第266話 第3魔王 ~召喚・前編~
---霧島神那 視点---
― 南極 αアリア ―
「神に至るために必要な“鍵”を得に……!」
………… う~ん、キャプテンが暗黒臭い事を言い出した。
何だよ「神に至るために必要な“鍵”を得に……!」キリッ!…………って、キリッ!じゃねーよ。
この狂人とこれ以上話していても時間の無駄の様な気がする……
しかしコイツ以外にマリア=ルージュの居所を知る奴はいないし……てか、今この城には他に誰も居ないし。
精神的苦痛を与えれば喋ってくれるだろうか? 狂人には効果が薄そうだな。
では肉体的苦痛は? それも期待できないな。
取りあえず全裸に剥いて、体中の毛という毛を全て処理して、逆さ吊りにでもしておくか?
無駄な時間に付き合わされた憂さ晴らしに。
でも実行に移す前に、最後にもう一度だけチャンスをやるか。
「質問に答えろ、マリア=ルージュはドコにいる?」
「もちろん鍵の在処に決まってるだろ?」
ムカ! その在処がドコか聞いてるんだろうが! やはりまともに会話が成立しない。
良いだろう、お前がその気なら、かつて暗殺者を返り討ちにした俺の拷問テクニックを披露してやる!
俺はおもむろにキリヤのベルトを外し、ズボンに手を掛けた。
すると……
「き…きさま! 一体何をする気だ!?」
おや? 急に素に戻った?
「いや、取りあえずお前を全裸に剥こうかと……」
かつて大和の兵士は戦争中、全裸に剥かれて屈辱的な辱めを受けたという…… お前にもその屈辱を味わってもらおう、当然その画像は後日ネット上にばら撒く、どれだけ屈辱的だったか後で感想聞かせてくれ。
「やっ! やめろっ!! お前正気か!!?」
一番正気を失ってる奴に正気かと聞かれた…… お前が言うな!
しかしなんだこの慌てふためきかたは…… もしかしてお前もどこぞの勇者みたいにホーケーなのか?
それともまさか…… まさかとは思うがコイツ……
俺を「ソッチ系」だと思ってるんじゃないだろうな?
…………
フザケンナよ! テメェ!! 勇者をけしかけてくそみそにしてやんぞ!!
複数の嫁を持ち、魔王界で一番モテモテの禁域王様を捕まえて! よりにもよってホモ疑惑を掛けやがったのか!
この愚か者には一番惨たらしい死を!!
「マ…マリア=ルージュ様は…… デ…デルフィラへ向かわれた!」
あ、ゲロった。
こんなにアッサリ…… いや、それより!
「デルフィラだと!?」
「何と言ってもあそこには聖域がある、鍵が隠されている可能性がもっとも高いのがデルフィラだからな……
今頃は…… 既に到着しているだろう」
だから鍵って何だよ! いや、それよりもデルフィラ…… 不味いぞ! あの町には何百万もの人が暮らしてるんだぞ? そんな所に最恐最悪最凶の魔王が現れたら…… それこそ皆殺しだ。
すぐにリリスに連絡を……って、量子双子を使ったらアイツこっちに来ちまうな、それは色々と無駄だ!
ああ!もう! この狂人のせいで連絡手段が無い! いや、俺が一回大和へ戻ればいいのか、時間と魔力の無駄だが仕方ない。
「今更向かった所で手遅れだぞ?」
「黙ってろ!」
このバカをココに放置して行く訳にはいかないな、不本意だが一緒に連れて行くか、南極から動かせば世界中の電波障害を取り除けるかも知れないしな。
「今頃は魔王の同士討ちが始まっているさ」
「だから黙ってろって……同士討ち?」
「第3魔王と第12魔王のな……」
確かに今現在、余剰戦力はリリスだけだ、しかし大和にいるリリスがどうしてデルフィラの状況を知り得るんだ?
世界の通信を妨害してるのはお前だろうが…… っ!
「まさかっ!!」
城の外には赤いオーロラが見えている…… しかし!
