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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
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第229話 天使 ― キューピッド ―


「先生! シルヴィア先生!!」

「…………」


 琉架の必死の呼びかけにも師匠は答える事が無い…… まるで屍のようだ。


「逝ったか……」

「っ!! そんなッ!!」


 つーか、逝っててくれると助かる、復活したら復讐されそうで…… しかも何故か復讐の刃は俺に向けられるんだよ、弁解したって聞く耳持たない、シルヴィア・グランデとはそういう女だ。


 師匠の身体は時折りピクピク動いている…… 電撃の影響だな、カエルの解剖的なアレだ…… うん、死んでる。間違いない。


「琉架…… もう諦めよう…… 直ぐに埋葬するんだ、放置して生き返…… ゴホン、魔物のエサにされるのは忍びない」

「でも…… でも……! オーラも全然消えてないよ!?」

「オーラは死んでもすぐに消える訳じゃ無い、少しずつ抜けていくモノなんだ」


 コレは予想だが、オーラが完全に消えた時が生物としての死の瞬間なのではないだろうか。

 つまりオーラが残っている間は蘇生の可能性があると思う。


 師匠の体を覆っているオーラは、全く消える見込みがない…… それはつまり生きて……

 いや! 相手はあの師匠だ! たとえゾンビになっても生前と変わらぬオーラを放つに決まってる!

 だから暗黒神に復活させられる前にとっとと埋葬しちまおうゼ!


「ど……どうしよう……っ 私とんでもない事しちゃった……」


 リリスがアワアワしてる、大丈夫、お前は悪くない。悪いのは師匠の頭だ。

 暗躍好きで戦争とか起こしてた魔王のクセに、顔見知りを殺すのは気が咎めるのか? 気にするな、だって師匠は最後にあんな気持ち良さそうに必殺技を使ってたじゃないか、きっと本望だったことだろう。


「シルヴィア先生まだピクピク動いてるよ? 白目剥いてるから瞳孔がどうなってるのか分からないけど……」

「それは電撃の影響だ」

「そうだ! もう一度電撃を浴びせれば蘇生するかも!」


 余計なコトを…… いや、アリかも知れない、確実に止めを刺すって意味では……

 よし! リリチュウ!10まんボルトだ!


「う…… がっ……!!」

「!! 先生ッ!!」


 チッ! 息を吹き返した。


「ぅあ? あいあ?」

「え? なんですか?」


 呂律が回って無い、全身が痺れてるのか、或いはゾンビ復活の影響か…… 後者かな? 映画のゾンビってまともに喋れないから。

 よし、埋めちまうか。


 その時、師匠の左手の薬指にはめられていた指輪が光った!

 え? まさか結婚したの? この三十路を過ぎてなお暗黒の病を患ってる人を受け入れられる人間がいるとは…… 人類の限界を超えてる! 相手は神か!? 仏か!? やっぱり暗黒神か!?


「あ…… それ『戦神の加護(リザベイド)』だ」

戦神の加護(リザベイド)?」

「うん、120秒以内に受けたダメージを瞬間的に回復してくれる神器よ」


 な…… なんだその反則的な神器は? そんなのアリか?


「ただし12時間後に受けたダメージは2倍になって戻ってくるけどね」


 おぉう…… そうだよな、リスクがあって当然だ…… てかかなり厳しめのリスクだな2倍って、緊急回避用の神器か。

 俺なら極力使いたくない神器だ……

 それよりも師匠は12時間後に死ぬんじゃないか?


 あと、やっぱり結婚指輪じゃないのか…… うん、師匠だもんな。


「ッ!!」


 指輪の光が消え、ダメージがなかった事にされた師匠は突然飛び起き、俺達から距離を取って構えた。


「シ……シルヴィア先生?」

「師匠?」


「ちっ!! 今度は幻覚の使い手か!!」


 あぁ…… そういう脳内設定なのね……


「幻覚? ち…違います! 本物です! シルヴィア先生!」

「嘘を吐くな!! 神那と琉架は私の教え子だ! 見れば分かる!!」


 何も分かってねーじゃねーか。


「いや、ホントに本物ですって師匠」

「上手く化けたな? だが騙されんぞ!!」


 ほんの数秒前に幻覚って言ってたのに、いつの間にか変化に変わってた…… これだからその場の勢いで生きる奴は……


「ハハハッ!! 調査不足だったな魔物たちよ!! 神那と琉架は神隠しに遭ってこの世界にはいないんだ!」


 あ~…… そうか、半年以上前に滅んだオリジン機関ではゲートが開放された事を知らないんだ。


「大体あの二人は3回も神隠しに遭ってるんだ! 更にもう1回神隠しに遭って戻ってこれるハズ無いだろ! そんな奇跡があってたまるか!!

 私が20年も待ち続けた神隠しにだ!!」


 そう言えば師匠は神隠し被害者になりたがってたっけ?


