第231話 脱出準備・前編
現在、大金庫室にて捜索活動中。
俺とリリスで手分けして記憶書を探してる。
収められている遺跡の数が多すぎるのと、本型のアーティファクトが意外に多いのが理由だ。
本来ならリリスが責任を持って見つけてくるべきなのだが、どんな神器があるか分からない、折角なので俺も見ておく…… もし良さそうなものがあったら俺も隠匿してしまおう。
なぁにバレやしないさ、オリジン機関も壊滅状態だ、例え20~30個、神器が行方不明になっても気付きやしない、もしバレるとしてもこの事態が終息してからだ、その頃になって調べ出しても何も物証を得る事は出来ない、大体証拠など残さないし……
でも念の為、誰かをスケープゴートにしておくか、身代わりに相応しい人物と言えば真っ先に浮かぶのが勇者だ。
ここがシニス世界なら壁に『勇者参上!』とか『魔王討伐の為 有意義に使ってやるぜ! フッハッハッ!』とか書いとくんだが…… 念の為、書いとくか。
ちなみに琉架は師匠の暴走により負傷した人々の治療にあたっている。
自業自得だし聖域内にいれば何れ勝手に治るのだから放っておけばいいモノを……
まぁ、そこが女神の女神たる所以だな。
そして一通り暴れて落ち着いた師匠はというと……
「…………」
扉の前で座禅を組んで瞑想している。
アレだけ醜態晒しておいて今更さとり開かれても…… ま、静かでいいんだが。
しかし色々な遺跡があるが、個人的に使えそうなモノはなかなか見つからないな。
どんな願い事でも叶えてくれる龍玉とか、どんなウソでもホントになる薬とか無いのかな? あったら誰かがとっくに使ってるか。
コレは…… 契約の箱? もしかして聖櫃か? 昔これをテーマにした映画を見たコトがあるがこんな所にあったのかよ。
こんな地の底に封印されてたら帽子と鞭がトレードマークの考古学者が怒りそうだ。
しかしこの分だと探せば聖なる杯とか、アルスメリアに墜落したUFOの残骸とか、宇宙人のホルマリン漬けとかも見つかりそうだぞ。
やっべ、ワクワクするね。
どっかに俺専用の武器は無いか? 聖剣エクスカリバーとか! 神剣レーヴァテインとか!
……まぁ、望み薄だな、ホントにそんなのが有ったとしたら師匠がとっくに確保してる。
そこまで有名な物じゃなくていいから便利そうなのを探そう、嫁達へのお見上げ代わりに。
「カミナ、見つけたよ」
「お?」
リリスが一冊の分厚い本を持って現れた。
コレこそが門を開きし者の記憶書。
俺が長いコト探し求め、アーリィ=フォレストの引きこもりの原因になった書物だ。
「ようやく……か」
リリスから記憶書を受け取り、パラパラと開いてみる……
何が書いてあるのかさっぱり分からない、中にはQRコードのような文字……だろうか? そんな文様がビッシリ書き込まれている。
こんなモノ普通じゃ解読出来るワケ無い。
「そう言えばリリスはこれを読んだんだよな? つまり記憶書を読み解ける施設があるって事だろ?」
「そうね、私の城に行けば読むことは可能よ」
「………… リリスの城?」
「えぇ、魔王城エンブリオよ」
エンブリオ…… そう言えば……
「リリスの魔王城は第12領域の浮き島に在った…… なんて伝説も聞いた気がするが?」
「昔はね…… 今はデクス世界の南極にある」
「………… なに?」
「南極の地下に埋まってるわ、第一プレイスって呼んでたけど……」
「それはつまり…… 第3魔王に自分の城を押さえられてるって事か?」
「そうとも言うわね」
そうとしか言わんだろ。
「おい、ホントに大丈夫なのか? アイツが南極に留まってるのも偶然じゃないだろ?」
「大丈夫よ、前にも言ったけどあの女に魔科学文明の施設が使えるはずない、そもそもあのプラントは現行魔科学の遙か先を行く技術の結晶なんだから」
コイツのこの自信はどこから来るんだ? 絶対大丈夫だと言い張っていたこの金庫室も、結構トビラがボコボコになっていた……
それにプラント以外の目的があるかもしれない……
常に最悪を想像しろよ、楽観視は命取りに成り兼ねないぞ?
第3魔王討伐…… 急いだほうが良いかもしれないな。
ああ…… イヤだ…… 問題を先送りにしたい、温暖化問題みたいに次の世代に丸投げしたい……!
………… その頃には地球滅んでるかも知れないけど……
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数時間が経過した…… 師匠が生死の境を彷徨うまでのタイムリミットまで2時間といったトコロだろうか?
瞑想中の師匠以外の面々は脱出の準備を整えている。
こちらも金庫室改めは終わった、幾つか使えそうな神器をパクって魔神器に放り込んである…… つまりいつでも脱出できる状態だ。
後は師匠待ちだな、やれやれ、他の人達にまで迷惑を掛けるとは困った師匠だ。
それはそうとそろそろ脱出プランを考えなければならないな。
何せ生存者がいる可能性は考えてなかった、絶対全滅してると思ってた。
だから金庫室を荒らしたらゲートで帰るつもりだった…… トコロがだ。
予想に反して200名以上の生存者、こいつ等を連れて帰らなければならなくなった。
こちらの戦力は俺と琉架、リリス、後師匠が生き延びる事ができれば師匠。たったの4人だ。コレだけの戦力で200名以上の非戦闘員を守りながら脱出…… かなり難易度が高い。
…………
いっその事、生存者など居なかったという事にして、こいつ等を放置して帰ってしまうか?
