第245話 情報提供者
勇者は新たなる装備を手に入れた…… まるで新しいオモチャを手に入れた子供の様にはしゃいでる。
さっきから『くたばれ勇者』を掲げて、童貞宣言しまくってる、きっと民衆の前でその剣を起動させれば今までより少しだけ優しくして貰えるかもしれないな。
良かったな、勇者よ……
しかしリリスも酷な事をする…… 全身鎧に剣と盾、シニス世界なら兎も角、デクス世界をこの格好で歩き回ったら5分に1回は職質受けるぞ?
アイツの私服姿ってみた事が無い、シニス世界に居た頃は常に鎧を身に纏っていた、きっと鎧姿こそが勇者の正装なんだろう。
普段は鎧を外して普通の格好をしていろ……って言っても、どうせ聞かないだろうなぁ…… アイツにとっては鎧姿こそが普段着なんだから。
ま、いいか、それで苦労するのは俺じゃ無い、勇者パーティーの三人だ…… てか、エルリアが物凄く苦労するだろう、残りの二人もシニス世界出身だ、デクス世界の常識には疎い。
うん、何と言うか…… まぁ…… ガンバレ!
今ふと思ったんだが、あの三点セットが勇者専用装備として次世代の勇者に引き継がれていくのだろうか?
だとしたら無実の次世代勇者には可哀相な事をしてしまったな、50代目勇者が女の子だったら…… いや、それ以前に剣も鎧もまともに使えなくなるな。
きっと壊れたブレイブ・ブレイドとブルーロザリオは代替わりする時、自動で修復されるんだろう。
1200年の勇者の歴史において専用装備が無傷で受け継がれてきたとは思えない…… 49人の勇者は誰一人として魔王に勝ったことが無いんだからな。
「ところでお前等はこれからどうするつもりなんだ?」
「もちろん第3魔王マリア=ルージュの元へ往く!」
聞く相手を間違えた……
「あぁ…… 勇者は分かった、それでエルリア達はどうするんだ?」
「私たちは専用の宿舎が用意されてますから、そこへ戻ってコレからの方針を決めます」
「ん? お前…… 実家に戻ってないの?」
気持ちは分かる、留年した事実を突きつけられるだろうし、実家に戻るなんて言えばバカ勇者がついて来るかも知れない…… それは疫病神をレッドカーペットで迎え入れるのと同義だ。
「多分家には誰もいないです、恐らく実家自体が残ってないと思いますから……」
え? ドユコト?
「私の本当の実家はアルスメリアなんです、私が第三魔導学院に入る為に母と二人で大和に来てたんです。
コレだけ時間が経っていては母もアルスメリアに戻っているでしょう」
そうだったのか…… しかしアルスメリアにも魔導学院があるのに何でわざわざ大和まで来たんだ?
こっちの方がレベルが低いなんて話は聞いたコトが無いんだが…… まぁ個人の自由か。
しかし勇者はリリスから特別な指示を受けている訳じゃ無いのか…… てっきり魔王の側近退治にでも使われるのかと思ってたが……
まさか本当に魔王にぶつけるつもりなんだろうか?
だいたい未覚醒の勇者を魔王の前に立たせても糞の役にも立たない、そして覚醒の兆しは未だ見えず……
囮くらいにしか使い道が無い気がするんですが……
取りあえず宿舎が用意されている事が聞けて良かった。
まかり間違ってもウチにホームステイしてくることは無いだろう。
もし来たら新装備でも防ぎ様の無い、二度と立ち上がれないレベルの傷を心に負わせてやるからな!
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二日後…… 学校から帰るとリリスが戻っていた。
何処に行くのかも告げず、長いコト外泊するなんて…… ウチの子が不良になった!
これは更生が必要だ。愛情をこめて清く正しい(俺の理想の)女の子像を教え込もう!
もっとも2400年もあの性格で生きているリリスが簡単に変わるとは思えないが……
「あぁ、カミナ、お帰り」
「リリス…… お帰りじゃねーよ、ろくに説明もしないで何日も姿をくらますな! お前が強い事は知ってるがあまり心配かけるなよ」
「へぇ…… 心配してくれたんだ?」
リリスは美人だからな、心配もするさ。
ついでに言えば居なくなって欲しい筋肉は日が暮れる前には必ず戻ってくる、お前の心配はしてないんだ、門限守らなくていいから。
「そっか…… 私にも心配してくれる人が出来たんだ……」
「なんか微妙に悲しいコトと言うなよ、義理の娘さんは常にお前の心配してくれるだろ?」
「アレはアイリーン・シューメイカーを心配してるの、リリス・リスティスじゃ無い」
いや、同一人物だろ? まぁ、言いたい事も分かるけど……
「うん、ゴメンね? でも色々情報も得られたし作戦の目処もたった」
「作戦…… そう言えば情報提供者が如何のと言ってたな?」
「うん、詳しく話す前に情報の真偽を確かめたいんだ、だから悪いんだけど白ちゃん貸してくれるかな?」
貸すって…… 白は俺の所有物じゃ無い…… いや、白は俺のものだ! 誰にも渡さんぞ! いやいやそうじゃなくって……
「もし情報が正しかったら他の娘達の力も借りなきゃいけなくなるから……」
「おい、ちょっと待て。俺以外を巻き込むなって言っておいたハズだぞ? コレは契約違反じゃないのか?」
「もちろん覚えてるけど…… そうも言ってられない状況なんだよね?」
? 一体何なんだよ?
