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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
247/375

第241話 田舎者 都会へ行く


---ブレイド・A・K・アグエイアス 視点---


「な…… なんだこの巨大な建物は……?」


 ブレイドがまるでオバケでも見たかの様な顔で呟いた……


「? コレくらいの建物ならガイアにもあったじゃないですか? ナニをそんな……」

「いや! よく見ろ! 巨大な建物が大量に生えている! まるで肉食ウサギの群れみたいだ!」

「なんですか? その例え……」


 ブレイドは顔をバスのガラスにつけて外の景色に釘付けだ。

 その様子は田舎者というより、テンションが上った子供にしか見えない……


「勇者様、ちょっと落ち着いて下さい。その…… 少し恥ずかしいですよ? 勇者様もうすぐ成人でしょ?」

「ぬぅわーーー!!? なッ…何なんだコレはーーー!!

 ま…街が地平線の彼方まで続いている!!? こんなに広ければ街を城壁で囲えないじゃないか!!

 あ! あそこ! 民家と森が隣接してるじゃないか!! あんなトコロに住んでたら2日で魔物に喰われるぞ!!」

「勇者様…… それはシニス世界の基準です。ここはデクス世界、魔物は存在しません」

「バカな!! たとえ魔物が居なくても凶暴な野生生物はいるだろ!? クマとかトラとかペロピピペッチョンポロとか!!」

「ペロ……ッチョンポ?」

「ブレイドよ、ペロピピペッチョンポロは海の生き物だ」


(え? そのペロピ……なんとかって生き物の名前だったの?)


「ご……ごほん! と、とにかく不用心にも程がある!」

「大和にはトラは住んでません、クマは居ますけど人里に降りてくることは滅多にないです。

 そのペロペロピッチョンが何の事かは分かりませんが……」

「ペロピピペッチョンポロだ、何だエルは知らないのか? 超高級食材で特にプロプロのシットリとした舌触りは……」

「説明は結構です。 あ、今はテリブルとか言うのが出るんでしたっけ? いや…… それ以前に第3魔王が……」

「そ……そうか……」


 ドヤ顔で数少ない知識を披露したが、それを一刀両断でぶった切られた勇者は目に見えて落ち込んだ。

 コレでようやく静かになる…… 周囲の人間がそう思ったのも束の間……


「な、なんだあの馬は!!? この鉄車をあっという間に抜き去っていったぞ!? バ……バカな……!!」

「ハァ…… アレはバイクと言って……」

「アッ、アレは何だーーー!!!!」

「…………」イラ


 ブレイドのテンションは留まる所を知らず上がり続けていく…… この分だとその内 窓を突き破って飛び出していきそうだ。


「ハァ…… グレイアクスさん、お願いします」

「………… またか……」


 グレイアクスが徐にハンマーを取り出し振り上げる。

 ブレイドは窓の外の光景に気を取られ気付かない……


「ハァ……」


 小さなため息とともにハンマーが勢いよく振り下ろされた!



---


--


-



 第三魔導学院 個人研究室


「え? 来たの? あの人が?」


 この研究室には現在5人の魔王が居る。

 魔王のカウンターとして創造されたとか言われてた勇者の話題を議題に乗せない訳にはいかない。

 勇者とは魔王を唯一滅ぼせる存在なのだから。


「……ふわぁ~~~…… むにゃ……」

「…………」

「はぁ…… 来ちゃったんですね」


 白はソファーで丸まってお昼寝中、ミカヅキは見事な無表情、ミラは興味無さそうな相槌を打つだけ……

 まともなリアクションを返してくれたのは琉架だけだった…… みんな勇者に興味ないんだな。


 まぁ、俺だって向こうからチョッカイ掛けて来なければ気にも留めなかっただろう。

 如何に魔王を滅ぼせる存在でも、あの男にソレが出来るとは思えない、みんなの危機意識が欠落するのも仕方の無いことだ。

 もっと頑張れよバカ勇者! 魔王マリア=ルージュと戦う時に肉壁に成れるくらいは!


