第219話 押しかけ・前編
βアリア沈没から数日……
俺たちは取りあえず日常へ戻った。
その日俺はリビングで体を休めながら最近起こった出来事、そしてこれからの事を考えていた。
筋肉は映画館に放り込んだのであと2時間は帰ってこないハズだ、そのまま帰って来なくてもいいんだが……
そんなワケでミャー子と一緒にマッタリしながら考え事をしようと思ったら、肝心のミャー子に「フゥゥゥーーー!!」って言われた…… チクショウ!
結局いつも通り、お一人様で思考を巡らす、考えるのはこれからの事だ。
俺は近い内にオリジン機関本部へ行かなければならない、正直 気が重い。だってアソコには数千人分の死体が転がってるんだから……
確かにあの施設はシェルターの機能も持っている、核戦争が起きてもあの中で自給自足できるが、アホ程魔物が雪崩れ込んで来たらそれも意味が無い、さすがに生き残りも居ないだろう。
或いは職員全員が妖魔族の僕、人狼にされている可能性もある。
人狼作成のメカニズムは不明だが、人類種をベースに改造した可能性が高い、妖魔族ってどことなく吸血鬼っぽいからな。
ただし何故か師匠だけは半分野生化した姿で施設内を彷徨っている気がする…… 人狼を退治しながらその肉を喰らい、人の言葉を忘れ「ウホッ?」とか言いそうだ…… 出くわしたら襲われそうで怖い。
行きたくない……が、アーリィ=フォレストの依頼の件もあるし、俺自身が門を開きし者の記憶書を欲している以上、どうしても行かなければならない。
本当ならリリスが一人で行くのが筋ってもんなんだが、まかせっきりにしたらグダグダ引き伸ばして何時になっても行かない気がする…… 俺だったらそうする。
オリジン機関本部はランスとシスの国境付近にある。
リリスの門を開きし者では直接乗り込む事ができない以上、近くの国を経由していかなければならない。
あっちの国の情報は全く入って来ないが、完全に滅ぼされているワケでは無いらしい。
一般には知らされて無いが、レイフォード財団の情報によると各々の国で防衛線を構築し、魔物の拡散を防いでいるらしい。
その様相は正に戦場だ。
大和は比較的安全で被害も少ないから忘れがちだが、今デクス世界では魔物と人類の戦争中なのだ。
γアリアの位置さえ注意していれば、取り返しのつかない事態に陥る事もあるまい。
問題はその位置を把握するのが難しいってコトだ…… 大和を完全に留守にするのは危険かな? 今回はウチの嫁達に残ってもらうべきか? いや、留守番はジークにでも押し付ければいいか?
どちらにしても現地での足が必要になる。
ランスまではリリスの門を開きし者で行けるが、そこから移動する為のヘリが必要だ。
リリスがレイフォード財団の力を使って調達すると言ってたが、彼女はアイリーン・シューメイカーの姿で行くつもりなのだろうか?
義理の娘や護衛が付くとかえって面倒なんだが…… それを理由に俺達に仕事を押し付けたりしないだろうな?
…………
ありそうでヤダな……
そうそう、大事なコトを忘れてた、アルスメリアで俺達に掛けられた裏切り者疑惑や、その他諸々の犯罪行為を彼女のネームバリューでもみ消してもらった。
コレで俺達が国際指名手配されずに済む、ただあのハゲ校長が上からの圧力に屈するか否か…… 常に上から紫外線とかに攻撃されてるあの人は、上方向からの攻撃に対する耐性が高そうだ。
ま、どうでもイイか、遥か海の向こうの話だしな。
とにかく今は待ちだ。
いくらレイフォード財団の力を使っても、最前線で武装ヘリを調達するのは大変だろう、下手したらこっちから持ってかなきゃいけないかもしれないしな。
許可やら申請やらも必要だろうし時間が掛かるかも知れない、気長に待とう。
「あれ? おにーちゃん一人?」
妹様のご帰還だ、まぁた友達の所へ行ってたのか? このリア充め、爆ぜろ!
