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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
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第264話 勇者 vs 第3魔王1 ~児戯~


 第3魔王 “紅血姫” マリア=ルージュ・ブラッドレッドと49代目勇者ブレイド・アッシュ・キース・アグエイアスが対峙している。


 上手いコト押し付けるのに成功した……

 こう言うと聞こえは悪いが別に丸投げしたつもりは無い。

 勇者には元々そんなに期待しているワケじゃ無いし……


 マリア=ルージュを勇者に任せて私は前提条件を整える。

 つまりあの血の大蛇を何とかする。


 アレが近くに控えている限り、こちらに勝ち目は無い。

 あの大蛇は言わばマリア=ルージュの武器庫だ、アレだけ大量の血液があればきっとデルフィラを1分で滅ぼせるだろう。

 もっともアイツの目的が聖域にあるとすれば大規模な破壊行為は避けるハズ。

 だが街中の人を一瞬で皆殺しにする事も容易いだろう……


「ふぅぅぅ~~~……」

「フフッ……」


 マリア=ルージュと勇者は睨み合った状態で動かない。

 本来なら勇者はとっくにやられていてもおかしくない、アイツの視界内にいると言う事はアイツの間合いの内側にいる様なモノ。

 いつでも殺す事ができる状態だ。


 それをしないという事は、どうやら遊ぶ気みたいだ。

 そう言えばミューズ・ミュースも勇者相手に遊んでいたとカミナが言っていた。

 勇者をからかっている時のカミナも実に楽しそうだった、コレも勇者と魔王の宿命というやつかな?


 しかしそれはコチラにとって都合が良い、少しでも時間を稼いでほしいから。


 本当は勇者の覚醒を促す為に『深紅血(ディープレッド)』をぶつけて欲しかったんだけど…… 覚醒せずに一撃でやられてしまっては元も子もない。


 とにかく私は私の仕事をこなそう。


「シャーーー!!」


 目の前では巨大な蛇が鎌首を擡げている。

 正直、マリア=ルージュの制御する血液に対処する方法を考えていなかった。

 どうするのが一番いいんだろうか? 相手が血液…… 液体なら凍らせるのが効果的だろうか?


 試してみる価値はある……か。


 魔神器から魔力微細制御棒(アマデウス)を取り出し天に掲げる!



「第1階位級 氷雪魔術『氷神』コンゲラート」



 魔力は天に昇り、光の柱となって降りてくる。

 直径20メートルの光の柱は次第に小さくなり、その中から透明度の高い水晶のような全身鎧を身に纏った騎士の姿を模した氷の巨人が姿を現した。

 光の柱が消えると同時に周囲に極寒の風が吹き荒れる、気温が一気に下がった。

 今は冬だ、氷雪系の魔術の威力が底上げされる季節、風が止むと空気中の水分が凍り付きダイヤモンドダストが舞う。


「あの蛇を氷漬けにしてやりなさい」


 そう命じると、氷神(コンゲラート)は見た目とは裏腹に軽やかに飛びあがり、血の大蛇目掛けて突進した。

 対する大蛇もその体を氷の巨人に巻き付けてきた。


 ビシィッ!!


 それは一瞬だった、氷神(コンゲラート)に巻きついた大蛇は一瞬にして凍りついた!

 氷神(コンゲラート)の体表面の温度は-273℃、絶対零度だ。

 触れたモノは理論上 全て凍りつく…… ただしあくまでも物理的な話だ。


 第五元素エーテルは対象外である、あの大蛇がただの血液なら問題無く凍るが、魔王の能力の制御下にあった場合、油断はできない。


 シューーーー……


「? ナニ?」


 ブシューーー!!


「うわっ!?」


 氷神(コンゲラート)と、凍りついた大蛇から勢い良く蒸気が吹き出した。


「熱!? そんなバカな! 絶対零度は分子の動きを完全に止めるのに……!」


 大蛇は氷神(コンゲラート)を締め付けたまま首だけを動かし始めた。

 氷神との接触面近くは凍りついており、身を捩るたびにバキバキと氷が割れる音がする。


「これは…… 分子振動で熱を発生させている?

