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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
253/375

第247話 3日前


『わ…… 分かりました、あなたに忠誠を誓います』


 ベルタは苦悩の末に奴隷契約をした。

 彼女の人生は今日終わったな…… よりにもよって暗躍好きの魔王に忠誠を誓うとは、泥棒に合鍵を渡すようなものだ。


『ただし! 忠誠を誓うのは坊ちゃまの呪いが解かれる時までです!

 てか、その条件でお願いします』


 厚かましくも向こうから条件を出してきたぞ? しかし不老不死に近い妖魔族(ミスティカ)なら期間を設けるのは当然だ、無期限にしたら永遠にこき使われるからな。


「まぁいいわ、こちらとしては1ヵ月でも構わなかったんだし……」

「? 1ヵ月?」

「そうね、年内にはマリア=ルージュとの決着をつけるわ」


 え? マジで? もう12月だぞ? あと数週間のうちに第3魔王との最終決戦が始まるのか?

 え~…… まだ覚悟が決まってないなぁ…… もう今年は終わり。今年はチャンスが無かった。来年から本気出そうぜ?


 そんなニートの言い訳の様なことを考えていたが、どうやらそんなに余裕は無いらしい。

 ベルタから仕入れた情報を白のギフトで鑑定した結果、結構のっぴきならない事態だった。

 それはγアリアによる大和侵攻作戦だった。


 あんにゃろう、βが敗北したからってγを差し向けてきやがった。

 しかもご丁寧に満月に合わせての侵攻だと言う、容赦ないと言うか抜かりないと言うか…… 上位種族のクセに大人げない……


 他の国がアリアに攻撃されても簡単には助けに行けないが、大和なら話は別だ。

 確かにウチの娘達が出ざるを得ない状況だ、アリアの雨を撥ね退けられるのはデクス世界では俺達だけだからな。

 そして―――




 レイフォード財団・大和支部 大会議室


 映画館並みに広い大会議室に魔王同盟+αが集められている…… まぁαって筋肉の事だけど。


「このタイミングでマリア=ルージュを討とうと思います」


 リリスがそんな事を言い出したのだ。


「一応…… なぜこのタイミングなのか聞いてもイイか?」

「もちろん、前回のβアリア侵攻はあなた達D.E.M. の活躍で妖魔族(ミスティカ)の大敗で終わったわ。

 ざま~みろ! そして次に侵攻してくる時は当然、前回以上の戦力を投入するハズ……」


 それはそうだろうな、前回より戦力が少なかったら返り討ちに遭うに決まってる。


「それはつまり、マリア=ルージュの守りが薄くなることを意味している」

「そうか? たとえ大規模な作戦でも必要最低限の戦力は残すモノだ」

「いいえ、それは違うわ、そもそもマリア=ルージュに護衛は必要ない、何せ最恐最悪最凶なんだから。

 あの女と戦う上で最も重要なコトは、周囲に生物がいない状況を作る事なのよ」

「なるほど…… そういう事か……」


 マリア=ルージュ・ブラッドレッドのギフト『深紅血(ディープレッド)』は何も敵の体内だけで使うモノでは無い、周囲に生物がいればその血を武器として使う事ができる。

 俺がオリジン機関本部で魔族の死体の血を使って毒ガスを作ったのと同じ理屈だ。


 血液操作能力者にとって、使える“血”の量は戦闘での有利不利に大きく影響する。

 大規模な侵攻作戦でマリア=ルージュの取り巻きを排除し、その隙に一気に王手を掛ける…… コレが今回の魔王討伐作戦のキモだ。


「もちろんαアリアが完全にもぬけの殻になるコトはあり得ない、そこでカミナにはその無駄戦力の排除をお願いしたいの」

「は?」

「αアリアに先行潜入して、残った戦力を処理して欲しい…… 戦力と言うよりアイツの使える“血”を処分しておいて欲しい」

「…………」


 つまりそれは俺一人で南極に行って守備隊を全滅させろって事か? ある程度予想はしていたが、やっぱり無茶苦茶言いやがる……

 いや…… 確かに毒ガス使っちまえばそんなに難しくは無い、問題なのはその日が満月ってコトだ。

