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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
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第238話 災厄の旅人・前編


 完全版・門を開きし者(ゲートキーパー)の習得は、思っていたよりもあっさりと完了した。

 もともと劣化版・門を開きし者(ゲートキーパー)を習得していたのが大きな理由だ。

 なんて事はない、後はその応用技を身につけるだけだ。

 溢れんばかりの才能を持つ俺に掛かればこの程度の技術習得、赤子の手を捻る様なもの、1日かからなかったなぁ……


 アーリィ=フォレストは多少手こずったが、それは門を開きし者(ゲートキーパー)の練度の問題だろう、あの引きこもり、せっかく門を開きし者(ゲートキーパー)を覚えてもウチから出てこないから。

 アレか…… 外に着ていく服がないのか、確かにあまり奇抜な格好はデクス世界では目立ちすぎる。

 そうだ、今度魔王同盟の正式ユニフォームである第三魔導学院指定制服を買ってきてあげよう。

 ついでに学院指定ジャージも、アーリィ=フォレストにとってはこっちのほうが重要になるだろう。


 まぁ、どちらにしても彼女はこれからしばらくO.A.O.図書館に引きこもる、当分人前に出ることはない。

 もしγアリアが来てもアーリィ=フォレストが守ってくれるだろう、少なくとも図書館だけは完璧に…… 図書館の上の国がどうなるかは分からんが……


 とにかくこれで消費MPが少々高めのル◯ラが手に入った。

 後はこの技術を『超躍衣装(ハイ・ジャンパー)』に組み込み、よりエコな超長距離転移を手に入れる。

 こっちはヒマを見てやっていこう、完全版・門を開きし者(ゲートキーパー)があればすぐに必要な技術って訳でもないからな。


 ………… 取りあえず緊急性のある仕事は終わった。

 こうなってくると次の問題にも着手しないといけない時期かな?


 第3魔王マリア=ルージュ・ブラッドレッドの討伐だ。


 今回俺は討伐隊の中核ではない、なんだかんだで巻き込まれそうな気はするが、メインは第12魔王リリス・リスティスだ。

 最近のお気楽女子高生っぷりを見ると、ホントにやる気があるのか疑わしい所だが、彼女は一体どうするつもりなんだろう?

 魔王マリア=ルージュとは1対1で対峙しなければならない、コレは絶対条件だ。

 例えアイツの即死攻撃を無効化できてもだ。


 南極に引きこもってるアイツの廻りには、当然多くの部下や眷属達が居るハズだ、それらを全部退治してから魔王戦は幾らなんでも厳しい……

 つまり…… その露払い役を俺がやらないといけないのかな?


 …………


 マリア=ルージュの眷属の数は恐らく全魔王中最大を誇っているだろう。

 それを俺一人で何とかしろってか? かなり大変そうだな……

 いや、敵を全滅させていいならむしろ簡単かもしれない、毒ガスを使っちまえばいいんだから…… ただ、問題はαアリアの広さだな、現在元の半分ほどの大きさになったとはいえアリアは広大だ。

 その全域で毒ガスを発生させるとなると、やはりしんどい……


 いっそ核融合でアリアを落としちまうか? その方が手っ取り早い。

 南極なら一般人を巻き込む恐れも無いし……


 人質として捕えれてる奴とか居ないだろうな? ザックとノーラとか……


 もし居たら核融合はもちろん毒ガスも使えない、事前に調べないといけないな…… どうやって?