 いや、それだけじゃ無い、凍りついてもお構い無しで動かしてるんだ」


 そう、蛇の姿をしてはいるがアレは生物じゃない。

 例え凍りつかせようと、沸騰させようと、なんの苦痛も感じることもなく動き続けることが出来るんだ。


 ガチガチに凍り付いていても血は血、マリア=ルージュの『深紅血(ディープレッド)』は液体じゃ無くても操作できるのか…… 固体でも気体でも関係無く……


 これじゃ足止めも出来ない。

 何とか処理する方法を考えないと……

 でもどうやって……


「シャーーー!!」


 大蛇は体の半分ほどで氷神(コンゲラート)を縛り上げ、残りの半分でこちらを威嚇してきた。

 何でこんなところだけ生物っぽいの? これもマリア=ルージュの趣味?

 しかしコレはマズイ、体が半分凍っていても、残り半分で50メートル以上の巨体だ。

 私がもう一体。氷神(コンゲラート)を創り出せれば足止めできるのだが、生憎と第一階位級でダブルスペルなんて、この世の誰にも出来るはずない!


 やはり堅実なのは血の大蛇をマリア=ルージュの能力の射程範囲外まで飛ばしてしまう事か……

 そうすれば確実にアイツの武器を取り上げる事ができる、しかしその方法が無い。

 門を開きし者(ゲートキーパー)で飛ばすことは不可能では無い、しかし流体である血液の蛇を一気に飛ばせるかとなると難しい……


 そもそも100メートルもの巨体を持つ蛇を飛ばす為には相当な量の純粋魔力を消費する、既に今日は3回もゲートを開いている、その上あの巨大な蛇を飛ばせば疲労で動けなくなるのは火を見るより明らかだ。


 できれば1回は予備で残しておきたいし……

 それにいくら勇者と遊んでいるとはいえ、マリア=ルージュがその作業を黙って見ているハズが無い。


 せめて氷神(コンゲラート)で、一時的でも良いので蛇の身体を固める事ができれば……



---



「行くぞ!! 第3魔王マリア=ルージュ!!!!」


 勇者は身体強化魔法と鎧の機能により、圧倒的な速度でマリア=ルージュとの距離を詰める!

 それをニヤニヤと笑みを浮かべながら迎え撃つマリア=ルージュ。

 しかし棒立ちのまま動こうとはしない。


「ハァァッ!!!! 『封魔剣技・音速剣』!!!!」


 勇者は魔王の胴体を真っ二つにして駆け抜けた!!

 そのまま直ぐに体勢を立て直し、マリア=ルージュを睨みつけた!


 普段の勇者ならそこで調子に乗って勝ち名乗りでも上げている所だが、今回はそう言った油断を一切見せない。

 コレだけで倒せるほど魔王とは簡単な存在では無い……

 幾度と無く魔王に敗れてきた勇者はようやくその事実に気付いたのだ。


 実際にマリア=ルージュの身体は何事も無かったかのように元通りに修復される。


「それが満月の日の妖魔族(ミスティカ)の種族特性、霧化か……」

「ほぅ? よく知ってるではないか、勉強したのか?」

「お前を追ってデクス世界に来てから第3魔王の事…… 妖魔族(ミスティカ)の事を調べ尽くしたからな!」


 実際にはリリスが調べた情報をエルリアに付きっきりで教えて貰っただけだ、自分で調べた訳では無い。

 関連書物は勇者の学力では理解するのが難しかったから……


「ならば物理攻撃が通用しない事も十分承知しているのであろう?」

「もちろんだ、そしてその対処法も考えてある!」


 当然、考えたのはエルリアだ。


「雷撃魔法『雷神剣(ライトニングソード)』!!!!」


 夜の闇を一瞬だけ白く染め、勇者が天に掲げた剣に雷が落ちる。

 勇者の得意魔法である。


「魔法剣か…… それが如何したというのだ?」


「フッ…… 油断していられるのも今の内だ! このくたばれ勇者(ダイ・ブレイブ)にはひとつ面白い機能があってな、高周波振動機能を応用した輻射魔法という攻撃が出来るのだ!!