 満月の日の妖魔族(ミスティカ)には流石にVXガスも効かない…… 自分に『黒死滅病(リ・ペスト)』を使う奴がいるくらいだからな……


「幾ら魔王マリア=ルージュと直接対峙しなくても、他の人は南極に行かない方が良いと思う……

 あの女の射程範囲に入るのは死を意味するから」


 そう、そんな危険な場所に嫁達を連れて行く訳にはいかない。

 だが一つだけ納得できない事がある。


「何でその日に勝負を掛ける必要がある? 前日…… いや、翌日の方が良いんじゃないか? だって満月なんだろ?」


 満月の日の妖魔族(ミスティカ)はちょっと面倒臭い。

 γアリアの戦力を全滅できなかったとしても、そいつらが南極に戻るには時間が掛かる、だったらゲートを使って翌日に行けばだいぶ楽になる、そもそもマリア=ルージュにも満月の不死身性が適用されるかも知れない、それで苦労するのはマリア=ルージュと直接対峙するお前なんだぞ?


「いいえ、あえて満月の日に行くべきよ、その方が油断を誘えるからね」


 油断……か、まぁウチの嫁達は全員満月の日の妖魔族(ミスティカ)に勝てるからな、相手が油断してる方がやりやすいってのも分かる。

 しかし端から護衛を必要としないマリア=ルージュが油断してくれるだろうか?

 たぶんリリスもソコに関しては大して期待してないだろうな。


「コレがカミナに科せられた代償だから存分に働いてね? ちなみに拒否権は無いわ」


 アレは事故だったんだけどなぁ…… オッパイひと揉みで大変な仕事を押しつけられたものだ、まぁ魔王と戦えって言われなかっただけマシか。


「マリア=ルージュを倒す為に必要なら拒否はしないが、この事をどうやって伝えるんだ?」

「ん? 伝える?」

「俺が先行潜入して護衛を片付けたコトをどうやって連絡するんだよ? 電波通信は使えないんだろ?」

「あぁ、それね、大丈夫、ちゃんと用意してあるから」


 そう言ってリリスが取り出しテーブルに置いたのは二つの指輪だった。

 え…… 指輪のプレゼントはチョット勘弁してほしいんですけど……


「これは『量子双子(ジェミニ)』って言って、数年前オリジン機関で偶然作成された物なの。

 指輪にはめ込まれている石を回すと色が変わるの、その変化は対になるもう一つの指輪にも及ぶわ。

 魔力も消費しないし距離も時間も関係無く変化を伝える事ができるの。

 もっとも伝えられるのが双方の石の色だけだから、子供の玩具程度にしかならないんだけどね、それでも先に色に応じて暗号を決めておけば多少の意思疎通は可能よ」


 量子双子(ジェミニ)…… これを突き詰めて行けば量子テレポーテーションとか出来るんじゃねーか?

 いや、量子力学は専門外なんだが……


「カミナにはこれを持って行ってもらう、そうねぇ…… 石が青になったらOKって事にしましょう」

「了解」


 指輪の片方を受け取りポケットに突っ込む。


「アレ? 左手の薬指にはめてくれないんだ?」


 俺は何度も同じ過ちを繰り返すほど愚かでは無い……と、思いたい……


「次に他のみんなに…… と言うより魔王同盟にお願いしたい事なんだけど……」


 リリスがだんだん厚かましくなってきた、仕方ない事とはいえ、まるで指揮官みたいに振る舞ってる…… 状況が状況だけに異を唱える気も無いが……


「みんなにはγアリアを押さえて欲しいの」

「押さえる? つまりアリアに乗り込んで制御を奪えって事か?」

「そう、正しくその通り」

「何で? 前回みたいに地上から砲撃して敵を全滅させればいいだろ?」

「ところがそうも行かないのよ、γアリアはもし兵の損失が70%を超えたら特攻するように命令されてるらしいのよ」


 なんだと? あんな巨大な岩塊で特攻だと? 要塞龍並みに厄介だ……

 当然そんなモノが落ちてきたら高天は地図から消える事になる。


「前回、βアリアがカミナ達にコテンパンにやられて尻尾を巻いて逃げかえったんだけど、どうやらマリア=ルージュが激怒したみたいでね? ぷ♪ イイ気味♪ とにかくそんな無茶苦茶な命令を下したのよ」


