表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
268/375

第262話 第一魔導学院5 ~防衛線~


 アルスメリアの首都DCとデルフィラを結ぶ幹線道路、そこはいつもなら時間を問わず多くの車が行き交っている。

 しかし今はどちらの車線も静まり返っていた。


 そんな静かな道を奇っ怪な生物がかなりの速度で移動している。


 遠目には湖から顔を覗かせている恐竜の生き残りのように見える、しかし身体には鱗があり、先が割れた長い舌をチロチロ覗かせていることから蛇と思われる。

 だが普通の蛇とは明らかに違う、全身は血の色をしており、大きさに至っては見えている部分だけでも30メートルにも及ぶ。

 そんな蛇が血の池から身体を半分ほど出し、池ごと移動しているのだ……

 明らかに普通じゃない。


 そしてそんな血色の大蛇の頭に座っている一人の女……

 第3魔王 “紅血姫” マリア=ルージュ・ブラッドレッドである。


「ん?」


 明確な目的があってデルフィラを目指す彼女が真っ暗な道の先を見て何かに気付いた。

 デルフィラの街の入口辺りに多くの兵士が集まり防衛線を築いているのを……


「ほう?」


 相手はまだ自分を認識していない、今なら先制で攻撃して全滅させることも容易い……

 しかしそうはしない、自らの道を阻むものがアレば正面から打ち破って進むのが彼女の流儀であるからだ。


「面白い…… デクス世界でも最大戦力の一つとか言われる奴らだったか?

 どれ程のモノか我自ら確かめてやるか。

 これでこの世界の本当の実力が判るやも知れんしのぅ」


 そう言ってマリア=ルージュは自分が座っている血色の蛇の頭をポンと叩いた。


「いけ、『尾を飲み込む蛇(ウロボロス)』」


 蛇はなんの反応も見せない、ただそのスピードを上げたのだった……



---


--


-



 第一魔導学院 校長室


「部隊展開遅いぞ! 急がせろ!

 住民は訓練通り地下シェルターへ避難させろ!

 敵の数はまだ分からんのか? 報告急がせろ!」


 ダラスが複数のモニターに向かって次々と指示を出している、想定外の場所に敵が出現したが、突然の侵攻は想定内だ。

 住民の避難も兵士の訓練も当然万全に行っている。

 それは即ち万全の体制で敵部隊を迎え撃てるということだ。


 『最悪の事態=アリアの雨』にも対応できる自信はある。

 しかし未だに敵部隊の情報が入らない…… そこに一抹の不安を抱えていた。


「エリックはどうした? まだ敵の数が把握できないのか?」


 エリックが把握するのも困難なほどの敵が来ているのだろうか?

 そんな不安が湧き上がったときだった……


 ガチャ……


「!?」


 ノックもなしに校長室の扉が開かれた。

 普段なら相手を怒鳴りつける所だ、実際に机を強く叩き立ち上がり、大声を上げようとした。


 ……しかし声は出てこなかった。

 入ってきた相手が全身血まみれだったのだ。


「…………ッ」


 ダラスは思わず言葉を失った。

 まだ戦闘開始前にも拘わらず、何故血まみれの男がココにいるのか?