「神那ぁ、大丈夫? あの人っていつものパターンから推測すると、急にこの部屋に勢いよく入ってくるってイメージが沸くんだけど……」


 確かにそのパターンは有り得る…… 俺の憩いの場でもあるこの魔王城・第三魔導学院支部に足を踏み入れる様なことがあれば、勇者の絶望をすすり、憎しみを食らい、悲しみの涙で喉を潤してくれよう。


「あの人 急に大声出すから苦手だな…… 周りにどんなに人がたくさん居てもお構いなしで人の名前叫んだりするし……

 あんまり会いたくないなぁ……」

「大丈夫だよ、アイツの処遇はリリスに一任してる」


 結局、体育館の修繕費を捻出できなくてリリスが立て替えたんだ、つまりアイツはリリスに大きな借り…… 即ち借金が出来た。

 それはつまり勇者の運命はあの暗躍好きの魔王の手の内にあるということだ。

 あの勇者はダメだ。次回に期待だな。


「リリスさんかぁ…… 勇者さんがいきなり特別クラスに転校してくる……なんてコト無いよね?」

「…………」


 無い……とは言い切れない。

 女子高生魔王の前例があるだけに、男子高生勇者の可能性だって充分ある…… 誰得だよ? 男子高生勇者って……


 そうだよ、なんでこの俺の…… 禁域王 霧島神那の物語に登場する勇者が男なんだよ!

 ここは女の子勇者だろ!? 事ある毎に俺に絡んでくるツンデレ女の子勇者……

 普段は顔を合わせればケンカばかりだけど、次第に互いを意識しだし、女の子勇者が魔王にやられそうになった所を颯爽と助けて俺にデレさせる! それが自然な在るべき姿だろ?


 神は人選を誤った…… それはもう色んな意味で。


 まぁ、痛々しい妄想は置いとくとして……

 しかし19歳で高校入学はキツイよな、俺なら拒否する。

 それでも借金のかたに無理やり入学させられるとしたら…… アイツ馬鹿だし入学するなら中等部からだろ?

 でもギフトユーザーだからな、特別クラスにやって来る事になる……


 俺としてはあの珍獣は動物園にでも入れて見世物にするか、勇者の秘密を解き明かす為に解剖でもしてホルマリン漬けにでもしてくれると助かるんだが……


「だ…大丈夫だよ…… 多分」

「神那がそう言うなら信じるけど…… やっぱりちょっと不安……」


 あぁ、こんな頼りない言葉を信じちゃった…… さすが琉架。

 リリスにはきつく釘を刺しておこう、ノリやギャグで勇者を転校させるなって。



 しかしその日リリスは帰ってこなかった。

 何でも急用が出来たとかで…… 電話口では詳しいことは一切話さず、アッサリ切られてしまった。

 あの女子高生魔王、とうとう年下の彼氏(2400歳差)でも作ってお泊りデートとかじゃないだろうな? そんなコト禁域王さんは許しませんよ!


 …………


 ま、きっと勇者関連だろう、あの馬鹿をマリア=ルージュにぶつける為の準備でもしてるのかも知れない。

 いよいよ……か、第3魔王マリア=ルージュとの全面戦争。

 嫌だなぁ…… 俺は一体何をさせられるのだろう? 上手くいった暁にはリリスのオッパイを生で揉む権利でも貰うか。

 う~む…… 魅力的な報酬なのにやる気が湧いてこない、この程度ではまだ割に合わないと言う事だろうか?

