第212話 第12魔王 ~観戦者~
「あ、魔神器が使えない?」
「あぁ、反魔術領域内では魔器の使用も制限される」
だから先んじて武器を用意しておく必要がある。
まぁどちらにしても彼女の持ち武器は全部魔器だろうからあまり意味が無いが……
「ここから先、戦うにはギフトに頼るしか無いわけね」
「そーゆーこと」
地面に挿しておいた鉄パイプ状の武器を引き抜く、コレは非殺傷制圧武器だ、余程運が悪くないかぎり殺してしまうことはないだろう。
大丈夫大丈夫、剣豪が鉄の棒で人の頭ガンガン叩いても死なないんだから、でもせめてタケノコは用意しておくべきだったかな? アレ? たけみつだっけ?
「あぁ…… またしてもシテヤラれた…… その性格じゃキミって友達少ないでしょ?」
余計なお世話だ。
友達がいなくても嫁がいれば生きていける。
「もう降参してもいいんだぞ?」
「ふん、冗談でしょ? まだまだコレから…… ううん、ここからが本番よ」
魔王リリスはそう言うとしゃがみ込んで地面に手を置いた。
「『影闇使い』」
そう言うと、彼女は自らの影から棒状の物体を取り出した……
否、取り出したんじゃない、影そのものを形にしたんだ。
ビュン!!
魔王リリスは漆黒の巨大な鎌を創りだした…… 暗黒心が疼く禍々しい良いデザインだ、その代わりに彼女の影はなくなっていた。
影使い? アレが第12魔王リリス・リスティスのギフトなのか?
「それじゃ続き行くよ?」
ダン!!
魔王リリスがその場で飛び上がると、そのまま巨大鎌を振り下ろし攻撃してきた。
いやいや、チョット待て!
身体強化魔術の効果はキャンセルされてるんだぞ!?
なのになんだ!! その金メダルがダースで貰えそうな異常なジャンプ力は!? 目算で15メートル以上は跳躍してる! んなバカなっ!
これが上位種族や身体能力の高い獣人族なら分かる、だがリリス・リスティスは人族出身の第12魔王、当然その身体能力も一般的な人族と同等のハズだ!
何かあるのか? 確かに完全後衛型だと思ってたミューズ・ミュースもギフトを使うことで近接攻撃をしてきた。
あの影のギフトにも何かしらの特殊能力があるのか?
相手の能力が分からない以上、迂闊に受けるワケにはいかない。
後方へ飛び、巨大鎌の一撃をかわす。
ズバンッ!!
直前まで立っていた位置に巨大な鎌が突き立てられた。
「うん?」
身体能力は異常に高いくせに攻撃そのものはお粗末だ、鋭さもないし追撃もない……
近接攻撃に慣れていないように感じる…… 芝居って感じでもない。
これはあまり気にせず接近戦を挑んでいいのかな?
ただしあの鎌だけは気を付けないといけないが…… 影を斬られたら本体まで傷つくとかありそうだし…… まぁ、そんなショボい能力が魔王のギフトとは思えないが。
地面に刺さった鎌を抜き、再びこちらに飛び込もうと構えている魔王リリスに向かって、今度はこちらから飛び込む。
「ッ!!?」
ギィィィンッ!!
鉄パイプと大鎌の柄がぶつかり合う。
「そっちから接近戦仕掛けてくるとは思わなかった、この鎌を見れば普通は誰も近づきたがらないのに」
「まぁ、普通はそうだろうな」
気持ちは分かる、しかし鎌は武器には向かない形状をしてる、もともと農具だしな。
草を刈る→首を刈る→魂を刈る みたいなイメージで死神の象徴として使われた。
つまりあの形状を選んだのは「威圧」が目的だろう、実際に取り回しし辛い、本気で接近戦をする気なら別種のポールウェポン、槍や薙刀の方が使いやすい。
間合いの内側に入るのは危険だが、ギリギリの距離ならかえって御しやすい。
「ッチ!!」
「逃がすかよ! 後舌打ちすんな!」
魔王リリスが舌打ちをしながら距離を取る。
すぐさま追撃に移るが跳躍力に差がありすぎる…… 向こうは一回ジャンプするだけで10メートル以上飛ぶ……
魔術補助無しではとても真似できん!
