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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
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第232話 脱出準備・後編


 今までオリジン機関本部で遭遇した魔物に人狼は居なかった。


 ただ人族(ヒウマ)の魔族は存在する、エルリアはそれでトラウマを負ってたからな…… 個人的には殺す事が開放してやる事になるんじゃないかと思ってる。

 しかしそう言った割り切った考え方は誰にでもできるというワケでは無い。

 実年齢2400歳越えのリリスはともかく、身も心も純真無垢な琉架には見せない方が良い気がする。


 今まで魔王を何人も殺して来たし、旧第8魔王は琉架が直接手にかけた…… まぁあの時はメッチャ怒ってたってのもあるが…… それはシニス世界の出来事であって、デクス世界でする殺しってのは何となく感覚が違う。

 シニス世界は弱肉強食、ヤらなければヤられる…… そんな世界だった。

 だがデクス世界では殺しは犯罪だ。

 国によって在り方は違うが、大和ではたとえ正当防衛だったとしても一時的に拘束くらいはされるだろう。

 相手がヒトの場合は…… 特にココ、オリジン機関本部跡では職員の魔族なんかが徘徊している可能性もある…… いや、それはあり得ないか、魔族を作れるのは魔王だけ、マリア=ルージュがこっそりミニアリアに乗っていたとしたら話は別だが、アイツはずっと南極に引きこもってるんだ。

 誰もその姿を見てないからホントかどうか判らないが……


 まぁ、いろいろ理由を付けたが魔族減らしは俺がやろう。

 俺は当の昔に薄汚れている、汚れ仕事はお手のものさ。


 そんなワケで一人で金庫室を出ようとしたら…… 師匠に捕まった。



「神那…… 何処へ行くつもりだ?」

「えぇっと…… 脱出に備えて外の魔族を減らしておこうと思いまして」

「一人で逃げるつもりじゃないだろうな?」


 なぜ俺の評価はこんなに低いのだろう? 俺が無力な民を残して一人で逃げ出すような男に見えるのか? 見えるのだろうな…… 失敬な話だ。

 逃げるなら琉架を連れてくに決まってんだろ! 後一応リリスも……

 当然、師匠は置き去りコースで。


 まぁそのプランも考えたには考えたんだが、実行してない事を勝手に想像されて非難される筋合いはないぞ?


「ま、お前が琉架を置いて逃げる訳ないよな」


 分かってんなら余計なコト言うんじゃねーよ。


「そんなに不安なら見に来ますか?」

「そうだな、この2年半でお前がどれだけ強くなったのか見ておきたい」


 あ…… 乗ってきちゃった……

 ちょっと危険なんだけど…… ま、いいか、師匠なら死にはしないだろう。



---



 金庫室を出る……

 ほんの数メートル先に聖域との境界があり、その薄く発光している光の壁の前には10体ほどの魔族がこちらを睨んでいた。

 しかし決して境界には近づこうとしない。


「そう言えばこの聖域に許可なく立ち入ろうとした者はどうなるんですか?」

「あぁ、私も気になったから実験してみた。人間大の魔物を動けない程度に半殺しにして聖域に投げつけてみたんだ……」


 やる事がいちいちえげつない…… そんな詳しい実験内容は聞いて無い。


「光の壁に当たった瞬間、塩になってその場に落ちた。ちょっとした塩の柱ができたぞ」

「塩の柱……」


 さすが12人がかりで起動する神器…… 結構恐ろしい効果だな。

 聖域ごと移動できれば余裕で脱出できただろうな……


「こんな地下深くだと塩は貴重だからな、まぁ役に立った」

「え?」


 まさか…… 食ったのか? 聖域の中にいれば餓死するコトも無いんだろ? わざわざ魔族成分100%の塩なんか食わなくてもイイんじゃないか?

