第272話 第3魔王 ~能力~
「カミナ…… 始める前に一つだけ……」
「ん?」
「アイツの…… マリア=ルージュのギフト『深紅血』の能力についてなんだけど…… 一つ仮説があるの」
仮説? もしかして隠された能力か?
「『深紅血』はあらゆるエネルギーを飲み込む事ができる可能性があるわ」
「あらゆるエネルギー?」
「えぇ、最初は魔力だけかとも思ったんだけど、勇者のくたばれ勇者のバッテリーが空になっていた、元々は魔力変換した電気エネルギーだったけど…… それだけとは思えない」
なるほど…… バカ勇者も少しは役に立ったのか、毎度毎度カマせ役ご苦労様です。
しかしあらゆるエネルギーを吸収するとはちと困った情報だな。
今日は満月、ただでさえ妖魔族は物理攻撃にほぼ完ぺきな耐性を持ってる日だ。
仮にどんなエネルギーでも吸収できるとなると、攻撃手段が全く無い。
それに加えて、マリア=ルージュは既に大量の武器を保持している…… 超不利だ。
やはりココは一旦撤退して、後日再チャレンジって事にして貰えないだろうか?
…………
貰えないだろうな。
アイツがこんなチャンスを逃すハズが無い、忘れてはいけない! 不遜な態度を取っていてもマリア=ルージュ・ブラッドレッドは妖魔族だ。
卑怯・卑劣が大好物の妖魔族出身魔王が、見逃してくれるハズ無い。
奴同様、卑怯・卑劣が大好物の俺が言うんだから間違いない。
自分が圧倒的に有利な状況を放棄する理由がない。
「…………」
マリア=ルージュ目つきが一瞬鋭くなった。
その瞬間、体の中を何かが突き抜けていくような感覚に襲われた。
今ナニか先制で攻撃されたぞ?
「あぁ、そうか…… お前が血の力を使ってリリスに血液操作攻撃が出来ないよう小細工してたのか」
いきなりかよ、まだよ~いドン!って言ってないだろ?
「理解してくれたかな? お前の能力『深紅血』は俺には通用しない」
……と思う。内心ドキドキだ。
大丈夫だと思うがいきなりやられると怖いからもうやらないで……
ふぅ…… とにかく検証だ、アイツの即死攻撃は俺には通用しないが、だからと言って全ての攻撃を無効化出来るわけではない。
自分に出来ることを確認しなくちゃならない……
赤木キャプテンに魔神器壊されて出来ることが減ってるからな。
まずは深紅血のエネルギー吸収能力だ。
コレが事実だと本当に打つ手がなくなる。
バカ勇者がやられていること、リズ先輩が倒れていることから、雷撃や風域が効かなかったのは明白。
エネルギー変換系は使うだけ無駄だろう。
ならば…… 物理的な攻撃ならどうだ?
「第7階位級 金属魔術『散弾』リード・ショット」
実験だから第7階位級で魔力を節約、いきなり第2階位級とかぶち込まない…… もったいないから。
どうだ?
放たれた金属の散弾は高速で敵めがけて飛んでいく。
マリア=ルージュが前面に展開している膜に触れる……
ス―――
「!!」
散弾は音もなく掻き消えた……
「どうだ? 攻略法は見つかったか?」
「……チッ」
魔術はダメだな。
金属の散弾とはいえ元は魔力、魔力を変換して構成した疑似物質だ。
時間が経てば消えてしまう、実際の散弾とは似て非なるモノだ。
「だったら……!!
第7階位級 風域魔術『空圧』コンプレス × 第4階位級 風域魔術『風爆』エアロバースト
合成魔術『風神風』トルネイド」
観察目的なのでかなり小型の竜巻を作り出す、そしてヤツ自身が破壊したであろうビルの残骸を巻き込みそのままぶつける!
強烈な風に巻かれた瓦礫がマリア=ルージュに叩き付けられる!
たとえ風を無効化できても高速で飛来する瓦礫は止まらない。
しかし……
ドスッ! ドスッ! ドスッ!
「なっ!?」
瓦礫はマリア=ルージュの展開する膜に触れると勢いを失い、重力につられてそのまま地面に落ちた。
「マジか…… 運動エネルギーまで無効化されるのか?」
コイツ…… マジで無敵じゃねーか……
「どうする…… 『深紅血』の許容限界を超える攻撃でもすれば突破できるだろうか?
だが失敗した時、取り返しがつかない……」
「それは…… 止めた方が良いと思う」
俺の独り言にリリスが答えた…… てか、思いっ切り口に出してしまった。
いや、今はそれよりも……
「何故だ?」
「アルスメリア軍が『連結型・対師団殲滅用補助魔導器』で攻撃しているの……
でもココに来るまでの間に、その攻撃が着弾した形跡は無かった。
恐らく…… 全部吸収されたのよ」
連結型・対師団殲滅用補助魔導器……ってのは初耳だが、名前から想像するときっとトンデモナイ兵器なんだろう。
それが効かなかったのなら核融合すら無効化される可能性が高い。
やるだけ無駄か……
「…………」
「!?」
マリア=ルージュの視線が一瞬強くなった、瞬時にリリスを連れて瞬間移動し距離を取る。
ドドドドドッ!!!!
