第213話 第12魔王 ~正体~
何かオカシイ……
さっきから違和感アリまくりだ。
特にあの影を操るギフト…… 確か影闇使いとか言ったか? 全く使い慣れていない感じだ。
確かに今まで使う機会が殆んど無かったんだろう。
それも当然だ、彼女は第1階位級魔術まで使いこなす事ができる最上位の魔導師だ。
俺も最強の魔導師と呼ばれた事があった様ななかった様な…… だがココは潔く認めよう、彼女こそ最強の魔導師だ。
それだけじゃ無い、恐らくだが魔法魔術もかなりの高レベルで行使できるハズだ。
そんな最強の魔導師は、自らのギフトを使い慣れていない…… まぁ納得できる話だ。普通ならな……
だが彼女は魔王だ、見た目は十代少女だが実際は2400歳オーバーのBBAだ。
魔王とは案外敵が多い、一般的な冒険者は言うに及ばず、他の魔王、そして25年周期で彗星の様にやって来る勇者……
2400年も生きている魔王が自分のギフトを錆びつかせたままでいるだろうか? 否だ。
俺なら鍛えておく、この世には反魔術領域なんて厄介なモノも存在するからな。
魔導師にとって…… いや、人族出身の魔王にとって魔術使用不能は致命的だ。
まして魔王リリスは性格的に俺に近い思考回路を持っている、鍛えないはずが無い。
そもそも影闇使いでは説明が付かない事が多い。
大して鍛えていないギフトで、どうやってあんなアホみたいな身体能力強化を行っているのか?
近接戦闘が苦手な割に先ほどからコチラの攻撃が全く当たらないのだ、俺は女の子をスパンキングする趣味はないので当然 手加減している、その手加減を差し引いても、あり得ないくらいスルリスルリと上手に避ける。
違和感は他にもある、この模擬戦みたいな決闘そのものだ。
こんな事をする理由が分からない、こんな事をする理由が一切無い。
それこそ召喚獣ゴッコでもしたいんじゃない限り、俺の実力を直に図る必要が無い。
俺達は一応、敵対関係では無い、レイフォード財団ならデータなんか幾らでも測定できるんだ、頼まれればそれくらいは提供した…… もちろん条件は付けただろうが。
つまりこの模擬戦の中のナニかが彼女の真の目的だ。
そしてその目的はきっと第12魔王のギフトが関係している。
彼女のギフトにはナニかある…… 俺の第六感がそう囁いてる…… 「マオウのギフトがあんなにショボいハズない!」って。
思い返せば魔王はみんな厄介な能力を持っていた。
気象を操るウィンリーのギフト…… 能力名を知らないな、今度教えてもらおう。
唄を操るミューズの歌姫人魚、世界樹を使役するアーリィ=フォレストの世界樹女王、引力と斥力を操るウォーリアスの星の御力、どんなモノでも破壊するジャバウォックの事象破壊、自身と同等の能力を持つ分身を創り出すプロメテウスの鏡界転者、そして20数メートルというショボい制限の付いたレイドの跳躍衣装……
みんなその気になれば世界を統べることができそうな強力なギフトだ、なんでレイドだけあんなに制限がきつくショボい能力だったんだろう?
きっと妖精族出身のアイツは魔王になる前から嫌われてたんだろうな、終焉の子にすら…… うむ、納得いく理由だな。
とにかく魔王は強力な能力を持っている、しかし影闇使いはそれに見合わない。
そして彼女が影使いで無いならば、あの身体能力強化はどこから来たのか?
