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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
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第274話 第3魔王 ~決戦~


 第一魔導学院


「妙だな……」


 先ほどまで引っ切り無しに被害報告が上がって来ていたが、30分程前から急に報告が止んでいた。

 全隊員には抗戦よりもデルフィラ脱出を優先するよう命令してある、もしかするとエリザベスが食い止めてくれているのかも知れない……


 アルベルト・ダラスはそう考えていた。

 そんな時、新たな情報がもたらされた。


『ダラス校長! 大変です!』

「何事だ? 報告は正確に!」

『と…とにかく! テレビを見てください!!』

「テレビだと?」


 この部屋のテレビは有線化していない、春先から何も映らない。

 しかしわざわざこんな報告を上げてくるという事は……


 ダラスは半信半疑で久しぶりにテレビの電源を入れた。

 そこには驚くべきものが映し出されていた。


『ザザッ…… ココは第一魔導学院から5km程南へ来タ……デルフィラ中心地区デす!』

「こ……これは!?」

『見てくださイ! 南かラこの地点まデ続く破壊の跡をッ! 我々が独自に入手した情報によると、現在! アルスメリアは第3魔王の侵攻を受けていまス!!』


 それはデルフィラを上空から撮影したリアルタイムの映像だった。


「何処からか情報が洩れて…… いやそれより! この映像…… ドローンか? バカな……電波が復活してる?」


『……そしてご覧くださイ! 街の中心部に建つ謎の光の柱! その根元付近には……5人ほどの人影が見られまス!!』

「5人……だと?」

『立っている人物は2人、膝をついているのが1人、残りの二人は倒れているようでス……

 この立っている人物の片方、女性らしいフォルムの人物こそが恐らく第3魔王マリア=ルージュ・ブラッドレッド!

 倒れてる人物の一人はアルスメリアの戦闘服を身に着けているようです! 一体誰なのか? 無事なのでしょうか?』

「あれは…… エリザベス!?」


 エリザベスが既にやられている? では一体誰が第3魔王を食い止めているんだ!?


『そして第3魔王と対峙している人物は背の高さや体格から恐らく少年と思われます、その脇で膝をついてる人物は…… 恐らく少女でしょう』

「アイツは……」


 あまり鮮明では無いテレビ中継、しかしモニターに映し出された人物に見覚えがあった……


「まさか…… キリシマ・カミナ……か?

 バカな! 何故アイツが第3魔王と対峙している!? アイツは裏切り者じゃ無かったのか!?」


『そしてもう一人倒れている人物は…… 何やら鎧の様な物を纏っているようです、あんな恰好をした人物がデクス世界に居るとは思えません! 恐らくは第3魔王の使途か何かでしょう、人類の敵です!』


 憐れな勇者は魔王の下僕と認識されてしまった……



---



深紅血(ディープレッド)・『赤い棘(ティール・ソーン)』」


 マリア=ルージュの周囲に鋭い赤い棘のようなものがいくつも浮かぶ……

 それは良い、アイツの能力を考えるとこの攻撃法は予想の範囲内だ。


 問題なのはそこじゃない、赤い棘が出現するのに反比例するようにマリア=ルージュのドレスの面積が減っていってる!

 今はその美しい御御足が丸見えだ!

 おい! やめろ! 秘密の花園が見えたらどうする気だ!

 ミューズといい、お前といい、DTに対して一番やっちゃいけない攻撃をしてきやがる!

 第3魔王……恐るべし!


「カミナ?」


 気のせいだろうか? リリスに軽くジト目をされてる気がする…… 大丈夫、俺はあんなモノに惑わされたりしない!


 …………


 惑わされたりしない……が、リリス、悪いんだがチョット服脱いでくれない? 念の為! あくまでも念の為に……ね?


