第234話 脱出 ― エグゾダス ―・後編
「まぁ、創世十二使とやらの事などどうでもイイ……」
そう言うと妖魔族の司令官(仮)はマントを翻し、いつもの儀礼剣を取り出し構える。
反射能力とか持ってるクセに近距離攻撃タイプなのか?
遠距離からの魔術の打ち合いならこちらに分があるんだが…… 超火力の琉架と全魔導魔術を使えるリリスがいる。
万が一反射されても、反魔術使いの俺がいる……
それを見越しての接近戦だろうか?
確かに遠距離より近距離の方がやりやすいかも知れないな、師匠の攻撃をはね返せる能力者なら。
「生き残りはお前達で全部…… だな?」
「さぁ? それはどうかな?」
……と、咄嗟に誤魔化してみたが、向こうも確信を持ってるみたいだ。
状況的に見ても全員揃ってると思うのが自然だ。
「コレでようやくこのくだらない任務も終わる、随分長いコト付き合わされたからな…… お前達で憂さ晴らしさせてもらうぞ?」
「つまりココの人間の全滅がお前の目的だったのか?」
「フッ……」
フッ…… じゃ無くてさ。
だったら他に幾らでもやり様があっただろ? なんで破れる見込みのない聖域を取り囲んでたんだよ?
いったん引いて、油断して出て来たトコロを攻撃すれば良かったじゃねーか、なんで半年以上も時間を掛けてたんだよ?
コイツ…… もしかしてバカなのか? それとも田舎に飛ばされてる間は地方手当とか貰えたのか? 嫁との間がギクシャクしてるからちょっとした別居のつもりだったとか?
或いは他の目的が? さすがに門を開きし者の記憶書を狙ってたとは思えないが……
「リリス、ちょっとアイツを魔術で攻撃してみろ」
「え? でもアイツは……」
「分かってる、どれくらい出来るか確認してみたいんだ」
「ん~~~…… 分かった、それじゃなるべく回避し辛いのを……」
リリスは俺の脇腹横から腕を突き出した、ちょっとくすぐったい。
「第4階位級 光輝魔術『輝槍』プリズムランス」
リリスが放った魔術…… 輝槍。
光の槍が壁や床に反射しながら敵に襲い掛かる、光速というワケでは無いが圧倒的な速度で飛ぶ。
反射能力者に反射魔術を使うとはな…… さて、どうなる?
「…………」
バチィン!!
壁や床を経由し、最終的に天井で反射した輝槍は敵の顔面の30cm手前で反対方向に反射された。
そのまま反射を繰り返しリリスの元へ戻ってくる……
「反魔術」
パキィィィン!!
リリスに直撃する前に無効化した。
「意にも介さずって感じね…… 良い能力ね、ちょっと欲しいかも」
「頼み込んで体験させてもらうか?」
「冗談でしょ? ギャラリーも沢山いるのに顔を出したら正体バラされる、そもそもあの女の使途が私に協力する事など天地がひっくり返ってもあり得ない」
だろうな。
簡単に覚えられないからこそ『幻想追想』はチート級の性能を誇ってるんだ。
『恩恵創造』を使ってもこの制限は取っ払えないかも知れないな。
しかし…… 本人は全く反応しなかったな。
自動で攻撃を反射できる能力…… こっちもチート級だな。
「気は済んだか?」
「いいや、まだ確認したい事があるから付き合ってもらうよ!
弐拾四式血界術・拾参式『箒星』」
血弾を撃ち込む、ただしターゲットはディートヘルムでは無く、その手前の床。
ビシッ!!
血弾が床にめり込む!
「? 何がしたいんだ?」
「まぁ慌てるなよ」
ドン!!
床に打ち込まれた血弾はワンテンポ置いて爆発した。
爆発には敢えて志向性をもたせず周囲に均等に風圧と瓦礫片を飛ばすよう設定した。
バギィィィン!!
