第227話 深淵より覗くモノ
敵が多い!!
下層部に入ってからこっち、進む毎にエンカウント率が上がる!
ピラミッドの地下で黄金の呪いを掛けられた時みたいだ。
味方を呼ばれないように1ターンキルを心掛けているが、このペースで敵が出続けたら目的地に付く頃には俺はミイラみたいにカラカラになっていそうだ……
場所が場所だけに大規模破壊魔術も使えない、かなり面倒臭い……
ダルくなってきた、核融合で全てをふっ飛ばしたらさぞ気分爽快だろう。
もうやっちゃおうかな?
俺は十分頑張った……ってワケにもいかない。
ハァ……
何かもうちょっと効率的なダンジョン攻略法は無いものだろうか?
もう敵を全滅させるつもりで大きな音を立てながら堂々と進撃するか?
正直それもアリだな。
こんな汚泥は残しておいても意味はないし、そもそも俺たち魔王が敵の目を気にしてコソコソする必要がない。
「神那大丈夫? 敵が多すぎてキリがないね?」
イライラが漏れてしまったか? 琉架が俺の体調を気遣ってきた。
いかんいかん、俺は常に冷静でCOOLなキャラを演じなければ。
「いや、大丈夫だ。しかしこの分だと禁層は大変なことになってそうだ、この状態じゃ隠れて近づくのにも限界がある。
もう堂々と敵を殲滅しながら進むべきかと思ってな」
「そっかぁ、でもこう狭いと私達じゃ……」
そう、俺と琉架は広域での多対一の戦いには慣れてる…… 裏を返せばザコ狩り専門とも言えるが、それ故に狭い場所で戦うことには慣れてない。
ぶっ壊しても良いっていうなら話は別だが…… ダメだ、やはり限度がある、せめて門を開きし者の記憶書を確保するまでは派手にぶっ壊すワケにはいかない。
こんな時に無限自動回復の肉壁がいてくれれば……!
「ん~…… 敵を殲滅していいなら私がやろうか?」
「!? リリスが…… 働くだと!?」
「む! なによ、私が働くのがそんなに珍しい?」
そりゃ珍しいよ、今日ココへ至るまでも特に何もしてないだろ?
働いていたのは俺と琉架と使徒リーマンだ。
あ、遠隔誘導飽和攻撃兵器使ってたっけ?
働いたのはハチドリであってリリスでは…… まぁ働いた内に入るか。
「ふん! ま、いいわ、それでどうするの?」
「そうだな…… プランがあるなら試してくれ、ダメそうだったらフォローするから」
一抹の不安を感じながらリリスのお手並みを拝見させてもらう。
彼女がまずしたのは魔神器から2本のタクトを取り出すこと、魔力微細制御棒2刀流だ…… あれ? コイツ何するつもりだ?
「第1階位級 雷撃魔術『雷神』トニトルス」
「ちょっ!?」
リリスが召喚した雷神が俺たちの目の前に現れる…… ? 小さい?
光量も低く、放電もしていない人間大の雷神が立っていた。
「前の時と随分違うな?」
「えぇ、サイズを小さく抑えて電圧も落としてる。これで長時間出しておけるしね」
以前、生まれると同時に俺の才能の前に消え失せた雷神か…… 相手が俺以外ならもっと活躍できるだろう。
しかしこんな使い方もできたのか、俺には及ばないながらも神術を収めることが出来るほど魔力コントロール技術を持つだけはある。
俺には及ばないけどね。
「ま、威力を落としたと言っても並の生物が触れれば一瞬で黒焦げになるくらいの威力はあるわ。
この子に先頭を歩いてもらえば魔族程度は軒並み消し炭よ♪」
なるほど、第一階位級は純粋なエネルギーを操作できる魔術なのか、随分使い勝手が良さそうだな…… 俺の能力値じゃ使えないのが残念だ。
今度リリスに消費魔力を抑えた劣化版の1.5階位級を作らせようかな?
いや、無駄だな。
リリスが使えるなら別に必要ないだろう。
俺が覚えたら余計に働かされそうだし、その時はリリスが働くべきだ。
そうだよ、俺は付き添いできたんだ!
さぁ働けリリス!