『おいリリス』ヒソヒソ

『なぁに?』ヒソヒソ

『どうして師匠を神隠ししてやらなかったんだよ? あの人なら喜んで魔王を倒しに行ったハズだぞ?』

『シルヴィア・グランデは…… 好戦的過ぎたのよね、穏健派の魔王とかでも問答無用で攻め込みそうで……』


 あ~~~…… 分かる、嫌ってほど分かる。

 穏健派の魔王にケンカを吹っ掛けて無駄な戦争の火種になりそうだ。シルヴィア・グランデとはそういう女だ。

 あんな危険人物は異世界に送るべきでは無い、リリスの判断は正しい。


 しかし参ったな、思い込みの激しい師匠を説得するのは難しい。

 簡単に説得できるなら、あの歳まで暗黒の病を患ってなどいないハズだ、親とか友人がとっくに説得してる。

 その証拠に見てみろ、師匠の右腕を……

 まるで封印でも施すように二の腕から指先までボロい包帯が巻かれている。

 さっき元気に振り回してたからな…… アレ絶対ファッションだ。


「ふ~…… 困りましたね、どうしたら信じて貰えるんですか? 何か証拠を提示しますか?」

「………… だったらニセ神那、私の質問に答えてみろ!」


 お? 師匠にしては珍しく平和的な解決方法を提示してきた。

 いつもなら「力で捻じ伏せてみろ!!」とか言ってくるのに…… もしかしてコイツ偽者じゃね?

 まぁいい。


「分かりました、何でも聞いて下さい」

「ふっ…… 良い度胸だ!」


 質問するだけだよな? 度胸が必要なのか?


「ならば問おう! 霧島神那の中に封じられてるもう一人の人格の名は何だ!!」


 ぶぅぅぅうーーー!!!?


「そんなの居ないわーーー!!」


 てか何で知ってんだ!? 誰にも話した事の無い俺の黒歴史を!!


「やはりニセモノか!!」

「いやいや! そんな話した事ねーだろ!」

「ふっ…… 初めて神那を見た時に気付いた、コイツは心の中に暗黒を飼っていると……」


 勝手な設定を俺に盛るな!

 確かに当時の俺の中には闇神那が巣食っていたのは事実だが、なんで一目で見抜けるんだよ!


 琉架とリリスに珍獣でも見る様な目をされた…… ヤメテ…… 今の私を見ないで……


「はぁ…… 仮にその人格が存在したとして、師匠にそいつの名前が分かるのかよ?」

「む? ………… あ~…… アレだ、ちょっとド忘れした」


 この適当女! マジでその場の勢いだけで生きてるな!


「師匠…… せめて答えがわかる質問をしてください」

「ならば再び問おう! 弐拾四式血界術・弐拾四番目の奥義の詠唱をしてみろ!」

「そんな設定はない」


 どうやら師匠の最近のブームは詠唱らしい…… 暗黒病患者の誰もが一度は通る道だな、俺も昔通った、三十ゥン歳の師匠は何往復目だ?


「クックックッ、よく勉強してるじゃないか? まさか引っかからないとは……」


 仮に俺がニセモノでも同じ答えをしたと思うぞ?

 師匠の気に入りそうな答えを出せば合格したかもしれないが、残念ながら今の俺にはそんな答えは捻り出せそうにない、俺の病は完治したんだからな!


「ふむ…… 私と神那だけが知ること……か、そうだ!」ニヤリ


 師匠の暗黒微笑(だぁくねすすまいりんぐ)が出た…… また碌でも無いことを思いついたな。


「神那の好きな女の子の名前を言ってみろ!!」

「え? 琉架です」

「ひぅっ!!?///」


 おっとイカン、本人の前で堂々と告白してしまった…… ま、いいか。嘘偽り無い俺の正直な気持ちだから。

 俺の男らしい告白を聞いた琉架は…… 真っ赤になった顔を抑えてクネクネしてる…… 実に可愛らしい、チョットだけ挙動不審だが。


「…………」ジト――


 リリスにジト目で睨まれた……

 大丈夫、リリスも可愛いから、ただ師匠にリリスや他の嫁の名前を言っても通じないからな。

 そもそも20年も暗黒の病を患ってる師匠にこの答えが分かるのだろうか?


「やはりニセモノかぁ!!」


 なんでやねん!! 本心だっつーの!!


「引っ掛かったな偽者め! 確かに神那は琉架の事が好きだったが、本人の目の前で堂々と告白できるような男子じゃなかった! 本物の神那はもっとシャイボーイだ!!」


 おぉう…… まさか脳筋の師匠に罠にハメられるとは…… 迂闊だった。

 今でこそ好感度MAX状態だから言っても大丈夫かな? って気がしたんだが、確かに昔の俺ならこんなコト堂々と言えなかった。

 もし琉架に心底嫌そうな顔をされたら自殺する。


 しかしなぁ……


「何年前の話をしてるんですか? 人は成長するんですよ、いつまでもシャイボーイのままじゃいられないに決まってるでしょ?」

「むっ……」


 もっとも今でも俺は自分のことをシャイボーイだと思ってるがな。誰も気付かないだろうけど色々葛藤とかも抱えてるんだぜ? 決してチキンではない……と、思いたい。

 むしろ乙女心を闇に飲まれて失った師匠には決して分からない世界だろうな、そろそろ乙女心の二十三回忌とかじゃないのか?


