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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
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第233話 脱出 ― エグゾダス ―・前編


 オリジン機関本部最下層、通称「禁層」は静寂と死の世界と化していた。


 大金庫室を出ておよそ1時間、敵には一切出食わさない、厳密に言うと敵には出会っている…… ただし全て屍だが……

 やり過ぎたかな? 生き残りの人たちを怯えさせてしまったか?

 むしろ頼もしいと思ってくれてれば良いんだが。


「神那、お前って結構 鬼畜だな、こんな屍の群れを作り出すとは……」


 やかましい! 魔族喰いが! いちいち俺の評判を貶めるな!


「それよりも本当に大丈夫なのか? そのナントカって毒ガス、私達にも悪影響とか出ないだろうな?」

「とっくに無毒化してますよ、もし毒性が残ってたら聖域を解除した時点で全滅してます」


 三魔王以外はな。


「むしろ血霧が行き渡らなかった場所があったら、魔族が残ってる可能性もあります、そっちに注意して下さい」


 生物の気配は感じられないが、VXガスが効かない魔族がいても不思議はない、例えば……


 カシャン


 そのとき通路の先から音がした、我々脱出チーム以外が起こした音だ。

 姿を表したのは…… 鎧を纏った骸骨、『躯騎士(スケルトン・ナイト)』だ、つまりアンデッドだ。


 なるほど…… 骨だけで動くスケルトンには毒など効くはずがないな、アレは一種の魔法生物、ゴーレムなんかに近い存在だ。

 むしろ反魔術(アンチマジック)とかの方が効き目があるんじゃないか?


「ひぃぃいいいっ!!?」


 非戦闘員にはあのルックスはちょっと怖いだろう。

 俺に言わせればむさ苦しい筋肉が付いてないだけで僅かに好感が持てる…… いや、嘘、好感は持てないや……

 アレとジークならまだジークの方がマシだ、僅差で。


「アレは躯騎士(スケルトン・ナイト)か? あんなのも居たのか、ココ半年ほどの間には見かけなかったが……」


 半年間、禁層を彷徨ってた師匠が見たこと無い?

 今まで何処に居たんだ? 廃墟の地下都市にはスケルトンやゾンビなんかのアンデッド種が似合いそうなんだが……


 こちらに気付いた躯騎士は盾の裏側から小さな笛のようなものを取り出し、それを歯で咥えた。

 そして大きく息を吸い込むような動作を取ると……


 ピィィィーーー


 笛を吹いた…… え? どうやって?

 相手は骸骨だ、肺はおろか皮膚すら無い、それでどうやって空気を吐き出した?

 コレが生命の神秘か……!


 いや、そもそもアイツ生命宿ってないじゃん、あの笛は多分魔道具かなにかだろう、つまり魔力を送り込んで音に変えたんだ。

 なんの為に? 決まってる。

 仲間を呼んだんだ。


 俺の毒ガス攻撃を逃れたやつがそんなにいるとは思えないが、囲まれたら厄介だ。

 ここは一匹ずつ排除していくべきだな。


「師匠、ここは……」

「はっはっはっはーーーっ!! 漆黒の闇より生まれ落ちし魂たちよ! 再び永劫の闇へと還るがいい!!」


 師匠が勝手に飛び出していった…… ま、いいか、初めから押し付けるつもりだったし。


神魔滅劫斬(しんまめっこうざん)!!」


 師匠の剣が躯騎士の首をはね飛ばした、それだけで骸骨はバラバラになって地面に落ちた。

 彼女がパクッた神器『真理刀(レス)』はアンデッドには効果絶大だな。


「闇に還れ……」←キメ台詞


 師匠がドヤ顔で振り向く…… その剣持ってれば素人でも勝てるレベルなんだが…… 余計なコトは言うまい、殴られたくないし……


「さすが師匠、その武器、神器『真理刀(レス)』はアンデッドに非常に有効の様ですね、この先アンデッドが出てきたら師匠にお任せしてイイですか?

