第256話 悪堕ち
さて…… どうしたモノか……
瞬間移動で視界の外に逃げても、恐らく障害物無視で追尾してくるだろう、俺の魔力波長でロックされてるからな。
ゲートを使って射程範囲外まで逃げれば問題無いだろうが、それはあまりにも無駄が多すぎる。
俺がEMPバーストを使ってもヤツの強電磁波に阻まれて対魔王撃滅用補助魔導器までは届かないだろう。
一番効果的なのは攻撃される前に、物理的にアイツをぶっ殺すコトだ。
如何に強力な電磁波で身を守っていようとも、所詮は電磁波。
正確な位置が分かっていれば転移攻撃で簡単に仕留められる……が、情報を引き出す前にぶっ殺す訳にはいかない。
そうなってくると別のプランが必要になってくる。
アイツを殺さずに無力化するには、反魔術領域でアイツの魔術自体を無力化してやるのが確実か。
ただ魔神器を壊されたせいで魔力微細制御棒が取り出せない……
いや…… 今の俺ならそろそろ魔力微細制御棒無しでも反魔術領域や、第2階位級を制御できるかもしれない……
ふむ…… 試してみるか。
「魔力収束率90%…… 91%……」
おっと、急がないと後20秒も無いぞ。
「97%…… 98%…… 99%……」
「…………」
「魔力収束率100%!! 喰らえ!!
第3階位級 氷雪魔術『白冷神楽』ハクレイカグラ! フルブースト!!」
キリヤの頭上の水晶から四方八方へと青白い光の帯が放たれた!
「反魔術領域」
白冷神楽が放たれるのとほぼ同時に、魔術法則を強制的に書き換える反魔術領域が展開される。
光の帯は領域の境界に触れた箇所から無効化され、ただの魔力へと変わり霧散していった。
「なっ!? 何だと!!?」
やった! さすが天才美少年! 補助無しで古代魔術の再現に成功した! 俺ってマジで天才なんじゃねーか?
一方キリヤは驚愕の表情を浮かべている、どうやら俺が反魔術領域を使える事は知らなかったらしい。
調査が甘い、対魔王戦で調査不足は命にかかわるぞ?
いっつも調査不足で魔王に挑み、散々な苦労をしている俺が言うんだから間違いない。
「ば…馬鹿なっ!? 一体何が!?」
何が起こったのか分からないキリヤは呆然自失状態、隙を見せた、当然隙は突くためにある。
「イケメン殺しドロップキーーーック!!」
「なっ!? ……ブッ!!?」
俺のドロップキックがキリヤの顔面を捉えて吹っ飛ばす。
相手を殺さずに無力化するにはこんなものではまだ足りない、そのまま追撃へと移行する。
キリヤは真後ろへ吹っ飛ばされ一回転し、片膝をつき体勢を整えようとする…… その頭上へ瞬間移動。
「イケメン殺しカカト落とし!!」
「ッ!!?」
ズドン!!
脳天にカカトを叩き込み、そのまま床に叩きつける。
キリヤは顔面を床に強かに打ち付けた、反動で僅かに浮き上がった頭を胴体から切り離す勢いでドライブシュート!
バギィイッ!!!!
「……ッ!!」
悲鳴を上げることも出来ず後方へ転がっていく。
しかし驚いたことに数メートル転がったところで無理矢理回転を止め、反撃に転じてきた。
凄ぇ…… あの頑丈な勇者でさえなすがままだったのに…… イケメン殺しは勇者殺しより遥かに凶悪なのに……
「ガフッ……! グ…… だ…第7階位級…氷雪魔術『氷弾』アイス・ブリッド…!!」
キリヤが魔術を行使する…… しかし魔力は形を成さずその場で霧散するだけだった。
喉を潰すつもりで蹴ったのに耐えたか…… さすが第3魔王の側近、勇者以上に頑丈だ。
「な……なぜだ? なぜ魔術が使え……ない? これは反魔術なのか?」
「まぁ似たようなモノだ」
キリヤが膝を付き起き上がろうとしている所へ一気に距離を詰め、地面に落ちている物を拾い上げる様な軌道でアッパーを放つ!