考えられる可能性は一つだけ…… デュアルスキルだ。
本来 恩恵とは一人一つだけだ、しかし俺と琉架と白は二つ目のギフトを持っている。
後天的要因で二つ目のギフトを持つことは可能だ。
彼女は複数のギフトを持っている…… そう仮定すると納得できるが完全じゃない。
例えば俺がバカ勇者をぶっ殺しても、魔王殺しは継承できない、勇者は魔王でないから“ミスト”を持っていない。
………… てか、そもそも魔王が魔王殺しを継承したらその時点で死ぬんじゃないか? 例えが悪かったな。
とにかく他の魔王から能力を受け継いだ可能性はゼロだ、ほんの2年前まで十二魔王は全員健在だったんだからな。
そうなると、残る可能性は一つだけ……
「どうしたの? 来ないの? ちなみにキミの降参は認めないからね」
俺の仮説が正しければあまり血液変数は見せない方がいいな、少々強引だが力技で制圧させてもらおう。
「ふぅ…… 逆だよ、そっちこそ降参した方がいい、今からチョットだけ本気を出して制圧するから」
「へぇ…… 出来るものならやってみせて」
では、お言葉に甘えて……
鉄パイプの機能を全開にして足元の地面を叩く、するとまるで爆発したかのように大量の土砂が巻き上げられ、周囲を土煙が覆った。
その土砂に紛れて鉄パイプを上空へ投げる、そして俺は魔王リリスの意識を集中させるためにゆっくり近づく……
緋色眼を持つ魔王同士の戦いで目眩ましはあまり意味が無い、しかし意識外からの攻撃なら効果は望める。
「っ!!」
俺の接近に気付き、鎌をこちらに向け構えているのが分かる、完全にこちらに意識を集中している…… やはり接近戦に慣れてないようだ。
そして巻き上げられた土砂に紛れて鉄パイプが落ちてくる……
スコーーーンッ!!
「ぁ痛ったァァァーーー!!?」
脳天直撃、アレは痛い。
魔王リリスは大鎌を手放し、手で頭を抑えその場に蹲る。
その隙に一気に距離を詰める! このまま相手の首を掴み押し倒してフィニッシュだ。
押し倒すと言うが決してやましい意味ではない! それだけは明言しておく。
周囲には土砂が降りしきり、接近する俺の姿も音も認識できない…… にも拘らず魔王リリスは俺に気付いた。
そして距離を取ろうと身を起こす…… だが遅い!
そのまま首を掴んで押し倒す!
ムニュ♪
「………………?」
なんだろう、この極上の手触りは……? 第12魔王様は首にこんなに大量の脂肪がつくほど太っていただろうか? フム……
フニフニ♪
「ッ……ッ!!」
もしかしてコレはアレかな? 男の夢と希望とロマンと欲望が詰まった聖なる山…… 伊吹より大きくミラより小さい…… 貧しくはないがフニュゥって感じの……
そうか、俺は彼女の首を狙った、しかし魔王リリスは予想外にもこちらの動きを察知し回避しようと身を起こした…… しかしソレは遅かった、そして中途半端だった。
そして上手~い具合に俺のゴットハンドが吸い寄せられるように彼女の山を掴んだ…… てか、鷲掴みにした訳だ……
あ~…… これはヤバイ。
「イヤアアアァァァーーーァ!!!!///」
ドンッ!!
双掌打を受けて俺の体は空を飛んだ…… 肋骨が折れるかと思った。
この威力…… やはり身体強化特化能力を使っているとしか思えない…… 図らずも俺の疑惑は確信に変わったのだった。
そのために払う代償は高くつきそうだ。
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土埃が晴れた時…… ソコには胸を抑えながら何か小声でブツブツ呟いている少女がいた、その姿は魔王に見えない。
「2400年も守ってきたのに…… 触られた…… 揉まれた…… 鷲掴みにされた……」ブツブツ
果たしてなんと声を掛ければいいのやら……
一応断っておくが事故だぞ? 業務上過失タッチ罪だ。
「え~と…… もう降参するか?」
「誰がするかーーーぁ!! 絶対に! 絶対に許さない!!///」
参ったな、第12魔王と敵対する気は無いんだが、リリス・リスティスは涙目で俺を睨んでる……
