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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
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第252話 魔王城 ディグニティ・前編


「そこまで言うなら協力してもらおうか……」


 信用には値しないが、何かの役に立つかもしれない。


「我々に何をさせる御つもりですか?」

「そう身構えるなよ、平和に暮らす一般人に荒事を強制する気は無い」


 満月の妖魔族(ミスティカ)が味方なら心強いが、一緒に戦えとか言う気にはなれない。

 コイツ等に背中を預けるとか絶対に御免だ。


「俺の仕事に関する情報提供だ、知りたい事は二つ。

 魔王軍……いや、魔王城・ディグニティに居るマリア=ルージュの眷属について……

 そして第3魔王マリア=ルージュ自身について……

 この二つだ」

「なるほど、情報提供ですか……」


 コイツ等からもたらされる情報は容易に信用する事は出来ない。

 だからさっき必要に脅しを掛けておいた、もし嘘情報を流したらエスニック・クレンジングしちゃうぞ?って意味でだ。


「そうですね…… ご協力すると申し上げた手前、こんな事を言うのは恐縮なのですが……

 その二つの情報は我々もあまり持ち合わせが無いのです」


 やはりそうか…… まぁ予想はしてた、自分たちは魔王軍とは一切関わりないと言い切るくらいだからな。


「でもそうですね…… 魔王軍に関してはほぼ全て出払っている可能性が高いです」

「なに?」

「私たちは魔王軍と関わり合いがありませんが、自分たちの頭の上に駐留している軍の事くらいならなんとなく分かります」


 なんとなく……か、頼りないソースだな。


「先日、デクスアリアに大多数の兵力を移動させたようです」


 …………


 もしこの情報が正しいなら琉架達……は大丈夫だろうけど、高天の防衛がヤバいかも知れないな。

 そもそも兵力が殆んどいないなら俺がココに居る理由が無い、さっさとリリスを呼んで俺は防衛に回った方が良いんじゃないか?


 どちらにしても情報の真偽は確かめないといけないな、本当に軍がいないなら簡単にマリア=ルージュの元へ辿り着けるハズ!


「それからマリア=ルージュ様についてですが、残念ながら私がお教えできる事は殆んどありません」


 こっちもか…… 役に立たない情報源だ。


「だったら案内してもらおうか?」

「案内……ですか?」

「魔王城・ディグニティまでで良い、さっきお前の茶番に付き合ってあの糞ガキを見逃してやったんだ、それくらいしてもイイだろ?」

「! …………わかりました、ご案内いたしましょう。

 どうぞこちらへ……」


 イケメン妖魔は俺を先導するように歩き始めた。

 衆目に晒されながらその後を付いて歩く……


 歩きながら考える、魔王軍が不在という情報について……

 なにかコチラにとって都合が良すぎる気がする、何かの罠の可能性は考えられるか?

 タイミング良く現れた情報提供者ベルタの存在は? コイツ等は本当に敵じゃないのか? 疑いだしたら切りが無い。

 一つずつ確認していくしか無い、魔王軍は居て当然、居なかったらラッキー程度に思っておこう。

 もしこのイケメンが俺を騙したのだとしたら、制裁はしっかりさせてもらうがな。



---



 歩くこと数十分……

 例の塔の根元に辿り着いた、何か移動手段は無いのかよ? 飛べば1分で着く道のりだ、道も広かったし普段は馬車かなんかを使ってるんだろ?