 魔物なら…… 魔物なら本来は野生生物でもあるから分かるんだが、魔族はちょっと魔王エッセンスが……


 確かに死ななくても腹は減るだろう、魔王だって空腹で死ぬことは無いが腹は減る。

 こんな所に半年以上も閉じ込められていたら食事以外に楽しみなど無いだろう……


 だがそもそも食料はドコから調達した? ここは金庫室であってシェルターじゃ無い、食料など備蓄されてる筈が無い……


 つまり…… 魔族喰ってたのか?


 大丈夫だろうな? まさか既に半分魔族になってるなんてコトないだろうな?

 そんな事になってたら師匠は喜びそうだが他の人は絶望するぞ?


 師匠だけは喜ぶ、きっと「我に宿った魔の力が――」とか言って、あの包帯でグルグル巻きになった右腕を押さえて鎮めようとする…… そんな光景が目に浮かぶ。


「? 何だ人の顔をじっと見て?」

「いえ…… 何でも無いです」


 なんか…… 結構予想通りだった、師匠は魔族の肉を喰らいながら地下都市を彷徨ってる……って、「ウホッ?」とは言わなかったけど……

 まぁ元々この人は暗黒神の落とし子だ、今更魔王成分が数%含まれたって大したこと無い。


「さて、それじゃ魔物退治に行くぞ神那! ついて来い!! 背中は預けた!!」

「え? ちょっ…ちょっと待っ……」


 師匠は元気よく魔物の群れに飛び込んでいった……

 背中を預けると言った割に、そんなコト気にするそぶりも見せない…… 『超人降臨(ブーステッド)』全開のアンタについて行ける人間なんかこの世に存在しないよ……


 やはりあの師匠が10時間以上も大人しく待ってる事など出来なかったな、見てみろ、スッゴイ生き生きしてる、良い笑顔で魔物を惨殺してるよ……



 師匠は小型の魔族10体とはいえ、僅か1分で全滅させた。

 この後、強烈な電撃を浴びる事が確定しているから、その不安を払拭したいのかも知れないな、師匠の性格上、瞑想よりこっちの方が効果がありそうだ。


「神那! お前何で続かないんだ! さては! 裏切る気か!」


 なんでやねん!!

 そもそもアンタは俺を監視しに来たんじゃ無かったのか? なのに何で自分が率先して殺戮してるんだよ……


「師匠、別に一匹ずつ倒して回るつもりは無いですよ? それは時間が掛かり過ぎるし危険も伴う、もしやるなら琉架も連れてきます、その方が効率もイイし危険も減ります」

「むぅ……! むむ…… 元々安全な道など無い!! リスクを恐れてどうする!!」


 確かに安全な道など無いが、リスクを恐れて何が悪い? リスクは極力減らすべきだ。

 こう言うのはチキンとは言わん、深慮遠謀と言うのだ。

 師匠のそれは猪突猛進だ、人はそれを蛮勇と呼ぶ。

 きっと師匠が魔王化したら二つ名は「蛮勇王」とかになるんじゃないか? うわ…… 迷惑……


「師匠、戦いとは正面からぶつかり合う事だけではありません。それが負けられない戦いであるほど どんな手段を使ってでも勝利しなければなりません、たとえ後で卑怯者と罵られようともです」

