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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
246/375

第240話 咲かない花


 魔王マリア=ルージュを倒す…… また随分と分不相応な事を言い出したな。

 つまりアレか、勇者襲来というこの状況を作り出したのは、俺が情報をシニス世界に伝えたせいか……


 …………


 伝えるんじゃ無かった!!




「魔王を倒す?」

「はい」

「誰が?」

「勇者ブレイドが……です」


 聞き間違いじゃ無かったのか、てっきり耳がイカレたのかと……

 空耳じゃ無いとすれば……


「HA!HA!HA! ナイスジョーク♪」


 左手で額を押さえながら右手をパタパタ動かし、如何にも「コリャまいった!」感を演出してみた。

 すると……


「ウガアアアァァァーーー!!!!」


 遠くから勇者の怒りのアピールが届く…… てっきりジョークかと思ったのに……

 どうやら本気らしい。え? マジで?


「冗談だったら良かったんですが、本人は至って真面目で、本気で第3魔王の討伐を考えているんです」


 oh…… またしても無策で突っ込むつもりか? 前にソレで全滅しかけただろ? 何の勝算も無く挑むのは馬鹿のする事だ! あ、アイツは馬鹿だから平気で突っ込むのか。

 以前は運良くその場に俺が居合わせたから全滅を待逃れたが、そんな幸運が何度も続くはずが無い、大体同じような場面に再び出くわしたとしても、相手がマリア=ルージュじゃ助けられるとも思えない。

 だったら俺に言えることはただ一つだ。


「一つだけ忠告する、あの馬鹿にじゃなくお前たち三人にだ。

 今回ばかりは勇者に付き合うな、本当に死ぬからな?」


「何人もの魔王を倒してきたキミがそこまで言う相手…… なんですね? 第3魔王マリア=ルージュ・ブラッドレッドとは……」

「俺も直接お目に掛かった事は無いが、噂ではヤツの視界内に入った時点で死亡確定らしい」


 噂では無く第12魔王からの情報だ。

 更に隠された能力まであるらしい…… 伊達に最強最悪最凶なんて呼ばれ方してないよな。


「ウガァアア!!!!」ブチン!!


 ん? ブチン?


「だったら何だと言うのだ!! お前は自分の生まれ育った世界がヤツに蹂躙されるのを指をくわえて見ているだけか!?

 だったら黙って見ているがイイ!! 俺が第3魔王を倒すトコロを!!!!」


 うわ…… 猿轡を噛み切りやがった、さすが頑丈な勇者、歯も頑丈だな。

 そして案の定、こちらの話をまともに聞いて無い、相手の視界内に入ることも出来ないのにどうやって倒すつもりだ?

 そしてその現場をどうやって他人に見せるつもりだ? その場にいたら死亡確定だって言っただろ。


 更に付け加えると、俺は自分の生まれ育った世界がヤツに蹂躙されても割とどうでもイイ。

 シニス世界での暮らしも長いし、何と言っても向こうには俺の禁域王宮(ハーレムパレス)があるからな。


 とは言え、デクス世界が滅びるのは困るのも事実だ。

 俺の読んでる漫画は休載ばっかでいつになっても完結しそうにないしな。


「もちろん指をくわえて見ているつもりは無い、第3魔王を倒す手立ては準備中だ」


 リリスがな……


 …………


 アイツ本当に準備してるんだろうか? 帰ったら進捗状況を聞いてみるか。

 お気楽女子高生を満喫していて忘れてそうだな。


「ふははははっ!!!! さすがは我が永遠のライバル!! そうだと思っていたぞ!

 だが今回は…… 今回だけは…… 今回こそは絶対に俺が勝つ!!!!」


 勝手に勇者のライバルにされた…… 勘弁してくれ、さっきまで俺のコト殺す気満々だったくせに、ライバルとかどの口が言うんだ……?

 ウルサイしもう一回猿轡を噛ませておくか? それと噛み切れない様に歯を全部抜いてやるか?



