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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
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第268話 第三魔導学院10 ~希望編~


 やっぱりこうなった……

 きっとこういう運命だったのだろう。

 突如現れたゲートに誘われて、赴いた先はアルスメリア・デルフィラ。

 そこで待っていたのは二人の魔王。


 第12魔王 リリス・リスティス

 第3魔王 マリア=ルージュ・ブラッドレッド


 この二人だ。

 あ、あと、何故かレイプ目のリズ先輩と、いつものようにやられて倒れ伏す勇者も……

 はぁ…… 俺の嫁魔王が待っていてくれたのならどれだけ良かったことか。

 いや、俺の嫁候補の一人であるリリスは結構危ない状態だ。

 地面に拘束され、腹と胸をトゲに貫かれている。

 特に胸のほうがヤバい、心臓ギリギリの位置だ。

 てかそれ大丈夫なのか?


「リリス…… やっぱりやられたのか、前提条件がクリアできなければそうなるのも当然だろ? ヤバかったら逃げろってアレ程言っておいたのに……」

「立場上、逃げ出すわけには行かなかったのよ…… せめてアイツの力を見極めるくらいはしないと……

 既に万を超える犠牲者が出てる」


 そうしおらしい態度を取られると責めづらい……

 いや、命を懸けて必死で戦っていた女の子を責める気は毛頭ないが……


「それと…… ゴメン、カミナ……」

「あん?」

「今、高天もかなり厳しい状況になってるのにこっちに呼んじゃって……」


 それもあったな…… やっぱりかなり厳しい状況なのか。

 あっちがどれだけヤバいかは今の俺には分からないが、第3魔王と対峙するより幾分かはマシだと思う……


「まぁ…… 大丈夫だろう。

 最悪の事態に備えて高天には保険を掛けておいた」

「……保険?」


 俺は全魔王中 最弱だろうからな、嫁の力にガッツリ頼るのだ。

 借金取りに追われたら、嫁の実家に泣きついて金を貸してもらう感じだ…… うん、ダメ人間だな、もうチョット頑張ろう。

 ただし今回だけは頼らせてもらう。

 こっちも手が離せそうにないからな。



---


--


-



 ― 第三魔導学院 ―


 校庭のど真ん中でジークとデュートヘルムが向かい合っていた。


「どうした? 第一位使途デュートヘルムよ、5分はとっくに過ぎているぞ?」

「き……きさま一体何者だ!!」


 ジークとデュートヘルムの戦いは凄惨を極めた。

 ジークは自ら攻撃を仕掛ける事は無く、ただ一方的に攻撃を受け続けた。

 それは目を覆いたくなるような場面の連続だった…… しかしジークはどれだけ攻撃を貰っても決して倒れる事は無かった。


 ……てか、今もデュートヘルムに心臓を貫かれている。

 その状態で普通に会話しているのだ。

 どう考えたってただの人間では無い。


「何なんだ貴様は!!」

「俺の正体などどうでもいいだろう? お前達、妖魔族(ミスティカ)は最下位種族の人族(ヒウマ)になど興味は無いだろうからな。

 それよりもいい加減諦めて自殺したらどうだ? 5分以内に俺を殺せなければ自殺するって話だったよな?

 よもや忘れた訳ではあるまい?

 なぁ? 上位種族・妖魔族(ミスティカ)のディートヘルム・ステンデルよ?」


「くっ……ぐぐっ…… だ…誰がっ……!!」

「「誰が下位種族との約束など守るモノか」……か? 自分で言い出した事すら守れないとは、妖魔族(ミスティカ)と言うヤツは精神的に全種族最下位なんじゃないのか?」


 ジークはワザと大声で妖魔族(ミスティカ)という種族全体をバカにする発言をした。

 その言葉で周囲の妖魔族(ミスティカ)の敵意を一身に集める。


 ちなみに自殺云々を言い出したのはジークだが、怒りに我を忘れているのか気付くことはなかった。





---霧島伊吹 視点---



 その様子を南校舎の屋上から伊吹と桜が見ていた。



「うわぁ…… ここからじゃナニ喋ってるのかわからないけど、ジークさんがすっごいヘイト集めてる」

「多分こっちに敵が来ることを防ぐためにわざとやってくれてるんだろうけど……

 ジークさん自体は大丈夫なのかな?」


 どう見ても大丈夫じゃない……

 さっきから何度も即死級の攻撃を受けまくってる。

 今だって剣が身体を貫通している。


「前々からもしかしたら……と思ってたんだけど……

 アレがジークさんの呪いなのかな?」

「え? 呪い? そう言えばおにーちゃんがジークさんのことを「呪われし筋肉」とか言ってたけど」


「うん、ジークさんは呪い付きなんだよね、今までどんな呪いに侵されてるのか知らなかったけど……

 もしかして不死身の呪いとか持ってるのかも」

(考えてみれば心当たりが…… 魔王レイド戦で腕が吹っ飛ぶほどの爆発を受けてもかすり傷程度で済んでたっけ…… 普通に考えればあり得ない)


