表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
250/375

第244話 勇者専用装備


「ハァッ! ハァッ! ハァッ! お…… 終わったぞ……! ハァッ! ハァッ! ハァッ!」

「あ? あぁ、ご苦労さん」

「ハァッ… ハァッ… 一つ…… 聞きたい……ッ!」

「ん~? ナニ?」

「い……今の逆立ち走りにはいったいどんな意味が?」


 意味なんてある分けない、ただの思い付きだったんだから。

 幾ら勇者でも逆立ちダッシュの意味の無さには気づくことができるのか……

 普通ならやる前に気づくものだが、やり終わってから疑問を持つあたり、やっぱり勇者だな。


 正直に何の意味も無かったと言えばまた騒ぎ出すに決まってる。

 適当に誤魔化すか。


「あぁ、それはな……?

 勇者専用装備はイノベーションの塊なんだ、イニシアチブを取らないとクリエイティビティできない」

「………………………………は?」

「この調整がうまくフィックスすればシナジーでより高い効果が得られる。お前がコンセンサスしてくれれば結果にコミットする」

「…………????」

「後はお前が如何にブラッシュアップするかにかかってる」

「あぁ…… うん、わかった…… もうイイ……です」


 勇者の呼吸が整うと同時にテンションまで落ちた……

 お前絶対分かってないだろ?

 なぜなら俺自身も意味不明だからだ。


「じゃあそこのロッカーに調整済み装備とマニュアルが入ってるから後はご自分でどうぞ……」

「ちょっ! ちょっと待て!!」

「……ナニ? まだ何かあるのか?」

「いや…… その…… 教えてはくれないのか?」

「ハァ?」

「生まれも育ちもシニス世界の俺に魔科学の道具の使い方などわかるはずが無い……」

「それはそうだろうな、そしてその為のマニュアルだ。

 文字は共通なんだ、読んで自分で初期設定しろ」

「…………」キョロキョロ


 勇者の視線が泳ぐ…… え? まさかだよな?


「字…… 読めないのか?」

「馬鹿にするな! 必要最低限は読める!」


 必要最低限ってことは、ちょっとでも難しい言葉が出てきたらアウトってことか。

 そういえばシニス世界でも田舎の方だとまともな教育が受けられないと習ったな。

 勇者はカボチャ村出身だ、名前からしてド田舎っぽい。

 そんな奴に魔科学最高峰レベルの装備マニュアルを読み解くのは不可能か……


「エルリアは? 学年次席だったんだろ?」


 ちなみに主席は当然琉架だ。

 俺か? 俺はず~っと下のほうだ。


「霧島クン…… お忘れかもしれないですが、魔工学の選択授業は高等部からです……

 私、いまだに中等部なもので……」


 あ~…… 落ち込んじゃった、別にエルリアを攻撃するつもりは無かったんだが、やっぱり気にしてるのか。

 まぁ当然か。


「しかし俺が頼まれたのは調整までだ…… これ以上は契約に無い」


 契約なんか結んでないけど……


「う~~~ん、どぉ~しよっか~……な?」

「はっ!? き…貴様……!!」


 勇者は何かに気づいた顔をして、睨み付けてきた。

 あれが人にモノを頼む態度かね?


「ぐ……くっ! くそっ!!」


 何か葛藤してる……

 ちなみに俺は勇者に何かを求めるつもりは無い。

 そもそもコイツは対価を持ってない、力も無けりゃ金も無い、その上現在ピッチリパンツ一丁だ、そんな奴からこれ以上搾取する気になれない。

 俺も鬼じゃ無い、だから「頼む」と言われたら普通に設定してやるつもりだ。


 さて…… どう出るかな?


「この通りだ!!」ガバッ!!


 勇者渾身の土下座が炸裂した……

 あれ? シニス世界には土下座の文化は無いんじゃなかったっけ? それとも大森林には無いってことか? もしくはココ1200年で出来上がった文化か?

