?」

「? はい」

「琉架の事、よろしくお願い致します」


 よっしゃぁぁぁあああーーー!!!!

 有栖川家の最高権力者から琉架の事をヨロシクされた!! これはもう嫁にやるって意味だよね!?

 ならば――!!


「任せて下さい!! 琉架は俺が必ず幸せにしてみせます!!」


 琉架の手を取り高らかに宣言する!


「あぅぅ…… 神那……///」


 琉架は頬を染め照れている…… あぁ、可愛い…… 人生最良の時だ! 琉架との混浴に匹敵するほどの!



 だがそんな時間は得てして長続きしないモノである。

 テーブルの向こうから濃密な殺気が放たれている…… なんか「ゴゴゴゴゴ」ってオノマトペが見える。



 その後…… お義父様に死ぬほど追い掛け回された。




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