第221話 D.E.M. 女子会3 ~女魔王の座談会編~
大和市某所 有栖川邸…… 通称『ホワイトパレス』……
金持ちが多く住む区画に建てられたその家は、その中でも群を抜いて豪華絢爛である。
いわゆる白亜の豪邸と呼ばれるモノだ。
そこには現在、4名もの人を超越した少女たちが住んでいる……
即ち魔王だ。
ここはある意味魔王城である。
現代魔科学の粋を極めた防犯システム、そこらの魔術師より遥かに戦闘能力の高いメイドたち、そして世界を統べるだけの力を持つ魔王が4人も暮らしている。
そんな真実を知る者は少ない…… しかしここは無断で侵入してくるような輩にとって、浮遊大陸アリアよりも危険な場所なのだ。
恐らくデクス世界に存在する全戦力を持ってしても、この魔王城・ホワイトパレスを落とす事は出来ない。
そんな難攻不落の城の一角で…… 夜な夜な怪しげな集まりが行われていた……
---有栖川琉架 視点---
時刻は深夜……
ホワイトパレスの一角に私たち新生・女魔王が集結し何やら話し合っていた……
何で深夜にやる必要があるのだろうか? シニス世界で開催した時も深夜だった……
みんなでお菓子と飲み物を持ちより楽しくおしゃべりする、私たちは魔王だから多分太らない、だから深夜でもお菓子食べ放題だ…… 最初はそんな軽いイメージだったけど、何か…… ちょっと違う、みんな顔が真面目だ。
トランプ持ってきたんだけどコレは出さない方が良さそうだ。
「密偵から報告が入りました」
「はい?」
何故か議長を務めているミカヅキさんが妙な事を言い出した。密偵?
「密偵って?」
「イブキ様の事です」
伊吹ちゃん…… 密偵やってるんだ、バイトかな?
そもそも伊吹ちゃんはドコに潜入してるんだろう?
「第12魔王リリス・リスティスがマスターのご自宅に襲来したそうです」
「………… え?」
襲来? え? リリスさんが神那の所に?
そんなまさか…… 敵対とかしたく無さそうな感じだったのに…… どうして急に……
いや、それ所じゃ無い! 神那が危ない!
確かに神那はリリスさんとの一騎打ちに勝ってるけど、ご家族を人質に取られたら大ピンチだ! まだご挨拶もしてないのに何かあったら一大事だ!
「どうやら…… マスターの所へホームステイするつもりらしいです……!」
……あれ? 思ってたのと違う、つまり神那の家に居候するってこと?
襲来なんて言うからてっきり襲いかかって来たのかと思った、慌てて飛び出していかなくて良かった、恥かく所だった。
もぅ! ミカヅキさん言い方が大袈裟!
……んん? ちょっと待って、神那の所に居候? それって……
「コレは由々しき事態です!」
「こちらの全く予想外の行動を取る…… まるでカミナ様みたい……」
神那と一つ屋根の下に暮らすってコトだよね?
いや、それは別に問題ないよ?
私達だって今までずっとそうだったし……
よくよく考えると私達って既に同棲までしてるって事になるのかな? なる……よね? うん、きっとなる。
結婚もしてない男女が一緒に暮らしてたんだから。
ふへへ……
いや、みんな一緒だから共同生活って言うべきか、つまりリリスさんもソレをしてるんだ。
あ……焦ることなんてないよね?
「問題なのは彼女の心づもりですよね」
「心づもり?」
「えぇ、要するにこの後どうするつもりなのか……ということです」
この後どうするかって……ソレは……
そうだよ、どうするつもりなんだろう?
本人は魔王同盟に入るつもりはあるみたいだけど、魔王同盟って言い換えると神那の……ハーレム?
