第255話 第3魔王の側近・後編
創世十二使……
それは魔王を倒す為にデクス世界で産み育てられてきた世界最強の12人の能力者の称号である。
恐らく十二魔王に対抗して12人選ばれるのだろう、恐ろしく安直である。
世界中から素質と才能のある中坊を集め、研鑽し競わせ、いずれ魔王殺しを成し遂げる人材を育成するのが目的の機関、オリジン機関の修了者の事を指す。
しかし実際は第12魔王が自分の邪魔になる魔王を排除できればなぁ……って思惑があり、優先して倒すべき魔王とそれ以外で授業内容も明確に分かれていた。
その証拠に、授業では第12魔王のコトは一切触れられなかった…… 情報操作だな。
まずオリジン機関に選ばれること自体がエリートの証とも言われる、0.001%の才能を持つ者たちだ。
更にその中から創世十二使に選ばれる者は0.1%以下と言われる……
超エリートだ、ただし其処まで行くと残ってるメンツは超天才か超変人のどちらかだろう、少なくともまともな奴は残れない。
そのオリジン機関も先頃壊滅し、最後に選ばれた創世十二使は超天才の有栖川琉架と、超変人の霧島神那の二人だった。
さて…… この創世十二使には序列というモノがある。
最初は年功序列が適応され、新人はもれなく最下位からスタートする、デクス世界で生きている限りこの序列が動くことは殆んど無い。
あまりに能力に差があった場合、新人と入れ替わりで落ちる奴もいるらしいが、ここ数年そう言ったケースは無いらしい。
あとは定年で自動で席が繰り上がっていくとか……
ただし極稀に成し得た功績により序列が変動する事もある。
デクス世界での功績は主に災害時と紛争時で得られる。
本来、創世十二使とは国連直属の魔術師であり軍人では無い、が、自国の軍に所属する者も少なくない。
災害功績は自然災害の被害を押さえる事に尽力したり、大火災などの人災の被害を最小限に食い止めたりすることだ。
主に救援活動である、さすがに災害を未然に防ぐのは難しい。
一方紛争功績はちょっと血生臭い、例えばテロリスト組織を壊滅させたり、反社会的勢力をこっそり始末したり……
そういった功績を多く収めた者が序列一位となる。
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元・創世十二使、序列一位 赤木錐哉……
直接の面識は無いモノの、その噂は聞いたコトがあった。
強さと厳しさ優しさを持ち合わせた立派な男だったそうだ…… この印象だけ聞くと偽善者というイメージしか湧いてこないのは俺が捻くれ者だからだろうか?
だが彼はただの偽善者では無かった、実際に弱きを助ける為に紛争地帯に単身で飛び込んだ事も何度もあった。
また某独裁民主主義国家に個人で圧力を掛けた事もあったそうだ。
個人でどうやって国家に圧力を? とも思ったが、彼には信奉者や支持者が多かった、そして他の創世十二使からも慕われていた。
そういったコネクションパワーを使い虐げられる者を救っていたとか……
ただし創世十二使である以上、そう言った活動が表の世界で報道される事は無かった、故に表の世界で彼の名を知る者は少ない。
しかし裏の世界ではある種のヒーローのように扱われていたらしい。
そう言えばクリフ先輩も彼のファンだったなぁ…… この話もクリフ先輩から聞きたくも無いのに無理やり聞かされたモノだ。
ちなみにシャーリー先輩は彼の事があまり好きではなかった様だ、あのヤンキー崩れとは対極に位置する好人物だからな、その気持ちもよく分かる。
そんなシャーリー先輩ですら個人的感情は抜きにして、赤木錐哉という人物を認めていた様だ。
あのヤンキー崩れのエセセレブですら認める人物、赤木錐哉……
MIA(戦闘中行方不明)で既に死亡していると思われたが、もし生きているなら一度くらいは会っておきたい……そんな人物だった。
……ところがだ。
生きてたんだよねぇ……
第3魔王マリア=ルージュ・ブラッドレッドの側近、キリヤ・レッドウッドと名を変えて……
いや、名前も変わってねーよ、本名そのまんまだった。
イケメンだからすぐには気付かなかったよ、絶対ゴリラフェイスだと思ってたのに……
そしてコイツの正体が明らかになった事により、今まで謎だった部分が一気に解けた。
「はぁ…… 人類を裏切りマリア=ルージュに情報を流していた裏切り者はお前だったのか」
「ふっ…… 辛辣なモノ言いだな」
悪堕ちだよ悪堕ち、今まで正義の使途だった奴が悪に染まってしまった。
「おれは しょうきに もどった!」って言っても絶対に信じないからな! この装備ドロボーめ!!