 きっと師匠が一番強いから(対アンデッド限定)」

「ふっ…… お前が私の域に到達するにはまだまだ時間が掛かりそうだな? 仕方ない、助けてやろう」


 アンタの域には永遠に辿り着けないよ、もう卒業してるから。

 この先出てくる魔族は全て師匠に丸投げできた、多分アンデッド以外の魔族なんか残って無いだろ? 或いはゴーレムなんかの無生物系か……

 それでなくても頼りにしてる風を装えば、どんな敵が出てきても率先して最前線に立ってくれる。


 自分より弱い敵を圧倒して、それを周囲の人に見せつける…… 要するに自分の強さをアピってる訳だ、例の病の感染者によく見られる症例だ。

 ただ普通はさり気なくアピるものだ、かすり傷でもワザと足を引きずってみたり、テスト前に全然勉強してないって周囲に聞こえるように喋ったり…… 普通はそうする、実際にはバレバレだが。


 だが師匠は積極的にアピールしてくる。


 実にウザい。


 無視すると機嫌が悪くなり、反応すると面倒臭い。


 師匠の相手は他の人に任せたい所だが、どうやら彼女は俺と琉架に認められたい…… 尊敬されたいらしい。

 尊敬されたいならまずその病気を治療しろ。


 仕方ない…… 適当にヨイショしておこう。


「さすが師匠…… その技は全く衰えず…… いや、以前よりも鋭さが増してさえいる……

(もう結構いい歳なのにいつまでも元気だなぁ…… いや、もういい加減落ち着けよ? 死ぬまで貫くつもりか?)」


「お…おぉお!」


「そもそも敵の数が減れば師匠が遅れを取ることなどあり得ない!

 1対1で師匠に勝てる奴なんかほとんど居ないから!

(師匠の弱点は考えが足りないところなんだよな、ま、その弱点は俺達がフォローすれば帳消しにできる)」


「グフフ♪ よく分かってるじゃないか神那、お前も成長したな♪」


 チョロい…… 師匠は全然成長してない、多分20年前からあんま変わってない、まぁ肌年齢は着実に歳を重ねてるみたいだが、それでも同年代と比べるとずいぶん若々しい、精神が子供だと肉体にも影響を及ぼすのだろうか?


 カシャン カシャン……


 そんな時、通路の先から新たな躯騎士が現れた。


「フハハハハ!! 滅殺ゥ!!」


 師匠が実に嬉しそうに飛び出していった、このウザさと扱いやすさは勇者に通じるトコロがある。

 案外勇者と仲良くなれそうだ……


 …………


 どうしよう、想像したら予想以上にベストマッチだった、相乗効果でウザさ100倍だ……

 師匠を神隠ししなかったリリスの判断は正しかったな。

 こんなのをシニス世界に送ったら向こうの人が迷惑する。


「ん?」


 通路の奥に躯騎士とは明らかにシルエットの違う奴が一人いる。

 ゾンビ系か? ゴーレム系か? 或いはレイス系か?

 目を凝らしてみる…… 明らかに違う!


 黒いマントを纏い赤い軍服の様な服を身に纏っている、3倍速い赤いあの人みたいだ。コレで仮面でも被ってれば完璧なんだが……

 そもそもオーラがアンデッドとは違う、コレは生物のモノだ。

 金髪をオールバックにして額には第三の眼…… 妖魔族(ミスティカ)の司令官……か?


「偉そうなやつ見っけ! ボスか!?」


 師匠は一切の躊躇も見せずに妖魔族(ミスティカ)に襲いかかる!

 ちょっと待て!!


「師匠! ストップ!!」


 言っては見たモノの師匠は急に止まれない、そもそも止まれと言って止まる人じゃない、あの人のブレーキは壊れてる。

 ちなみにアクセルは常に全開だ。


「弐拾四式神滅術・裏零壱式『真・超絶破壊』」


 あ、パクられた…… 俺の必殺技が……

 まぁ当時、師匠と二人で考えたものだからいいか、著作権は俺と師匠の両者にある、

 ただ、俺の方が偽物みたいになるから「真」とか付けないで欲しい。


 ちなみに技は神器で斬りつけるだけだ、オリジナルの壱式『超絶破壊』とは似ても似つかない。

 これなら参式『風牙裂斬』の方が似てる…… もしかして技自体を覚えてないのかな?


 そんな偽・超絶破壊が敵を捉える!

 神器『真理刀(レス)』なら妖魔族(ミスティカ)が霧化していたとしても防御無視で魂ごと斬り裂ける。

 悪くない組み合わせだ。


 ……だがそう上手くはいかなかった。


 バギイィィィィィン!!!!


「なっ…!!??」

「!?」


 いつもの調子で襲いかかった師匠は、何故か逆に吹き飛ばされていた…… ナニが起こった?


「ぐっ……!!」


 ゴロゴロゴロ……


 師匠は10メートル以上吹き飛ばされて、目の前まで転がって来た。

 一体何をされた? 相当な威力だぞ?


