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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
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第259話 防衛戦線・後編


---有栖川琉架 視点---


 何かオカシイ……


 お城に入って警備を蹴散らし、地下へと続く階段を見つけ降りてみた。

 さっきから引っ切り無しに魔族が現れ、私たちの行く手を阻む…… そこまでは良い、予想通りだ。


 何がオカシイのかと言うと…… 妖魔族(ミスティカ)が出てこないのだ。


 普通に考えれば貴族が警備に加わる事は無いだろうけど、私たちはお城を無視して地下へ直行した、目的は聖遺物ですと言ってるようなモノだ。

 アリアの中枢である聖遺物を狙われたらもっと慌てても良いハズ……

 でも慌ててるのは魔族だけ、妖魔族(ミスティカ)が出てこない。


 今日は満月だ、不死性の極まった妖魔族(ミスティカ)ならドヤァって顔で出てくると思ってたのに…… 何故か一向に現れない。

 ココは地下だから日光を浴びる心配も無い、それともやっぱり昼間は棺で寝てるのだろうか?


 う~ん…… アリそうだな…… だからと言って棺を見つけても開ける気になれない、と言うより開けられない…… もし仮に開けられたとしても、本当のご遺体とかが入ってたら私はきっと逃げ出す。

 最悪、気絶する。


 とにかく予想と違う事態が起こると不安になる。

 妖魔族(ミスティカ)はどこに行ったのだろう? 妖魔族(ミスティカ)はそんじょそこらの魔族よりも戦闘力が高い、巨人族(ジャイアント)の魔族でもいれば話は別かも知れないが、この通路に人族(ヒウマ)の10倍のサイズの巨人が出てくるとは思えない。

 いや、四つん這いなら出て来れないことも無いかな? なんかちょっと間抜けな姿だけど……



神曲歌姫(ディリーヴァ)反響(エコー)』」


 さっきから何度かミラさんに索敵をお願いしている。

 『反響(エコー)』…… イルカとかクジラみたいに超音波を発して相手との位置を測る能力だ、コレも唄の一種なのだろうか?

 キィィィンと耳鳴りにも似た甲高く小さな音が聞こえる気がするが、実際の超音波を発している訳では無いらしい。

 詳しくは分からないけど、エーテル振動波というモノを放っているそうだ。

 これにより例え音を吸収するような素材でも無視して周囲の状況を探れるらしい…… 射程がそんなに広くないのが弱点だって本人が言ってたけど、それを考慮に入れてもミラさんのギフトは本当に万能だなぁ。


「どうですか?」

「えぇ、だいぶ下の方ですけど、魔物の大群が移動しているのを補足できました。

 方向的に「雨粒」では無いと思います、つまりその向かう先に大事なものがあるということですね…… ただ……」

「ただ?」

「その集団の中にも妖魔族(ミスティカ)はいなかったように思えます」

反響(エコー)で種族まで分かるんですか?」

「普通は分からないです、ただ今日は満月ですから妖魔族(ミスティカ)(ガワ)(コア)に別れてるんです」


 はへ~…… なるほど、それで見極めることが出来るんだ、でもやっぱりココでも妖魔族(ミスティカ)は見当たらないらしい。

 お城に居るのか、玄室で待ち構えているのか…… それとも別の理由だろうか?


 なんとなくこちらの裏をかかれている気がしてならない……

 ナニゴトもなければ良いんだけど……





---霧島伊吹 視点---


 戦況はこちら側に有利だ。


 突撃艇に魔物が詰め込まれていることはみんな知ってる。

 最も有効な対処法は敵が外に出てくる前に突撃艇ごとぶっ壊す勢いでフルボッコにしてやることだ。


 今のところこの作戦はうまくいっている。

 敵は外に出ることなく倒される…… 文字通り袋叩きだ、軽く可哀相になってくる。

 この作戦を考えた奴は鬼だね? やっぱりリリスさんかな?

 いや、この手の作戦はおにーちゃんが得意とするトコロだ、やっぱりウチの魔王の仕業かな?