今まで俺とリリスがいた場所に3匹の血色の大蛇が突っ込んできた。
考える時間もくれないらしい……
「カミナ! あの女だけに集中しないで!」
「あぁ、油断してた…… アイツは既に武器を持っているんだった」
くそっ! せめて1対1だったら…… まぁマリア=ルージュが直接操っているから実質1対1なんだが……
どんな攻撃も効かない大量の血液まで出てきたら手の施しようがない。
「ん? 待てよ……?」
視界の端には巨大な蛇の一部が凍り付いている光景が映っている。
アレは……
「リリス、あの蛇、一回凍らせたか?」
「え? うん…… でも第1階位級でも全体を凍らす事は出来なかった」
そこは重要じゃ無い、『深紅血』はあらゆるエネルギーを吸収する、それは分子運動を低下させるのに必要なエネルギーをも吸収できるハズだ。
ならば何故あの大蛇は一部が凍り付いている?
アイツの能力は自分のテリトリー内に存在する血液を自由自在に操るモノだ。
俺みたいに最大射程5メートル程度とはワケが違う、その気になれば辺り一面を血霧で覆う事だって容易いハズだ。
エネルギーを吸収する霧でそんな事をされたら動く事すらままならないだろう。
何故それをしないのか?
それは出来ないからだ…… いや、血霧で空間を覆うこと自体は可能だろう、だがその霧でエネルギーを吸収する事は出来ない。
よくよく考えれば単純な話だった、あの血の大蛇は何万人もの人を殺し集めた人族の血だ。
対してアイツがエネルギー吸収に使っている膜、アレはアイツ自身の血なんじゃないか?
あの薄っぺらい膜は出血量を節約している気がする、自分の血を使うから全身を覆えないんじゃないだろうか?
俺の『血液変数』は血液を別の物質に変換できる能力だ、時間制限はあるがそれは他者の血でも変換できる、だがアイツは血液を操るだけで別のモノに変える事は出来ない。
つまり水を操作できる能力者がいたとすれば、同じような水の大蛇を作れるんだ…… それと一緒だ。
………… 難しく考え過ぎていた様だ。
もちろん『深紅血』は魔王の能力だ、それも悪名高い第3魔王マリア=ルージュ・ブラッドレッドのモノだ。
そこいらの水操作能力者とは射程も威力も桁違いだろう、だが、レベルの違いは在れどやれる事は一緒だ。
あの大蛇を処理する方法はある、ただしチャンスは一度だ、全てまとめて一発で処理しなければならない。
その為には…… 危ない橋を渡らなければならないか。
「ふぅー……」
足元に散乱する瓦礫の中から割れたガラスを拾い上げ、それで右手の平を切り裂く。
ブシュッ!
「ちょっ! カミナ!?」
手の平から大量の血が滴り落ちる、しかしその血は地面に落ちる前に剣の形に固まる……
血刀・深淵真紅…… 俺の黒歴史を凝縮したような美しくも禍々しい剣が現れる。
「ほぅ」
マリア=ルージュが感心したような声を上げる、フフン、美しかろう? だがそんなに珍しいモノじゃ無いだろ?
お前の能力を使えば似たようなモノは簡単に作れるからな。
「行くぞ!」
自身に身体強化を掛け一気に距離を詰める!
「真正面からか…… 勇者と変わらんな」
ムカッ!!
あんなのと一緒にするな! いや、落ち着け! コレは揺さぶりだ、人が一番イラッとくるポイントを突いてきやがった。
あのバカ勇者とは違うってトコロを見せてやる!
そんな俺を待ち構えていた様に3匹の大蛇がそれぞれ別方向から襲い掛かって来た!
「第4階位級 風域魔術『風爆』エアロバースト!」
自分の後方で空気の爆弾を爆発させ、一気に加速すると同時に大蛇を吹き飛ばす!
「む!」
「軽い!!」
3分割された大蛇なら風の力で強引に吹き飛ばす事ができる、それを見たマリア=ルージュは右手を向け、俺を迎え撃つ体勢を取った。
その瞬間『超躍衣装』を発動させ、マリア=ルージュの背後を取る!
当然運動エネルギーは無効化していない!
ズバッ!!
マリア=ルージュが反応できない速度で胴体を切り裂いた!
しかし……
「チッ! 外した」
マリア=ルージュの“核”は捉えきれなかった。
コレで決まっていれば楽だったんだが、さすがにそこまで甘くないか……
そのままもう一度『超躍衣装』を使い距離を取る。
駆け抜けると『深紅血』の膜に触れて運動エネルギーを無効化される恐れがあるからな。
「瞬間移動…… そうか、そうだったな、お前はレイドの能力を継承しているのだったな。
危ない危ない」
「ふん、今日が満月じゃ無ければ今ので決まってたかも知れないんだがな」
もっとも満月じゃ無ければもっと警戒されてただろうけど……
「そうかも知れないな…… だが…… 同じ手が二度と通じるとは思うなよ?」
「………… だろうな」
これはハッタリじゃ無いだろう。
そしてコッチの仕掛けに上手いコト乗ってくれるかどうか……
「だが次は…… 捉える!」
もう一度マリア=ルージュとの距離を詰める。
ただし今回は左右に動き、的を絞らせないよう小細工を弄する。
「………… くだらん」
そう言ってマリア=ルージュが再び腕を上げたタイミングで、先ほどと同じく背後に転移する。
狙うのは当然“核”だ。
……しかし
「愚か者め……」
「!!」
ピシッ!!
足元から何かが砕ける様な音がした。
舗装された道路には戦闘の影響か幾つもの亀裂が走っている、その亀裂から赤い液体が滲み出ている……
「くっ!!」
バクン!!
先ほどとは逆に、反応する間も無く地面から突如現れた大蛇に丸呑みにされた!