「む……」

「正々堂々はスポーツとかでやるべきです」


 あれ? 前にも同じような感想を誰かに抱いたな…… 誰だっけ? まぁいい。


「それじゃお前はどうやって安全に敵を倒すんだ? リスクを負わずにどれだけの効果が得られる?」

「師匠は聖域内に戻ってください、今からお見せしますよ」


 聖域内に居ないと師匠も死ぬからな…… いや…… 案外大丈夫だったりして。


 師匠と入れ替わるように聖域の境界を超える、そこにはたった今師匠が惨殺した魔族の肉片が転がっていた。

 当然その周りは“新鮮な血”で溢れている。

 その血溜まりに触れて……


「『弐拾四式血界術・弐拾壱式『血霧』』」

「おぉ!?」


 魔族の血を利用して血の霧を作り出す。そして……


「第7階位級 風域魔術『空圧』コンプレス × 第4階位級 風域魔術『風爆』エアロバースト

 合成魔術『風神風』トルネイド」


 小型の竜巻を作り出し、血の霧を禁域中に行き渡らせる、コレで大体いいだろう。


「神那…… お前『血霧』使うんだな…… 正直に言うと20番台の血界術は使い道が無いと思ってた」


 それは俺も思ってた、当時の俺と師匠が考え出した『弐拾四式血界術』は威力が高く名前がカッコいい技が上位に来ている。

 それはつまり下位に行くほど割とどうでもイイ技ばかりになっていく……

 さすがに24個も技とカッコいい名前を考えるのは大変だった。

 マンガでも結局最後まで味方全員の超必殺技が披露される事無く打ち切られる…… そんなケースもままある。

 正直12個くらいで良かった気がする…… ただまぁ……


「『血霧』は搦め手に使えるんですよ、第11魔王のギフト封じにも使用したし……」

「なにっ!? 一体どうやって!?」


 報告書にも書いたんだがな…… ちゃんと読んでないのか? まぁ師匠だしな。


「それは今度時間があったら話しますよ」

「むっ…… くっ、そうだな、それよりも今使った『血霧』には意味があるのか?」

「当然です、今の『血霧』には有機リン系化合物VXが付着してます」

「ゆうき……リンリン?」

「VXガス…… 要するに超強力な毒ガスです」


 魔族にVXガスが有効なのは既に証明済みだ。今回は無毒化時間を1時間に設定してある、運が良ければ禁層の魔族は全滅するだろう。


「毒ガス…… 神那、アンタえげつないコトするわね……」


 師匠に言われた!? アンタにだけは言われたくなかった!!



---


--


-



 2時間後――


 オリジン機関本部最下層、大金庫室でシルヴィア・グランデは暗黒に彩られた人生に幕を閉じた……


「アバババッババババババババッバッバババババッ!!!!!!」


 今回は骨は透けて見えないな、電撃のエフェクト無しで床でのた打ち回ってる姿はチョット怖い。


 シュ~~~~~……


「が…… がふっ!!」


 チッ! 生きてたか…… そう言えば聖域内では死なないんだっけ? 何か理由つけて外に放り出しておけば良かった。


「シルヴィア先生!!」


 琉架が即座に治療に入る、放っておいても死なないんだし放っておけばいいモノを……

 琉架は優しいな、さすが俺の女神。


「さて、それでは皆さん、師匠の治療が終わったらここを脱出します。準備してください。

 ただし『聖なる領域(サンクチュアリ)』は移動する瞬間まで起動しておいてください」


 後10分もあれば師匠も復活するだろう。


「ど……どうやって脱出するんだ? まさか全員で敵の群れの中を歩いて進む訳じゃ無いだろうな?」

「いくら創世十二使が二人いても、この人数を守りきれるのか?」


 生き残りが不安を口にする、確かに戦闘可能人数がたったの4人では全員を守ることなど無理だ。


「大丈夫です、周辺の魔族は減らしてあります、ただ生き残りもいるかも知れないから注意だけは怠らないで下さい。

 上層辺りまで登ればランスの救助隊と合流できると思うので」


「救助隊を待つことは出来ないのか?」


 それは時間の無駄だ。

 それに敵の生き残りと救助隊が遭遇したら被害が出る可能性がある、これ以上被害は出したくないからな、トリスタン先輩に文句言われる。

 ただまぁ、口で言っても理解できないだろう、いくら俺と琉架が現役の創世十二使だとしても、こんな若造の言う事じゃな……


「取りあえず外に出てみて敵の状態を確認しましょう、想定より敵が多かったら救助隊を待ちます」


 実際、VXガスに耐性のある魔族とかいるかも知れないしな…… まぁ生物である以上、アレに耐えられる生き物はそうそう居ないと思うが……


 まだ魔族の指揮官にも出くわしてないし、もしかしたら……




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