 と、まぁ冗談はさておき……


「ふぅ~…… 伝説では…… お前は殺した相手の血で染めたドレスを好んで着用するとあったが?」

「ほう? そんな伝説があったのか、確かに普段はそうだ、だが今日は違う」


 今日は違う…… 田舎者が初めて都会に出るからオメカシした……って訳じゃないだろうな。


「霧化には自分の血が使えなくなるという欠点があった、それを補うために事前に自分の血を用意しておいた」


 やはりそうか、あのドレスはマリア=ルージュの血100%で創られた物だったのか……

 満月の日は体内が霧化して血液が存在しなくなる、だから事前に用意しておく必要があったワケだ。

 逆に言えば、今は血を追加することが出来ないということだ、今ある分を消滅させられれば、エネルギー吸収能力は封じられる。


 もちろんそれが出来ればの話だが……

 そして更に重要なポイントが一つ! アイツに血を使わせれば使わせるほど、ドレス部分は消費されアイツの露出度は上がっていくワケだ。

 何というジレンマ! 見たいような見たくないような!


「さあ、いくぞ?」

「!」


 マリア=ルージュの宣言と共に、ヤツの周囲に浮かんでいた棘が消えた!

 肉眼では捕えられない程の速度で操作できるのか? オーラの軌跡を追うことで何とか位置を予測するのが精一杯だ!

 コレはヤバイ! この場で迎え撃ったら確実にリリスにまで攻撃が及ぶ!

 自分に攻撃を集中させるためにあえて接近する、どのみち遠距離攻撃は効果が薄そうだしな。


 キュン!! ガキン!!


「うぉっ!?」


 一本の棘が高速で飛来し、深淵真紅でギリギリ受けた…… 刃が欠けた……

 コイツ…… 超振動を併用してる? こんなのまともに喰らったら心臓など一瞬で破壊されるぞ!

 そんな殺人兵器が周囲を4本飛び回り、目算で100m/sで突っ込んでくる、生憎俺には予知能力がないから死角から襲われると回避は不可能、小刻みに瞬間移動を繰り返し相手の狙いを逸らす。


「瞬間移動か…… 厄介だがいつまで持つかな?」


 確かに、技能改造でかなり低燃費化に成功しているが、いつまでもこんな事をしている訳にはいかない、何か突破口を見つけなければ…… それもできるだけ早く。

 アイツには死角が無いから普通に攻撃しても絶対当たらない、テリトリー内ならどこでも攻撃でき、更にエネルギー吸収能力でどんな攻撃も無効化出来る……


 いや、無理だろ? 無敵じゃねーか! 戦略的撤退を推奨するね、但しやれることを全部試してからだ!


 キュン!! ガキン!!


 転移先をピンポイントで狙われた!

 ワープアウト先を読まれた? いや、ただの無秩序攻撃だ、しかしコチラも向こうの攻撃を全て認識できているワケじゃ無い、こういった事故は当然起こりうる。

 グズグズしている暇はない!


 …………


 待てよ?

 確かにアイツには物理的死角は存在しない、しかし生物である以上 意識的死角は存在するんじゃないか?

 たとえ360度を常に見続けることが出来たとしても、道端の石ころにまで意識を集中しているだろうか? それは無い、人族(ヒウマ)をベースに創られた妖魔族(ミスティカ)にそれだけのキャパシティは無いだろう。

 唯一の懸念はアイツが魔王、超越者だということだ。

 ただまぁ、人族(ヒウマ)出身の魔王である俺にはそんなとんでもない処理能力は無い、俺になければ他の魔王にもないだろう……という予想だ。

 少なくとも俺の知る魔王にそんなコンピューターみたいな奴は居なかった…… あ~いや、そう言えば一匹だけいたな、名前がプログラムって魔王が…… アイツは例外だろ?


 ガシッ!!


 そんなことを考えている時だった、突然何者かに腕を掴まれた!


「!?」

「第3魔王を前に考え事をしながら戦闘とは随分余裕だな?」


 しまった! まさか自分から動いてくるとは!

 マリア=ルージュは左手で俺の左腕をへし折らんばかりの勢いで掴んでいる、右手には赤い棘…… いや、アレは剣だ、コイツ深淵真紅をパクりやがった!


