第222話 女子高生魔王
早起きは三文の徳…… そんな諺がある。
実に難易度の高いミッションだ。
朝は惰眠をむさぼる時間だ、二度寝、三度寝の心地よさと言ったら、いつだって俺を惑わせる。
朝の弱い俺にとって、朝とは憂鬱な時間である。
英雄であり、魔王であり、一生遊んで暮らせる金がある俺がナゼ、朝っぱらから起きなければならないのか? ホントは昼まで寝てたい……
まぁ理由は簡単、英雄であり、魔王であり、金持ちである前に学生だからなんだが……
そんなわけで俺は毎朝、苦行のような激しい戦いに身を置いている。
睡魔との戦い……
赤ん坊以外の全ての人間が戦ったことのある相手だろう、俺の平日は常に激しい攻防が繰り広げられている。
それでも今まではまだ良かった……
朝起きれば嫁達がオハヨウをしてくれたんだから……
それだけで苦しい戦いを繰り広げ朝起きてきた甲斐があると言うもの。
ところがだ。
デクス世界に来たことで状況は一変した。
もう言わなくてもわかると思う…… そう、俺の周りから嫁たちは消え失せ、残ったのは呪われし糞筋肉!
っざっけんな!!! なんで寄りにも寄ってテメーだけが残ってんだよ!!
神隠しに遭う以前より、状況が悪化してるじゃねーか!!
今までは思い留まってきたが、そろそろコイツを始末する時期が来たんじゃないか?
朝一から汗でテカる糞筋肉を拝まされるこちらの身にもなってみろ!
無意識に殺してしまっても情状酌量が認められるんじゃねーか?
俺の我慢が限界に達しようとしていた時、突然状況に変化が起こった。
魔王リリス・リスティスの出現だ。
かの魔王は俺の城、魔王城・ローン24年残しに突如現れ、半分脅迫じみた手段で強引にホームステイしてきた。
その所為で危うく俺は性犯罪者にされる所だった……
なんか俺ってしょっちゅう性犯罪者になり掛けてる気がする……
とにかくリリスは狡猾かつ卑劣な手段で、我が家に入り込んできた。
やはりあの女は油断ならない……が、このホームステイで状況が変わった。
あの女は初日こそ、俺の部屋をガサ入れしたり、それこそやりたい放題だったが、翌日には大人しくなった。
そういえばあの日、彼女は何やら青い顔をしていた気がする、ウチの嫁達と何か話してたようだが……
まさかイジメ?
いやいや、ウチのコに限ってそんなことはありえない。
きっとあの浮世離れした魔王に、D.E.M. 式のルールを教えたんだろう。
彼女が大人しくなるならこちらも助かる。
また、彼女の登場には思わぬ副産物があった。
そう、朝オハヨウをしてくれる美少女が来たのだ!
あ~、分かってる分かってる、伊吹も可愛いよ、シスコンの鬼も喜んでる。
ただ血の繋がった妹なんだよな……
子供の頃から当たり前だったから、嫁たちの代わりにはならない。
どんなに伊吹が可愛くっても、糞筋肉の巨大爆弾を相殺するのは難しい。
そんな所に現れたのが、見た目は完璧なリリスだった。
「船旅に琉架の膝枕」に匹敵するほどの、地獄に仏っぷりだ。オー マイ ブッダ!
更にもう一つ、魔王リリスは俺や琉架に勝るとも劣らないほどに朝が弱いのだ。
そして普段の姿から想像もできないほど…… だらしないのだ!
昨日なんてパンツと薄いキャミしか身に着けてない姿で起きてきたのだ!
ズレた肩紐と僅かに浮き出たポッチが実にエロかった…… おかげで俺の目は一気に覚めた。
朝から実にイイモノを拝ませてもらった。
まさに早起きは三文の徳だな。
この分だと近いうちにリリスの生オッパイくらいは拝めそうだ……
朝が楽しみだ。朝よはよ来い!
