第223話 準備完了
リィーン…… リィーン……
放課後の教室に鈴の音が響き渡る。
「なんだ?」
音の発生源は…… リリスだ。
「はい…… セリーヌ?」
リリスは懐から15cm程の棒状の物体を取り出し、それを耳に当て呟いた。
アレはリズ先輩が持ってた様な通信用魔導器の一種か? 電話のようなものか…… あ、そう言えばリズ先輩の魔神器パクったまま返してないな……
ま、いいか、多分俺がパクったこともバレてないだろうし、今頃新しい魔神器が支給されてるだろうからな。
大体、今更返しに行ってもお怒りを収めてくれるか否か…… 案外「後輩くんが拾ってくれたんだ」とか言ってくれるかもしれないが……
まぁ、いつか会う機会があったら謝っておこう。
なにせこっちは無実の罪を着せられたんだ、どうしても許せないって言うならまたレイフォード財団のPower of Moneyを使わせてもらう。
「状況はどうなってますか? 些か時間が掛り過ぎですよ? ………… 言い訳は結構ですので速やかに報告を……」
………… 通信中のリリスはキャラが違う…… 違いすぎる。
最近披露してきた能天気JKモードと違い、随分と真面目な口調だ。コレがアイリーン・シューメイカーの真面目会長モードってワケか。
ただ放課後の教室で突然モードを変えるもんだから、みんなポカンとしてるぞ?
「えぇそう…… いいえ、戦闘員も調査員も必要ないわ、コチラで用意します。護衛も不要よ…… いつも通りメルヴィンに案内させるわ、後は彼らの指示に従うよう手配して……」
リリスの正体を知らない伝説君たちから見たら、きっと彼女は重度の暗黒病を発症したと思うだろう。
いや、俺達は正体知ってるから、別に気にならないんだけど……
何となく武尊と通じるトコロがある…… その内「◯ル・プ◯イ・コン◯ルゥ」とか言い出しそうだ。そのときは俺も一緒に白衣を着てやろう、天瀬先輩とペアルックは可哀相だから。
魔王会談から2週間、アホみたいに平和な時間を過ごしてた我々に、ようやく準備完了の知らせが届いた。
ランスの首都リスパにて、オリジン機関本部調査の準備が整った……と。
話の内容から察するに、オリジン機関本部探索隊は少数精鋭みたいだな。
そっちのほうが有難い、護衛とか付けられたら邪魔なだけだから。
だがしかし、納得イカン…… こっちはあくまでお手伝いなのに、全部押し付けられてる気がする……
---
11月某日 ―――
三連休を利用して海外旅行としゃれ込む。
特別生は少しくらいサボっても問題無いんだが、そんなに時間のかかる事案でも無いからな、パッと行ってパッと終わらそう。
今回のオリジン機関本部探検隊の参加メンバーは、この俺、みんなのダーリンこと霧島神那。
俺の女神改め、世界の女神こと有栖川琉架。
2400歳JK&窃盗犯のリリス・リスティス。
この3人だ。
他のメンバーが不参加なのは一応理由がある。
確かに全員で出向いた方が簡単だろう、全魔王の半数がいれば世界だって取れる。
だが全員で出向いて、その隙に大和がγアリアに襲われたらシャレにならない。
可能性は低いが防衛力として嫁達を置いて行く。
断腸の思いだ……
迷宮探索には肉壁があった方がやりやすいんだが、嫁達を置いて行くのにジークを連れて行くのは俺のプライドが許さない! 禁域王のプライドがだ。
ついでにオリジン機関本部は関係者以外立ち入り禁止だからな、今更な気がするが念の為だ。
一応、伊吹も関係者と言えなくはないが、わざわざ大量の死体が溢れる死地に連れていく事は無い。本人はついて来たがったが、使途や妖魔族なんかもいるかも知れないから、今回は遠慮してもらった。
---
この3人パーティーでリリスの門を開きし者を使い、西欧ランスの首都リスパへと跳ぶ。
ワープアウトしたのはリスパの街中のシンボルゲートの上だった…… 随分と目立つところに出たもんだ。周りに観光客とか居たらどうするんだよ?