 アーリィ=フォレストが引きこもりだから知らなかっただけで…… いや、神代書回廊(エネ・ライブラリー)に記載されてるハズだし……

 う~ん、謎だ。


「頭を上げろ、別に土下座なんかしなくていい、頼まれればやってやるよ」

「んなっ!?」

「お前が第3魔王を倒す為なら協力は惜しまない」

「くっ…… そ……そうか」


 実際、全く期待はしてないが、もし何かの偶然で…… 例えば宇宙の法則がねじ曲がったり、神の投げたダーツが直径1mmの「勇者覚醒枠」に奇跡的に命中し、マリア=ルージュを倒してくれるかも知れない。

 そんな天文学的に低い確率でも一応フラグは立てておきたい。


「その…… なんだ、感謝……する」

「いらないよ、感謝するならレイフォード財団の現会長にしてくれ」


 どちらにしても魔王に感謝する事になるがな。



---



「それじゃ、まずは鎧からな」

「おお!」


 とにかく服を着せる、何時までもパンツ一丁で居させたら風邪は引かないだろうけど、女の子たちが困る。何かの拍子に勇者の恥ずかしがり屋の皮被りユウシャが顔を覗かせたら大惨事だ。

 大体コイツは何で女の子の前でパンツ一丁で平気な顔してられるんだ? お前の一番の秘密を守るのが薄い布一枚なのに、心が弱い癖に……


 …………


 そもそも何で服を脱いでるんだ! この変態勇者め! その恰好のまま外に放り出してやろうか?

 ……あ、俺が脱がせたんだっけ? なんて余計なコトをしたんだろう……


 気を取り直してマニュアルを眺める。


「え~と…… その装備は勇者専用に用意されたモノで、勇者以外の者が使えない様、初期登録が必要だ」

「おぉ! 勇者の装備と言えばやはり専用装備だよな!」


 なんで俺には専用装備が無いんだろう? こんな奴ですら専用装備を持っているのに…… なんかちょっとムカつく。


「まずは認証データを取るから言われた通りにしてくれ」

「おう!」

「まずそこのカメラの前に立って顔の横に両手でピースサインを作る」

「お……おう? こうか?」

「そうそう、それで顔は正面に向けたまま、視線だけを上方向へ向ける」

「こ……こうか?」

「OKOK、そして口を半開きにして舌を出す」

「ご……ごぅが?」

「完璧完璧、ハイそのままじっとしてて……」


 パシャ!


 映し出された画像には勇者がパンツ一丁でアヘ顔ダブルピースをキメていた……


 …………


 誰も得をしない事をしてしまった…… 何でこんな事したんだろう……?

 こんな顔で顔認証したら鎧を着るたびにこの顔を晒すのだろうか? いや、魔科学の最新技術だ、きっと大丈夫だろう、ダメだったら毎回アヘ顔を晒してくれ。


「認証終了だ、さっさと鎧を着ろ」

「おう! コレが俺の新しい…… うぉ! 冷てー!!」


 この季節、いくら室内でも地肌に金属の鎧はキツイだろう、インナーは自分で買ってくれ……

 おいコラ! 上半身から着るな! まずそのあらゆる意味で貧弱な下半身を隠せよ!

 上半身だけ重装備で下半身がパンツ一丁だと本格的に変態に見える…… まさに頭隠して尻隠さず…… コイツはきっと突然全裸になったら、男のクセに両手で乳首を隠して下半身は丸出しにするだろう。


 なるほど…… 勇者のユウシャはある意味 既に隠されていると言えるからな…… 妙に納得してしまった。


「おお! 勇者伝統の青い鎧! やはりこの色でなければ! 有難い!」

「………… その鎧は防御力を上げるより回避力を上げる為のものだ、装備中は身体の周囲に常に力場が発生し、ある程度の攻撃を反らしたり移動速度を上昇させる効果がある。

 更に付属のマントは…… げ?」

「マント? おぉ、これか、コレがどうした?」

神聖銀(シルラル)繊維で作られた超高級品だ、背後からの攻撃を高確率で防いでくれる」

「おおっ!! 至れり尽くせりだな!」


 全くだ、限りある資源の無駄遣いだろコレ?


「次は盾だ……が、勇者って盾使えるの?」

「当然だ、子供の頃 村の周りで魔物退治してた頃は常に使っていた、ブレイブ・ブレイドが大振りの剣だったから使わなくなったがな……」

「子供の頃…… あぁ、フラれた幼馴染のお姫様と勇者ゴッコしてた頃か……」

「ぐっ!? だからなんで知ってるんだ?」


 勇者がよろめいた、心にダメージを喰らったらしい、どんなに良い装備をしてても心の防御力は上がらない。


「その盾は『魔導反応装甲(リアクティブシールド)』だ」

「りあく……ナニ?」

魔導反応装甲(リアクティブシールド)、放たれた魔術をその盾で受けると、同等の威力の魔術を自動で放出し、それにより敵の魔術攻撃を相殺してくれる。

 原理的には俺の反魔術(アンチマジック)に近い性質がある」

「おおおぉお!! つまりこの盾があればお前の様に魔術を完全無効化できるのか!!?」

「そこまでは言ってない、盾の面積を超える大規模広範囲魔術は止められない、また相殺魔力量にも上限があるからそれを上回る魔術も止められない。

 決して万能じゃないから見誤るなよ? あと物理防御力はさほど高くないから下手にガードすると壊れるかも知れない、攻撃は出来るだけ避けた方が良い、その方が魔力を無駄遣いしなくて済む」

