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レヴオル・シオン  作者: 群青
第五部 「現世界の章」
222/375

第216話 真相


「それでは話を始めましょうか」


 まずは何から聞く?

 知りたい事が増えてしまったんだが、まずは答え合わせからやっていくか。


「まず聞きたいのは…… なぜ神隠しを起こす?」

「うっ……」


 一番触れて欲しく無い所だったのかな? リリスの身体がビクリと反応した。


「ふぅ~…… 私がデクス世界の住人をシニス世界に送り込む理由……

 それは進化を促す為よ」


 やはりか……


「多分誤解してると思うから言っておくけど、全ての神隠し被害者をシニス世界に送り込んだのは私じゃないわ」

「なに?」

「キミも門を開きし者(ゲートキーパー)を習得してるなら分かると思うけど、私一人で1万人を同時に転移させるのは不可能よ」


 言われてみればもっともだ、リリスの純粋魔力がどれ程あるのかは知らないが、俺でも日に3回が限界だ、仮に10倍の魔力量を誇っていてもたかが知れてる。

 世界中で1万人を同時に転移させるなど、物理的に不可能だ。


「私が送り込むのは才能を秘めてる者や、高い戦闘能力を持つ者、色々条件はあるけどそれが前提になってる」

「つまりそれ以外のトラベラーは?」

「………… 全て「天然漂流者」と呼ばれるトラベラー…… 偶然、運悪く神隠しに巻き込まれた人達よ。

 つまり本物の『神隠し』被害者ね」


「………………」


 先輩が固まってる…… まばたきすらしない。

 要するにこの人は只々運が悪かったという事だな。

 魔王リリスの御眼鏡にも適わなかった…… 特別才能がある訳でも無い…… たまたま自然発生したゲートにより転移した天然トラベラー……

 多大な苦労を被り、2年半の月日を掛けてようやく帰還した彼女に待っていたのは2学年留年と言う目を背けたくなる様な現実……

 そして怒りをぶつける相手すらいなくなってしまった。


 うっ…… なんか…… 泣けてきた!

 先輩に同情を禁じ得ない!


 でも大丈夫! 我々は金だけはある!

 この金でホストクラブにでも行って慰めてもらうも良し! 不動産に手を出して高級マンションを買うも良し! 豊胸手術でも受けて自信をつけるも良し!

 未来は明るい! 何にだってなれる! 何処へだって行ける! マネーさえあれば!!


「ん? それじゃ俺達、特別クラスの人間を一気に飛ばした方法は? あの時、ゲートは見えなかったんだが?」

「あれは二つのゲートとギフトを併用した集団転移。

 私の手持ちスキルの中に『一蓮托生(ライフライン)』というモノがある。この見えない糸で繋がれた者は生命力を共有されるの、それで全員を繋いで一気に飛ばした。

 ただしキミと有栖川琉架の二人は魔王だったからこのギフトが使えなかった、だからキミたちの座標に直接 特異点を発生させて飛ばした。

 私自身にかなり負担のかかる方法だったけど、視認できなかったのはその所為」

「負担ってのは?」

「特異点を直接創り出すというのは、通常のゲートを創り出すよりも遥かに高度な技術なの、当然使用する純粋魔力も多くなる……

 二つの特異点発生が予想以上に負担になって、あの後一週間寝込んでたわ」


 なるほど、一種の魔力枯渇状態か…… 純粋魔力の枯渇状態ってのはちょっと想像できないな。

 しかし今の話でそれよりも気になるコトが一つある。


「それだけの対価を支払って、何故、俺達を再び異世界に転移させた?」

「うっ!」

「神隠しの目的は進化を促すことだったな? その進化が何を指してるのか分からないが、魔王になって戻ってきた俺達は進化不足だったとでも言うのか?」


「…………」キョロキョロ


 リリスが目を合わそうとしない…… コイツ!


「おい、こっちを見ろ」

「えぇっと…… たまたま候補者の近くにキミたちが居たから……」


 候補者ってアレか? チーム・レジェンドのコトか? それとも伊吹のコトか? その言い訳はちょっと苦しい。


「俺と琉架だけ個別に特異点を作ったのにか? その後一週間寝込む程の代償を払ったのにか?」

「スゥ…… ハァァァ~……

 ゴメンナサイ、本当は邪魔な魔王を倒して欲しかったんです」


 やはりか……(2回目)


 第3魔王と自分で戦うって言った時にはちょっと見直したんだけど、やはりコイツもソッチ系か。

 まったくどいつもこいつも!