 それともリリスの胸の価値の問題だろうか? 俺は大きさには拘らないんだが…… それでも敢て例えるなら、ミカヅキ、琉架、ミラが一等賞だとすれば、リリスは前後賞レベルだからな。


 オカシイな、普段の俺なら前後賞でも大喜びするハズなんだが…… それほどまでにマリア=ルージュと戦いたくないと思っているのか。

 しかしγアリアは未だに世界の空を彷徨ってる、どれだけ戦いたくないと思っていても向こうからやってきたら戦わない訳にはいかない。

 その為にもより危険を少なく、より消費を抑えて、そしてなにより簡単に敵を倒したい。

 そんな訳で……



---



 週末、我々はオリジン機関・大和支部へとやって来ていた。

 理由は全員の装備を新調すること。

 第3魔王と戦う前準備といったところだな。

 先日の迷い子案内の報酬として、本日一日限りでオリジン機関の施設をなんでも使える権利をもらった。


 オリジン機関は本来年中無休、24時間体勢で必ず人がいるが、今日は貸し切りだ、なにせ魔王がたくさんやってくるんだからな。


 リリスにしては珍しく迅速に動いてくれた、どうやらちゃんと働いてるらしい。

 どうにもアイツが裏で動く時は碌でもない事をしている気がしてイカンな。

 もっと信じてあげるべきか…… あの子も将来的には俺の嫁の一人になるんだから(予定)。


 それはそうと……


「先輩、何でいるんですか?」

「む? なによ、私がいちゃ悪いっての?」


 そりゃ悪くないけど、良くもないんだよなぁ……


「だって先輩、もうD.E.M. 辞めたんですよね?」

「辞めてないわよ! 勝手にクビにするな!」

「アレ? そうでしたっけ?」


 てっきり先輩は普通の女の子に戻ったんだと思ってた。

 でももう魔王討伐には参加する気無いんだろ? やっぱりちょっと場違いな気が……


「だいたい今はD.E.M. は活動休止中でしょ?」

「まぁ……そうですね、書類上は……」

「他のメンバーが全員揃ってるのに私だけのけ者にする気?」

「別にそんなつもりは…… 最近の先輩、ちょっとネガティブになり過ぎですよ?」


 そう…… 別に先輩だけをのけ者にするつもりはなかった。

 厳密に言えば先輩とジークをのけ者にするつもりだった。


「ふむ、ここがオリジン機関か、思っていたよりも小さい建物なのだな?」

「…………チッ」


 そう、ジークを撒くのに失敗した。

 この筋肉、最近ウチの親を味方に付けやがった、小賢しい真似をしやがって!

 いくら魔王と言えども、扶養家族である以上、パパンとママンにはなかなか逆らい辛い。

 俺は早熟だから反抗期は暗黒の病と一緒に深淵の闇の中に置いてきた。

 てか、当時の俺を知っている両親にはなかなか逆らえないんだ、俺の黒歴史をよく知っているだけに。

 例えるなら俺の体に巻かれた爆弾の起爆スイッチを握られているようなものだ、命令されたら銀行強盗だってしなきゃならない……


「まぁぶっちゃけて言うと、新しい魔導器は別にどうでもいい、有って困るものでもないけど、無くても全然平気。

 本当に欲しいのは魔神器なんだよね…… アレ凄い便利じゃん? 前から欲しいと思ってたんだ」


 先輩は素直だな、アレは確かに便利だからな。

 我々は既に5つの魔神器を保有している、俺と琉架が持っていた新しいのと古いの合わせて4つ、後リズ先輩からパクったやつが1つだ。

 魔神器は容量によって価値も変わってくるが、どちらにしても買えばべらぼうに高い…… ま、いいか。


 さすがに創世十二使用って訳にはいかないが、もっと要領の低いやつなら……

 どうせ洋服や小物を入れるのに使う程度だ、もしかしたら先輩の新刊本でも入れるのかもな、魔神器があれば運送代を0に出来る…… 金持ちのクセにみみっちい……


 伊吹とジークにも低容量版を持たせればいいだろう、創世十二使用の大容量版は各魔王に持たせよう。

 特に文句も出ないはずだ。



 自分を納得させて建物に入る。


 まずは能力値測定、その後個人に合わせて魔導器を調整する。

 コレだけ数が多いとけっこう大変な作業だな。


「ん?」

「あ……」


 扉を開くと一人の男と目が合った。


「きっ…! 貴様ァーーー!!!!」


 一人の男というかバカが居た……

 あぁ、間違えた。


 勇者がいた。


 リリス本気でふざけんな!!




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