「イケメン殺しアパカー!!」
「ッ!!!!」
ビキッ!!
顎の骨が割れるような音と共にキリヤの身体が浮き上がる、そして重力に引かれて落ちて来たトコロへ……
「イケメン殺しケンカキック!!」
「グフッ!!!!」
相手の胸に全体重を叩き込むような蹴りを撃つ、足の裏に何やら嫌な感触があった……
キリヤは激しく後方へ転がり動かなくなった。
さすがにこれだけやればしばらくは動けまい。
でも念の為、意識を失っている内に血糸で拘束しておくか。
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「うっ……」
キリヤが目を覚ました。
「おはようございます」
「……霧島……神那……」
まだ寝ぼけてるのか状況を判断できてないらしい。
しかし自分の身体が動かない事に気付くと、何が起こったのか思い出したようだ。
「俺は…… どれだけ寝てた?」
「ほんの2~3分だ、さすが使途、頑丈だな? 普通の人間なら3回は死ぬ攻撃だったのに直ぐに目覚めた」
「お前は…… 先輩に対して随分容赦ないんだな?」
「かつて勇者にも似たような仕打ちをしたことがあったけど、その時より強めにいかせてもらいました。
俺達は面識が無かったですからね、人類の裏切り者に手心を加える理由は無い、クリフ先輩ならあんな真似は出来なかっただろうが……」
「お前は一体勇者に何をしたんだ? いや、お前は魔王だから勇者を打ち倒すのも仕事の内か……」
そう、俺だってなにも好き好んで勇者をフルボッコにした訳じゃ無い、心を鬼にして涙を堪え、笑いを我慢しながらタコ殴りにしたんだ。
だって俺、魔王だから。
「さて…… では約束通りこちらの質問に答えてもらいましょうか? まずは何と言ってもマリア=ルージュの居場所だ。
それともまだ負けを認めませんか? もしそうなら動けない状態のアンタを死なない程度に殴り続けます」
「さすがは魔王…… 非道な行いもお手のものというワケか……」
「これでも優しい魔王様を目指してるんだけどねぇ…… でも今回は別だ。
さっきも言ったが人類を裏切った奴に手心を加えるつもりはない」
「裏切りか…… 果たして人類を裏切っているのはどちらかな?」
「あん?」
どう考えてもお前だろ。
シンバシのお父さん100人にアンケート取っても「お前が裏切り者だ」って言うよ。
俺は魔王になっても人類を裏切ってないからな?
それに比べてお前はどうだ?
人類を裏切りマリア=ルージュのデクス世界侵攻の手引きをした……
その為にどれだけの人が犠牲になったと思ってんだ?
お前の行いは世界レベルで被害が出てる、対する俺の非道の行いで被害を受けてるのは精々勇者くらいのものだぞ?
そして勇者は魔王と戦うのが宿命だ、文句を言われる筋合いはない……よね?
「霧島神那…… お前は知らないのか? いや、知ってるハズだ、俺達創世十二使は…… デクス世界の全ての住民は、第12魔王の手の平の上の駒に過ぎない事を……」
「第12魔王リリス・リスティス……」
「そうだ……」
コイツはリリスの存在を知っている…… だからリリスと関連の深い施設ばかり狙っていた。
マリア=ルージュに聞いたのだろうか? いや、マリア=ルージュは何故リリスがデクス世界に居る事を知っていた?