しかし朝に弱いくせに何で学生に擬態してホームステイしてきたのか? 全くの謎だ。
そんな我が家の居候だが、全く働かない。
ハッキリ言って普通の女子高生を演じている、それはもう見事になりきってる、実年齢2400歳オーバーなのに、琉架たち新世代魔王より遥かに普通の女子高生をしてる。
まぁ琉架たちが普通じゃないとも言えるが……
今は準備期間だ、オリジン機関へ行くための準備をランスで整えている。
彼女はその最高責任者なんだが、全く働かずに毎日遊び呆けている……は、言い過ぎだが、これっぽっちも働いてない。
確かにリリスのもう一つの顔、アイリーン・シューメイカーはデクス世界で一番の権力を持っている、汗水垂らして働かなくても部下に任せておけばいい。
わざわざ最前線に赴いて陣頭指揮を取る必要はない。
…………
必要はないんだが、ウチにホームステイしてくる事はないだろ?
大体、娘にはなんて言って出てきたんだ? 世界一の権力者が突然消えたら大騒ぎになるだろ? それとも「ママはミニスカートが履きたいから女子高生になってくる♪」とか言ってきたのだろうか?
もしウチの母親がそんなことを言いだしたら、命に変えてでも阻止するぞ。
いや…… そもそも娘は魔王リリスを知らないんだな……
恐らく「姿を隠す」とか言ってきたんだろう、そうじゃなければ真っ先にウチを探しに来てるハズだ。
そんな訳で女子高生生活を満喫している魔王リリス…… 俺の目には彼女が失われた青春を必死に取り戻そうとしている様にも見える……
彼女が魔王になったのは実に2400年も前、終末戦争末期だ。
当然、青春なんかアリはしなかっただろう。
デクス世界に渡って来て1200年…… 機会は幾らでもあっただろう。
しかしいい歳した魔王が、十代女子に混ざって女子高生をするのはなかなか根性がいる。
そんな時に現れたのが俺達、新世代魔王だ。
年齢はこの際置いておくとして、魔王仲間が青春を謳歌している…… 羨ましくなっちゃったのかな? なので多少強引な手を使ってホームステイしてきたのだ…… そう考えると辻褄があう。
例え2400年以上生きてきても、魔王の精神と身体は不老の為 歳を取らない。
ウィンリーもそうだったが、彼女は魔王になった時のまま、少女なのだ……
まぁ…… 好きにさせといてやろう、俺に迷惑の掛からない範囲で。
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第三魔導学院
「おぉ~♪ 仮想訓練装置! ねぇカミナ、ちょっと一緒にやってみない?」
「なんでテンション上がってるんだよ? 仮想訓練装置を納品したのお前んトコだろ?」
確かレイフォード財団寄贈だった筈だ。
「いや~、私、仮想訓練装置って使った事なかったんだよね。開発には研究者の一員として参加してたんだけど」
「………… それはアイリーン・シューメイカーか?」
「そんなワケ無いでしょ? リーゼロッテ・テレマンって研究者よ」
さすが擬態パターンを全て使い尽くしただけのことはある、コイツは一体いくつ名前を持ってるのだろう?
恐らく歴史上の偉人の何人かはコイツだな。
「止めとけ、第一階位級とか使ったら大騒ぎになるぞ?」
「む…… 使わなければいいんでしょ?」
「ちなみに第二階位級でも大騒ぎになる」
「ぐ…… じゃあ第三階位級は?」
「やっぱり注目を集めるだろうな……」
「じゃあダメじゃん!」
「だから止めておけと言ってる」
「でも特別生なんだし、第三階位級くらいなら……」
「お前は目立っても良いのか? ただでさえ人目を引く容姿をしてるんだから」
「むぅ~~~……!」
この子…… 女子高生生活を満喫し過ぎだろ? 本当に魔王か疑わしくなってくる。
「それじゃ普通の女子高生は休み時間に何するの?」
それを普通じゃ無い高校生の、それも男子高生に聞くか? そんなの俺が知りたいよ。
何するんだろうな? もし俺に才能が無かったら、休み時間に何してる?
ラノベでも読んで妄想に花を咲かせるか…… ケータイを弄って時間を潰すか…… 寝たふりして休み時間が終わるのを待ってるか……
こんな所かな? 発想が完全にボッチだ…… でも他に浮かばない。
琉架だったらどうしてただろうか?
授業の予習復習をしてるか…… 教師に頼まれて次の授業の用意をしてるか…… 寝たふりして休み時間が終わるのを待ってるか……
こんな所かな? やはり発想がボッチだ…… でも他に浮かばない。
俺も琉架も才能があって良かった…… 本当に!