俺達の道を阻む薄汚い汚泥の群れを叩き伏せるのだ!
「ちなみにトニトルスは一体しか出せないから、後ろの……て言うか、前以外の全方位の警戒お願いね」
「…………」
働くならちゃんと働けよ、中途半端なヤツめ!
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カミナリ様を先頭に立てたらスムーズに進むようになった。
今気付いたがカミナリ様とカミナ様って似てるな…… 実にどうでも良い事だが。
やはり魔王たるものコソコソ隠れて進むべきではないな、威風堂々と邪魔する者を殲滅してこその魔王だ。
時折、背後から敵がやって来ることがあるが、隠す必要がなくなったからさっきと比べれば楽だ、第7階位級 魔術一発で片付く。
一見順調に見えるが、一つ問題がある。
道標が無くなった。
敵の密度が濃い方へ進むとだいたい階段が見つかるのだが、下層地下40階から階段が見つからなくなった。
ついでに床に穴も空いていない。
それどころか緋色眼で下の階が見通せない。
「この床…… 対魔鋼と呼ばれるヴァリア鋼で出来てるのか?」
ヴァリア鋼とは加工によって魔力を吸収したり反射したり、魔術に耐性を持ったりする貴重な鉱石だ。
犯罪を犯した魔術師の檻に使われたり、銀行の大型金庫なんかにも使われることもある。
ただし非常に高価だ。
「え? そうなの?」
「………… おい、なんでアイリーン・シューメイカーが知らないんだよ?」
「あ~…… 確かに最下層部を作るのにかかる費用が他に比べて10倍以上だったのは覚えてるけど……
貴重なヴァリア鋼を大量に使ってたのか…… そりゃお金が掛かるワケだわ」
なんちゅー適当な…… さすがは世界一の大富豪だ。
「ヴァリア鋼…… ウチの地下シェルターにも使われてるよ?」
おぉう…… そうだな、ホワイトパレスなら使われてて当然だ、ウチとは大違いだ。
どうやらヴァリア鋼に馴染みがなかったのは俺だけらしい。
恐らくだが、タミアラでもこのヴァリア鋼が使われてたんだ、だから緋色眼でも周囲を見渡せなかったんだ。
「でもどうしよっか? 階段が見つからないと先に進めないし……」
ここまで来たら『超躍衣装』で跳んでもいいんだが、移動先が認識できないと上手く飛べない可能性もある。
下には魔族もウヨウヨいるだろうし……
「そもそも何でエレベーターも階段も、バラバラの場所に作られてるんだろうね?」
「多分だけど…… 禁層がごく一部のモノしかその存在を知らない立入禁止エリアだからだろ、そんな所に繋がるエレベーターや階段を堂々と設置したら秘密でも何でもないからな」
「あぁ~、そっかぁ」
魔族みたいに人海戦術が使えれば探すのもさほど難しくないだろうが、たった3人で魔族を蹴散らしながらとなると時間が掛かり過ぎる。
「なぁ、リリスは何か探索系のギフトとか持ってないのか?」
「あのねぇ、私の能力を十特ナイフか何かと一緒にしてない? そんな都合のいいものが…… あ」
「あ?」
「もしかしたら…… アレが使えるかも……」
あるんかい!! 探索に使わされた無駄な時間に対する賠償を要求するぞ!
「いやいや! そんな目で見ないで! あんまりアテにならないんだけど…… 『不確定未来』っていう未来予知…… 正確には未来予測能力が……あります」
「…………」
「だから睨まないで…… 言ったけどあまりアテにならないの」
「どういう能力なんだ?」
「自分の進むべき未来を予測してくれるんだけど、何もしなかった場合の的中率は50%、何かをするたびに確率は下がっていく……
要するに全く当てにならないのよ」
的中率50%って当たるも八卦当たらぬも八卦レベルじゃ無いか。確かにアテにならないな。
「未来予測や未来予知系の能力って歴史上でもほとんど確認されて無いの、この世界の古代の予言者と呼ばれる人たちも、9割は私が介入した予言だから」
今コイツはとんでもない発言をしたぞ、宗教家が聞いたら火炙りにされるかもな。
「だからルカみたいな精度の高い未来予知って普通じゃあり得ないのよ」
「普通じゃあり得ない……ですか」
おいコラ! まるで琉架が異常みたいな言い方すんな! 琉架は言うなれば神に選ばれた存在なんだ! 俺の女神、マジ女神!