だがやはりはね返される…… しかしこちらには戻ってこなかった。
瓦礫片は爆心地に戻っていった……
ふむ……
今の一発で色々分かった、アイツの『業反射』は自動式の反射能力。
リリスの聞いた噂の通り自らに害を及ぼす攻撃を自動で反射してくれる、その反射膜は体の周囲30cmの位置に展開されているようだ。
魔器『無限円環』に近い性能を持っている。
そして重要なのが「自分に害のない攻撃は反射されない」ってことだ。
その証拠に爆発の風圧がアイツの髪を僅かに揺らした、反射膜を通り抜けたんだ。
アイツがオールバックでガチガチに髪型を固めてるのもそれを悟らせない為なのかもな……
小賢しいけど正しい判断だ。
ただやるならスキンヘッドにしたほうが確実だ、アイツは覚悟が足りない。
「どうだ? 俺の能力を破れる算段はついたか?」
「…………」
デュートヘルムが余裕を見せる…… 確かに正攻法では難しい。
だが攻略自体はさほど難しくない。
『業反射』は反射膜が攻撃を反射しているだけだ。
要は反射膜の内側から攻撃してやればいい。
アイツがマリア=ルージュの下僕に成り下がった理由もソコだろう。
『深紅血』は反射を無視して相手の体内に効果を及ぼすことが出来るからな。
俺の血では射程距離の問題で同様の攻撃はできないが、代わりに『超躍衣装』がある。
転移攻撃なら上級魔術だろうが核融合だろうが撃ち込み放題、つまり俺はアイツにとっての天敵というワケだ。
ただ問題はこの転移攻撃を師匠に見られたくないことだ。
俺の能力をよく知る師匠に見られれば面倒なことになる。
…………
師匠…… みんなの為にここで死んでくれないかな?
小の虫を殺して大の虫を助けるの精神で……
この場合むしろ逆か? 師匠というでっかい虫を殺して非戦闘員を助ける。
師匠ならきっと分かってくれるさ、俺が逆の立場ならきっとそうしろと言う! ……ワケないか。
これ以上犠牲者を出さない方向で行くとして、更に師匠の目を塞いだとしても問題はある。
それはこの場所だ、オリジン機関本部の最下層部「禁層」…… つまり地の底だ。
高位の使徒は簡単には死なない、こんな場所でアイツを倒すための高威力の魔術を使えばみんな仲良く生き埋めになりかねない。
…………ん? 生き埋め?
「さて…… そろそろ良いか?」
デュートヘルムは剣を構えること無くリラックスした感じで一歩前へ出てきた。
「リリス、宵闇を全域展開してくれ」
「え? でもそれもはね返されるんじゃ……」
「塞ぎたいのはアイツの目じゃない、味方の目だ」
「あ~、なるほど、了解」
「今からちょっと危険な神器を使う! その為全員の目を強制的に塞がせてもらう!」
生き残りの人達に念の為、予防線を張っておく。
「第7階位級 暗黒魔術『宵闇』ブラインド」
リリスが創り出した“闇”が通路いっぱいに広がり全てを覆い隠していく。
ただ一人を除いて……
「目眩ましか?」
“闇”はデュートヘルムの目前まで迫りながらも反射膜に阻まれ、それ以上は進んでいかなかった。
「これは…… しまった! 闇に紛れて逃げるつもりか!」
「惜しい! 逃げる事は逃げるけど、この闇はお前を封じる為に必要なモノなんだ」
「!?」
闇に紛れて至近距離まで接近、デュートヘルムからは俺は見えないだろうが、俺からは良く見える、緋色眼があるからな、第三の目とは見えるモノが違う。
「しばらく暗黒の世界で大人しくしててくれ」
「なっ!!?」
ビシュン!!
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戦闘は終結した…… 戦闘と呼べるほどのモノでは無かったが、敵を退ける事には成功した。
目眩ましの闇が晴れるとその場に残されていたモノは……
驚愕の表情を浮かべたデュートヘルムの石像だった。
またしても不気味なオブジェを作り出してしまった……
「………… カミナ…… ナニしたの?」
リリスが恐る恐る聞いてきた、ふふん、分かるまい。
「あぁコレは……」
俺がドヤ顔で説明してやろうとした時だった、突然バカみたいなセリフが聞こえてきた。
「漆黒の闇に包まれ、永劫の時を彷徨え……」←キメ台詞
「…………」
「…………」
「アレ? どこ行った三つ目オールバック!」
突然師匠が復活し、キメ台詞を宣った……
いや、アンタ何もキメて無いだろ? いきなり突っ込んで行って、いきなりやられたクセに……
師匠が空気読めないのはいつもの事だが、この症状…… もしかして……
「琉架、もしかして『両用時流』使ったか?」
「うん、どんどんオーラが小さくなっていって今にも脳死しそうだったからリセットしちゃった…… 不味かったかな?」
そうだよな…… 師匠はいつだって全力全開だ、そしてソレをはね返されたんだ。偽・超絶破壊を喰らって死に掛けてたんだ。
まぁ、琉架の判断は正しい。
個人的にはどうでもいいが、ここで脳死されると担いで帰らなきゃいけないからな、メンドクセー。
「何だコイツ? 石像みたいになって、そんなもので我が一撃を防げると思うなよ?