もしギフトユーザーじゃ無かったら今挙げた様な平行世界が存在していたかもしれないな。
お前も魔王なら魔王らしくボッチでいろ。
「じゃあ放課後は? 放課後と言ったら高校生が一日の内で一番活発に動く時間でしょ? 何するの?」
また難易度の高い質問をしてくれる……
個人的にはゲームかネットだが、一般的にはどうなんだろう?
カラオケとかゲーセンとか…… 後は…… クレープ食べに行く……とか?
後、思いつくのはエロい事くらいかな。
最近の高校生は金が無いからずっとお喋りしてるだけかな?
いや、よくよく考えれば俺達は金持ちだ、キャバクラで豪遊したり、高級寿司店に行ってトロ喰いまくったりしてもイイんだ!
なんか発想がオッサン臭いが…… 女子高生だったらホストクラブ通い……とか?
なんか違う…… ウチの純真無垢な娘たちにはイメージに合わない。
そんなとこに行かせるくらいなら俺がホストになってお嬢様たちをもてなしてやるよ…… それいいな、こんどホストごっこやってみようかな?
「…………」ジ~~~~~
「そんな目で見るな、そもそも俺は高校生歴が短いんだよ、高等部に進学してすぐに神隠しに遭って、男子高生歴1ヵ月にも満たないんだから。誰かさんの所為で」
「うっ……! それに関しては…… 悪かったわ……」
いや、別に恨んでないけどな。むしろ感謝してる。
「でも…… せっかく高校生になったんだから、ちょっとくらいエンジョイ……したいじゃない?」
遊びたい盛りのJKかよ…… 2400歳越えてるクセに。
だったらリサーチしてみるか? 俺達は高校生、当然周りに居る奴らも全員高校生だ。
そう思い、教室内を見渡してみる……
誰も高校生活をエンジョイして無い……
そりゃそうだ、ついこの間、学院が襲われて多くの死者が出たんだ、そんな雰囲気じゃ無い。
仮に今が平時だとしても、この教室内に高校生活をエンジョイしてる奴なんかいないんじゃないか?
運命兄さん辺りはエンジョイしてそうだけど、今は卑屈な顔してるからな…… 絶対に今を楽しんでない。
だいたい聞いた所で正しいエンジョイ方法を教えてくれるとは思えない。
だったら……
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北校舎 高等部2年B組
「サクラ先輩~♪」
「げ…… 神那クン……」
げ……って何だ、げ……って。
「キミが訪ねてくると私が悪目立ちするんだよね」
「何故ですか?」
「キミが学院一、悪目立ちしてるからよ、聞くまでも無いでしょ? 前総合生徒会長を廃人に追い込んだなんて噂も聞いてるよ」
総合生徒会長? 誰だソレ? 知らない奴を廃人に追い込むなんて芸当 俺には出来ない。完全な濡れ衣だな。
「実は今日は無事JKになれた先輩に聞きたい事があってきました。彼女が……」
「どうも……」
「うおっ!? リリス・リスティス! 琉架ちゃんに聞いてはいたけど、ホントに編入してきたんだ……
あぁ、その節はお世話になりました」
「いえいえ、どういたしまして」
サクラ先輩がペコペコ頭を下げている…… まぁ、先輩にとっては命の恩人に等しいからな。
「それでですね先輩、本日はリアルJKの先輩に、女子高生の余暇の過ごし方ってのを教えてもらいに来たんです」
「余暇の過ごし方?」
よくよく考えればこの先輩も女子高生歴1ヵ月程度なんだよな……
「例えば先輩は放課後何をしてるのか? とかです」
「そうねぇ…… 私は早く帰って、年末に向けて作画作業が…… 今のは忘れて!」
「作画?」
「と……友達とカラオケ行ったりクレープ食べに行ったりかな?」
どうやら聞く相手を間違えたらしい。
だがせっかくのアドバイスだ、魔王同盟と妹を連れてクレープでも食べに行ってみるか。
先輩は年末に向けて大忙しみたいだから、今回はスルーしてあげよう。
せめて先輩の執筆が俺を題材にしたBLでない事を祈る……