アーリィ=フォレストですら知らなかった事を……
いや、何と言っても上位種族・妖魔族出身の魔王だからな、デクス世界からやって来るトラベラーの傾向を見て推理したのかも知れない。
引きこもりのインテリ魔王にはそんな真似できないからな。
確かにコイツの言う通り、俺達はアイツの駒扱いだった、そう考えればちょっとムカつくのも分かる気がする…… しかしだからと言ってそれを人類を裏切る理由にするのは弱すぎる。
ではなんで俺はアイツの味方をしてるのだろうか? 理由は簡単だ、アイツ自身がマリア=ルージュと戦うからだ。
自ら一番厄介な魔王と戦おうとしている…… 完全に人任せでだったら俺も信用はしなかっただろう。
裏で手を回し自分は安全な所から見ているだけ…… そんな奴は信用に値しない。
決して味方しないと性犯罪者にされるからじゃ無い…… いや、それも理由の一つだが……
「マリア=ルージュに何を吹き込まれたんだ? 正直アイツの目的がイマイチわからない」
「マリア=ルージュ様の目的は…… 神に至ることだ」
「……………………
はぁぁぁぁぁ~~~ぁ??」
思わず変な声が出た、最凶の魔王様が急に安っぽく見ててきた、なんだよ神に至るって…… 要するに神様になりたいってことか? あんなのが神様になったら世界中がディストピアだ。
だが何となく納得いく部分もある、もともと妖魔族は自らをもっとも神に近い種族だと思いこんでるんだよな…… 創世神話では竜人族の次に神族に近しい種族といえる。
そういった選民意識を突き詰めていくと、行き着く先は神の領域だ。
俺には理解できない思考回路だ、神になるよりハーレムを作る方が重要だろ?
「それでアンタはマリア=ルージュに同調して人類を裏切ったワケか」
「それは違う、俺はマリア=ルージュ様と目的を共有していない、俺は裏切ってなどいない」
この期に及んで何を言い出すんだコイツは? お前の行いが裏切り行為でないというなら、俺がリリスのオッパイを揉んだアクシデントもただの事故と言える。
いや、紛うコト無きただの事故だったんだけどさ……
「俺の目的はあくまでもデクス世界の開放だ」
「………… はぁ?」
「その為に最も効率のいい方法を選択したまでだ、即ち魔王の同士討ちだ。
マリア=ルージュ様は第12魔王を倒すためにデクス世界へ赴くつもりだった……
俺は第12魔王の洗脳施設を潰したかった……」
…………ナニ言ってるんだコイツ?
「………… それでオリジン機関本部や魔導学院を狙ったのか?」
「そうだ、アソコは第12魔王の眷属養成施設とも言える、未来ある子供のためにも真っ先に潰さなければならない」
コイツ…… 完全に狂ってる……
それでどれだけの未来ある子供が犠牲になったと思ってるんだよ? 逆に未来を奪ってるじゃねーかよ。
正義感の強い人物と聞いていたがとんだクレイジーサイコ野郎だ、もしかしてマリア=ルージュに操られてるんじゃないのか?
『深紅血』には隠された能力があるなんて話もあったし……
まぁそれはいい、どちらにしても無罪放免には出来ないんだから、むしろコイツをどうするか…… 本来なら第3魔王襲来の主犯として当局に引き渡すところだが、コイツには俺の正体を知られている。
下手に引き渡せば自分で正体をバラすようなものだ、俺だけならともかく琉架も道連れになる…… それは出来ない。
ミラに記憶を消してもらうか、白に頭の中を破壊してもらうか…… 後者のほうが安全だな。
使徒化したこいつ自身が裏切りの証拠になると思う。
とりあえずコイツのことは放置だ、今はそれより急がなければならない事がある。
「お前のトンデモ理論はどうでもいい、マリア=ルージュは何処に居る?」
「フッ…… フハハ…… フハハハハッ!!」
キリヤは急に気が狂ったかのように笑いだした。
oh crazy……
「今更手遅れだ、マリア=ルージュ様は御自身の目的を果たしに向かわれた」
「なに?」
「神に至るために必要な“鍵”を得に……!」