 この分だと塔の中には階段しかない可能性もある……

 見上げてみれば天井までの高さは200~300メートルはあるだろうか? 更にその上の岩盤の厚さを考えるとスカイのツリーより高そうだ。

 そんな所を歩いて登ってたらキリが無いな……


「どうぞこちらへ……」


 イケメン妖魔が重そうな扉を開き中へ入って行く、一応伏兵に備えて緋色眼(ヴァーミリオン)を開いておく。


「普段、我々ルートの民はこの塔に近づく事を許されていません」

「? そうなのか?」

「この塔は魔王軍の管轄です、この敷地に立ち入るだけでも許可が必要なんです。当然警備も厳重なのですが……」


 人っ子一人いない、警備は愚か生物の気配一つしない、緋色眼(ヴァーミリオン)で覗いて見てもやはり誰のオーラも見つからなかった。


「私も長いコト生きていますが、こんな事態は初めてです。

 この状況も軍を総動員したという事の根拠になりますね……」


 コイツが話した事が全て事実なら、確かにこの状況は軍の不在の根拠になり得る…… 兵士の詰所なんかもあるし普段は警備されているのは本当らしい、ただし人が居なくなったのが最近かどうかは分からないが。


「上に昇るのはアレを使いましょう」

「アレ?」


 そこには重石が大量に乗せられた籠があった。


「交差式のエレベーターです、階段もありますが時間が掛かり過ぎますので」


 おぉ! コレは有難い! ……んだが、このシンプルなエレベーターを見ていると、昔筋肉に連れられてダンジョン攻略に付き合わされた記憶が甦る。

 近年、美少女に囲まれた幸せな日々を送る俺の輝かしい歴史の中で、時折り現れる暗い影の部分…… その一つだ。


 あの時ほど手作り感に溢れてないが、それでも結構ボロッちい…… もしかして2400年前に作られたモノを未だに使ってるのだろうか?

 アリアの文明レベルは大空洞を遥かに下回るな……



---



 αアリア 地表


 エレベーターのおかげで一気に地表に出るコトが出来た。

 多分1000メートルくらいあったな、階段で昇ってたら相当時間を無駄にしただろう…… 乗り心地はガタガタ揺れて最悪だったけど……


 地表に出ると空は雲一つない濃い青空、そして例の赤いオーロラ、手を伸ばせば届きそうな気がするほど近い位置に出ている…… そんな空をバックに巨大な城が聳え立ってる!

 その城はあまりにもデカくて全貌が把握できない、横幅だけでも数km、高さも更に1000メートルはありそうだ。


 魔王城・ディグニティ……


 シニス世界で最大の城だという伝説があったが、デクス世界を含めたってここまで大きい城など他に存在しない。

 しかもただデカいだけじゃ無い、遠目に見ても分かるほど繊細なレリーフや彫刻、そう言った高級感を演出するオプションがこれでもかってほど大量に散りばめられている。


 この城の設計図を一人で描こうとしたら100年くらい掛かりそうだ、更に建設には百万人の奴隷を使っても数百年は必要だろう……

 てか、人の手で立てられるレベルじゃ無いだろ? もしかしてノエル=グラスランド作か? いや、作風が違う気がする……

 とにかく貴族趣味の究極系! この世で最も高い買い物があるとしたらきっとこの城だ。

 魔王城・ディグニティとはそういった城だった。


 そしてクッソ寒い! 忘れてた訳じゃ無いがやっぱり南極だなぁ。

 アリアには空圧領域というモノがあり、風が吹く事は無い……が、空気自体が超冷たい!

 ここからでは確認できないが、恐らく雲の上だ、空気も薄い気がする。

 この城の最上階は海抜何メートルだ?

 まさかスカイキングダムみたいに中身は異次元空間なのか?

 ここは魔王城だ…… あり得る……


 しかしここまで広い城になると、中を確認しながら進むのは無理がある、一人でやってたら何日かかることやら……

 いっそ最上階まで飛んでいって魔王の居室の外側で増援を食い止めていたほうが楽だろ?

