表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
275/375

第269話 第三魔導学院11 ~降臨編~


「ア……アーリィ……さん?」

「あなたカミナ君の妹の…… え~と…… カミナ君の妹ね?」


 どうやら私の名前は覚えて無いらしい…… どんだけ私に興味無いんだ?

 いや、この際そんな事はどうだって良い!


 そこに居たのはまさかの第7魔王様だった!

 最強の援軍キターーーーーーーーーー!!


「ア゛~リ゛ィ~ざ~ん゛!!!!」


 私は涙と鼻水を擦り付ける勢いで、その華奢な少女に縋り付いた!


「わっ! ちょっ!? 鼻水!! 鼻水拭いて!!」


 その時、私は魔王に鼻水を擦り付けた初めての人類になった(予想)。


「うぇ~~~ぇ……」

「ゴ…ゴメンナサイ、ちょっと感極まっちゃって…… テヘ♪」

「もう、カミナ君の妹じゃ無かったら鞭打ち100回だったトコだよ?」


 あ……危なかったぁ~! 今生まれて初めておにーちゃんの妹で良かったって思った!


「そ…そんなコトよりアーリィさんはどうしてココに?」

「そんなコトって…… 私はカミナ君に頼まれて念の為 様子を見に来たの、もしかしたら大変な事になるかも知れないから……って」


 おにーちゃんが保険掛けてたんだ、GJブラザー! イイ仕事した! ご褒美にミャー子の肉球を触らせてあげよう!


「でも予定ではアリアが来るのはまだ2~3時間先のハズよね? こっちの図書館に興味があったからかなり早めに出てきたんだけど、こんな事になっててビックリしちゃった」

「えぇ、なんかアリアがスピードアップしたみたいで……

 そうだ、まだお礼言ってなかったですね? 来てくれて本当に助かりました、ありがとうございます」

「……っ! い…いいのよ! あなたは将来的に私の義妹(いもうと)になる予定の娘だし、義姉(あね)として助けるのは当然よ!」


 あれ? この人も私の将来のお義姉様候補? てっきり奴隷かと……

 あ~うん、そうだね、あいつハーレム王だもんね、7人の義姉の一人だ、今回ばかりはあの女の敵のゲス野郎に感謝だ。


「そうだアーリィさん! アレ! アリアの雨をどうにか出来ますか?」

「え? あぁ、あの程度なら如何とでも出来るけど…… やらなきゃダメ?」


 ん? この人おにーちゃんに頼まれてココに来たんだよね? 防衛手伝ってくれないのかな?


「カミナ君の妹と仲間を助ければ十分じゃ無いの?」


 あぁ、そうか、この人重要なコト以外は割とどうでもいいタイプなんだ。

 でもそれじゃ困るんだよなぁ…… あとでおにーちゃんに怒られるかも知れないよ? あ、この人それで喜んじゃうんだっけ?

 う~ん…… おにーちゃんをダシに使うか。


「ココはおにーちゃんの生まれ育った街なんです、この街が無くなったらきっと悲しみます。

 もし街の防衛に…… てか、アイツ等全部ぶっ殺してくれたら、おにーちゃんにアーリィさんのお願い事を叶えてくれるよう頼んであげますよ?」

「!?」


 あ、目の色が変わった。


「そうね、義妹のお願いは聞いてあげなきゃね、カミナ君直々の頼みでもあるし」


 この人チョロいな。

 悪い男にコロッと騙されるタイプだ、だから騙されちゃったんだ、悪い魔王(おとこ)に。

 そしてその悪い魔王をダシに使って、このチョロい……もと言い、純粋な魔王をイイように利用している私も相当悪い人間だ。

 やはり兄妹か…… 血は争えないなぁ。


「さて、それじゃ私の義妹をイジメた奴らをブッコロしますか」


 アーリィさんの視線の先には妖魔の男と、ようやく起き上がって来たケバい妖魔、3人がこちらの様子を窺っていた。


「貴様…… 耳長族(エルフ)のようだが一体何者だ?」


 おやおや、長い時を生きる妖魔族(ミスティカ)の癖に、第7魔王様を知らないと見える。


「私の正体とかどうでもイイでしょ? だってこれから死ぬんだから……」


 そう言うとアーリィさんが杖で屋上の床を軽く突いた。

 次の瞬間、3人の妖魔の足元から木の根の様な物が無数に、勢いよく生えてきて3人を捕らえようとする。


 え? 建物の屋上なのになんで木の根っこ?