「ん~? すると私や伝説先輩たちはおにーちゃんの巻き添えってコト?」

「ゴ…ゴメンね、伊吹ちゃん! 私たちのせいで……」

「いやいやいやいやいや!! お姉様に罪はありません! きっとお姉様もウチのアホ兄に巻き込まれたんです! つまり諸悪の根源はヤツです!!」


 なんでやねん

 目の前に真犯人がいるのになんで俺に罪を擦り付けようとする? 俺は黒の全身タイツなど着てないぞ。だからお前はアホ妹なんだよ。

 いや、この際アホな妹の事などどうでもイイ。


「この落とし前、どうつけてもらおうか?」

「うぅ……」


 ここ数年の不幸は全て目の前の少女の仕業だ、しかし幸運もこの娘が原因だ。

 個人的にはプラマイゼロ…… いや、プラスだな。

 だってハーレム作れそうだもん。


 しかし俺個人はハッピーになれたかもしれないが、その他大勢が同じとは限らない。


 家族や恋人と引き離された者…… 戻ることも出来ずシニス世界で人生を終えた者…… エロ画像フォルダを家族に見られた者…… 中にはBLやロリ画像を収集していた奴も居たかも知れない、そしてソレが原因で戻るに戻れない奴なんかも……


 魔王リリスの行いで不幸になった者が大量に生まれた。

 むしろハッピーになったのって俺だけじゃね?