真・超絶破壊で粉々にしてやる」
師匠は数十秒時間を巻き戻され元気一杯、そしてこの数十秒間に起こった出来事を体験して無い、琉架の『両用時流』は本人以外に使った場合、記憶まで巻き戻されるのが弱点なんだよな…… 師匠は自らの軽率な行動まで忘れてしまう。
「師匠ストップ! こんな狭い場所で全力出さないで下さい。
通路が崩れたらみんな死にますよ?」
「む?」
「それにソレは抜け殻です、壊しても意味ないです」
「なんだと? 一体何が起こった?」
仕方ない、教えてやるか。
なるべく師匠を怒らせないように。
「コイツは反射能力を持ってたんです、卑怯にもソレを使って師匠の一撃必殺の攻撃をはね返し、師匠を行動不能にしました」
「なにぃ? この卑怯者め!」
別に卑怯でも何でも無い……
むしろ警戒しないで突っ込んでった師匠が悪い。
もちろん口には出さないが。
「大きな攻撃は施設崩壊の危険がある、そもそも反射能力者の前では意味が無い。
そこで少々危険な神器を使用しました」
「危険な神器?」
「神器『女支配者の眼』、眼球の形をした宝石の神器で、これと目があった生物はああなります」
「石化の神器だと?」
「この神器は攻撃というより保存・保護の意味合いが強い、これで反射膜を無視して石にしてやりました」
「むぅ…… そうか」
「もちろん危険極まりない神器ですから、生き残り全員を宵闇で覆って安全を確保して使いました」
「…………チッ!」
…………
師匠はこの結末に満足いかないようだ、きっと必殺技をぶち込んでスッキリ終わらせたかったんだろう。
ガキか? とても付き合いきれん。
ツンツン
「ん?」
「カミナ…… 今の説明、嘘でしょ?」
当然大嘘だ、そんな危険な神器持ってない。
「何したのアレって?」
「簡単なことだよ、『強制転送』で100メートルほど離れた岩盤の中に跳ばした」
「強制転送…… そんなことが…… あれ? それってつまりデュートヘルムは生きてるってこと?」
「その通り、生き埋めだ」
普通の奴なら数分で死ぬ攻撃だが、上位種族でさらに使途だ、死にたくても簡単には死ねない。
もしかしたら次の満月の日には出てくるかもしれないが…… もう会うことも無いだろうが、復讐にやって来るならそれでもいい、アイツは大した驚異じゃないからな。
「それじゃ脱出を続けましょう、恐らく今の奴が指揮官だっただろうけど、まだ他にも無生物系の敵が残ってる可能性もある、だから先頭は師匠に……」
バゴン!!
「フーッ! フーッ! フーッ!」
「…………」
師匠がデュートヘルムの不気味オブジェを破壊した、それで気が晴れるなら幾らでも壊してくれ。
間違ってもコッチにその理不尽な怒りを向けないでくれ?
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その後、禁層で2度ほど敵と遭遇したがそれで最後だった。
やはり対生物戦で毒攻撃は有効だ、しかし今回の様に味方がいる場所で使用するのはかなり困難だ、条件が厳しすぎてなかなか使えないな。
敵にだけ効く毒のなんて都合の良いものは作れない、人体に無害だと思われても後になって実は問題があったとか言われても困る、DDT的なヤツだな。
やはり毒ガス散布は禁じ手にしよう、今回の様に絶対に味方被害が出ない状況、狭い効果範囲で使用できる状況、そんな条件が満たせる事など滅多に無い。
条件が整うとすれば…… 敵魔王城で使用するとか……
人質が居なければな。