「や……やるじゃない……か…… ? か……体が……?」

「師匠?」


 師匠は立ち上がる事すら出来ない程のダメージを受けていた。


「あ…… マズイマズイマズイ!」

「あ?」


 相手の顔を確認したリリスが慌てて俺の陰に隠れる……


「おい、またか? またお前のお知り合いなのか?」

「お知り合いって言うか…… 昔ちょっと出くわした事があるの」


 リリスの知り合いってホントろくな奴がいないな、そんなトコまで俺に似てるんだから。


「でもなんでアイツがこんな所に居るのよ? こんなのあり得ない」

「いったい誰なんだ? そんなに有名人なのか?」

「名前を知る者は少ないけど、ある意味有名人よ」

「?」

「アイツの名はディートヘルム・ステンデル…… マリア=ルージュの第1位使途よ」


 第1位使途? アイツが?

 妖魔族(ミスティカ)出身の使途か…… 今まで会って来た第1位使途とはワケが違うみたいだな……


「アイツが師匠に何をしたか分かるか?」

「……恐らく攻撃をはね返したのよ、ディートヘルムはギフトユーザーだって噂を聞いた事がある、『業反射(リフレクション)』の能力者だって……」


 反射能力者…… それは厄介だな、神器の攻撃を反射するとはちょっと普通じゃ無いぞ?

 仮にどんな攻撃でも反射できるなら無敵だ…… しかしそこまで万能であるはずが無い、もしどんな攻撃でもはね返せるなら魔王の下僕なんかしてるハズ無い。


「リリスは能力の詳細を知ってるか?」

「さぁ…… 自分に害する攻撃をはね返せるって噂だけど…… 何処まで出来るのかは……」


 あぁ、こんな事なら白を連れてくるんだった…… 今更悔やんでも始まらないがな。

 てか、師匠は大丈夫か? 魂を殺せる攻撃をはね返されたら師匠の精神の九割を占める暗黒病の設定が死に絶えるんじゃないか?

 本人の為にもその方が良い気がするが……


「琉架、取りあえず師匠の治療を頼む」

「う…うん、分かった」


 さて、どうするか?

 反射能力者と戦う…… よくあるのは相手の能力の限界を超える攻撃で反射を打ち破る…そこら辺がセオリーだが、神器の攻撃をはね返すアイツにそんなパターンが通用するか否か……

 下手に全力攻撃したら反射で生き残り全員が巻き込まれるかも知れん、正攻法は使わない方が良いな。


「お前がオリジン機関を滅ぼした魔族の指揮官か?」

「………… お前達一体何をした? 制圧部隊の殆どが死に絶えたぞ?」


 う~ん…… こっちの質問はガン無視ですか、ま、妖魔族(ミスティカ)だもんな、想定の範囲内だ。


「それが知りたければ力ずくで聞きだしてみろよ」


 相手の質問には答えず、煽ってみる…… どう出るかな?


「最下級種族の分際で、随分デカい口を叩くじゃないか…… お前…… もしかして創世十二使とか言うヤツか?」

「!?」


 意外…… 妖魔族(ミスティカ)の口から創世十二使って単語が出てくるとは思わなかった。


「なぜその名を…… 創世十二使という言葉を知っている?」

「アイツが言っていたからな、『創世十二使』に気を付けろ……と」

「アイツ……だと?」

「…………」


 沈黙…… これ以上は教えてくれないか……

 アイツってつまりアイツだよな? 人類を裏切り俺と琉架に罪を擦り付け、魔王マリア=ルージュのデクス世界侵攻を手助けした情報提供者…… 恐らくオリジン機関の関係者だと思っていたが、どうやら間違いないらしい。

 しかし妙だな…… その裏切り者の情報提供者、俺はてっきりマリア=ルージュに捕えられて情報を引き出されたのかと思っていたが、そんな奴が「創世十二使に気を付けろ」なんて言うか?

 仮に俺が敵に捕まって拷問の末あっさりゲロったとしても、「創世十二使に気を付けろ」なんて言わないぞ?

 せめて「創世十二使なんて大したこと無い」って情報を流して相手を油断させる。


 これじゃ自ら望んで裏切ったみたいじゃないか……


 …………


 もしかしてそうなのか? ハゲ校長の説みたいに何かと引き換えにデクス世界を裏切り、マリア=ルージュの側に着いたのか?




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