「その「ああ言えばこう言う」屁理屈、確かに私の知る霧島神那だ……」


 正論と言え。


「だが…… 一つだけ分からない」


 まだあるのか? しつけーな。


「その…… 銀髪の娘ダレ?」


 あぁ、第12魔王様のことね。

 そう言えば二人って面識あるはずだよな? リリスは師匠の『超人降臨(ブーステッド)』を覚えてるんだから。

 もっともリリスは全くの別人として顔を合わせてるだろうけど……


 さて、どうやって説明するか…… 当然正直に話す訳にはいかない、魔王と知れば喜んで襲い掛かってくるに決まってる。

 そしてまた痛々しい必殺技を披露するんだ。


「彼女はシニス世界からのトラベラー…… いや、移住者ですよ」

「シニス世界からの?」


 嘘は言ってない、リリスはシニス世界からのトラベラーだ、こっちに来たのは1200年も前の話だが……

 デクス世界出身者にすると身元を調べられた時に厄介だからな、この世界情勢では簡単には調べられないだろうけど念の為だ。


「異世界からの移住?」

「詳しくは後で話しますがゲートが開放されたんです、神隠し被害者たちも続々と帰還してますよ。

 もっともデクス世界(こっち)の方が危険だとは思わなかったけど……」

「そんなことが…… 銀髪…… イイ……」


 あ、あの目は羨ましいって目だ。

 俺と琉架の緋色眼(ヴァーミリオン)を見た時と同じ目だ。

 次に会う時には髪を染めたりしてそうだ、いい歳こいてアッシュブロンドとかプラチナブロンドになってそうだ。

 師匠はその場のノリで生きてるからな、シルヴィア・グランデとはそういう女だ。


「理解して頂けましたか?」

「色々納得は行かないけど神那と琉架が本物だとは認めてもいい…… ただ…… 何で二人がココにいるの?

 確かにアンタ達なら魔物の包囲網を抜けてくるのも可能だろうけど…… 救助?」

「救助じゃありません、完全に別件です。

 正直に言いますけど、オリジン機関は壊滅した扱いになってます、当然、生存者もいないと思われてます。

 師匠が簡単に死ぬとは思ってませんでしたが、正直覚悟もしてました」


 もちろん大嘘だ。

 師匠の死ぬイメージが全く浮かばなかった。

 むしろ死んでてくれれば良かったのにと思ってたくらいだ、案の定面倒臭いことになったし……


「やっぱりか…… いくら待っても救助が来ないワケだわ……」

「師匠の他にも生き残りが居るんですか?」

「私を入れて214人よ」


 たったそれだけ…… いや、よく生き残ったと言うべきか……


「でも助かったわ、そろそろみんな限界だったのよ。今にも集団自殺が始まりそうな雰囲気で、私も最後の賭けで脱出を試みた所だったの」


 なんてこった! 後1日遅く来てれば師匠は暗黒神の元に召されてたのか!

 ………… あ~…… うん、間に合ってよかった。ほ~んとヨカッタヨカッタ。


「でもコレで何とかなる! 神那と琉架がいてくれれば全員を連れて脱出も可能だ!」


 生き残り214人か…… トリスタン先輩に救助隊を出してもらわなければいけないな…… 頼みにくいなぁ……

 まぁ事後のことは師匠に任せよう、この人顔だけは広いから。


「さぁみんなの所へ案内する! ついて来い!」


 結局こっちの目的聞かないんかい! ま、師匠だもんな…… その場の勢いで生きる女だ。

 師匠はさっきまで死に掛けてたとは思えない程、足取り軽く先頭を歩き始めた。

 ちゃんと死角を確かめてから進めよ……


 クイクイ


「ん?」


 服の裾を引っ張られ振り返ってみるとそこには赤い顔をうつ向かせた琉架がいた。


「琉架?」

「わ……私もだよ?///」

「うん?」

「わ…… 私も神那のコト…… 大好き///」

「…………」


 そのとき俺の世界は静止した……


 琉架は「言っちゃったー」って顔をして師匠の後を小走りでついて行った。


 か…か…か…… 可愛い!!

 しかもただの「好き」じゃなくって「大好き」だって! 聞いたお爺様? 琉架が俺のこと大好きだって♪ ヒャッホゥ! 今夜はセレモニーだ!


 オリジン機関…… 正直来るの憂鬱だったけど来て良かった!


 ありがとう師匠! アンタ生きててホントに良かったよ!




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