「ダラス……校長……」

「!?」


 その声を聞いてようやく気づいた、彼はエリックのサポートをしていた若い兵士だと。


「お…お前は…… 一体何が……? エ…エリックはどうした?」


 混乱の極みにありながらなんとか声を絞り出してそれだけを聞いた。


「特佐は…… お亡くなりになられました……」


 なんの冗談だ? ……とも思ったが、兵士の表情が、声が、そして何より血まみれのその姿が冗談では無いことを物語っていた。


「……ッ 報告を……」


 ダラスはなんとかその言葉だけを絞り出した。


「は…… 不確定ではありますが…… 敵は一人、DCのおよそ半分の住人を虐殺して街を破壊した……と」

「一人……だと?」

「はい…… 特佐は明言していませんでしたが…… 相手は恐らく……

 そう呟いた直後、特佐は体の内側から弾けて亡くなられました」


 その報告は『魔王が来た』のだと確信させるものだった。


「分かった…… 下がりたまえ、君は戦闘配置に付かなくていい、医務室に行きなさい」

「は…… 失礼致しました」


 パタン……


 兵士が出ていった後、ダラスは倒れ込むように力なく椅子に座った。

 そのまま天井を仰ぎ見てしばらく何かを考える。

 そして思い出したかのように、部屋の壁に埋め込まれた隠し金庫を開け、中から一つの魔道具を取り出した。


「応答しろ錐哉!」


 それはかつての自分の教え子である赤木錐哉から送られてきた連絡用の魔道具だった。




 赤木錐哉は現在アリアに潜入捜査中、ときおり情報を知らせてきてくれる。

 任務が任務だけに、この事はトップシークレット、例え味方であっても自分以外の者に知られる訳にはいかなかった。


 アリアへの潜入調査…… 人族(ヒウマ)が一人も存在しない浮遊大陸への潜入捜査など、普通なら考えられない。

 だがあの男なら…… 赤木錐哉なら不可能ではない、ダラスはそう考えていた。


 自分の教え子の中でも最も優秀な男。

 自分の持ち得る全ての技術と知識を教え込んだ最高傑作。

 その思いが不可能を可能にしたと思いこんでいた。


 そして時折送られてくるアリアの襲撃情報も正しかった。

 故に赤木錐哉の情報は絶対に正しいと思いこんでいた。


 ダラスのギフト『真偽宣誓(リアルオース)』は、相手と直接対面しなければ使えないという弱点を赤木錐哉は知っていたのだ。


「何かあったのか錐哉? お前は無事なのか?」


 いくら魔道具に魔力を注ぎこんでも応答は無い。

 この期に及んでも赤木錐哉の裏切りを疑うことが出来ない、それ程までに信頼している相手だったのだ。


 しかし情報が得られないからと言って、事態をこのまま放置しておく訳にもいかない。

 相手が魔王ならそれなりの対応を取らなければならない。

 たとえ情報が得られなくても敵はやって来る、事態は刻一刻と進展しているのだから。



---



 デルフィラ最終防衛ライン


 デルフィラの街の入口辺り作られた防衛線……

 そこに出来る限りの人員が集められている。


 その装備は大半が対大軍用で占められているが、それを一点に集中して使えばどんな生物でも倒せるはず。


「有線レーダーに感アリ! 30km地点に巨大生物の移動を確認!!」


 アルスメリア国内に大量に設置されてる有線式のレーダーに反応があった。

 数は1、時速約100kmで接近中。

 魔導兵器の有効射程距離内だ!


『攻撃開始! これ以上近付けさせるな!!』


 最高司令官であるダラスからの攻撃許可が下りた!


「『連結型(プラリス)対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』起動!! IFFオート、超長距離砲撃モード!

 第3階位級 火炎魔術『神炎御魂』カミホノミタマ スタンバイ!!」


 13人で一つの魔導器を使う『連結型(プラリス)対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』。

 一人が制御を行い、残り12人は実質魔力タンクだ。

 しかしその攻撃力は一発の魔術でCランク相当の魔物10000匹分の致死量に匹敵する。

 オリジン機関より供与された魔導器をアルスメリアが無断で複製し独自の改造を行ったオリジナル品である。

 コレの存在はトラベラーはもちろんオリジン機関関係者でも知らない。


「発射!!」


 全部で三機ある『連結型(プラリス)対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』から一斉に強化された魔術が放たれる。

 その光は真っ暗な空を昼間よりも明るく照らし出した。



---



「ん?」


 北東の空が真っ白に染まった。


「ほう? 攻撃してきおったか、かなりの威力の魔術攻撃…… どうやら我の正体が分かったらしいな。

 さすがにあの威力ではタダでは済みそうにないのぅ」


 あの攻撃が着弾したら周囲一帯が焼け野原になるだろう…… いや、クレーターが出来る、それ程の威力があった。

 だがまだまだ認識不足だった、魔の王を敵に回すという意味が……


「『深紅血(ディープレッド)』」


 血色の蛇がその場で急停止すると、身体を変形させ巨大な膜に姿を変えた。


「さぁ喰らい尽くせ、『奈落(アビス)』よ」


 空を埋め尽くすほどの魔術攻撃は、その薄っぺらな膜に触れると消えていった……

 貫通するでも無く…… 爆発するでも無く…… まるで穴にでも吸い込まれていくかの如く消えていったのだった。



---



 異常はすぐにデルフィラ最終防衛ラインでも確認された。

 正確には確認されなかったと言うべきか……


 あの攻撃が着弾すれば核爆発に匹敵するほどの大爆発が起こるハズ、しかし待てど暮らせど音も光も衝撃も、何も伝わってこない。


「な…… 何故だ? なぜ何の反応も無い? 光学観測はどうなっている!?」

『光量が高すぎたため直撃の瞬間は確認できませんでしたが、我が方の攻撃は…… そのまま消えました』


 消えただと……? そんなバカな……


『レーダーに感アリ! 敵が再び移動を開始しました! 真っ直ぐこちらに向かってきます!』

「ぐっ……!! 全軍戦闘準備!! 近接攻撃部隊は前へ! 魔導突撃銃(アサルト)部隊は超高速徹甲弾を! 魔導砲部隊は重質量弾を装填しろ! 魔術師部隊は後方待機! 最前列には人型機動兵器(M・ウェポン)を立たせろ!

 それからエリザベス・カウリー特佐はどうなった!?」

『現在こちらに向かっているハズですが、到着予定時刻はまだ……』

「敵に傍受されても構わん! 魔導通信を使って連絡を取れ! 急がせろ!!」

『りょ…了解であります!!』


 ダラスが次々と指示を飛ばす、しかし……


(果たしてこんなモノで止められるのか? 最大火力を持ってしても数秒足を止めるだけだった……)


 いや…… 止めなければならない!

 デルフィラを落とされたらアルスメリアは…… デクス世界は終わるだろう。












---リリス・リスティス 視点---


 リリスは首都DCに来ていた。

 破壊し尽された街を前に呆然としている……


「なによ……これ……」


 街の半分が破壊され、そこにいたであろう人々も全て殺されている……


「あの女……ッ!」


 本当はデルフィラへ飛ぶつもりだった、その為に準備万端で待っていたのだから。

 しかし交信直後にメルヴィン、そしてデルフィラに設置したマーキングが機能しなくなっていた。

 恐らく周囲で大規模な魔力放出があったんだ、それによりマーキングが掻き消されてしまったんだ。


 恐らく『連結型(プラリス)対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』の一斉射…… アルスメリアが秘密裏に作っているのは知っていたがこんな副作用があったのならもっとキツく取り締まっておけば良かった……


「いや、落ち着け、冷静になれ…… ふぅ…… とにかく直ぐにデルフィラへ向かわないと」


 魔神器から魔力反発式ジェットホバーを取り出す。

 映画とかでよく見るホバーボード的なヤツだ、完全に一人乗りで最大高度も1メートル程度だが、高速で移動するには向いている。


 ただし……


「うぉぉぉぉ…… さ…寒すぎる……!!」


 冬季に使用するには事前に空圧(コンプレス)を掛けておくことが推奨される。


 しかしリリスはそんな事はお構いなしに全速力でデルフィラを目指していた……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