悪堕ちは美少女キャラがやるから良いんじゃないか、悪堕ちした美少女キャラは衣装がちょっとエロくなったりするアレだ、男の衣装がエロくなっても嬉しくもなんともない。
まぁアイツは執事っぽい服を着込んでいるからエロさもセクシーさも無いんだが……
「ミニアリアがオリジン機関関連施設ばかり狙っていたのもお前の差し金か?」
「当然だ、オリジン機関の目的は魔王を倒す事なんだからな」
「ハゲ校長に偽情報を流したのもお前か?」
「ハゲ? あぁ、ダラス校長のコトか、俺は一時期あの人の元で働いてた事があってな、自分で言うのもなんだがかなり信頼されていた、俺の流す情報は全く疑われなかったよ」
その所為で俺と琉架はあらぬ疑いを掛けられたんだぞ? 俺にはコイツを私刑に処す権利があると思うんだが……
「………… なぜ、マリア=ルージュの側に付いた?」
「お前に話す必要は無い」
「確かにそうだけど気になるじゃん? お前を殺した後に何でだったのかな~って思っても、その頃には答えを知る事ができないんだから」
「…………フッ、イイだろう、俺に勝てたら教えてやるよ」
うわ、結構単純だなコイツ、こんな安い挑発に乗るとは…… やっぱり後輩にバカにされるのは嫌なのかな?
とは言え、あまり油断できない相手ってとこは変わらないんだよな、何と言っても創世十二使の一位だ。
それは即ち対魔王戦のスペシャリストとも言える。
更に俺と琉架のコトを調べていた、魔王の力を受け継いだことも知っている……
にも拘らずアノ自信、何か対策でもあるのだろうか?
ただ正体が分かったことでこちらも一つ有利になった点がある。
それは手品の種が割れたことだ、かつて見た創世十二使設定資料に序列一位のギフトが書かれていた。
ヤツの能力は『電子の悪魔』……
電磁波に限らず可視光から単純な電撃まで操る、いわゆる電撃使いと呼ばれる奴だ……ったと思う。
ちょっとうろ覚えだが、デクス世界でなら世界を滅ぼせる能力だと思った記憶がある。
強力な電磁波で自身を覆い隠すことにより自分の存在そのものをこの世から一時的に消し去れるとかなんとか…… 本当にそんな事が出来るのだろうか?
そう言えば昔デルフィラで同様の科学実験を行ったって都市伝説があったな、アイツの能力名もその実験艦に由来しているとか……
強力な電磁波は時空を歪めるという…… しかし奴はこの世界を滅ぼすつもりは無いらしい。
その気があるならとっくにやってる、防空システムを狂わせて核を撃ちまくればいいだけだからな、恐らく人族を奴隷にする為か…… 或いは僅かな良心でも残っていたのか……
まぁそこら辺は後で拷問でもして聞き出せばいいか。
「さて、それでは魔王殺しを何度も成し遂げた天才少年の実力を見せて貰おうか!!」
天才だってさ、この変人を捕まえて過大評価もいいトコロだ。
まぁいい、そこまで言うなら見せてやろう、この自称・天才美少年の真価を!
パチッ!!