「察しが良い奴だな、その通り、既に北半球の電波障害は解除されている。
今頃アルスメリア国内では第3魔王VS第12魔王の戦いがテレビ中継でもされてるんじゃないか?」
リリスの立てた作戦は完全に裏目に出たな、まさかアノ天上天下唯我独尊女が魔王の分断作戦なんか使ってくるとは思わなかった……
いや、きっと作戦の立案者はコイツだ。
コレは非常にマズイ…… 前提条件が崩れた状態でマリア=ルージュと一騎打ちをすればリリスに勝ち目は無いぞ……
いや…… 勇者が居たな、だがアイツは役に立たない! 根拠は無いがそう確信できる。
俺なら或いはマリア=ルージュの『深紅血』を止められるかも知れないが、劣化・血液変数しか使えないリリスではまともに戦えないだろう。
ダメだ…… 出来る事が無い……
俺はアルスメリア国内へのマーキングをしていない、助けに行く術がない。
ピンチの時は逃げろと言ってあるが、上手いこと逃げられればいいんだが……
ここで心配していても仕様が無い、ならば今俺に出来る事をするまでか。
「とにかく、お前を連行する。
ただし当局に引き渡す前にお前の精神と肉体のリンクを破壊させてもらう、ついでに運動中枢もな」
かつての第9魔王ジャバウォックよりもさらに悪い状態と言える。
「精神と肉体のリンク?」
「そうだ、お前はこの先、視るコトも聞くコトも感じるコトも出来るが、身体を動かすコトも喋るコトも出来ない状態になる。
それが人類を裏切り多くの死者を出したお前の罪に対する罰だ、せいぜい永遠に後悔し続けろ」
この罰はある意味死ぬより辛いことかもしれない、だがコイツはそれだけの罪を犯した、情状酌量の余地は無い。
「フッ、後悔などするハズも無いだろ?」
「なに?」
「いずれ罰を受ける事は覚悟していた、マリア=ルージュ様の使途になる以前から…… 創世十二使の一位になった時には、俺の手は血に塗れていたのだからな。
俺は人を救う為に人を殺してきた、それこそ何千、何万と…… そうやって創世十二使の第一位に登りつめた……
今回の第3魔王襲来も、規模こそ違うがやってる事は同じだ、俺はこの行いが間違っているとは思っていない」
「…………」
このアホ、その規模と内訳が重要なんだろうが。
殺人者への判決だって殺した人数を重要視する世の中だ。
だがコイツの中では罪の有る者、罪の無い者、どちらでも関係無くただ人を殺したという事実だけを認識していたんだな……
もしかしたら、コイツの精神はとっくの昔に壊れてたのかも知れないな……
だからと言って許されるモノじゃ無い。
俺だって自分が生き残るために魔族を…… 使途を…… 魔王を殺してきた。
だがコイツのやった事は自分の狂った価値観で多くの人を死に至らしめた、人間社会で生きて行く以上、その罪は償って貰わなければな。
「お前には悪いが自分への罰は自分で決めている」
「あ?」
何処の世界に自分への判決を自分で決める裁判がある? そんな事が許されたらお奉行様も「市中引き回しの上打ち首獄門!」って言えないじゃないか。
市中引き回しはアリかも知れないな、もちろん全裸に剥いて……
「お前には色々と支持者も多いみたいだが、コレばかりは擁護してもらえないぞ?」
「そんな事は百も承知だ、まぁ俺の罪は死罪だろうな」
それじゃヌルい! 他人に厳しく自分に甘い奴だな。
やはりココは全裸市中引き回しで、駅前に磔にしてやろう! 民衆から股間に向けて物でも投げられてろ、俺もウニ投げに行くから。
覚悟しろ! 俺の転移投擲は百発百中だぜ! お前の尿道にクリティカルヒットだ!
「だから自分の罪は自分で裁かせてもらう」
「はぁ?……って! チョット待て!!」
バチッ!!
キリヤの身体から紫電が飛ぶ!
「お前ッ!!」
「もし第12魔王が死ぬ前に会うことがあったら伝えておいてくれ。
先に裏切ったのはお前だ、信じる者に裏切られた気持ちはどうだ? ザマーミロ……と」
「おまッ! そういう事は自分で……ッ!」
バチバチバチバチッ!!!!
