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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
267/375

第261話 第一魔導学院4 ~強襲~


 アルスメリア首都・DC


 時間は少し遡り……

 遙か海の向こう、大和の高天市がγアリアの影に隠れようとしていた頃、この街の片隅に一人の女が現れた。

 日が暮れたばかりの街は人々で賑わっている。

 女は日が暮れるのを待っていたかのように舞い降りたのだ。


 季節は真冬、かなり寒いにも関わらず女は薄手の真っ赤なドレスだけしか纏っていない……


 夜の闇の様な真っ黒な長い髪と病的なまでに白い肌……

 そして額には第三の眼……


 見た目だけは紛れもない美女……

 当然周囲の注目を集めている。

 女はゆっくりと人通りの多い方へ歩いて行く……

 しかし誰も声を掛けない、声を掛けられない凄味のようなものを纏っている。


 そんな時、一人の男が女の前を横切った……

 次の瞬間……


 パァン!!


「うわぁっ!!?」

「きゃぁぁぁーーー!!!!」


 男は突然弾け飛んだ!

 周囲に血を撒き散らせ、何の前触れも無く男が一人死んだのだった。


 当然辺りは騒然としパニック状態となる、しかしあまりにも唐突過ぎて現実味が湧かない、ドッキリか性質の悪いイタズラのようだ。


 そんな空気の中、女は我関せずと言った面持ちで平然と歩を進める。


 騒ぎを聞きつけ人々が集まって来る……

 すると……


 パァン!! パァン!! パァン!!


 その女の近くにいた者が続けざまに三人ほど弾け飛んだ!


 そこに至って周囲の人々はようやくその女の異常性に気付く、何が起こっているのかは分からないが、この女がやっているのではないか? ……と思い始めた。

 しかしだからと言ってその女の歩みを止める事など出来ない、声を掛ける事すらままならない。

 女が直接手を下したところを目撃した訳ではない。

 そしてその女に近づけば次に弾け飛ぶのは自分になる…… そんな確信があった。


 そんな周囲の目など気にも留めず、女は平然と歩き続ける。

 彼女の行く手を阻むものは例え女子供でもお構いなしに弾き飛ばして…… 女の歩いた後にはまるでレッドカーペットの様に真っ赤な血の道が出来ていた。


---


 女はゆっくりと時間を掛けて歩き、首都で最も多く人が行き交う丸い公園付近へとやって来ていた。

 その頃には警官隊が周囲を取り囲み、さらにその包囲網の外には野次馬が何千人と集まっていた。

 女を中心に半径10メートルほど開けた包囲、ここに至るまでの犠牲者たちは全員その範囲内に足を踏み入れて死んだ、警官に限らず野次馬たちもそれだけの距離がアレば安全だと思いこんでいる。


「おい、アイツってもしかして……」

「あぁ、あの額についてるのって第三の眼……だよな?」

「それじゃアレが妖魔族(ミスティカ)?」


 デクス世界への侵略者・妖魔族(ミスティカ)……

 アルスメリアはその被害を多く被っている、幾つもの都市を壊滅状態に追いやられた。

 しかし被害はこの国に限った話ではない、世界規模で甚大な被害を受けている、中には国ごと滅ぼされたなんてケースもある。


 その犠牲者の数は正確には把握されていないが、優に億は超えていると思われる。


 その元凶が目の前にいる。

 相手が普通の人間ならとっくにリンチが始まっていそうな雰囲気だ。

 しかし月一侵攻を何度も受けたアルスメリアの人々は知っている、満月の日の妖魔族(ミスティカ)はほぼ不死身だと。


 しかし民衆は逃げ出さなかった……


 何故なら数ヶ月前の月一侵攻でネアリスを襲った妖魔族(ミスティカ)の軍を全滅させ勝利したからだ。

 実際には通りすがりの魔王が片付けたのだが、それを知るものは少ない。


 今自分たちが取り囲んでいる女が魔王だとは知らずに……




「随分と沢山いるのぉ…… 天敵がいないと虫はこうも増えるモノか……」


 女の呟きは周囲の人たちの耳には届かない。


「どれ……」


 女は前を見据えたまま微動だにしない、ただし額の眼だけがギョロギョロと周囲を見渡している。


「範囲内に居るのは数万人…… 数だけは多い害虫めが……」


 そこへ周囲を取り囲んでいた複数の警官が捕獲用魔導器を持ちながら距離を詰める。

 しかしあと一歩がなかなか踏み出せない……


「どうした? 来ないのか?」

「ッ!!」


 3つの眼で見られただけで身体が固まりまともに動けなくなった。

 目の前にいる生物は華奢な女の姿をしているがそれはただの見せかけで、人には理解の及ばない高次の生物だと直感させる何かがあった。


「来ないのならこちらから行くか?」


「ッ!! うっ!! 撃てぇぇぇーーーっ!!!!」


 先手を取らせてはいけないという思いと、圧倒的な恐怖から警官は叫び捕獲を命じた!



---



 第一魔導学院


 ウゥゥゥーーー! ウゥゥゥーーー!


 学院中に警報が鳴り響く、敵襲を知らせる警報だ。

 アリアがデクス世界に現れて以来、何十何百と鳴り響いてきたいつもの音だ。


 校長室でアルベルト・ダラスが報告を受ける。


「今度は何処だ?」

『そ……それが……』

「落ち着け、落ち着いて敵の数と位置を報告しろ」


 いつもの事だ…… その時はそう思っていた。


『か……数は不明…… 位置は首都DCです!』

「なんだとっ!!? バカな!! 第一警戒線域内だぞ!? 一体どこから現れた!!」

『不明です……ですが……』

「なんだ?」

『未確認ですが…… 既に数万の死者が出ているとの情報も……』

「バ……バカな……!」


 警報が鳴った時点で数万の死者だと!? それほどの大戦力の侵入に気付かないなど有り得ない!