ならばギフトを使おう、アッチも使ってるんだからな。
---ブレイド・A・K・アグエイアス 視点---
丘の向こうには目を疑う光景が広がっていた……
炎の巨人と悪魔が戦っている…… 違った、キリシマ・カミナが戦っていたのだ。
こんな人里離れた場所で何故? とは思わない、俺達もわざわざこんな場所まで出向いているのだから。
ただその戦いは常軌を逸していた……
例えるなら神々の戦い……は言い過ぎだが、まるで魔王同士の戦いのようだ。
「あの巨人…… もしかしたら第1階位級の魔術かも知れません……」
エルがそんな事を小声で呟いた。
俺達は何故か声を潜め、覗きでもするように隠れて様子を窺っている…… 何となく邪魔しちゃいけない気がするからだ。
「第1階位級って言うと…… 魔導の最高峰に位置する魔術か?」
「はい、伝説の魔術です、デクス世界の歴史上それを使えたのは一人だけだったと言われています。
その魔術は属性の神を使役するモノだったと伝えれれています。
あくまで噂で詳細は不明ですけど……」
属性の神…… するとアレは炎の神か…… 確かにそんな雰囲気あるな。
何となく納得できる、コレは神と悪魔の戦いだったのか…… 当然のように炎の神を応援している俺がいる。
だが、キリシマ・カミナが負けるとは思えない、思いたくない。
アイツは俺がいつか倒すんだからな!
悪魔と対峙している巨人の背後に一人の女が立っている。
この距離からでは顔や年齢は分からないが、恐らく同年代ほどの少女だろう…… あの少女が悪魔と戦っているのか? 一体何者だ? 魔導魔術が使えるということはトラベラーなのだろうが……ハッ!!? ま…まさかっ!? アソコにいるのはルカさん!?
よく見ればD.E.M. の面々が勢揃いしている、まるでこの戦いを見守るように…… これは試合か何かなのだろうか?
その時、突然上空に巨大な剣が現れた。
炎の巨人より遥かに大きい…… 神聖さすら感じる冷気を纏った巨剣…… これも魔術なのか?
その余りにもの荘厳さに呆然としている隙に、戦いは激しさを増していった。
神聖さを感じさせる巨剣は炎の巨人の両腕を消し去った…… つまりアレはキリシマ・カミナの魔術ということか?
さっきまで神聖さを感じていたが、急に薄汚れて見えた……
その後、二本目の巨剣が現れる、先程と同じく炎の巨人に向かって飛んでいた途中、突然剣はバラバラに砕け散った!
その剣のカケラたちは炎の巨人の横を通りぬけ背後の少女に襲いかかった!
その時確信した、あの魔術攻撃は間違いなくキリシマ・カミナの手によるものだと。
奴はお得意の卑怯戦法で炎の巨人を消した…… 相変わらずである。
その後、奴らはしばらく話していたかと思ったら唐突に新たな巨人が召喚された。
稲光を纏った雷の巨人だった! 雷撃魔術だ。
雷撃魔術といえば伝統的に勇者の得意属性!
どうしても応援してしまう! 頑張れ! 悪魔を滅ぼせ! いや、滅ぼされたら俺が倒せなくなるんだが……
次の瞬間、雷の巨人は唐突に消え去った……
活躍する暇すら無かった…… 勇者である俺が密かに応援してしまったせいだろうか?
くそっ!! なぜか自分が負けた気分になる!
その後、少女は真っ黒な大鎌を取り出した…… あの男に接近戦を挑むつもりだろうか? 確かにこのまま魔術戦を挑んでも意味は無さそうだが……
動きは悪く無い…… しかし戦闘慣れしてない気がする。
あぁ! 違う! そうじゃ無い! ソコは一旦引いて悪魔が追い打ちをかけてきた所にカウンターを合わせるんだ!
ダメだ! それじゃ悪魔の思う壺だ! そこは…… あ、あれ? な……なるほど、そうやって相手の動きをいなす方法もアリなのか……
いや、何かおかしい…… アイツの攻撃はもっと鋭く、もっとイヤらしい…… 顔面を集中攻撃してる時に、さり気なく金的を混ぜるような男だ! あの攻撃はヌルすぎる! 俺が言うんだから間違いない!