キリヤの身体から発生した放電は、直視できないほどの光を発し本人の身体を焼いていく……
光が収まる頃には周囲に肉の焦げる嫌な匂いと、さっきまで生きていた裏切り者の黒焦げ死体が残されていた。
「…………マジかよ…………」
自殺した…… コイツの精神汚染度は異常だ。
「ハァァァ~……」
思わずため息が漏れる……
言いたいことがあるなら自分で言えよ、言われた相手の顔が歪む所を見なければちっともスッキリしないだろうが?
しかし…… 生き証人を失ってしまった、こんなことならレコーダーで音声だけでも残しておけばよかった、魔王関連のコメントは削除しなけりゃいけないが……
ふと外を見てみる…… そこにはまだ赤いオーロラが出ていた。
消えねーのかよ、コレじゃ連絡が取れない…… いや、オーロラが今までよりも大きく揺らめいている気がする、多分そのうち消えるんだろう……
だがその内じゃ遅い、俺は今すぐリリスと連絡が取りたいんだ、仕方ない、一度大和に戻るか。
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……
「ん?」
その時、ドコかで聞き覚えのある…… と言うより、しょっちゅう聞く音が自分のすぐ近くで鳴っていた。
次の瞬間には目の前が真っ暗になっていた。
あ~…… この感覚は……
プツッ―――
---リリス・リスティス 視点---
ドガッ!!
「ぐぁっ!!」
大蛇に加えられたまま勢いよく地面に叩き付けられた。
そのまま大蛇は不定形生物の様に形を変え、私を拘束した…… ただし私のお腹と胸を貫いた牙はそのままに……
ガッ!!
「ぐっ!!」
マリア=ルージュに頭を踏まれた。
「さて、そろそろ話す気になったであろう?」
「生憎と…… 私の答えは変わらない……わ、ゆ……行方なんて知らない……」
ググ…… ミシッ!
「ああぁぁあ!!」
マリア=ルージュは無言で足に力を込める、頭蓋骨が今にも圧力に負けて潰れそうだ。
「リリス、魔王がどうなったら死ぬか知っているか? 心臓を破壊された時が魔王の死ぬ時と言われておる。
では頭を破壊されたらどうなるのだろうか? 我の考えでは頭を…… いや、首を落とされた時にも魔王は死ぬと思うのだが、お前はどう思う?」
「ぁぁ……っく!!」
「折角の機会だから実験してみようと思う、これ以上お前に聞いても我の望む答えは得られそうにないからな?」
このドS女、私の頭を踏みつぶす気?
きっとコイツの望む答えを言っても私は助からない…… 大体本当に行方なんて知らないし……
それに身体から力が…… 魔力がどんどん抜けていく…… このままじゃ……
そんな時だった……
「第4階位級 氷雪魔術『氷槍』フリージングランス!」
突如 横合いから氷の槍がマリア=ルージュに襲い掛かる、しかし……
スゥゥゥ―――
槍はマリア=ルージュに刺さる事は無く、音も無く消えていった。
先ほどの輝槍と同じ現象だ。
その槍が飛んできた先には……
「彼女から足をどけなさい!」
エリザベス・カウリーがいた。
「バ…バカ…… 何で逃げない……のよ!」
必死に声を張り上げたが、その声は弱々しく相手に届いたか定かでは無い。
「ふむ…… 話しを聞いて無かったのか? お前が助けようとしているのが何者か?」
「聞いてたわ…… 魔王……なんでしょ?」
聞かれてたのか…… まぁそれは仕方ない。
「でも少なくともお前と敵対しているなら、私の敵じゃ無い!」
「フッ…… 魔王を倒す為の創世十二使とやらが、魔王を助けるとはな…… どいつもこいつも使命というモノを軽く見ているのではないか?」
「なんと言われても構わない! 例え悪魔の力を借りたとしても!
第3魔王マリア=ルージュ・ブラッドレッドは最優先討伐対象なんだから!!」
助けてくれるのは嬉しいんだけど、とうとう悪魔呼ばわりか……