 よく見れば床には傷一つ付いて無い、幻……ってワケでもなさそうだけど……


 妖魔は身体を霧化させて拘束から逃れる。

 幻だけど確かに実体がある。


「ふんっ! 耳長族(エルフ)お得意の森樹魔法か? この程度で妖魔族(ミスティカ)を捕らえられると思っていたのか?」

「……? ナニ言ってるの? しっかり捕らえてるじゃない、そっかぁ、気付かないんだ、ちょっとマヌケね」

「?? 何?」


 よく見ると木の根の先には小さな玉が付いていた…… アレは……


「おおっ!! 妖魔族(ミスティカ)の“(コア)”!!」

「なっ!? バッ…バカな!!?」


「世界樹の最も欲する養分は生命そのものなの、その根は貪欲に生命を狙うわ、例えちっちゃな“(コア)”が本体だとしても、この根の嗅覚からは逃れられないわ」

「せ……世界樹……だと? まさか…… まさか……っ!! お前は!!」

「はい、さようなら」


 パキィィィン!!


 妖魔族(ミスティカ)の“(コア)”は、甲高い音を立てながら砕け散り、根っこに吸収され消えた。

 そして3人の妖魔も煙のように消え去った……


「おぉ~、さすが妖魔族(ミスティカ)、生命力はおっきいなぁ、コレは実りが楽しみだ♪」


 …………

 この人…… 超強い! さすがは魔王と呼ばれるだけの事はある!

 いや、分かってはいたんだけど、普段とのギャップが大きすぎる。

 私やサクラ先輩がどんなに頑張っても勝てなかったであろう妖魔3人を、モノの数秒で消し去った……


 そんな人が私たちの味方をしてくれる…… 厳密に言うと私を優先的に守ってくれる!

 なんだろう、この優越感…… 今の私、無敵じゃね?


「さて…… それじゃアリアの雨と下に居る妖魔族(ミスティカ)たちを片付けちゃいますか」

「あのアーリィさん、さっきも聞きましたけど、あんな大軍本当にどうにかなるんですか? 街が破壊されるような攻撃は困るんですけど……」


 例えばオリジナルの大魔法で全部吹っ飛ばすとか……


「大丈夫です、私のギフトは拠点防衛に関してはほぼ無敵ですから」


 ほぼ無敵…… 絶対と言わないのは要塞龍が手に負えなかったからかな?

 いや、コレだけ自信があるなら信じよう。


「フフッ、カミナ君の手により生まれ変わった私の世界樹女王…… いえ、世界樹女帝の真価を試す時が来たわね」


 女帝? このチョロい人が女帝とか言っても違和感が…… それならポヤポヤの女王様の方がまだしっくりくる気が……


 アーリィさんが杖を天に掲げた。


「地に蔓延り高みを目指せ、捧げられた供物を喰らい、そして大いなる実りをもたらせ!……『世界樹女帝(ユグドラ・シル)』!」


 ユグドラ=シル…… 読み仮名は変わってないんだ。

 そんな感想を抱いている間に現れた幻の樹はどんどん大きくなり、街を覆い尽くさんばかりの大きな枝葉を広げていった。

 お……大きい! この木なんの木……なんてレベルじゃ無い!

 幻の樹は柔らかな薄緑の光を放ち、闇に覆われた街を照らし出した。


「アリアの雨…… その雨粒の九割が生物で構成されているという…… 稀にアンデットや無生物系の魔物も含まれるらしいけど、そいつらも一種の魔法生物、世界樹の糧になるわ。

 あれだけの供物を捧げられたら世界樹は一体どんな花を咲かせ、どんな実をつけるのかしら?