 個人的には無罪放免でイイんだが、不幸になったヒトたちの事を考えるとお咎め無し……と、言う訳にはいかない。


 もちろん俺には彼女を裁く権利なんかない、しかし本人がイタズラのバレた子供みたいな態度を取ってる、一応被害者の俺が言うことには逆らえないかもな……

 ならば全被害者の代弁者として何か要求しておくか、妥当な落としどころとしては……


「全てが終わったら帰還希望者たちは帰してやれよ、向こうに残りたいってヤツもいるかも知れないが……」


 向こうで結婚してたり、こっちで嫌われてたり、向こうでハーレム作ってたり。

 そんな奴も少なからずいるだろう、俺とか……


「それと被害者への補償だな、コレはレイフォード財団を使うしかないな、さすがに正体をバラす訳にはいかないから」

「それくらいなら…… ん? 全て終わったらって?」

「第3魔王 マリア=ルージュ・ブラッドレッドを倒したら……だ」

「あぁ…… そうね…… 今じゃこっちの世界の方が危険だからね……」


 そう言えばシニス世界に第3魔王注意報を伝えるの忘れてたな…… ま、いいか。また今度で。



「さて…… 次の質問の前に一つ確認しておきたいことがある」

「ん? なに?」

「伝説の魔導の祖(オリジン・ルーン)と魔王リリス・リスティスは同一人物……で、間違いないか?」

「うっ/// 私自身はそう名乗ったことはないんだけど……ね」


 コレは予想通り、彼女こそが魔導魔術の生みの親ってわけだ。それはつまり……


「『魔術創造(スペルクリエイター)』の神術使いだな?」

「!」


 テレ顔が一瞬で真顔になった、顔に出やすいなぁ、ココだけは俺に似てない、なにせ俺は『強情者の面の皮(ポーカーフェイス)』を習得しているからな。


「あ…… アーリィね?」


 主語が抜けてるが的確に答えを導き出したようだ。

 確かにこの情報は彼女から齎された、つまり情報の発信源を的確に予想したんだ。

 もっともアーリィ=フォレストの他に神術を研究してる奴なんていないだろうから、予想をするのも簡単だと思う……


「確かに…… キミの能力値と魔力コントロール技術があれば神術習得も可能…… いえ、きっと簡単だったでしょうね……」


 簡単って言えば簡単だったな、一晩で済んだし……

 やはり魔力コントロール技術に関しては世界一を名乗ってもいいらしい。


「それで? キミの習得した神術ってどんなの?」

「リリスに質問する権利はなかったハズだが?」

「チッ!」


 だから舌打ちすんな。


「ハァ…… まぁいい、ただし他言するなよ?」

「うんうん」

「『恩恵創造(ギフトクリエイター)』だ」

恩恵(ギフト)……創造(クリエイター)……? つまりギフトをカスタマイズする能力?」

「あまり使い勝手が良くないんだがな」


 そもそもギフトユーザーは絶対数が少ない、デクス世界では世界規模で所有者を調査しているが、シニス世界では誰が持っているか分からん。

 更に『恩恵創造(ギフトクリエイター)』なんて能力を持っているとバラす訳にもいかない、俺の存在を巡って戦争が起きかねない。


 しかしよくよく考えたら複数のギフトを保有するリリスにとっては最高の能力かもしれないな、どうにも彼女の『幻想追想(メメント・モリ)』には制限が多そうだから。


「話を戻そう、ナゼ魔科学文明を起こしたのか? 以前ウィンリーにこう語ったらしいな?『ここじゃダメ』とか『新しい領域が必要』とか」

「ウィンリー…… よくそんな昔のこと覚えてたわね」


 ウィンリーはアホの子っぽいけど優秀だぞ? 俺達よりも遥かに自分の支配領域と領民の事を考えてる。

 自分の目的の為だけに、事前告知の一切も無く無関係な人間を異世界へ放り出すどっかの魔王より余程立派だ。

 リで始まってスで名前の終わる魔王だな。

 てかお前だ。


「端的に言えば、邪魔が入らないようにしたかったんです」

「邪魔?」

「新しい文明を築くにはどうしてもシニス世界では邪魔が入るんです。

 具体的に言うと…… 好戦的な魔王達ね」


 あ~…… 確かに邪魔だ。

 まぁデクス世界に文明を築いたことに文句は無い、リリスが居なければ俺も琉架も生まれてなかったかもしれないからな。

 だがやり方が気に喰わない。


「世界中で戦争を起こしていたのもソレが理由か? レイフォード財団の経済力なら世界中の好きな所で戦争を起こせるからな」

「そう……ね、戦争が一番技術を発展させるから」


 その発展した文明の恩恵を受けまくってた身としては、気に喰わないがこのやり方を非難することも出来ない。


「たださっきの神隠しと同じで、私が全ての戦争を引き起こした訳じゃ無いわ。

 小さな火種でもすぐに大きく燃え上がる…… 人族(ヒウマ)とは魔王という共通の敵がいないと簡単に身内で争い始める……

 人が多くなり、国が多くなればそれぞれ独自の文化を築く。宗教、人種、中には嫉妬や劣等感が戦争に発展したケースもある。

 ここ100年余りの戦争全ては人が勝手に始めたモノよ、私が手を出す必要など無かった」


 ハァ…… ため息しか出てこないな……

 まぁ、人類がそう言う生き物だという事は分かっていたがな。


「それじゃ攻撃性異形変異生物群(テリブル)は?」

「テリブルの事もお見通しか…… そうね、このままだとそう遠く無い未来に最終戦争が起きそうだったから私が用意したの……

 それにデクス世界の魔科学文明は行き詰まりを見せていた…… それも理由の一つね」


 やはりか(3回目)


 わざわざ敵を用意して、技術の発展と世界の統一を同時に成し遂げようと企てた……

 人類を全滅させない程度で、それでいて適度にストレスを与えるのにちょうどいいレベルの敵…… テリブルはそのコンセプトの元に設計されたんだな。


「それにしてもどうやってあんなの作ったんだ? 命令に従い、敵味方識別も出来る、動物と昆虫をかけ合わせたような姿、デクス世界在住の人類より少しだけ強い絶妙の難易度……

 そして何より人に嫌悪感を懐かせるキモいルックス…… もしかしてテリブルを発生させるギフトでも持ってるのか?」

「そんなワケ無いでしょ、南極に改造クローン体の培養・生産プラントがあったのよ。

 もっともソコも今はマリア=ルージュに抑えられちゃったけど」

「抑えられたって…… まさか?」

「それは大丈夫でしょ? 生まれてからずっとシニス世界で過ごしてきたあの女に、デクス世界ですらオーバーテクノロジーの魔科学プラントを使えるはずない」


 まぁ確かに、その心配はなさそうだな。




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