 まして今日は満月だ! 普段よりも厳重に警戒していた、にも拘らず軍が置かれているここデルフィラの直ぐ近く、首都にいきなり敵が入り込むなど!


「とにかく動けるものを全員かき集めろ! 第二種戦闘配備だ!

 それとエリックに偵察を!」

『了解しました!!』


 何かの間違いだと思いたい…… 誤報だったら……

 少なくともこんな情報はキリヤからは届いていない、アイツの身に何かあったのか? それとも……



---



 第一魔導学院 時計塔


「シュタインシュナイダー特佐、大丈夫ですか?」

「あぁ、傷はもうだいぶ良いんだ、まだ以前の様に走り回るというワケにはいかないがね」


 デルフィラで一番高い建物である第一魔導学院の時計塔に、兵士に支えられたエリックが登って来た。


「しかしあの話、本当なのでしょうか? DCで既に数万の死者が出ているとは……」

「それを確かめる為にここまで来たんだ、にわかには信じがたい話ではあるが……」


 何かの間違いであって欲しい、そもそもそんな大規模な進軍があれば事前に情報が入っているハズだ。


「『千里眼(リモート・ビューイング)』」


 エリックの視界は見据えている方向へ飛び出していく…… まるで鳥にでもなったかのように、物凄い速さで景色が流れていく…… その速度は人の認識が追い付かない程だ。

 数秒と待たずにエリックの視界にはDCの街の様子が映った。


 そこに映し出されたモノは……


 ボロボロに破壊された街と、所々に転がる干乾びた死体だった。


「うっ!!?」

「どうされました?」


 兵士の問いかけには答えず、視線を動かし生存者を探す。

 街の北側は全滅、生存者は一人も見つけられない。


「これは…… 数万じゃ済まない、数十万の犠牲者が出ているかも知れないぞ……」

「ま……まさか…… そんな……」


 しかし南側は完全に手つかだった、街には攻撃の後は見られず、住民たちは怯えているものの死者は出ていない様だった。


「コレは一体どういう事だ? 敵はどこから現れたんだ?」


 街の状況を見るに敵は街の真ん中に唐突に現れたのだろうか?

 そこから北へ向かいながら虐殺を繰り返した…… そう、北へ向かっている。


 つまりデルフィラだ!


 視界を戻しながら敵を探す、今度はゆっくりと……

 アレだけの破壊をもたらした敵の大軍なら直ぐに見つかる、そう思っていたのだが大軍の痕跡は何処にも無い。


「何故だ? 一体どこにいる?」


 その時、視界の端に奇怪なモノが映った。

 一瞬何かのオブジェかとも思ったが、それは確かに動いていた……


 真っ赤な巨大な蛇だった。

 大きさは30メートルくらいあるだろうか? しかしコレは全長では無い、蛇の身体の恐らく半分ほどは血の池の様なモノに沈んでいる。

 その状態で血の池ごと移動しているのだ……


「何なんだ…… コレは…… ん?」


 巨大な蛇の頭の近くに人の姿が見える。

 黒い髪…… 白い肌…… 赤いドレス…… 女が巨大蛇の頭に横乗りしていたのだ。

 魔物使い? コイツがアレだけの人を殺めたのか?


「これだけの惨劇をたった一人で引き起こしたのか? そんなことが出来るのは…… まさか……」


 とにかく女と蛇は真っ直ぐにデルフィラに向かっている、その力は未知数だが油断できる相手では無い。

 直ぐに対応策を検討しなければ……


「え?」


 ふと気づくと、女と目が合っていた。

 まだ数十kmの距離がある、千里眼を使っている自分と目が合うはずが無い。



---



「うん? 見られているな……」


 赤大蛇に乗っている女が独り言を溢した。


「あぁ…… 確か千里眼の使い手がいると言っていたな…… コイツがそうか。

 しかし千里眼使いに価値は無いな……」


 そう言うと女は鋭い視線で相手を睨み返した。


「ふん、下郎に覗かれるのは不愉快だ、殺しておくか……」



---



 ゾク―


 エリックは嫌な予感がして能力を解除した、得体の知れない相手に自分の居場所を知られてしまった!

 千里眼によって常に遠方から相手を認識してきたエリックにとって、自分が認識されるのは初めての経験だった。

 何か途轍もなく危険な相手の様な気がする……


 そんな時だった……


 ドクンッ!!


 心臓が一際大きく鼓動を打った!


 ドクンッ!! ドクンッ!! ドクンッ!!


「ハッ!! ハッ!! ハッ!!」


 自分の意思とは無関係に、心臓の鼓動はどんどん激しさを増していく!


「と…特佐? だ…大丈夫ですか!?」


 その様子に気付いた兵士がエリックを心配するが、返事をすることも出来ない。

 まるで全身の血液が心臓に集まっているかの様に…… いや、実際に集まっているのだ。

 手足からは力が抜け、肋骨を押し上げる様に胸部が膨れ上がっていく、肺が圧迫されまともに呼吸する事もできない。


「ッ!!!?」



 パァンッ!!!!



 身体の耐久力が限界を超えた瞬間、エリックは胸の内側からはじけ飛んだ!!


「ヒィッ!!!?」


 近くにいた兵士はエリックの返り血を全身に浴び腰を抜かした。


「な…… な…… な……!!??」


 一体何が起こったのか…… 兵士には知る由も無かった。

 コレこそがシニス世界で最も恐れられた魔王の力……


 第3魔王マリア=ルージュ・ブラッドレッドのギフト『深紅血(ディープレッド)』であると……




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