 そもそもアリアを落としたら、リリスの魔王城エンブリオまで潰してしまうかも知れない……


 あぁもう! 考えれば考えるほど憂鬱だ、かなり大変な仕事になる、俺って本当に魔王運が悪いな。

 やはり入念な準備が必要だ、敵のコトを詳しく知る必要がある、何か適当な当て馬でもあればいいんだが……



 事件が起こったのは、そんな事を考えていたある日のことだった……



---


--


-



 リィーン…… リィーン……


 特別クラスの自習時間に例の鈴の音が響き渡る。

 リリスの持つ通信用魔導器の音だ。


「はい」


 リリスは授業中にも拘らず当たり前のような顔で通信を受ける、まぁ自習時間だし別にイイか…… 俺も膝に白を乗っけてるし……


「え? 本当に? ……分かった、こっちでも頼んでみるわ、ええ……」


 リリスが一瞬コッチをチラ見した、嫌な予感がする……


「ねぇカミナ、お願いがあるんだけど」


 やはりか…… リリスからのお願い攻撃だ、俺の答えは当然決まっている。


「断る」

「えぇ~~~、せめて内容聞いてから断ってよ……」


 俺は便利屋じゃないんだ、なんでもかんでも押し付けるな。


「実はね、トラベラーが来たらしいの……」

「おい、勝手に話を進めるな」

「数は500人ほどらしいから、例の情報はちゃんと伝わったみたいなんだ……」


 無視かよ。


「それでちょっと迎えに行って欲しいんだけど?」

「はぁ? なんで俺が?」

「ほら、カミナって向こうでも有名人でしょ? この状況でも異世界間移動してくるってコトはみんな帰還者だと思うの」

「それと俺に何の関係がある?」

「大和に大勢の帰還者が流れ着いたのが初めてだから政府が対応に困ってるらしいの、それでレイフォード財団に事情に詳しい人の派遣要請が来たの。

 で、異世界間移動歴が多く顔の広いカミナに白羽の矢が立ったってワケ」


 確かに顔は広いよ、不幸の手紙がダンボール単位で送られてくるくらいにはな。

 だが矢を立てたのはお前だろ? そっちの都合など知った事か……と、言いたい所だが……


「条件次第だな」

「? 条件?」

「リリスは当然、オリジン機関の大和支部にも影響力があるよな?」

「それはまぁ……」

「ウチのメンバーの装備を一式そろえたい」

「D.E.M. 全員に専用の魔導器を持たせるってコト?」

「俺と琉架は除外していい、既に専用魔導器を持ってるからな」


 ただ新しいのには換えておきたいトコロだが。

 ジークと先輩も除外していいかな? 伊吹は目の前に居るから省く訳にはいかないが……


「う~ん…… 別に魔導器提供は構わないんだけど、きっと大騒ぎになるよ?

 何と言っても世界級能力値持ちが何人もいるんだから」

「施設を貸し切ってくれれば計測・調整は俺がやるよ」

「カミナって自分で調整できるんだ…… だったら問題ないかな?」


 よし、これで全員の装備が充実する、特にミカヅキの装備が一気にパワーアップする。

 面倒な仕事だが、実入りがあるからマシだな。


 最近、どうにも物理的報酬のない仕事ばかりだったからな、まぁやることは実質迷子の案内レベルだが……


「後10分でヘリが来るからそれに乗ってって」


 また無駄に目立つことをさせやがる……



---


--


-



 ◯◯県 山奥村


 大和の僻地と呼ばれるこの村にシニス世界からのトラベラー500名が流れ着いた。

 この村にこれほどの人が集まったのは実に数世紀ぶり…… それ程の田舎であった。


 村立 山奥小中学校 体育館


 トラベラーたちはそこへ集められていた。


「スゲェ…… 第三魔導学院からヘリで30分でこんな僻地に着くとは……

 まぁ100kmも移動すればいろんな景色が見えるのも当然か」


 そう言えば完全なお一人様移動は久し振りだ、俺の周りには常に美少女かクソ筋肉が居たからな……

 あぁ…… 寒い…… こんなことなら先輩でもいいから連れてくるんだった。


「ご苦労様です! あんだが神隠しの専門家ですかぇ?」


 訛りの強い駐在さんっぽい人に話しかけられた。

 専門家じゃねーよ、被害者だ。

 専門家ってのはリリスみたいなやつのことを言うんだ、アイツ…… 人に丸投げしないで自分で行けよ。


「まぁ…… そんなようなものです」

「随分とお若く見えますが…… 大丈夫ですか?」


 なんだろう? そんなに対応に困る程の荒くれ者でもやって来たのだろうか?

 オル◯ガみたいなパンツマスクとか? モヒカン肩パットの黒大根みたいなのか?

 そりゃこの長閑な村では手に余るレベルだ。

 不安に思うのも仕方ない。


「大丈夫ですよ、多少の荒事でも対処できますので」

「そうですか、いやぁ~助かります、異種族なんて初めて見るもんで」

「異種族? 人族(ヒウマ)以外が居るんですか?」

「えぇ、えぇ、二人ほど、どっちもちっさいですけどね」


 この世界情勢でわざわざデクス世界にやって来るアホな異種族が居る?

 情報が届かなかったのだろうか? その可能性は低い、普段なら数千人規模で移動するトラベラーが今回は500名しか居ないんだ、きっとクレムリンでも大騒ぎになってた筈だ、それに気付かず転移してきたなら、正真正銘のどアホだ。

 ただし被害者の配偶者、或いはその子供、ハーフの可能性もあるか…… 神隠しに遭いシニス世界で異種族と結婚したケースだ。

 異種族婚の場合、生まれてくる子供は両親どちらかの特長だけを受け継いでいるという……


 つまり例えば俺と白に子供が出来た場合、その子は人族(ヒウマ)になるか獣人族(ビスト)になるか分からないんだ。

 これは鬼族(オーガ)のミカヅキも同様だ。

 確定してるのは俺とミラの娘が人魚族(マーメイド)になるコト、俺と琉架の子供が人族(ヒウマ)になるコトだけだ。


 ……と、まぁ、さり気なく嫁たちとの子作りを確定事項にしてしまった。

 うむ、未来が楽しみだ。


「……で、どうしましょうか?」

「え? あぁ、そうですね、とりあえず名簿を作って下さい。

 氏名と年齢、後は出身地ですか」

「出身地?」

「大和出身ならすぐに帰れますが、他国出身者は簡単には帰れない状況です。

 政府なりレイフォード財団なりに押し付けるにしても名簿は必要になります」

「ほぉ~~~、若いのにしっかりしてますなぁ、では……」


「あ、大事なコト忘れてた、職歴も聞いといてください」

「職歴? 重要ですか?」

「はい、超重要です。今この世界では戦力が不足してます。第3魔王の無差別攻撃により、どこの国でも戦闘能力者の需要が高い。

 シニス世界での実戦経験のある人材は、喉から手が出るほど欲しい即戦力なんです。

 政府にしてみれば頼りになる助っ人がやって来た、トラベラーにしてみれば直ぐに働き口が見つかる。

 まさにWin-Winの関係です」

「ほぅほぅ、うぃ~んうぃ~んの関係ですか、さすが都会の人は頭がよろしいですなぁ、普通なら税金でタダ飯ぐらいする役立たずにしかならない輩を戦争のコマに使うとは、感服いたしますです」