ちょっと胸を鷲掴みにしただけで大袈裟な……って言ったら怒るかな? この案件で七大魔王同盟を巻き込むワケにはいかないな、俺が何とかしなければ。
土埃のおかげで俺たちに何が起こったのか遠方から見ているみんなには分からなかっただろう。
つまり俺が上手いことフォローすれば、アクシデントは闇に葬れるワケだ。物凄く難しいけど……
普通の乙女の反応を示した魔王リリスは、羞恥と殺意の混ざり合った視線を飛ばしている……
代わりに俺のも鷲掴みにしていいよと提案したらもぎ取られそうな勢いだ。
「しかし本当に降参した方が良いぞ? アンタの狙いはもう分かった、これ以上続けても無駄だ」
「狙い? 何の事?///」
「魔王リリス・リスティスのギフトは…… 他の人のギフトを覚える事ができるギフト……だろ?」
「!」
あ、一瞬真顔になった、どうやら当たりらしい。
「アンタはさっきから『影闇使い』の他に、もう一つ身体強化系のギフトを使ってる。
どうやって覚えるのかは不明だが、わざわざ戦いを希望したのは相手のギフトを体感する必要があるからだろ? つまり狙いは俺の『血液変数』だ」
他人のギフトを学習するギフト…… ラスボスとかが持ってても不思議はない反則級のギフトだ。
何故そんな能力の頂点に立ちそうなギフトを持っていて、俺の不安定な血液変数を欲しがるのか…… 理由がいまいち分からんが、欲しいからと言って簡単に上げるワケにもいかない。
俺のギフトは使い方次第ではABC兵器みたいな大量破壊兵器にもなり得るからな。
「ご忠告痛みいるけど、こっちもそんなに簡単に諦めるワケにはいかないのよ」
そりゃそうか…… わざわざこんな大掛かりな事しといて、簡単に諦められるハズ無いよな。
せめて理由を話してくれれば協力できるかもしれないんだが…… 聞いても答えは貰えないだろうな、少なくとも今の段階では。
まぁ、悪用するとは思えないんだよな、男に胸を鷲掴みにされて泣いちゃうくらいの純情乙女っぽいし……
もしこれがミューズ・ミュースだったら、DTの俺には想像もできないような淫靡で淫らなピンク色の世界が繰り広げられていただろう。
もっともソレとコレは話が別だ。
「ふぅ…… バレちゃったならしょうが無い…… キミの言う通り、私のギフトは『幻想追想』他人の能力を覚えることが出来る」
「『幻想追想』…… いい能力だな、交換して欲しいよ」
「出来ることならね…… ぜひそうして欲しいわ」
? コレほどのギフトを持ちながら交換したがるのか?
やはり何かしらの制限や制約があるのか…… いや、必ずあるハズだ、万能なギフトにはリスクが付きものだ。
「キミの言う通り私は血液変数を覚えたい…… だから意地でもギフトを使わせる」
「…………どうやって?」
「さっきから私が使ってた身体強化能力……『超人降臨』って言ってね、運動能力だけでなく五感なんかも強化できるの」
五感強化? それでか、やたら反応が良かったのは。
「ちなみにこのギフトの所有者は…… シルヴィア・グランデよ」
「げっ!? し……師匠?」
「そう、キミの師匠だったあのシルヴィアよ、キミは……彼女には一度も勝てなかったんでしょ?」
確かにその通りだ、俺は師匠には一度も勝ったことがない。
そうか…… あんにゃろ、運動性能だけじゃなく五感まで強化してやがったのか……
そりゃ普通の人間の知覚じゃ認識できない訳だ。勝てないハズだよ。
「さらにもう一つ……」
そう言った直後、魔王リリスが消えた。
その気配は自分の真後ろにある。
「うおおぉ!?」
身体強化された手刀が振られる!
間一髪で避けた、危うく首を刎ねられる所だった!
「これは……跳躍衣装!?」
「これで私のほうが有利になったかな?」
無茶苦茶だ、チートすぎだろ! こんなのどうしろってんだ!
しかも首を取りに来たぞ? 確か命は取らないって話じゃなかったっけ?
やっぱり胸を鷲掴みにして揉みしだいて堪能して心の中でご馳走様ですした事を怒ってるのか? 怒ってるんだろうなぁ……
この分だと、他にもまだ厄介なギフトを保有している可能性が高い。
第12魔王、滅茶苦茶強いじゃねーか……
どうしよう?