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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
231/375

第225話 アナグラ


 またしてもここに戻ってきてしまった……

 オリジン機関本部……の跡地だ。


 地面の上に出ていた建物は跡形もなく、代わりに大きな穴が開いている。

 周囲には上空から見ても分かるほど大量の魔物で埋め尽くされている。

 まるで虫の大群のように地面が蠢いて見える…… ハッキリ言ってキモい。


 これは…… 予想していたとは言え、かなり酷い状態だ。

 シニス世界の『アリアの雨』は魔物・魔族を回収してくれるのに、デクス世界では基本放置だ。

 ちゃんと片付けろよ、この様子じゃ生き残りがいる可能性も絶望的だ。

 雨が降ってから半年以上…… 仮に最初の襲撃の難を逃れていても生きてはいまい……


 さらば師匠! 安らかに眠れ!

 暗黒神の落とし子、暁に死す! ……的な?


 頼むから化けて出るなよ? ちゃんと墓も建ててやるから、師匠が大好きだった色、黒御影で…… 師匠が大好きだった拘束具のような飾りをガチャガチャ付けて…… 師匠が大好きだった暗黒臭い辞世の句を武尊あたりに捏造してもらって……


 だから間違ってもゾンビ状態で復活しないでくれよ?

 南~無~……


 …………


 何でだろう?

 ちゃんと供養するつもりなのに、あの人が死んだとはどうしても思えない。

 いや、生きてる可能性なんてほぼゼロだ。

 にも拘らず、あの人は普通に元気に生きていそうで……

 例え生き残る可能性が0.1%でも……「ふ~、危なかった、死ぬかと思った」とか言って、平気な顔して出てきそう……


 いや…… そんな筈ない、きっとお亡くなりになっておられる。

 墓は師匠が焦がれ続けたシニス世界に建ててやるから、だから大人しく眠っててくれ!




「あの女…… 私に何か恨みでもあるの? ここまで徹底的にやることないじゃない……」


 リリスの言うあの女ってのはマリア=ルージュの事だな……

 ほんとに何か恨みでも買ってるんじゃないのか? デクス世界を滅ぼさん勢いだぞ?