「はぁ…… 確かにアテには出来ないみたいだが、他にそのアテが無いんだ、試してみろよ?
何かしたって下層へ続く穴の位置は変わらないんだから」
「う…… 分かった、周囲の警戒お願いね? ちょっと精神集中しないといけないから」
そう言うとリリスがその場に座り込んだ。
コラ! 制服姿であぐらをかくんじゃありません! パンツが見えるだろ! 琉架が隣に居る時はパンツウォッチング出来ないんだから!
あぁ…… 自然と視線が吸い寄せられる…… 魔性の女め、目の毒だ。
リリスの要望通り周囲の警戒をする為に背を向ける…… 水色の縞パンか…… 2400歳のBBAのクセに俺好みのチョイスしやがって! 一瞬見えた桃源郷の光景が目に焼き付いてしまった。
「むむっ! 見えました! 西が吉です!」
なんか古風だな…… 一体どういう風に見えるんだ?
「リリス、それは大金庫までの道筋が全部見えたのか?」
「いえ、この階だけです」
………… なるほど、使えねぇな。
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リリスの働きにより下層エリアを何とか攻略、とうとう禁層エリアへと突入した。
敵の密度はさらに上がり、3歩歩くたびに戦闘って感じになった。
しかしゴールまではあと少し、カミナリ様もまだまだ元気だ、このまま一気に進もう。
もっとも階を降りるたびに水色の縞パンを見せられるんだが…… どうしても視線がそっちに行ってしまう!
コレが生まれ持った業というヤツだな、きっと生死を分ける様な場面でも、パンツが見えれば見てしまうんだろう。
せめて琉架にはバレない様に…… こう…… チラッとね?
「それじゃこの階も見てみる、警戒お願いね?」
「ああ」
「『幻想追想』“不確定未来”」
俺、思ったんだけど…… 第1階位級で自分の体を覆っていればリリス一人で事足りたんじゃないか?
何でこんな事に付き合わされているんだろう?
「あっ! あぁっ! マズイ!」
「何だ? 家の鍵でも掛け忘れたか?」
「冗談言ってる場合じゃないって! か……顔見知りがいる」
「顔見知り? 生存者か!? まさか第3魔王じゃないだろうな?」
「あ~……いや、私がと言うより……」
そんな時だった……
「ハッハッハッハッハーーーーー!!」
女の笑い声があたりに響く……
なんだろうこの馬鹿みたいな高笑いは、聞いていると不安になる……
こんな笑い方する奴、知り合いにいるぞ? ……てか、前にも全く同じことがあった……
『雷神』は俺達の少し前方の十字路の真ん中にいる、声は右の通路から聞こえてくる。
その直後、数体の魔物が『雷神』に体当りしてきた。
当然、強烈な電撃で体を焼かれ倒れ伏す…… 今のは突撃というより声から逃げてきたって感じだったな。
案の定、魔物を追っていた声の主がそのまま一切の躊躇もなく『雷神』に襲いかかる!
「暗黒邪王の怒りに消えよ!! 喰らえ!!
天界の白き神、魔界の黒き神、その一切を無に帰さん!!
第13天式・無限神終! 神魔崩壊・滅ーーーーーっつ!!!!」
イタタタタ! 古傷が痛む! 必殺技に詠唱みたいなのが付いてたぞ? もしかしてアレか? 解号か?
そんな痛々しい人物は、右側の通路から勢い良く飛び出し、『雷神』斬り掛かる……
ソイツには触らない方が良いよ……と、言う間もなく突っ込んでいく、その結果……
「アバババッババババババババッバッバババババッ!!!!??」
見事に感電した、骨が透けて見えた気がした……
そしてその人物は床に倒れピクピク痙攣している…… 死んだか?
「あちゃ~…… こんな時に限って『不確定未来』が当たっちゃった」
現れたのはとっくに死んだと思ってた俺の師匠、暗黒神の落とし子シルヴィア・グランデだった。