 ホントに無茶苦茶だ…… しかしそんな指示、普通するか? 既にβアリアは海の底に沈んだ、更にγアリアまで捨てるのか?

 βもγもアリアの1/4の質量がある、二つとも失ったらアリアは元の半分ほどの大きさしか残らない……

 歴史を振り返ってみてもマリア=ルージュに領土的野心はさほど無いように見えるが…… あぁ、そうか、アイツはデクス世界を自分の領土にするつもりなんだ、それはつまり……


 狙われてるのは第12魔王リリス・リスティス本人って事か……


 もし仮にリリスの首を差し出したとしたらこの戦乱は終わるだろう、そしてデクス世界はめでたく最恐最悪最凶のあの天上天下唯我独尊女のモノになる、その後に待っているのは永遠に終わることの無い人族(ヒウマ)への弾圧の日々だ……

 リリスには何が何でも勝って貰わないといけないな。


「各魔王はそんな感じでお願いします、残りの戦力は出来るだけ高天市に集めるようにします。

 一応迎撃ミサイルや高射砲なんかも用意させているけど、アリアの空中戦力を完全に抑え込めるとは思えないからある程度の被害は出てしまうかも……」


 それは仕方が無いか…… 残りの戦力と言うとジークと伊吹と先輩、チーム・レジェンド、勇者以外の勇者パーティー、大和国防軍…… そこらへんか…… あ、後この間の帰還者が居たか、戦闘員は半分ほどの250人くらい……

 魔族相手なら何とかなるが妖魔族(ミスティカ)や高位使途が出てくるとちょっと心もとないな。

 せめて2~3人 創世十二使が居ればなぁ…… 俺と琉架は肝心な時にまた居ないし、いっそリズ先輩でも拉致ってきて戦わせるか?

 何か保険を用意しておきたいな…… そんな都合の良いモノがあればの話だが。


「他に戦力は呼べないのか?」

「強引に拉致すれば可能だけど、正式な手続きを踏んでの招集は無理ね、時間が足りな過ぎる。

 生き残りの創世十二使も各々が各国の防衛任務についてる、無理矢理連れてくると後々大変な事になる」

「第3魔王との最終決戦になるんだ、世界中から掻き集めても文句は言われないだろ?」

「どちらにしても時間が足りないわ、後3日しか無いんだもの……」


 …………


 は? 3日?


「次の満月は今度の日曜日、海外からの戦力を入れるのは無理よ」


 3日…… いや、何時かはこの日が来るのは分かってたし、そのための準備も進めてきたが…… いきなり後3日は無いだろ?

 ふぅ…… 落ち着け、当日の朝にいきなり言い渡されなかっただけマシだ、ハードディスクを整理する時間があるだけでも今迄に比べれば遥かにイイ。

 一週間以内にパスワードが打ち込まれなかった場合はデータを全消去するアプリケーションを入れておこう。


 そもそも俺がマリア=ルージュと戦う訳じゃ無いからな……


「後カミナにはコレを……」

「ん?」


 そう言ってリリスが差し出してきたのは小さなお守りの様なモノだった、てかお守りか?

 かつて戦地へ旅立つ男に女性のアンダーヘアをお守りとして持たせたという…… もしかしてコレの中身はリリスの……?


「これは万が一の時の備えてのお守り、肌身離さず持っててね?」


 ヤメテよ…… 変なフラグが立つじゃないか……

 一応、左の胸ポケットに入れておくか……




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