 もっともそれだと俺の仕事は達成できない、アイツの使える“血”をアイツの近くに寄せちゃダメなんだから。


 はぁ……


 考えれば考えるほど頭の痛い問題だ。

 核融合で吹っ飛ばすか? 血液も何もかも蒸発させる勢いで……


「魔王様、少々宜しいですか?」

「ん?」


 あぁ、イケメン妖魔がまだ居たのか、もう帰ってもいいのに。


「魔王様に一つお願いがございます」

「あん? お願い?」

「今回の戦いが終わった後の話です。

 もし貴方方がマリア=ルージュ様に勝てた場合、我々ルートの民の自治を認めて欲しいのです」


 まだマリア=ルージュと対面も果たして無いのにもう戦後の話か……

 しかも自分たちの自治についての話…… 気が早い、まぁ重要なコトではあるがな。

 しかも口振りからすると俺達が勝てると思ってないぜコイツ…… コウモリ野郎だな、正しい判断ではあるがあからさまにヤラれるとムカつく。


「具体的には何をしろと? デクス世界に妖魔特区でも作ればいいのか?

 或いはシニス世界への帰還を望むのか?」

「いえ、地下都市ルートに留まる権利が頂ければ十分です」


 ルートに留まる? あぁそうか、リリスがマリア=ルージュを倒したらアリアはアイツの領土、支配領域になる訳か、それはつまりデクス世界のモノってことだ。

 戦後、この浮遊大陸をどう活用するかは知らないが、もしアリアから追い出されたら行く場所がない、きっと妖魔族(ミスティカ)はデクス世界中から嫌われるだろう、安住の地など存在しないのだ。


 しかし炭坑族(ドワーフ)でも無いのに、あんなアナグラに永遠に引きこもってたいのか?

 まぁコイツ等が外に出てこないなら、それはそれで良い事だ。

 妖魔族(ミスティカ)は絶対に他種族と仲良くなんか出来ないからな。

 あの糞ガキと糞ジジイを見て確信した。


「生憎と俺にはそれを決める権限は無いが…… 一応進言はしといてやるよ、決定権を持つであろう奴に」

「感謝いたします」


 別に感謝はいらん、下手に放り出すくらいなら分かりやすい所に閉じ込めておいた方が良いからな。


「さて…… それじゃ行くとするか……」

「ご武運を……」


 …………


 心にもない事を言いやがる、お前からしたらどっちが勝っても問題無いんだからな。

 そんなイケメンに見送られながら城門に向かって歩き出す、お見送りは美少女にしてもらいたいトコロだが、男にされたら後ろ髪を引かれないという利点がある。


 それでもやっぱり美少女の方が嬉しいな。




 目の前には城をスッポリ取り囲んでいると思われる巨大な城壁と唯一の門がある、もしかしたらこの内側は異次元空間なのかもしれない。

 忍び込むなら『超躍衣装(ハイ・ジャンパー)』を使うトコロだが、今回は正面から堂々と行くとするか。



「第4階位級 風域魔術『風爆』エアロバースト × 第4階位級 火炎魔術『皇炎』ラヴィス・レイム

 合成魔術『大爆発』エクスプロージョン」



 ドガアアアァァァン!!!!



 数キロ先まで音と衝撃が届く程の大爆発を発生させる、この爆発で立派な門と城壁の一部がまとめて吹き飛んだ。

 コレだけ派手に門を破れば、例え夜勤明けの警備兵でも慌てて飛び出してくるハズ、ただ一つ懸念があるとすればマリア=ルージュまで誘き出してしまう事だ…… ちょっと派手にやりすぎたかな? ドキドキ


 俺は敢て爆炎の中を悠然と進み強者感を演出する、軽くビビってる事などおくびにも出さずに…… ちなみに空圧(コンプレス)で炎をガードしてる。


 ……………………


 しかしそんなドキドキとは裏腹に、城の敷地内は静寂に包まれていた。

 待てど暮らせど警備兵が集まって来る気配は無い、それどころかこんな大爆発が起こったのに誰も見に来ない、俺がせっかくアニメのオープニングっぽい感じで炎の中を歩いているのに……


 あのイケメンの言う通り、本当にこの城は無人状態なのだろうか?




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