「あ……」
「やはりこの壁画は彼女だったと考えて良いのでしょうか?」
差し出された一枚の写真、『中央大神殿』で撮られた、男魔王1人の周りに7人の女魔王が寄り添ってる壁画だ。
そういえばこの壁画の謎が解明した時、白ちゃんとミカヅキさんは魔王になることを決意したらしい……
まさか本当に魔王になっちゃうとは……
こ……これが恋の力? 私みたいにただ流されるだけじゃなく自らつかみ取りに行った結果か……
わ……私だってもし逆の立場だったら魔王を倒しに行ったよ! ……きっと。
「現在、魔王同盟に参加……と言うより、この壁画に記されているのはマスターを除いて、お嬢様、白様、ミラ様、そして私ミカヅキ。
旧世代魔王であるウィンリー様、アーリィ様……」
「そしてあと一人……ですね」
この壁画は抽象的すぎて誰が誰だか分かりづらい、それでも白ちゃんとウィンリーちゃんは特徴が顕著だから判別できる。
この髪の毛にウェーブがかかってるのが多分ミラさんだ。
あと頭にアクセサリーみたいなのが付いてるのがミカヅキさんだと思う、きっとアレが角だ。
それと外側に描かれているのはアーリィさんだ。耳が長いからたぶん間違いない。
判別できないのは神那の隣に座ってる人物と、一番離れた位置にいる人物……
これのどっちかが私で、どっちかがリリスさんなのかな?
…………
コレ…… 私どっちなんだろう?
神那の一番近くにいる方か…… 一番遠くにいる方か……
壁画には色など塗られて無いからよく分からない…… 私とリリスさんは髪の長さは同じくらい、リリスさんの方がちょっと長いかな? でもこの抽象的な絵では僅かな違いなど判らない。
どうしよう…… 不安になってきた。
どっちも私じゃ無いなんてことないよね?
「この壁画に描かれた一番外側の人物…… コレが彼女かどうか……」
「え? 私は?」
「? お嬢様はマスターのすぐ隣に描かれてるじゃないですか」
「そうですね、確かにこの絵では判断し辛いですが、ルカ様は常にカミナ様の御隣に居ますからね」
「ん…… きっとそう」
え…… そ……そうかな? 神那の隣に居るのが私なのかな?
えへへ…… 確証は無いけどみんなにそう言ってもらえるとすごく安心できる。
そうだよね? きっとそう! だって私っていっつも神那のそばに居るからね♪ フヘヘ…///
「ルカ…… 顔に出てる…… ニヤけてる……」
「ふえっ!?/// コ…コホン! 失礼いたしましたワ」
みんなにニヤけ顔見られた…… うぅ、恥ずかしい!
「さて、話を戻します。
この最後の人物が果たして本当に魔王リリス・リスティスなのか?」
「これは魔王を描いた壁画ですから、当然 魔王以外あり得ませんよね」
「可能性があるとすれば…… リリス・リスティス以外では、後は第3魔王マリア=ルージュか全く未知の魔王か……」
そう、この最後の人物は横向きで描かれている、正面からだったら第3の眼で判別が付くんだけど。
そもそも第3魔王を見たコトが無いから髪の長さで判別する事ができない。
…………
まさか第1魔王や第4魔王ってコトは無いよね?
いや、第4魔王はミカヅキさんが判別できるハズ。
そもそも第1魔王は男の魔王だって話だ、例え魔王同盟に参加してもこの壁画に乗るコトは無い、だってこの壁画は神那の禁域図だもん。
「仮にこの最後の人物がリリス・リスティスだとして、問題は彼女の思惑が分から無い所です」
「そうですね…… こう言っては何ですが、彼女はカミナ様をお慕いしてるのでしょうか?」
うっ……! つまり神那のコトが好きかどうか……?
確かに初めて会ったのは数年前だけど、まともに言葉を交わしたのは今回が初めてだと思う。私なんて神那が好きだと気付くのに何年も掛かった…… それも他人に言われて初めて気付いた……
いきなり好きになる事なんてあるのかな?
でもミラさんは一目惚れって言ってた…… でもそれは命の恩人って理由がある。う~ん……
「白が…… 見てみる?」
白ちゃんが自分の左眼を指している、そうか『摂理の眼』の前ではどんな隠し事も無意味なんだ。
「そうですね…… 白様に見て頂ければ全てが明らかになりますが、それはあくまで最終手段としましょう。
彼女がいずれ我々の仲間になった時、不利な立場になりかねませんから」
そっか、そこまで考えてなかった…… 私って結構自分勝手なのかな?