「こうすれば鬱陶しい瞬間移動も使えまい?」


 背後から赤い棘が突っ込んでくるのがわかる、コイツ! 脳筋じゃなかったのか!

 だがまだまだ甘い、この状況では一人で逃げることは出来ないが、マリア=ルージュごと巻き込み転移すればいいのだ、コイツを連れて転移するのはチョット怖いが、そんな事言ってる場合じゃ無い。


「『超躍衣装(ハイ・ジャンパー)』」


 マリア=ルージュごと転移し危機を回避する。

 あとはコイツの腕をどうにかして一定距離まで離れる、いつまでもお手て繋いでいるワケ……


 ズバッ!!


「!?」


 右の肩をナニかが切り裂いて行った!

 ナニかって? 棘に決まってるじゃねーか! バカな! 何故……?


「! 糸?」


 高速回転する棘から糸が伸びている…… 反対側は恐らくマリア=ルージュに繋がっている……

 なんてこった…… 物理接触転移か…… コイツ案外頭いいぞ?


「お前は自分の力を過信し過ぎだ」


 ぐはっ! 天上天下唯我独尊女に言われた!

 だが確かにコイツがこんなに頭が回るとは思って無かった。


「ほらどうした? 逃げないのか?」


 マリア=ルージュが凶悪な笑顔で剣を振るってくる、なんて嫌なヤツだ!

 右の肩をやられて、今にも腕が取れそうになっている。

 こんな状態ではまともに剣を振る事ができない、血液操作で無理やり動かし何とか防ぐが死ぬほど痛い!


 ズバッ!!


「ぐっ!!?」


 今度は左の脹脛が斬られた! コイツ! ワザと急所を外してるな!

 この痛みはマズイ! 集中力が……


 仕方ない、リスクは高いが今は一時的に痛覚を切ろう。


「第7階位級 死滅魔術『鎮痛』ペインキラー」

「お」


 痛みを感じる神経を一時的に遮断する魔術、自分の限界が分からなくなるからあまり使いたくは無かったんだが仕方ない、コレで痛みはどうにかなった、しかし掴まれた腕はそのままだ。

 何か一瞬でもコイツの虚を突ければ抜け出せるハズ、今出来る事で予想外の一手……


 こんな時に限ってすごく痛そうな手を思いつく…… せっかく痛覚切ったんだし、やるしかないか。


 深淵真紅で左の手の平を刺した!

 血が勢いよく吹き出す!


「ほぅ、今度は何を見せてくれるんだ?」


 マリア=ルージュの呟きを無視し、深淵真紅をおもむろに振り上げると……


 ザン!!


 そのまま勢いよく自分の左腕を切り落とした!


「なっ!?」


 この行動にはさすがのマリア=ルージュも虚を突かれたようだ、その隙に瞬間移動で距離を取る。

 そして……


血液変数(バリアブラッド)……」


 先ほど抜いた血で左腕を再構築する、骨、神経、血管、筋肉、実に気持ち悪い。

 琉架と白がいたら確実に気絶してる。


 こうして出来上がった腕を切断面に接合、少々貧血気味だがみてくれだけは元通りだ、袖は失くなったが……


「驚いたな…… お前の能力はそんなことも出来るのか?」

「普通はしない、かなり無茶な手だ」


 本来『血液変数(バリアブラッド)』は生命を作ることは出来ない、しかし人間の身体は水分、タンパク質、脂肪、ミネラル、糖質…… 大まかに分ければこんな所だ、血をそれぞれに変換して再構築するのもワケは無い。

 かつてミラの生首フィギュアを作った時に勉強した事が役に立った。


 もちろんこんな事をしてタダで済むワケは無い、神経を丁寧に繋ぎ合わせなければまともに動かない、正直このままでは後遺症が残るだろう。

 少なくとも今は左腕は使い物にならない状態だ。


 それほどの犠牲を払わなければ脱出できない状況だった、ちょっとした油断でえらい代償を払わされたモノだ。




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