 さあ遠慮はいらない! 喰らい尽くしなさい! 『血吸い蛇(ヨルムンガンド)』」


 カンッ!!


 アーリィさんが杖で床を突く、それを合図に街中で幻の樹の根が天を目指すように溢れ出した。

 特にアリアの雨が降っている場所がすごい事になってる、大量の根が一斉に伸び上がり、まるでもう一本の大樹(ユグドラ・シル)の様になっている。


 この血吸い蛇(ヨルムンガンド)は当然、校庭にたむろしている妖魔族(ミスティカ)をも襲い始めた。

 あれ? 今ジークさん巻き込まれなかった?


 …………


 いや、気の所為だ、見間違いだ、仮にそうだったとしても…… まぁ死なないだろう。

 血吸い蛇(ヨルムンガンド)は倒れている人たちは襲い掛からない、しかしガッツリ組み付いている場合はその限りでは無いのかも知れない……

 せめて命を吸われないと良いんだけど……


「おぉ~! スゴイ! スゴイ!」

「?」


 アーリィさんが上を見て興奮してる、つられて視線を上に向けると、世界樹は満開の花を付けていた。

 あぁ…… コレは確かにスゴイ……


 樹は花を咲かせ、散り、実を結ぶ…… そのサイクルが早送りの様に次々と行われている。

 次第にペースは落ちてきたが、それでもかなりの勢いで実がなっている。


「コレだけ多くの命を吸うのは有史以来初めての経験なんだよね、さすがカミナ君が改造を施してくれただけの事はある…… やっぱり…… 完璧♪」


 アーリィさんがウットリとした表情をしている…… 恋は盲目…… 理解できない、私の目にはただの女誑しのゲスヤローにしか見えないから。



 そうこうしている内に、街に降りた魔族は全滅したらしい…… あっという間だった……

 一応、未だに雨は降り続いているが、血吸い蛇(ヨルムンガンド)は元気よくそれらを捕食し続けている。


 この人が味方で…… 穏健派の魔王でホントに良かった。

 もし敵だったら都市一つを数分で壊滅させられる。


「そうだ、アーリィさんは回復魔法って使えますか?」

「うん? あんまり得意じゃないけど一応は……ね」

「負傷者を治療したいんです、サクラ先輩もまだ気が付かないし」

「この子は外傷は無いわよ? ただ精神に重度のダメージを追ってる、回復魔法じゃ治せないわ」

「そんな……」


 もしかしてこのまま二度と目覚めない……とか?

 私を庇った結果だから何とかしたいんだけど…… おにーちゃんに相談してみようかな? おにーちゃんって心を折るのは得意だけど、治すのって出来るのかな?

 う~ん…… ムリそう。


「あ」

「あ?」


 アーリィさんがナニか思いついた顔をしている。


「一つ実験してもイイかな?」

「実験……ですか?」


 実験…… 魔王様の実験…… 人体実験? やるなら被験体は妖魔族(ミスティカ)でお願いします…… あ、全部ブッコロしちゃったか。


「ナニを…… するつもりなんですか?」

「上手くいけば街中の人たちの怪我を癒せるかも……」

「街中? スゴイじゃないですか! あ、でも副作用とかは……?」

「分かんない、初の試みだかし、だから実験なの。

 まぁ死んだりはしないハズよ」


 それは…… 私が判断を下すには荷が重すぎる、大体私は許可を出す立場の人間じゃない。

 責任はできるだけ人に押し付けたい典型的大和人でスミマセン。


「チョットだけ保留にしましょう、私には判断しきれないので……」

「イイけど…… 死んだ人はさすがに生き返らせれないわよ?」


 そんな言い方ズルイ! 私の判断のせいで手遅れになったとか言われても困る。

 てか、この世界の世界樹の葉は人は生き返らないのか…… そうだよね、教会でだって人は生き返らないんだから、そんなチート存在しちゃいけない。


 そんなことが出来たらそれはもう魔王じゃない、神様だよ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