 ブロロ……



 チッ! どうやら時間切れらしい、バスの大軍のご到着だ。


「おぉ~い、皆さ~ん、バスが到着しましたよ~」


 さて…… バスが来たのはいいんだが、勇者の処遇をどうするか? GPSでも埋め込んどくか?

 あ、電波が使えないから意味が無い…… 不安だ…… この行動力あるバカを野に放って大丈夫だろうか?

 取りあえず体育館の修理代として有り金全部巻き上げとくか、大した額 持ってないだろうけど……


「お~い、カミナぁ~」

「あ?」


 唐突に誰かに呼び捨てにされた、その方向を見ると体育館の入り口からリリスが顔を覗かせていた。

 人に面倒な仕事を押しつけたクセに、なぜお前が来てるんだ? だったら最初っからお前が来い! 全部終わってから来る辺りがちょっとムカつく……


「あれ? あの人……」


 エルリアがリリスを見て反応してる、やはり決闘を見られたのか?

 或いは神隠しに遭ったときリリスを目撃したのか…… まぁリリスも神隠し被害者全員の前に姿を表してるワケじゃ無いだろう、もし姿を表してたらもっと銀髪美女の噂が流れてたハズだ。

 そして俺がその噂を知らないハズがない! だって俺だし……


「え~、帰還・移住者の皆さん、バスが到着しましたので荷物をまとめておいて下さい。

 準備ができ次第呼びますので一列になってお待ちを、暴れる奴がいたらロープで引きずっていくのでご注意下さい」


 一応勇者に釘を刺しておく、これ以上何か壊されたら困る、アイツの借金は多分リリス辺りが建て替えることになるだろう……

 魔王が勇者の借金を立て替える…… もはやギャグ漫画だ。


 コッチを凝視しているエルリアから離れてリリスに話しかける。


「リリス…… 何でお前がここに居るんだよ?」

「何でってカミナが連絡くれたからでしょ?」

「? 何のことだ?」

「『トラベラーの中にBAKA勇者が居た』って」

「………… つまり勇者を見に来たのか?」

「えぇ、そうよ」


 外タレじゃ無いんだからワザワザ見に来るようなことか?

 お前そんなにミーハーだったっけ? そう言えば伊吹も勇者を見たがったな……


「確かに勇者は魔王以上の希少種と言えないこともないが……

 ハッキリ言ってアイツにワザワザ足を伸ばして見に来る価値があるとは思えん。

 そんな事するくらいならマンガ喫茶にでも行ったほうが余程時間を有効活用している」

「そこまで言う程なの? 別に私も興味本位で見に来たわけじゃないわ。

 ……確かに珍獣を見てみたいって感覚もあったけど……」


 ほら見ろ珍獣扱いだ。

 同時代で世界に1匹しか存在しない生物…… ま、珍獣だな。


 これも魔王の持って生まれたサガだろうか? リリスは勇者に対してはちょっと厳し目だ。

 俺が勇者に厳しく当たるのも同じ理由だろう……

 あれ? 俺って魔王になる前から勇者に対して厳しかった気がする…… ま、いいか。


「それじゃ何でわざわざやって来た? 勇者がいると知っていれば普通は避けて通るものだぞ?

 魔王に限らず一般人ですら……」


 ソレはソレで可哀想な人生だ、次の50代目勇者が女の子だったら、せめて俺だけでも優しくしてあげよう。

 魔王だけどイイよね?


「私が来たのは勇者が使えるかどうか見極める為よ」

「はぁ?」

「もし使えるようならマリア=ルージュとの戦いのコマにしようと思って」

「断言する! 使えない! 絶対使いモノにならない!」

「………… 即答ね?」


 リリスはデクス世界に渡って1200年…… 最初の勇者が出現したのもそれくらい前の話だ。

 だから知らないんだ…… 歴代勇者はどうか知らないが、少なくとも49代目勇者は糞の役にも立たない。

 そんな事の為に数時間も掛けてバスで見に来るくらいなら、家でソロプレーでもしてる方が余程良い。


「でも勇者の『魔王殺し(ホワイトアウト)』なら、もしかしたらマリア=ルージュの『深紅血(ディープレッド)』を防げるかもしれない……」

「いや…… 無理だろ? だってあのバカ、ミューズ・ミュースにアッサリ操られてたぜ?