ん?
「あの…… ちょっと待って下さい」
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「彼女…… リリスさんは私たちの事どう思ってるんでしょうか?」
「どう……とは?」
「その…… 何と言いますか…… えっと…… 私たちは今の関係を受け入れてますけど、デクス世界には…… その…… 一夫多妻制って殆んど無いんです///」
うぅ…… 私何でこんな恥ずかしいコト言ってるんだろう?
「つまりですね、デクス世界では一対一が普通なんです!///」
「一対一…… つまり男1人に女1人と言う事ですか?」
「……っ///」コクコク
私たちは最初からあまり疑問を感じなかったけど、やっぱりハーレムってオカシイよね!?
何で私普通に受け入れてたんだろう?
やっぱりアレかな? ウィンリーちゃんが神那のハーレムに一緒に入ろうって言ったからかな? あんまりにも当たり前のような顔で言うから魔王ってそういうモノだと思い込んでたのかも……
実際、神那だったらやりかねないって感じたのも事実だ。だって神那だもん。
神那の二つ名が“禁域王”っていうのも大きいと思う、だって艶福王でハーレム王…… あの二つ名ってどういう理屈で決められるんだろう?
やっぱり本人の特性かな? 有り得るんだよね…… だって神那だもん。
魔王にはギフトの他に“魔王特性”ってのがあるって神那が言ってた。
魔王レイドの“グレムリン特性”、魔王ミューズの“美女特性”、ウィンリーちゃんの“アイドル特性”……
きっと私や他のみんなにも、何かしらの“魔王特性”があるんだと思う…… そして神那は間違いなく“ハーレム特性”を持ってる!
ただ…… 神那は人間の頃からそれを持ってた気がする…… だって神那だもん。
「つまり彼女は我々が結んでいる『ハーレム協定』を知らない……と、いう事ですね。考えてみれば当たり前の事でしたね」
え? ちょ…ちょっと待って!? 『は~れむ協定』!? ナニソレ? 私もそれ知らないんですけど……
「そうですね…… 致し方ない事とはいえ、彼女がしてる事は…… 所謂、抜け駆け……ですね」
あの皆さん、ちょっと……ホントにちょっと待って! 知らない人がココにも一人いるんですけど!
「それは…… 許されない……」
え…… え…… えぇ~……!? みんな知ってるの? ウィンリーちゃんやアーリィさんも?
お願いだから私を置いて行かないでぇ~! その『は~れむ協定』の概要を記した書類を見せて!
「近い内に…… いえ、明日にでも彼女には協定に従って貰わなければなりませんね、血判状の用意をしておきます」
血判状!!? そんなのがあるの!? その血判状に私の名前記されて無いよね? え? え? 私 目の前に居るのに何で無視されてるの?
「カミナ様のハーレムに入るなら絶対に従って貰わなければならない鉄の掟ですからね…… これなくしてカミナ様に近づく者は血の制裁を受けて貰わなければなりません」
ち…血の制裁…… それ、きっと死ぬよね?
こんな仮説はどうだろう? 私は二重人格で、知らない間にその協定に参加していた……
全く心当たりがない! それだったら朝、寝起きで寝ぼけてて覚えて無いの方が説得力がある。
「もし拒否するなら…… ホームステイは強制的に解除…… だよね?」
ま……まずい…… 今更「知りません」なんて言える空気じゃ無い…… ど…どうしよう!
私、今までルールに抵触するようなコトして無いよね? もしかして何かやらかしてミラさんか白ちゃんに記憶を消されてる……とか?
直ぐにでもその『は~れむ協定』を確認しなければ、命にかかわるかも知れない!
どうしよう! どうしよう!
そ……そうだ! リリスさんの協定調印の時について行って協定の内容を「もちろん知ってます」って顔で、確認しよう! それしかない!
※この『ハーレム協定』は、有栖川琉架が『正妻』という大前提の元 作成された為、彼女には一切禁止事項が存在しませんでした。