 シニス世界での『アリアの雨』が暇潰しだとしたら、デクス世界での『アリアの雨』はガチだ、傾ける情熱が違う。

 ただどういう訳かマリア=ルージュ本人は南極に引きこもったままだが……


「師匠…… ねぇ神那ぁ…… シルヴィア先生きっと無事だよね? 生きてるよね?」

「琉架……」


 「そりゃねーよ」って気持ちと、「言葉にしないでくれ生存フラグが立つから」って気持ちが入り混じってる。

 別に師匠が生きてたって俺は大して困らないんだが……

 いつの日か俺達が魔王になった事がバレて、剣闘奴隷みたいに師匠に飼われ、来る日も来る日もあの暗黒脳筋女と戦わされないか心配だ。

 そんな日々は師匠が召される時まで続く…… 下手したらどっかで殺されて、師匠が新・第11魔王に就任するかもしれん…… その可能性が高い。

 そんな事になったらこの世は暗黒界に沈むぞ。


「きっと大丈夫さ」


 ……なんて心にもない事を言って琉架を安心させる。

 こんな根拠のない言葉で安心してくれるか難しい所だが……


「うん…… そうだよね……」


 琉架はそう言うと、そっと俺に寄り添ってきた。


 …………


 師匠の生存フラグと引換で、琉架とイチャラブ出来るなら、俺は師匠復活のために人体錬成を極めたって良いぞ。


 こんな根拠のない薄っぺらな言葉でも琉架を安心させることが出来たのは、きっと俺の人徳だな。


「シルヴィア先生が死ぬトコなんて…… 想像できないもんね」


 琉架もそう思ってたのか……


「えぇっと…… いい雰囲気醸し出してるトコ悪いんだけど、そろそろいいかしら?」

「あ?」

「わっ! えっと…… ご、ごめんなさい!」


 あぁ…… 琉架が離れてしまった……

 邪魔すんなよって言いたいトコロだが、確かにいつまでもココでホバリングしてる訳にはいかない。

 しかしその前に、眼下に広がる魔物の群れを何とかしないといけないな。


「琉架、頼む」

「ん…… ハイ!」


 ヘリのハッチを開けて、魔神器を持った手を外へ突き出す。


「『対師団殲滅用(ギルバルド)補助魔導器(フォース)』展開」


 ヘリの周囲に巨大砲塔が展開される。


「琉架、使うのは氷雪系で頼む」

「え? 氷雪系?」

「あぁ、炎弾(ファイア・ブリッド)じゃ、爆発で上層部が崩れるかもしれない。

 雷撃(サンダーボルト)だと施設の電気系統に不具合が起こる。

 徹甲(アーマー・ピアシング)閃光(レイ)では貫通力が高過ぎるからな」

「そっかぁ、だから氷か…… うん、りょーかい♪」


 もしかしたらちょっとした氷河が出来上がるかもしれないが…… ま、崩れなければなんでも良いや、来年の春には解けるだろうし。


「IFFオート、超長距離砲撃モード!

 第7階位級 氷雪魔術『氷弾』アイス・ブリッド チャージ25倍 アクティブホーミング!!」


 砲塔から放たれた雹の弾丸は、敵に命中すると周囲を巻き込みながら凍りつく。

 本来、氷弾(アイス・ブリッド)はただ尖った氷をぶつけるだけの、物理攻撃寄りな魔術だが、込められる魔力量が増えると凍結(フリーズ)効果が付与される。

 バナナで釘が打てるような氷の世界の出来上がりだ。

 地下都市内も寒くなりそうだが、深く潜れば影響はないだろう。


 大地を埋め尽くすほど溢れていた魔物は、半数は粉々に砕け散り、半数は氷の棺に閉じ込められていた……

 良かった…… 氷河は生成されなかったか、掘り進んで侵入しないで済む。


「スゴ…… これが “女神” 有栖川琉架の魔術……」

「うぅ……///」


 琉架が照れてる…… 女神呼びにまだ慣れてないようだ、俺は禁域王を既に受け入れてるんだが。


「さて、それじゃ行きますか」


 そういってリリスが立ち上がる。

 あれ?


「着陸しないのか?」

「えぇ、ヘリはこのままリスパに帰すわ。

 別にかまわないでしょ?」


 個人的にはかまわない、帰る時は門を開きし者(ゲートキーパー)を使えば良いんだから、ただ……


「俺達がいなかったらトリスタン先輩が色々言ってくるんじゃないか?」

「別にイイでしょ? もう二度と会うこともないだろうし」


 お前はな。

 しかし俺と琉架はいつか会う可能性もある。

 更に使徒リーマンはヘリを返しに行った時に会わなきゃいけないだろ?


 ま、いいか。

 俺達は他人の空似ってことですっとぼければイイ。

 使徒リーマンがどれだけ苦労しようが知ったこっちゃねー。

 俺の使徒ですら無いんだから。


 唯一の懸念は万が一生存者がいた場合か……

 それも気にしなくていいか、生き残りが何十人もいたらヘリ一台残ってても意味が無いからな。


「琉架、重力制御頼む」

「うん、任せて」


「重力制御! 第8魔王の『星の御力(アステル)』ね!」

「リリスは星の御力(アステル)覚えて無いのか?」

「私が覚えられるのはあくまで劣化能力、効果の弱まった星の御力(アステル)を覚えてもあまり意味が無いから……

 それに魔王のギフトは容量が大きいから」


 なるほど、魔王の能力は容量が大きい……か、この分だと跳躍衣装(ジャンパー)以外の魔王由来能力は覚えて無さそうだな。

 それでも跳躍衣装(ジャンパー)を覚えているのは、例え劣化してても瞬間移動が実用性が高いからだな。

 実際は制限が異常にきつい能力なんだが……

 あ、そう言えばリリスの『幻想追想(メメント・モリ)』や覚えている能力に、俺の『恩恵創造(ギフトクリエイター)』は適応されるのだろうか?