もっともこのご時世、呑気に観光してる奴などいないが……
リスパは古い街並みを残しており、高い建物が一切ない。おかげで規則正しく美しい街並みが遥か彼方まで見渡せる……
ただ気になるのはその遥か彼方に壁が見える事だ…… コレだけ離れているにも拘らずハッキリと見える、かなり巨大な壁だ…… そんな壁が途切れることなくずっと続き、地の果てへ消えていってる……
デルフィラで見たのと同じ魔物流入を防ぐためのモノだろうか?
それにしたって立派だ、アレだけの壁を作るには10年…… 或いは100年単位の時間を要するだろう。もちろん平時でだ、魔物と戦いながらあんな壁をわずか半年足らずで作り上げたのか?
デルフィラの時も思ったが、よくあんなモノが作れたものだ……
生憎、距離があり過ぎて壁の向こう側がどうなってるのかここからでは窺い知れないが、こちら側に広がる街には被害が見当たらない。
戦車や軍用車が走り回っているが市民生活にはあまり影響は無い様に感じられる。
さすがに観光客は居ないな…… しかしこの街の主産業って観光じゃ無かったっけ? 結構厳しいかもな。
「リスパ…… 久しぶり……」
「あれ? 琉架はリスパに来た事あるのか?」
「うん、子供の頃に何度か……」
さすがセレブ魔王・有栖川琉架。きっとプライベートジェットで世界中観光した事があるのだろう。
ウチとは大違いだ、俺の海外経験なんてせいぜいサドアイランドくらいか…… 国内だけど一応「海の外」だから……
「遠路遥々ご苦労様です」
そんな俺達を出迎えたのは、全然復讐しに来てくれなかった何時ぞやの使途リーマンだった。
てかメルヴィンってコイツの事か、全身鎖帷子で固めた伝説の英雄みたいな名前しやがって…… いや、別に名前に文句つける気は無いんだが……
「お前か……」
「お待ちしておりましたリリス様……
それと、その節は世話になりました、魔王 霧島神那様、魔王 有栖川琉架様……」
世話ってのはβアリアの件だろうか? それともお前を問答無用で攻撃した件だろうか?
畏まってるクセに殺気を飛ばしてくるトコロを見ると、明らかに後者だ。
俺は謝らんぞ? ストーキングされたし、ネアリスでは俺を殺す気で攻撃して来ただろ? 失敗して橋突き破ってたけど。
「メルヴィン、カミナを睨まないで、私たちは敵じゃ無いんだから」
「ッ! 畏まりました」
今小さく舌打ちしなかったか? 使途って魔王に似るんだな…… そんなトコ似なくていいよ。
もし俺が使途を作ったらどんなのが出来上がるんだろう? 女の子に次々手を出し、ハーレムとか作っちゃうんだろうか?
…………
実に不愉快だ、男の屑だな。そんな屑は俺一人で十分だ。
やはり使途は女の子が良い、俺の使途ならきっとエロい感じの使途に育ってくれるハズだ。
まさか女の子まで逆ハーレムとか作らないだろうな?
「リリスは使途を作ってるんだな、他にも居るのか?」
「私の使途は二人だけよ、私の名代として色々動いてもらっている、メルヴィンとシニス世界のガイアに一人」
「ガイアに?」
「ギルドセンターに居るわ、向こうの情報を集めるにはそれが一番効率的だから」
するってーと何かい? あのギルドの職員の中にリリスの使途が混じってたのか?
リルリットさんがリリスの使途でも驚きはしないが…… さすがにそれは無いか。多分幹部連の誰かだろう、全情報を集めるならオペレーターより権限フリーの幹部の方が都合がいい。
それより、俺と琉架が居なくなった後、みんなが苦労したのはコイツの所為じゃ無いだろうな?
仕方ない事というのは分かっているが…… くそ! コイツ黒幕率高すぎだろ!