「あぁ、見ての通りだ、今は連絡待ちだからお呼びが掛かるまでしばらくゆっくりさせてもらう」
考えてみれば俺達は夏休みをすっ飛ばしてしまったんだな…… 学生なのにずっと働いて…… なんか自分が可哀相になってきた。
もっと向こうで遊び呆ければ良かった…… まぁ仕事だけじゃ無く遊んでもいたんだが。
「おにーちゃん知らないの?」
「? なにが?」
「明日から学校始まるよ?」
「………… は?」
んなバカな、あの惨劇からまだまだ数週間しか経って無いんだぞ? 未だ西校舎は色取り取りの血に染まったままだ。
そんな状態で授業なんかできるハズ無いだろ? 一体何を考えてるんだ?
「まぁ授業と言うよりは訓練だよね? とにかく即戦力が欲しいんでしょ」
「あぁ…… なるほどね」
気持ちは分かるが焦ったって死体が増えるだけだぞ?
ま、特別生はそんなのに付き合う必要は無いからな、研究室でマッタリしてればいいや。
事件が起きたのは、そんな事を考えていた翌日の事だった……
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特別クラスのホームルーム、出席するのは実に久し振りだ。
運命兄さんも久しぶりに見る、以前は常にドヤ顔しててぶん殴りたくなったものだが、今は何となく卑屈な顔をしている。
聞けばβアリア襲来の際、弟である伝説くんやそのチームメンバーに助けられたとか……
今まで思いっ切り見下してた相手に助けられるのはさぞかし屈辱だろう、これを糧に頑張ってくれ、勇者みたいになるなよ?
後は以前のホームルームと同じ風景だな…… あれ? チーム・デスティニーの巨乳の後輩がいない…… もしかして死…… いや、特別生に犠牲者が出たとは聞いてないな、だったらサボりか転校でもしたのかもしれないな。
あんま興味ないからどうでもいい。
ガララ……
教師が入ってくる、てか誰だあれ? 担任変わった?
半年前に一度だけ見た担任は男だった、それが今は女になってる…… 女が男に変わったらゲンナリだけど、男が女に変わっても何も問題ない。性転換とかじゃ無い限りな。
「さて…… ここ半年ほどで色々なことがありました…… クラスの大多数が神隠しに遭い行方不明になったり…… それからしばらく後、シニス世界から魔王が襲来…… テレビもネットも電話も満足に使えなくなり……」
先生がシミジミといった感じでここ半年の苦労を喋ってる…… 長いぞ。
だいたい不幸自慢で俺に勝てると思うなよ? あんたがこの半年でどれだけ苦労したか知らないが、魔王と3回戦った俺より苦労したとは思えない。
…………
違った、対リリス戦を入れれば4回だ…… なんで俺ってこんなに魔王とばかり戦ってるんだろう? もう勇者を名乗ってもいいんじゃないか? お断りだけど……
「不幸で悲しい事件もありましたが、これからの時代を作っていくのは若い皆さんです。その為にも悪に屈しない実力を……」
なんだ? 軍隊の勧誘か? そんな暗いトーンじゃお客様は引き付けられないぞ? もっと他社製品をこき下ろすような事をハイテンションで説明しなきゃ!
今ならなんと同じ商品がもう一つ付きます!! って感じに。
そもそもそんなに人員不足なら徴兵でもすればいいのに……
俺も強制的にダインスレイヴ(笑)に入れられたんだ、全然そっちの仕事してないけど。
「世界の未来は皆さんの双肩にかかっていると言っても過言ではありません! たゆまぬ努力と精進を重ねましょう!」
一瞬年金問題を思い出した…… 若い世代に丸投げすんな。
「そんな皆さんと共に戦うであろう心強い味方、4人の編入生を紹介します」
「あ?」
編入生? こんな季節に? それってつまり落ちこぼれ?