 他にもウォーリアスの『星の御力(アステル)』で潰されたり、ジャバウォックの『事象破壊(ジエンド)』でご自慢の剣を破壊されたり……

 そもそもアイツが魔王相手にまともに戦えてたトコロ見たコト無い」


「それは『魔王殺し(ホワイトアウト)』が覚醒して無かったからよ」

「なに? 覚醒?」

「そもそも勇者システムとは魔王システムを模倣して創られたモノなの。

 私たちは『魔王』なんて呼ばれてるけど、本来は『超越者』と呼ばれるべき存在なのよ、魔王という呼称は当時の人々がその圧倒的な戦闘能力と、莫大な魔力量を有している事から畏怖の念を込めて呼び始めただけ。

 そして魔王システムの模倣から創られた勇者も『超越者』足り得る資質を持っている」


 システム? 一体何の話をしてるんだ?


「勇者と魔王は大本は違うけど、同系統の力を持っている。

 ただしそのコンセプトは全く異なるわ、勇者とは魔王のカウンターとして創造された。

 だから勇者の『魔王殺し(ホワイトアウト)』が覚醒すれば魔王の力をほぼ無効化できるってウワサよ、ただし時間制限アリらしいけど」


 勇者と魔王が同じ力を持っている?

 ……勘弁してくれ、すっげぇ嫌なんですけど……


「かつて一人だけ、覚醒まで辿り着いた勇者が居たらしいわ、何百年も前の話だけど…… 確か29代目…… だったかな?」

「ちょっと待て、かつて一人だけ覚醒者が居たのなら、そいつはなんで魔王を倒さなかった?」

「私も詳しくは知らないんだけど、その歴代最強の勇者様は覚醒したのが遅すぎたみたいね」

「?」

「カミナも知ってるでしょ? 勇者は25歳で定年を迎えるの。その後勇者の力は次の世代の勇者に引き継がれ、先代勇者は力を失う……

 ま、当時の勇者も頑張ってあと一歩と言う所まで行ったらしいけど、残念ながらタイムオーバー、時間切れってワケよ」

「ナルホド…… 49人の勇者の中で、覚醒者となった者はたった一人……」


 チラ


 視線の先には暴れ出さない様、仲間達からお説教を喰らってるバカの姿がある……


「期待するだけ無駄だろ?」

「そうでも無いわ、29代目以降の勇者には確実に覚醒の経験が受け継がれている。

 確かに未だ二人目の覚醒者は現れてないけど、最新版の勇者はそれ以前の勇者より覚醒の確率は高いハズよ」


 どんなに確率が高くてもハズレる時はハズレるものだ。

 70%の確率のアテにならなさと言ったら…… 当たり前の様にミスるんだ。


「勇者覚醒のプロセスは不明だけど、本人の資質とより多くの苦難を乗り越えた者が覚醒者へと至る…… 気がする」

「予想かよ……」

「予想ね、私も其の覚醒勇者は見たコト無いし」


 う~~~む……

 本人の資質とより多くの苦難を乗り越えた者が覚醒者へと至る……か。

 バカ勇者ブレイドは、資質は正直足りてない気がするが、歴代勇者より多くの苦難を乗り越えて来たと思う。


 多くの魔王と戦い敗れ、世界一嫌いな男に魔王討伐の功績を奪われ、その男にしょっちゅうボコボコにされている…… それこそ身も心も……

 コレだけの苦難を乗り越えてきたのなら、或いは覚醒できるのではないだろうか?


 …………


 まぁ、アイツが苦難を乗り越え(・・・・)られて来たかどうかは、疑問が残る所だが。




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