 なんか言い方にトゲがあるな? まるで俺が人権無視の極悪人みたいな言い方だ、当然トラベラーにも拒否権がある、戦いたくないなら戦わなくていい。

 或いは駐在さんの息子がタダ飯ぐらいのニートでもしてたのだろうか? 強い恨みの様なものを感じた。


「それでは1日お待ち下さい」

「はっ? 1日?」


 オラこんな田舎で24時間も待ってるの嫌だぞ?


「すんません、なにぶん過疎率大和一の山奥村ですから、年寄りしかおらんのです、役場の人間を総動員してもそんぐらいは掛かるんですだ」


 総動員してどうして1日掛かるんだよ? 500人だぞ? 確かにじーちゃんばーちゃんの無駄話が挿みこまれると時間が掛かりそうだが……


「ちなみに動員できる人数は村長と受付と用務員、それに小生の4人です」


 え? 今日平日だよね? 日曜日に緊急呼集したワケじゃないよね? 何でそんなに人少ないんだよ?


「分かりました、俺も手伝います」

「おぉおぉ、すんませんのぉ」


 ま、トラベラーの大半がデクス世界出身者なんだ、そいつらに手伝わせればすぐ終わるさ。

 しかし限界集落の限界を垣間見てしまった……



---



 500名のトラベラーを前に我が方の戦力が勢ぞろいする!


 一人目は後光を纏っている村長さん! 眩しくて直視できない! 推定年齢80歳、こんな作業に駆り出してしまって実に申し訳ない。


 二人目は受付のお姉さん! 乙女の年齢に関しては敢て言及しないが、恐らく3回目の成人式も終えているであろう。


 三人目は用務員のオジサン! 年齢は50歳前後、脂の乗った働き盛りの年代だ! 少々脂が乗り過ぎている気がするが……


 四人目は訛りの強い駐在さん! 税金の無駄遣いを憎む正義の使途だ! その調子で政務活動費を騙し取ってる議員とか捕まえてほしいモノだ。


 そして五人目が、今 魔王界で最もイケてると噂の“禁域王”霧島神那! 普段は美少女に囲まれているのに、今日はお年寄りだらけでちょっぴりテンション低めだ。


 我が方の戦力があまりにも貧弱で泣ける……

 見てみれば山奥村4戦士は一人に付き5分以上掛けてまだ終わらない…… 一体何を話しているのやら…… このペースじゃ1日じゃ終わらないぞ? 俺はこんな仕事さっさと終えて嫁達の元へ帰りたいんだ。


 ハァ…… 嘆いていても仕方ない、やらなければ終わらないんだ、さっさと始めよう……


「最初の方どうぞ」

「はい、えっと宜しく」

「はいヨロシク、お名前は?」

「ハブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアノ・デ・ラ・サンテシマ・トリニダード・ルイス・イ・ヒカソ」


 ………… いきなりメモるのを放棄したくなるような長い名前が来た。運命の悪意を感じる。やってられるか!


「はい、ハブロ・ヒカソさんね…… 年齢は?」

「え? あの…… あ~…… 41歳です」

「出身は?」

「フェニキアです」

「ご職業は?」

「フリーターです」


 画家じゃないんかい!


「はぁ……どうも、戻っていただいて結構ですよ」

「あ……はい、ありがとうございます」


 俺…… 何でこんなトコでこんな事やってるんだろう? こんなの魔王の仕事じゃ無い!


「はぁ~~~…… 次の方どうぞ」

「はい、ヨロシ……ッ!?」

「はいヨロシク、お名前をどうぞ」

「くっ…… ぐぐっ…… ブレイドだ」

「クググブレイドさん? ファミリーネームは?」

「違う! ブレイド・アッシュ・キース・アグエイアスだ!!」

「そんな大きな声出さなくても聞こえてますよ~? え~と、ブレイド@マーク.comさん? 変わったお名前ですね?」


 ん? 変わった名前なのにどこかで聞き覚えが……


「それで年齢は?」

「お前……ッ! くそっ! 19だ!!」

「クソ19……と、ご出身は?」

「……ッ……ッ!! パンプキン村だ!!」

「パンプキン村……と」


 パンプキン村って何だ? カボチャ村か?


「それではご職業は?」

「…………勇者だ!」

「ゆうしゃ……と…… ん? 勇者?」


 そこでようやく視線を上げて相手を確認した。

 燃える様な真っ赤な髪と、ボロボロの青い鎧、そしてその顔は怒り一色で彩られていた。


 あ~…… 何度も見てきた顔だ……


 何故か49代目バカ勇者がそこに居た。




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