琉架が居なければその手もアリだったな。
しかし残念ながらこの手は使えない。面倒でも生き残りを救出しなければ……
はてさて、一体どうやって?
「ね……ねぇ、神那……」
「ん?」
琉架が話し掛けてきた。
頬を薄っすら染め、決して目を合わそうとしない……
普段なら琉架にそんな態度を取られたら不安で髪の毛がゴッソリ抜け落ちるほどのストレスを感じる所だが、今の俺ならそんな琉架を見て只々「可愛いなぁ」という感想を持てる。
俺の唐突で、あまりにもの漢らしい一世一代の告白……と言うには少々アホらしかったが、それに琉架は答えてくれた!
『わ…… 私も神那のコト…… 大好き///』
『神那のコト愛してる!///』
『私のコトたべちゃって♪ どうぞ召し上がれ♪///』
……と。
いや、そこまでは言って無いが、要するに俺達は相思相愛というワケだ。
それってつまり彼氏彼女といっても差し支えないよね? いや! 俺達は既に同棲・混浴済みだ! コレはもう夫婦と言ってもイイんじゃないだろうか?
うむ! イイ! 宇宙の真理が俺達の未来を祝福している! 俺達は今日から夫婦だ! では要望通りおいしく召し上がろう! いっただっきまぁ~す♪
世界的大泥棒みたいに服とパンツを一緒に脱ぎ捨て琉架に襲いかかろうとしたトコロで…… 止まった。
またしても妄想と現実が融合してしまった、危ない危ない、何が悲しくて200人に見られながら琉架を襲わなきゃならんのだ、その先に待ってるのは避けようのないバッドエンドだ!
「神那……?///」
琉架はやっとといった感じで俺と視線を合わせ、覗き込んできた。
顔が真っ赤だ…… 超可愛い!
「済まない、ちょっとさっきの事思い出してた」
「さっき? …………ッ!!?///」
琉架は耳まで真っ赤になった、なんか頭から湯気出てないか?
やばい、熱暴走 起こしそうだ、この事を直接琉架に話すのは控えるべきだな、今にも倒れそうだから。
もう少し時間を置こう、そして冷静になった所で二人の未来を語り合おう、じっくりと。
冷静になって考えたら「やっぱり神那のコトそんなに好きじゃ無かった」とか言われないか不安だ…… いや! 大丈夫! 琉架はそんなコト言う子じゃ無い!!
「あなた達…… ナニしてるの?」
リリスが俺と琉架の思春期フィールドに侵入してきた。
一瞬、邪魔すんな! とも思ったが、このままでは琉架との間に気まずい雰囲気が流れてしまう、それは俺の望む所では無い、従って今回は許してやろう、有難く思いたまえ。
「うぅ…… どうやって200人以上いる非戦闘員を脱出させるのかと思って……///」
どうやら琉架も俺と同じことを考えていたらしい、さすが夫婦同然の関係だな。
琉架は両手で自分の頬を擦ってる…… そんな仕草が超絶カワイイ!
「あ~…… 非戦闘員の脱出かぁ…… 20人くらいなら何とでもなるんだけど、200人以上となると私たちだけじゃ守りきれないかな?
この周辺、魔族の密度が高すぎるし…… 最悪、10往復くらいして少しずつ脱出させるか…… 或いは救助隊が来るのを待つか……」
「往復のプランは無いな、ココは聖域を展開させていれば安全だが、上層まで脱出させた奴らを放って俺達だけ戻ってくる訳にもいかない。
周囲の魔族は全滅してるとはいえ、何往復もしてれば時間も掛かる、近隣から魔族が寄ってこないとも限らない。
その場合、護衛を残さなければならないが、ただでさえ人員不足だ、そんな所に人員を割ける余裕は無い。
後、救助隊を待つのも無しだ、そもそも救助隊が禁層を突破できるとは思えない、師匠ですら半年も突破できなかったんだから、どんなに大部隊でも無理だろ?」
それよりなにより面倒臭すぎる。
「うぅ~ん…… ダメか…… それじゃいっそ、全員眠らせてゲートで運んじゃう?
コレが一番手っ取り早いと思うけど」
確かに一番簡単な方法ではある…… しかしあんまり人間離れした事はしたくないな、説明ができない。
それだったらもっとシンプルな手段を取るべきか。
「ここら辺の敵を全滅させよう」
「ふぇ?///」
「は……はぁぁ~!?」
それも十分人間離れしてるけど…… まぁ、説明は出来る。
「確かに時間を掛ければそれも不可能じゃないけど……///」
「カミナ…… それ実行できるの? 面倒臭くないの?」
当然面倒臭い、正攻法でやればな。
「リリスは魔法魔術使えるよな?」
「え? まぁ…… 使えるけど……?」
「死滅魔法『黒死滅病』使って敵を全滅させちまえ」
「…………いや、いやいやいや! そんなの使ったら脱出が余計に困難になるでしょ!」
「? そうか?」
「黒死滅病の病は太陽光を浴びれば直ぐに効果を失うけど、こんな地の底じゃ一週間は猛威を振るい続けるよ?」
げ、そんなに掛かるのか? そんなの待ってられないな……
太陽光を浴びせるのは琉架の天照で代用が効くけど、この入り組んだ禁層全域に光を当てるのは難しい……
少しでも病原体が残ってたら、俺たち魔王は平気だろうけど生き残りはもれなく全滅だな。
「仕方ない…… 俺がやるか」
「? カミナが? どうやって? 黒死滅病使えるの?」
「あんな凶悪な魔法は使えないけど知恵と勇気はあるから」
「?? 答えになってない」
そこはイイんだよ、説明になって無くても。
大虐殺の方法など女の子たちに聞かせたくない。