先程と同じく静電気が飛ぶ、恐らく能力発動の合図だろう。
キリヤは大剣を構えたままゆっくりと歩いている、しかしアレはまやかしだ、分からないのは何故そのまやかしがオーラを纏っているのかだ。
……いや、違う。
アレは一種の残滓の様なモノ。
今この瞬間、キリヤの存在は空間的に引き伸ばされているんだ、本体の99%が認識不能空間に潜り込み、トンネルの外に残っている影を見ているんだ。
この仮設が正しければ目視でアイツを捉えることは不可能、視力は必要ない。
『弐拾四式血界術・弐拾壱式『血霧』』
かすり傷から漏れた血が霧に変化して周囲に立ち込める。
アイツの移動術は瞬間移動でもなければ時間停止移動でもない。
認識できないだけで確実にそこに存在している。
血が少ないから霧の密度は相当薄いが問題ない。
スゥー……
ヤツが通った場所の霧が認識できなくなる…… キリヤに触れる事により霧が認識不能空間へ落ちて行ってるんだ。
フハハハハッ! お前の居場所など手に取るように解るわ!
「第4階位級 火炎魔術『皇炎』ラヴィス・レイム」
「なっ!!?」
キリヤの攻撃にカウンターで魔術を叩き込んだ!
普通の人族なら第4階位級魔術の直撃を受けたら即死しかねないが、使途ならまぁ大丈夫だろう。
「ぐっ!!」
ちょっと焦げてるキリヤが爆炎の中から飛び出してきた。
「まさか…… たったコレだけの時間で俺の位置を看破されるとは思わなかったぞ?」
「お前は天才美少年を甘く見過ぎだ」
「………… 美を付けた覚えは無いんだがな?」
やかましい、要らないツッコミをするな。
「ならば真正面からお前を打ち倒すまでだ!」
キリヤが懐から何かを取り出した、カードのようだが……魔神器?
あんにゃろう、自分の魔神器は壊れない様にアルミホイルにでも包んでおいたのか?
「『対魔王撃滅用補助魔導器』展開!!
第3階位級 氷雪魔術『白冷神楽』ハクレイカグラ!! スタンバイ!!」
キリヤの頭上に巨大な水晶のような球が浮かび上がった。
げっ! 対魔王用決戦兵器『対魔王撃滅用補助魔導器』!?
『対師団殲滅用補助魔導器』と違って敵単体に対して威力と命中率を極限まで上げる魔導器だ!
これにより放たれた魔術は2階級分、威力が跳ね上がるって噂を聞いた……
つまり今俺にロックオンされてる白冷神楽は第1階位級の威力があるという事だ……
これを拡散誘導で放たれると反魔術でも消し切れない……
「これはお得意の反魔術でも消し切れないだろ?」
ちっ…… しっかり研究してやがる、それは魔王に向けて撃つモノであって対人戦で使っていい兵器じゃ無いだろ!
まぁ本来の用途通り魔王に向けて使ってるけど…… 第3魔王に使えよ! 裏切り者め!!
ただしこの『対魔王撃滅用補助魔導器』には弱点がある、それは威力が高すぎるが故に味方を巻き込む恐れがある為、敵との1対1でしか使えない点だ。
さらに充填に時間が掛かる点も。
敵と1対1で対峙したときゆっくり溜めていたら攻撃してくれと言ってるようなものだ、俺は相手の変身を行儀良く待つ怪人とは違う、魔王様だ、魔王様は敵が隙だらけなら当然攻撃する。
「第3階位級 火炎魔術『神炎御魂』カミホノミタマ」
かつて魚介系使徒の身体を一撃で半分ほど吹き飛ばした、一点集中型火炎魔術を放つ!
もしかしたら死ぬかも……
バチィィン!!!!
「お?」
神炎御魂が弾かれた…… やっぱりそうだよな、なんの対策もせずに隙を見せるハズ無いよな。
恐らく強電磁波で軌道を逸らしたんだ、その電磁波で対魔王撃滅用補助魔導器は壊れないのだろうか?
まぁ電磁波を操れる奴が自分の武器を壊すハズ無いか…… なんかズルいぞ!