「それではこちらへ……」
使途リーマン・メルヴィンに案内され地上へ下りる。
---
街を歩く人々は一般市民3割、軍人7割といったトコロか……
それほど緊迫感は無い、街に被害が出てないお蔭だろう。
有名な大通りをしばらく歩かされ、宮殿みたいな場所へやって来た…… ホワイトパレスよりデカいんじゃないか? なんかテレビで見た事がある…… 確か万博の為に建てられた建物じゃ無かったかな?
つーか、なんでこんな所に? 軍用ヘリを用意してたんじゃないのか?
「グラン・リスパか…… 今は何か軍人さんだらけだね」
グラン・リスパっていうのか? 琉架の言う通り、建物には軍服を着た人間が引っ切り無しに出入りしている。
ここが作戦本部……なのか。
「それでは手続きをしてきます、こちらでお待ちください」
そう言ってメルヴィンは建物の中に入っていった。
今から手続するの? 部下を使って先に用意しておけよ。
よく見れば公園には大量の軍用車とヘリが停まっていた、あぁ、アレに乗るのか、雰囲気が第一魔導学院みたいだ。
待たされること10分、使途リーマン帰還。
思ったより早かったな、最終的な手続きだけだったか。
「それではこちらへ……」
また歩かされるのか…… こっちは王様3人だぞ? 目の前まで持ってこいよ、全く気の利かない使途だ。
こっちはさっさと移動したいんだ、雰囲気が第一魔導学院に似てるだけに嫌な感覚がする……
軍人さん達がこっちをジロジロ見てる、それも忌々しいモノを見る目だ…… やはりいくらレイフォード財団でも、非常時にマネーの力で無理やりヘリを押さえたのが不味かったのか?
絡まれない内にさっさと離陸したい……
そんな希望はあっさり破られる……
「まて、お前達か、この非常時に無理やり軍のヘリを押さえたのは」
何処にでもいるんだよな…… この手の輩は。
今回は俺達が頼んだ訳じゃ無いから面倒な輩の相手は使途リーマンに任せよう、リーマンならクレームも馴れっこだろ?
『うわ…… マズ……』
リリスが話し掛けてきた男から顔を反らし、小声で呟いた。
? 知り合い? 暗躍魔王に顔見知りがいたとは……
『あの男…… トリスタン・クールノーよ』
とりすたん・くーるのー? そんな然も知ってて当然みたいな言い方されても…… 映画俳優かなんかか? 記憶にないが……
「………… 誰?」
『知らないの? 貴方達の先輩よ! 創世十二使・序列四位トリスタン・クールノー!』
知る訳ねーだろ、俺と琉架はオリジン機関の汚い大人たちに金を握らせて先輩の情報を買ったりしてないんだから、むしろ情報売買は当たり前の行為だったのか?
大人って…… キタナイ!
そう言えばザックたちは学生なのに汚かったな…… 俺達がお子ちゃまだっただけか。
「創世十二使の序列四位の人って言うと…… 大地を操るギフトを持ってる人だっけ?」
「ん? そう言えばそんな奴もいた様な……」
琉架に言われて段々思い出してきた、序列四位はそんな能力者だった気がする……
確か土から成分を抽出して岩石や砂なんかを自由に作り出せる能力だった……様な……
もしかして遠くに見えるあの壁を作ったのってコイツか?
だとしたらとんでもない能力者だぞ? 個人で地形を変える事ができるなんて…… まるで神みたいな能力者だ。
「ん? そっちの二人…… 何か見覚えのある顔をしてるな? どこかで会ったか?」
やはりか…… お前も汚い大人だったか…… コイツは尊敬に値しない、もっとも生まれて此の方、心の底から尊敬できる人物になど出会った事も無いが……
「詮索はやめて下さい、我々は防衛軍司令本部の許可も取っているのです。
それにあなた方もオリジン機関本部がどうなったか知りたいはずでは?」
「確かにな…… しかしお前達たった四人で、しかも三人は子供だ、そんな人員で魔物の巣窟とかしているであろうオリジン機関本部を調べられるとは思えない」
チッ! 面倒なのに絡まれたな……
どうしよう、この邪魔くさいヤツ……