 これは多対一を苦手とする俺にはとてもありがたい機能で、雷神剣なら雷撃を輻射放電する事ができる!!

 つまりお前を攻撃すると同時に周囲に雷撃を自動で放つ事ができる!」


 もちろんこの攻撃は自分の方にも戻ってくるが、そこは魔導反応装甲(リアクティブシールド)で相殺する。


「…………」


「コレがどういう事か分かるか? つまりお前を攻撃すれば、体内に隠された“(コア)”にも自動で雷撃が届くというワケだ!!」


「…………」


「さあ!! 勇者の一撃で痺れるがイイ!! お前が動けなくなった所で“(コア)”を破壊してやる!!

 『封魔剣技・超音速雷神剣』!!!!」


 勇者は先ほどよりもさらに速度を上げ、一気にマリア=ルージュとの間を詰める!

 そのまま雷神剣で袈裟切りにした!!


 …………かに思えた。


 スカッ!!


「へ?」


 勇者渾身の一撃はマリア=ルージュにいとも簡単に避けられていた。


「なぁっ!! 何で避ける!!?」

「…………」


 マリア=ルージュが三つの眼で勇者を見ている。

 その目はハッキリと愚か者を見る目をしていた……


「今代の勇者は阿呆だとは聞いていたが、まさかここまでド阿呆だったとはな……」

「だっ! だっ!! だっ!!! 誰がドアホゥだ!!!!」

「あんな説明をされて誰が攻撃をわざわざ受けると思う?

 攻撃前に技の説明とかするド阿呆が、お前意外にこの世に存在するのか?」


 ど正論である。


「おっ… お前、魔王だろ!!? だったら魔王らしく余裕ぶって素直に攻撃受けろよ!!」

「幾ら霧化できるとはいえ、ド阿呆に体を触られたくないわ」

「~~~ッ!!」


 勇者はぐうの音も出ない。

 確かにこれは勇者の失策だ、この一撃で倒せると思っていたら嬉しくなってつい口が滑った。


 本来なら攻撃を受け、倒れ、不思議そうな顔をする相手にドヤ顔で種明かしするべきだった。


「まぁ、どちらにしてもそんな攻撃、効きはしなかったがな……」

「!! 言ったな!! だったら今度は避けずに受けてみろ!! 絶対ぶっ殺してやる!!」

「なんで我がそんなお遊びに付き合わねばならん?」


 !

 その時勇者は悪魔的閃きをした!


「ははぁ~ん? さては怖いんだな?」


 相手を心底バカにしたような口調で言い放つ。


「ほぅ?」

「2400年も世界中から恐れられている魔王様でも、勇者の一撃は怖いと見える。

 なるほど、だから必死こいて避けて、平静を装っているワケか…… 涙ぐましいなぁ」

「ならば試してみるか? 本当に通用するか否かを?」


 かかったぁ!!


 この勇者に相応しくない言動は、勇者自身が何度も辛酸をナメさせられた“挑発”だ。

 かつて悪魔の様な男からの挑発に乗り、その度に地獄に突き落とされてきた必殺の戦闘テクニック!


 お尋ね者にされたり…… 生き埋めにされたり…… 腕を落としたり……

 そういった経験が勇者を成長させたのだ!


「ならば試してやる! 避けるなよ!? 絶対に避けるなよ!?」

「さっさと撃ってこい」


 ハッハッハッ!! 馬鹿め!! お前も俺と同じ地獄を味あわせてやる!!!!


「『封魔剣技・超音速雷神剣』!!!!」


 ズバッ!!!!


 勇者の剣が今度こそマリア=ルージュの身体を左肩から脇腹へ斜めに切り裂いた!!


「馬鹿め!! 本当に無防備で受けやがったな!? バーカ! バーカ! ハッハッハ……ハァ?」


 しかしマリア=ルージュの身体はすぐに再生し、平然と立ち尽くしている。

 雷撃の影響はどこにも見られない……


「やはり…… 掛け値なしのド阿呆だったな? お前如きが我に挑んだ事がそもそもの間違いだ」

「そ…… そんなバカな…… なんで……」


 マリア=ルージュの言葉はハッタリなどでは無かった。




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