 ま、楽が出来るならそれに越したことはない。

 さあみんな! 狂ったように戦うがイイ! 私に出番が回ってこないよう全力でな!



 しかし世の中そんなに甘くない……


 まだお昼前なのに空が暗くなった。

 γアリアが南からの日差しを塞き止めている、まだ完全に頭上を覆ってはいないが、第一次防衛ラインの辺りはもう真っ暗でほとんど見えない……

 そんな時だった、とうとう恐れていた事態が起こった。


 第二次~第三次防衛ラインの中間付近で“アリアの雨”が降り出したのだ。

 アレはマズイ! とにかくマズイ! あの物量は圧倒的だ、防衛ラインなんかアッという間に飲み込まれてしまう!

 こちら側が予想してたより3時間以上も早く雨が降り出してしまった。


「むぅ…… 不味いな、突撃艇のせいでこちらの布陣が乱れている、このままでは一気に押し流されるぞ」


 なんでウチのおにーちゃんは妹のピンチの時にいっつも居ないんだろう? シスコンのクセに!

 ……ん? まてよ?


「出来るかどうか分からないけど…… ちょっと試してみます」

「イブキ?」

「伊吹ちゃん?」


 魔神器から魔力微細制御棒(アマデウス)を取り出す。

 大丈夫、きっと出来る、私の才能はおにーちゃんには及ばないかもしれないけど、それは比較対象が異常なだけだ、私には才能がある!


「『世界拡張(エクステンド) 1:9』魔術技能拡張!

 第3階位級 火炎魔術『神炎御魂』カミホノミタマ × 第3階位級 風域魔術『鳴風神威』ナリカゼカムイ

 合成魔術『極紅炎陣』クリムゾン=ボルテクス!」


「おおっ!?」

「これは神那クンの……!」


 自分の才能の限界を才能(ギフト)で無理やり突破し、強引に極紅炎陣(クリムゾン・ボルテクス)を発動させる。

 暗くなった空一面に巨大な炎の渦が現れて街全体を照らし出す、その渦は降ってくる雨粒を八割方焼き尽くしてくれる。

 やっぱり私って天才だね♪ ……てか。


「くぅぅぅ~! 制御ムズい!」


 世界拡張(エクステンド)は合成魔術発動にだけ使用した、それくらいやらないと成功しなかったんだけど、その後の制御は自力で行わなければならない。

 これが激ムズ!!

 おにーちゃんナンでこれの制御を手放せるの!? 一瞬でも気を抜くと直ぐに消えてしまいそうだ!


「でかしたぞイブキ! 流石はカミナの妹だな!」

「伊吹ちゃんスゴイ!! 神那クンみたい!」


 おにーちゃんを基準にして褒められても全然嬉しくない!

 褒めるなら私個人に惜しみない賞賛をプリーズ!


「とにかくそんなに長時間維持できません、今のうちの体制を整えるなり、対策を練るなりしてもらわないと!」


 どれくらい保つかな? 初めて使うからわからない、まぁ1時間はムリだと思う。


「ふむ…… 今回は雨は降る範囲が極めて狭い、広範囲に降られると対策のしようがないが、今回に限って言えば対策は可能だろう。

 アリアの雨・本降りは常に一箇所に降り続ける、それはアリアが移動しても変わらない。

 そこに戦力を集めこちらも物量で押せばなんとか対抗できるかもしれん……

 1/4アリアは雨の降る時間も1/4だからな。

 ……ただ、このケースでも時々こちらの意図しない場所からにわか雨が降ることがある。

 そうなると手の施しようがない」


 要するに運か…… 他に方法がない以上それで行くしか無い。

 どーとでもなれ~!


「まぁ運が良ければ琉架ちゃんたちが予想より早く聖遺物を抑えてくれるかもしれないし」


 そっちも運かぁ…… お姉様、あなたのスールがピンチです! 助け……



 ブシュウウゥゥゥーーー!!!!