いや…… オリジン機関は半年前に滅んだ、当然世界中から集められた子供たちも一緒に…… ただタイミング的には結構ギリギリだったから難を逃れた者も多少は居ただろうが……
それを考えると余計にアソコに行くのは気が重くなる……
まぁいい、編入生か…… 女の子希望! 可愛い子が良いな。
運命兄さんに唾つけられる前に確保したい所だ。
ガララ――
先生に呼ばれ3人の女の子が入ってくる、やった♪ 全員女の子、それも美少女だ! ヒャッホ~イ♪ 今夜はパーティーだぜ!! これも日頃の行いが良いからだな♪
一番最初に入ってきた女の子は中等部の制服に身を包んでいる。
真っ白な髪に頭の上には獣耳! 背後にはフサフサのシッポが覗いている、無性に「おに~ちゃん」と呼ばせたくなる可愛い子…… てか、あれ白だ。
どおりで美少女だと思ったよ。
「如月白…… シニス世界出身…… よろしく……」
その次に入ってきたのは水色の髪をした高等部女子。
頭の横から牛っぽい角が生えていて顔の割に大きな胸…… つまり童顔なのに巨乳だ! 無性に「マスター」って呼ばせたくなる美少女…… てか、あれミカヅキだ。
どおりで見覚えのある山脈だと思ったよ。
「ミカヅキと申します、一身上の都合で姓は名乗れませんのでミカヅキとお呼び下さい」
最後に入ってきたのは黒パンストが素晴らしい高等部の女の子。
長いユルフワ金髪で母親譲りの美貌を誇っている、無性に「カミナ様」と呼ばせたくなるほどの超絶美人だ…… てか、あれミラだ。
どおりで人魚姫っぽいと思ったよ。
「ミラ・オリヴィエといいます、既に顔見知りの方も多くおりますが、改めて宜しくお願い致します」
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「琉架、知ってたのか?」
「あはは…… うん、まぁね、ナイショにしといてって頼まれてたんだ。ビックリした?」
そりゃビックリするさ、編入生が全員魔王だったんだから……
確かに3人ともギフトユーザーだ、この特別才能クラスに入る資格がある。
しかしなんだって突然?
もしかして琉架のお姉様が裏で手を回したのだろうか?
「あれ?」
3人?
確か編入生は4人って言ってたよな?
…………
嫌な予感がする…… 流れ的に見て最後はオチだ。
サクラ先輩はギフトを持ってないから有り得ない、だとすると……
俺の脳裏にはピッチピチの制服に身を包んだ500余歳の不能不死の賢王が浮かんだ……
不老不死の呪いは不死身のギフトと誤認されてもおかしくない。
もしアイツが入ってきたら、俺はアイツを殺す!
殺せないだろうけど、取りあえず地下100メートルくらいに『強制転送』して生き埋めにしてやる!
「最後の一人は少し遅れているみたいで……」
タッタッタッ……
その時、開けっ放しの扉の外から廊下を走る音が聞こえてきた。
「どうやら来たようですね」
足音が軽快だ、もしジークだったらドスドスいうからな。
頼む! 筋肉は勘弁してくれ!
「スイマセン! 遅れました!」
「ぶぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーー!!!!??」
思いっきり噴き出した!!
最後に入ってきたのは、まさかのリリス・リスティスだった!!
D.E.M. のメンバーはみんなポカンとしたままだ、アイツよりにもよって変装して無い! 灰銀色の髪のままだ。
お前、前回の神隠しの時に伝説君達に目撃されてるんだぞ!? 擬態してこいよ!
いや、もうなんて言えばいいのか…… 何なんだよ一体!!?
「お前一体ナニやってんだーぁ!!」
思わず声を掛けてしまった、冷静に考えれば他人のフリをした方が良かった。
「あ♪ カミナ♪ やっほ~~~♪」
え゛…… ナニそのキャラ? ドン引きなんですけど…… お前ついこないだまで「キミ」って呼んでたじゃねーか、距離を測りかねてる感じだったのになんで急に馴れ馴れしいの?
「リリス・リスティスです! 以前、第七魔導学院に在籍してましたが、父の仕事の関係で転校したため難を逃れました。
魔物を倒しランスを取り戻し、そして第3魔王を倒してみせます! どーぞヨロシク!」
なんだその妙にテンションの高いキャラは…… それが暗躍大好き魔王の新設定か? 本名使ってるし、まさかそれが素じゃ無いよな?
「今日からヨロシクね~♪」
アイツ…… マジなのか? 編入生は本当に全員魔王だった。
今日、俺に2400歳の同級生が出来ました。