「お……おう、意外とちゃんと教えてくれるんだな」


 失礼な奴だな、だったらご期待に応えてやろうか?


「さて…… 最後はお待ちかね、剣だ」

「おおおぉお!!!! 待ってました!!!!」


 ウルサイ…… 興奮しすぎだ。


「コレが勇者専用魔導器DB-4649『くたばれ勇者(ダイ・ブレイブ)』だ」

「ダイ・ブレイブ…… 大いなる勇者…… 俺に相応しい剣だ」


 また聞き間違えてる…… なんて都合の良い耳だ。

 ちなみに正式名称はDB-4649ディストラクト・ブレイドで、くたばれ勇者(ダイ・ブレイブ)は俺が即興で付けた名称だ。


「その『くたばれ勇者(ダイ・ブレイブ)』には『愚か成り勇者よ(フーリッシュ・ブレイブ)』同様、高周波振動システムが組み込まれている、使い方は知ってるな? 柄の部分にあるトリガーを引けば起動する。

 また刀身は超希少金属オリハルコン製、極めて高い硬度を誇り、更に付与魔術の効果を高めてくれる」

「付与魔術?」

「お前が良く使ってた魔法剣だよ、コレは予想だがブレイブ・ブレイドもオリハルコン製だったんじゃないか?」


「うむ、お主の予想は合ってる、ブレイブ・ブレイドもまたオリハルコン製だった」


 答えてくれたのは勇者では無くグレイアクスだった。

 そう言えば大空洞でブレイブ・ブレイドを直そうとしていたトコロを出くわしたって琉架が言ってたな…… 修復は無理だったらしいけど、仮にオリハルコンが見つかってもお前等の経済状態では買えなかっただろ? 何と言っても超希少金属だ。


「それからバッテリーについてだけど仕様が変更されている」

「ん? どういう事だ?」

「お前お得意の雷神剣(ライトニング・ソード)を使った時に、余剰電力で充電する様になっている。

 つまり予備バッテリーを持ち歩く必要が無い、ただし定期的に雷撃付与を行なう必要があるけどな」

「おお! ばってり~要らずか! 助かる!!」


「さて、最後に一つ重要な事がある、その『くたばれ勇者(ダイ・ブレイブ)』にも他の奴が使えない様セキュリティーが設定されている。

 今の段階では高周波振動システムは使えない、ただのオリハルコン製の頑丈な剣だ」

「なに? ほ……本当だ、ブルブル震えないぞ!? どうすればいい!?」

「この剣を使う為には音声認証パスワードが必要になる、魔法でいう所の呪文詠唱の様なモノだ」

「そ……それは?」

「このパスワードで登録されてる…… 大きな声で読み上げてみろ!」


 勇者はパスワードが掛かれた紙を受け取ると、高らかに読み上げた!


「『我は勇者!! 生涯DTを貫く者なり!!』」


 ぷっ!


 勇者の声に呼応するかのように『くたばれ勇者(ダイ・ブレイブ)』は起動した!


「おぉぉお…… 素晴らしい! ちなみにDTって何だ? どういう意味なんだ?」

「うむ、DTとはココ大和の一部に伝わる戦士の称号で、その意味は「穢れを知らぬ男」「生まれたままの純粋な男」「30で魔導王」といった意味が込められた言葉だ」

「素晴らしい…… これ程の逸品が貰えるとは…… この期待には必ず答えて見せよう! DTの名に賭けて!!」


 うん、満足してくれたみたいで良かった良かった。

 そのパスワードの真の意味を知る者はこの場には俺以外に…… あ、先輩が笑いを堪えてる…… どうやらツボに入ったらしい。

 当然他のメンバーは意味を知らない、むしろ知ってたらちょっとヤダ……


 勇者はコレからはあの剣を抜く度に生涯童貞宣言をし続ける事だろう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