「へ?」

「な……なに?」


 突然スチームが勢い良く漏れるような音がした。

 音の発生源を見ると実際にスチームが漏れている……

 先程のキラッキラの突撃艇・リミテッドエディションからだ。

 スッゲー嫌な予感がする……


「アレはまさか……」

「嘘でしょ…… またあいつ等なの? 私結構トラウマになってるんですけど」


 ジークさんとサクラ先輩、二人の反応を見れば大体何が来たのか予想がつくけど念のため……


「あの…… 何が起こったんですか?」

「アレは妖魔族(ミスティカ)だ、自らの身体を霧化して突撃艇に潜んでいたんだ」


 やっぱりかー!


「γアリアが陽の光を遮るのを待ってたんだね、満月の日の昼間は引きこもってろよクソ種族!」


 サクラ先輩が辛辣だ、でもその意見には全面的に同意する。

 出てくるんじゃねーよクソ種族!


 突撃艇の周りに立ち込めた霧は次第に人の形に固まっていく……

 その数、20人以上いそうだ、もしかしてルストナーダ家の貴族が全員集合してるんじゃないの?


「アイツは……? まさか…… いや、こんなところにいる筈が……」

「ジークさん?」


 ジークさんが妖魔の群れを見て困惑してる、知り合いでも居たの?

 誰を見てるんだろう? 先頭に立ってるオールバック三つ目かな?


 あ、校庭待機組が動いた、伝説センパイが妖魔軍団にコンタクトを図ろうとしてる。

 ガンバレ~! 私今動けないからこっちに来ないようにお願いします。



---



「お前たち…… 妖魔族(ミスティカ)…… だな?」

「………… それ以外の何かに見えるのか?」

「一応…… 目的を聞こう」

「分かりきったことを聞くな、お前たちを根絶やしに来た」

「ッ!!」

「だがその前に一つ訪ねたい」

「……なんだ?」

「人を探している、髪は明るめの茶色、年格好はお前に似てる、やたら偉そうで常に人を小馬鹿にしている、反魔術(アンチマジック)使いの男だ」


「…………」


(確実にアイツだ! この世にこの条件が当てはまる奴はアイツ以外存在しない!

 妖魔族(ミスティカ)の男の目は怒りに燃えてる感じだ…… また何かやったな?)


「生憎と今は居ない、何処に居るのかも分からない」

「そうか、ならばお前らを皆殺しにして待つとするか、ココに居ればアイツは現れうのだろ?」

「ッ!! そう簡単に殺られはしないぞ?」

「フッ、下級種族の分際で対抗できると思ってるのか?」


「ならば試してみろ!

 自己加速(アクセラレイト)・身体強化魔術併用! 速力100倍!!」


 伝説は目にも止まらぬ速さで動き、次の瞬間には剣を振り抜いた体勢で男の背後にいた。

 漫画やアニメでよく見る構図だ。


 しかし……


 ブシュゥゥゥーーー!!!!


 斬られたのは伝説の方だった。

 肩口から勢いよく血が吹き出す!


「ぐああぁぁっ……がはっ!!??」


「……え?」

「な…なに!?」



---



「やはり間違いない」


 え? え?


「ジークさんのお友達?」

「アイツはマリア=ルージュ・ブラッドレッドの第1位使途、ディートヘルム・ステンデルだ」


 第1位使途? そんな奴が何でココに? おにーちゃん仕事しろ!!


「サクラよ、イブキを守れ、命懸けでな」

「えぇ~? 戦闘能力的には私の方が守って欲しいんですけど…… ジークさんは?」

「アイツの能力は『業反射(リフレクション)』…… 正攻法では倒す事の出来ない相手だ」


 『業反射(リフレクション)』…… つまり何でもはね返す…… うん、確かにムリっぽい。


「俺がアイツを押さえる……が、他の妖魔族(ミスティカ)までは手が回らん、イブキがやられればこの街は一気に滅ぶ、頼んだぞ?」


 それだけ言うとジークさんは飛び出していった……

 コレってもしかして私が狙われるのかな?


 いやぁぁぁーーー!!


 おにーちゃん!! お姉様!! 誰でもイイから助けてぇー!!




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