「不死身の呪い……」

(そう言えばオルターで庇ってもらった時も、服はボロボロになってたのにかすり傷一つ負ってなかった…… 不死身の呪い…… あながち間違いじゃない気が…… おにーちゃんが呪われし筋肉とか言うからボディビルダーの生霊とかプロテインの怨念って感じがしてた)


「しかしアレが本当に不死身の呪いだったらミカヅキが怒りそうだなぁ」

「ミカヅキさんが?」

「うん、まぁ…… 今更なんだけどね」


 そんな時、校庭の片隅で大きな火柱が上がった。


「んん?」


 よく見ればその火柱の中では人らしき物体が燃えている。


「うわっ…… 妖魔族(ミスティカ)って事はあり得ないから、誰か……やられた?」

「アレは多分…… 運命センパイですね、あの人なら多分死なないでしょう、炎属性特化って感じの人ですから」


「ですてぃに~? あぁ二宮運命(デスティニー)センパイね」

(そう言えばそんな人も居たな。あんな名前なのに恥ずかしげもなくチャラチャラしてた人だ。

 そんな人でもかつては第三魔導学院最強と呼ばれてた時代があった…… それだけの実力者であろうとも、満月の日の妖魔族(ミスティカ)には勝てないんだ……)


 見れば校庭での戦闘はどんどん減っている。

 それはつまりコチラ側がどんどんやられているという意味だ。


「伊吹ちゃん」

「何ですか?」

「そろそろこっちにも敵が来ると思うんだけど…… 先に謝っておくね、ゴメンね?」

「え!? まだ何も起こってないのに何で謝るんですか!?」

「いや…… 妖魔族(ミスティカ)と1対1なら食い止める事くらいは出来るんだよ?

 ただ、複数になったらもう無理、私一人の手に負えない」

「そんなぁ~! やる前から諦めないで下さい!」


 いや、分かっている…… 満月の日の妖魔族(ミスティカ)を倒せる人間は殆んどいない事を……

 ましてそれが複数人現れたらどうしようもない事を……


「あ、見つかった」

「え?」


 サクラ先輩の呟きと共に、目の前に霧の塊が現れる。

 それは次第に人の形となり、実体を持って私たちの前に降り立った。


「あの鬱陶しい空の炎の渦はお前の仕業だな?」


 うわっ! 思いっ切り目を付けられた!

 それも当然か、こんな目立つ場所で魔術を使い続けているんだから。


 マズイなぁ…… 放っておいても後数分で極紅炎陣(クリムゾン・ボルテクス)は維持できなくなる、よりにもよってその前に敵が現れるとは!

 今から解除して逃げ出しても、見逃してはくれないだろう。

 どこかに強力な味方とか余ってないの?


 校庭での戦闘はほぼ終息している、学院に配備された人員は結構エリート揃いだったんだが、どうやら殆んど倒されてしまったらしい、もしかしたら死者も出てるかも……

 唯一の例外はジークさんだ、今も何人かの妖魔族(ミスティカ)からまるで集団リンチにでもあってるような攻撃を受けている。

 それでも怯むことなくヘイトを集めている、実に頼もしい、肝心な時にはいつも居ないどっかのゲス魔王とは違う。


「はぁ~…… やれるだけやってみるけど、ダメだったらゴメンね伊吹ちゃん」


 サクラ先輩がため息交じりにナイフを構える。

 そんな9回裏、100対1みたいな雰囲気出されてもコッチが困る、なにせ命が掛かってるんだから。


「邪魔するつもりか小娘? まぁどちらにしても皆殺しにするつもりだから関係ないが……」


 これでサクラ先輩に見捨てられて一人で逃げられる可能性が無くなった…… いや、サクラ先輩はそんな人じゃ無いけど。


「第4階位級 属性付与魔術『太陽剣』デイライトナイフ」


 サクラ先輩の構える2本のナイフが眩しく輝く…… あぁ、目立つ…… いや、今更か……


「フッ!!」


 先輩が一気に距離を詰め妖魔族(ミスティカ)の懐に飛び込む。

 そのまま超至近距離で相手に手を出させず一方的に攻めている、光のナイフは霧の身体を切り裂くには向いてるようだ……

 ……てか、先輩強い!

 ギャグキャラっぽい扱いを受けてたから勘違いしてたけど、先輩フツーに強いです!