リリスが意味ありげに言葉を濁すから嫌な予感しかしない、契約違反に関しては話を聞いてから考えるとするか。
本当にどうしようもない事態になっている可能性もあるからな。
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翌日、魔王同盟は揃って学校をサボった、ウチの良い娘達が不良にならない様 俺が監督しなければ。
とは言え学校サボるくらいするよな? 何と言っても魔王だし。
出向いた先はレイフォード財団・大和支部。
リリスがリリスの格好のまま入って行くからちょっとビビった、良いのかよ?
「それで? 何でココに来たんだ?」
「うん、ちょっと話したけど情報提供者が現れたんだ…… より厳密に言うと捕まえたって言うべきかな?」
「捕まえた? 捕虜って事か?」
「ん~~~…… まぁそうね、正確にはその捕虜を奪還しに来たんだけど……」
ん? 意味が分からん?
「その捕虜って何の話だよ?」
「“左席”サダルフィアス家の次男坊、コンラート・サダルフィアスよ」
?? ダレそれ?
「あれ? あの捕虜 捕まえたのカミナ達でしょ? 何でそんな顔してるの?」
「はて…… そんなコトあったっけ?」
クイクイ……
袖を引っ張られる。
「神那神那、あの人のコトじゃ無いかな?」
「え? 琉架には心当たりがあるのか?」
「ホントに忘れちゃったの? 第三魔導学院でβアリアを撃退した時に妖魔族の人が来たじゃない」
……………………?
……………………あ! カネダ(仮名)か!
忘れてた! そう言えばそんな奴もいたな!
だんだん思い出してきたぞ、俺達が圧倒的パワーでアリアの雨を全滅させた後、なぜか突然やって来た失礼千万な若造だ。
ミカヅキに派手に蹴り倒された後、呪われた…… その後なぜかレイフォード財団が回収していったアイツか。
いたいた、そんな奴、アイツ偉そうな格好してたけど本当に三大貴族のボンボンだったのか…… てっきり見捨てられたのかと思ったけど……
「まぁその捕虜を解放しろって使いの者が来たの…… それをGETしちゃった♪」
リリスのテヘペロが出た…… いやいやGETしちゃイカンだろ?
まぁ異種族に対する条約も国際法も、デクス世界には存在しないんだが……
「そこで捕虜の解放と引き換えに色々と情報を聞き出したんだけど、それが正しい情報かどうかが知りたいの」
「そこで白の出番ってワケか」
しかし唯でさえ二男で家督を継げず、更に死ぬまで魔法が使えない男に価値が有るのだろうか? 貴族的には何の価値も無い気がする。
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壁の一面だけが対魔強化ガラスで覆われた部屋……
その中央に一つだけ置かれた椅子に一人の少女が座っている。
最近よく見かける軍服風で貴族風なおべべ、そして額に見える第三の目……
彼女が捕虜開放を求めてきて暗躍魔王に捕まったちょっとアホの娘妖魔…… 女の子だったのか、そうならそうと早く言ってくれれば良かったのに、知っていれば俺も尋問に参加したものを……
俺はかつて暗殺者から依頼人の名を聞きだした事があるんだ、尋問は得意中の得意だぜ!
………… あ、違うか。
あの時は結局白に調べてもらったんだった。
あのハゲは最後まで口を割らなかったんだ。
「彼女はベルタ・ヴェトクロ、妖魔族では珍しい平民出身の軍人らしいわね」
妖魔族に平民って居たのか……
てっきり種族全員が貴族を名乗ってるのかと思ってた。
『また来たのね? 早く坊ちゃまに合わせて下さい!』
……坊ちゃま……
つまり彼女はあのアホ坊ちゃまの使用人みたいなものなのか?
「なにか聞きたい事があるならこのマイク使って」
リリスにマイクを手渡された、特に聞きたい事があるわけじゃないんだが……
「あ~ その坊ちゃまってβアリアが大和を進行したときに自分から敵の前に出てきた奴のことか?」
『べーたってナニ? シニスアリアの事?
やまとってドコ? こっちの地名なんて分からないんですけど?』
何にも知らねーな この捕虜…… 情報源として役に立つのか? 自分たちが蹂躙している世界の事くらい調べとけよ。
…………
調べるわけ無いか、最下級種族 人族の世界の事なんか……
てか、βアリアってシニスアリアって呼ばれてるのか…… そういえば「シニス」「デクス」って古代語で左と右って意味だったっけ?
“左席”サダルフィアス家が預かっていたから左アリアって訳か…… どうでもいい情報だな。
「何でいまさら来たの?
俺はてっきりあのボンボンが馬鹿な行動をしたから見捨てられたのかと思ってた」
『うっ……!』
なんか目を逸らしたぞ?
もしかして……
「キミ…… もしかして独断?」
『…………ッ!』
答えは無い…… しかし間違いなさそうだ。
「おいリリス、彼女は捕虜奪還に来た訳じゃ無いぞ?」
「やっぱりカミナもそう思う? 私も話しを聞いててそんな気がしてたんだ……
こっちの質問にも素直に答えるし、大した抵抗も見せなかった。
彼女…… 亡命希望なんじゃないかな……って」
亡命希望者…… 妖魔族にも色々あるんだな、まぁ色々な思想の持ち主がいるのも当然か、平民、貴族、大貴族…… 格差があれば不満だって出てくる。
「え~と、ベルタさんだっけ? あなたの目的は何ですか?」
『だから言ってるじゃないですか、坊ちゃまを解放してくださいって……』
う~む…… もしかして貴族と平民の禁断の恋でもしてるのだろうか? 何でも色恋沙汰に結び付けるのは良くないんだが……
「ずっとこの調子なのよ、彼女の言葉を信じていいのかどうか……」
確かに亡命希望ならそう言えばもっと良い待遇が受けられた筈だ、ただ彼女の独断と言うトコロだけは真実で間違いないだろう。