 『幻想追想(メメント・モリ)』はともかく、覚えてる能力は無理そうだな…… だがもし使えるならスゴイことになるぞ。


「神那? どうしたの? 行くよ?」

「あぁ、悪い、頼むよ」


 この件は正式に同盟を組んで、もう少し信用がおける様になるまで保留だな。

 リリスに関しては何か忘れてるような気がするし。


 女神様のお導きで地獄の入り口みたいになってるオリジン機関跡地へ侵入する。



---



 オリジン機関本部 上層部


 かつては近代的な施設で、未来都市を連想させるような装いだった場所だが、今では見る影もない……

 施設はボロボロだった。

 巨大な爪の引っかき跡…… 銃弾の着弾跡…… 爆発物で壊れた壁…… そして血と体液の汚れが至る所に残っている。

 しかし不思議なことに死体がない…… いや、ここが襲われたのは半年以上も前、魔物に食べられてしまったのかもしれないな、敵も味方も全て……


「ヒドイ……ね」

「あぁ……」


 ここは俺と琉架が初めて出会った運命の地、即ち神の存在が証明された地だ。

 いずれは世界遺産とかに登録されて恋人たちの聖地とか呼ばれ、世界中から女神教信者と恋人たちがこぞって集まるメッカ的な場所になる筈だったのに!


 今では魔物が跋扈する立ち入り禁止エリアだよ。


 自分のよく知っている場所がボロボロに破壊されている様を見ると心が痛む…… なんてことはないが、やはりイイ気はしない。


「あ…… この自販機…… よく当たりが出たのに壊れちゃってる……」


 マジか? 俺は一回も当たったこと無かったぞ?


「こっちは食堂…… こっちも潰れちゃってるね……」


 あぁ、俺と琉架の指定席だった隅っこの薄暗い席…… そこも巨大な何かが転げ回ったみたいに潰されている。


「あ…… ここ…… 教室だったよね……」


 俺と琉架の初めて出会った神聖な場所、教室は壁も天井も崩れ部屋ですらなくなっていた。

 おのれ……! 伝説の地を! 思い出の場所を!

 ちょっとだけ感傷的な気分になる。


 予想通り上層部はヒドイことになってる、多分地下10階位までは大型の魔物によって蹂躙され尽くされてると思っていいだろう。


「それじゃぁカミナ、案内ヨロシクね」

「は? なんで俺?」

「だって私、オリジン機関に来るの初めてだもん、案内なんて出来るわけ無いでしょ?」


 おい! こっちはお前の不手際に付き合わされてるんだぞ?

 来る前に全部調べることくらいアイリーン・シューメイカーなら出来ただろ!

 こっちに丸投げするんじゃねー!


「それにほら、カミナもルカもココの出身者でしょ? だったら問題ないでしょ?」


「俺達は1年ココに居ただけの学生だぞ?

 当然、入れる場所にも制限があった、下層部に関しては足を踏み入れたことすら無い」

「え? そうなの?」


 何でお前が知らないんだよ?

 オリジン機関で一番偉い人なのに……


「あ~…… まぁ、別に問題ないでしょ? 最下層を目指して降りてけば良いだけなんだから、そんなこと下等魔族にだって出来る」


 ソレはソレで問題だ。

 まぁオリジン機関は敵の襲撃までは想定してなかったから仕方ないが……


「取りあえず分かる場所までは案内するよ」

「うん、ヨロシク~♪」


 全く反省の色が見られない…… お前最近リラックスしすぎだぞ。




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