 近距離が苦手な自分に言わせれば、接近戦で私に勝ち目は無い。


「チッ!」


 妖魔族(ミスティカ)は手が出せない接近戦を嫌がり距離を取った。


「どうやら前にやった卑怯者(クラウス)より近接戦闘能力は低いみたいね、妖魔族(ミスティカ)にも個体差ってあるんだ」

「以前にも妖魔族(ミスティカ)と戦った事があったのか、どうりで戦い方が手慣れているワケだ」

「あ、勘違いしないで、私はその戦いで負けて死に掛けたんだから、だから本気とか出さないで!」


 そんな言い訳しても聞いてくれる相手じゃ無い。

 そこへ……


「おい、何をモタモタしている? はやく炎の渦の術者を仕留めろ」

「なに手古摺ってるのよ? まだ余裕は在るとはいえこれ以上兵力を消耗させるな、デクスアリアが落ちたらルストナーダ家は終わりだなんだから」


 そこに妖魔族(ミスティカ)の援軍のオッサン妖魔とケバ目の女妖魔が現れた、ヤバイ…… ホントにヤバイ!


「術者の方の小娘は俺が片付けておくから、お前達は護衛の方を始末しろ」


 オッサン妖魔がこちらに向かって歩み寄る、チョット待って! 今 私、抵抗できないんですけど!


「ッ!! させない!!」


 サクラ先輩がその妖魔に斬りかかる、しかし……


「おい、こっちを無視するなよ? 最下位種族が」


 先輩の動きを読んでいたかのように若い妖魔が背後に現れ剣を振り下ろす!


「くっ!! 『鉄筋骨(スチカル)』!!」

「?」


 ガキン!!


 剣はサクラ先輩の首に当たった所で金属音を上げながら止まった。

 確か全身を一時的に鉄に変える事ができる魔道具……


 しかしそこへケバい妖魔が魔法で追い打ちを掛ける。


「死滅魔法『激痛波動(ペインブラスト)』」

「ちょっ!! 待っ!!」


 鉄筋骨(スチカル)は物理攻撃には滅法強くなるけど、魔法で攻撃されると避ける事さえままならなくなる。


「ッ!!…ッ!!……ッ!!」


 サクラ先輩が声にならない叫びを上げ倒れた。

 当然その時に鉄筋骨(スチカル)も解除される……


「ふん、所詮この程度か」


 若い妖魔が剣を上げ止めを刺そうとしている!

 2対1でやっといて、なんだその言い草は!

 てか、サクラ先輩がヤバイ! いくらナンでも目の前で知り合いを殺されるのは真っ平だ!


「第7階位級 雷撃魔術『雷撃』サンダーボルト!!」


 極紅炎陣(クリムゾン・ボルテクス)を解除して魔術を放つ、相手が反射的に避けた隙にサクラ先輩に駆け寄った。

 どの道、あと数分しか持たなかったんだから仕方ない。


 空の炎の渦は消え、辺りは一気に暗くなる、第二次~第三次防衛ラインの中間では“アリアの雨”が勢いを増してしまっただろう。


「ふむ、取りあえず目障りな炎の渦は消えたか…… これで勝敗は決したな」


 そう…… この瞬間、私たちの敗北が決まった…… 私が魔術を解除した所為だろうか? どちらにしても時間の問題だった。

 そして私たちの寿命も……


「お前達は小娘たちを始末しろ、私はアノ大男の所へ戻る、殺せないなら生け捕りにするまでだ」


 そう言ってオッサン妖魔は背を向ける。

 ギルドD.E.M. 史上最大のピンチだ!


「最下位種族のクセに手古摺らせてくれたな?」

「アナタにも死ぬほどの苦痛を味あわせて上げる」


 あぁ…… お父さん、お母さん、ミャー子…… あ、あとおにーちゃん。

 どうやら私はここまでの様です、先立つ不孝をお許し下さい。

 せめて苦しまずに死なせて欲しかった…… ドS種族・妖魔族(ミスティカ)に災い在れ!


「死滅魔法『激痛波動(ペインブラスト)』」


 迫りくる苦痛に耐える様にキツく目を閉じ待ち構える!


 キィィィィィ……


 ん? 何の音?


 カッ!!


「ギャアアアアァァァアァァアアァ!!!!」


 ビクッ!!?


 突然の大絶叫、当然私の悲鳴じゃ無い。

 そっと目を開けるとそこには……


 半透明の大きな葉っぱの様なモノが私とサクラ先輩を守るように広がっていた。


 ケバい妖魔の女がのたうち回っている…… 僅か3秒前に願った災いが妖魔族(ミスティカ)に落ちた! ザマーミロ!

 てか、何が起こったの?


 困惑する私の背後から女の子の声が聞こえてきた。


「えぇ~、カミナ君の話と違う、もうなんか大変な事になってるじゃない」


 そっと後ろを振り向くと、一人の女の子が立っている。

 特徴的な長い耳と、ターコイズグリーンの髪、手には大きな杖を持ち、黒衣に身を包んだ女の子…… あ、あと首にはチョーカーが巻かれている、首輪じゃ無い。

 よく知っている顔だ…… おにーちゃんのお嫁さん候補の一人……


「ア……アーリィ……さん?」


 そこに居たのはまさかの第7魔王様だった!




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