アイツ…… 手加減してるのか?
(※勇者は反魔術領域に気付いてません)
「しかし…… 速過ぎる!」
キリシマ・カミナの動きが目で追えない、ジャンプしたと思ったら次の瞬間には少女の目の前に移動している、まるで瞬間移動でもしているようだ。
今アイツに戦いを挑んでも、俺はアイツに勝てない…… くそっ!
『グルルルルゥゥゥ……』
そんな時、緊張感を台無しにするような音が響いてきた。
誰かの腹が鳴った? 確かに食糧が残り少なく節約していたが時と場合を考えてくれ!
まさか鳴ったの俺の腹じゃ無いよな?
『グルルルルゥゥゥ…… フゥゥウ~~~』
何か背後から生暖かく獣臭い風が吹いてきた。
臭っ!? まずいな、念のため風下に移動するか?
『グルルルルゥゥゥ……』タラ~~~
ビチャッ!
「うわっ!? 熱っ!? なんだぁ!?」
首筋に40~50度はありそうなドロドロの熱湯をかけられた! 火傷するかと思った、こんなイタズラをしそうな奴は視線の先にいる、では一体誰だ?
振り向くとそこには体長20メートルはくだらない大きな獅子がいた……
我々の討伐対象だった帝王獅子だ、そいつが餌を見る目で俺を見てる……
こんなにデカかったのか!? 依頼書では10メートル前後と書かれていたのに!! もはや怪獣じゃねーか!! 嘘つきーーー!!
「うわっ!?」
「なっ…何だこのデカさは!?」
「うぉ!? マズイぞ!?」
いくら悪魔と少女の戦いに気を取られていたとはいえ、ここまで接近されて気付かないとは!
あり得ない! 一切魔力を感じなかったぞ!?
アレ? 目の前にいるのに魔力を感じない? 何だコレ? 幻? いや、俺にかかった涎は本物だ!
「天地に響け! 敵を喰らえ! 雷獣牙!!」
シ~~~ン……
「ア……アレ? 雷獣牙!! 雷獣牙ゥ!!!!」
何故だ!!? 魔法が使えない!? 効かないんじゃない、使えないんだ!! なんだコレ!! なんだコレェェェーーー!!?
『ガアアアァァァ!!』
「うっ…うわぁぁぁーーー!!!!」
巨大な帝王獅子が大口を開けて俺達を丸呑みにしようとしている……! いや、呑まれるならまだいい、腹の中で暴れれば生き残れる可能性も出てくる。
しかし俺の幸運度からすると、きっと俺だけあの鋭い牙で噛まれる!
流石に死ぬな……
そんな時だった。
ヒュゥン ズドン!!
『グガアアアァァァァァ!!』
帝王獅子の首筋辺りに何かが墜落した。
その勢いで巨大獅子は地面に伏せる様な形で倒れた、おかげでかじられずに済んだ。
「ふぅ…… 危なかった、下が柔らかくて助かった」
帝王獅子の背中に立っていたのはキリシマ・カミナと戦っていた少女だ……
てか、えらい美人だ!
美しく長い灰銀色の髪が神聖さを醸し出してる…… まさに悪魔と戦うエクソシストって感じだ。頑張って悪魔を浄化してくれ。
しかし手に持っているのは漆黒の大鎌、何ともアンバランスな印象だ。
「お? レアモンスだ、こんなにおっきい帝王獅子初めて……」
「血糸・影縫い」
「おっと」
次の瞬間、目に見えないほど細い糸が帝王獅子の上半身を縛り上げた。
あぁ…… なんかどっかで見た光景だ……
少女は華麗に身を翻し、帝王獅子の背から飛び降り事無きを得ていた。
それと入れ替わるようにキリシマ・カミナが巨大獅子の背中に降り立った。
『グルルゥゥゥグワァアァァァ!!』
頭から上半身にかけての動きを封じられた帝王獅子はもがき苦しんで咆える。
「チッ! ちょこまかと……!」
「他人に舌打ちするなとか言っといて、自分はしてるじゃない」
『ギャアアアァァァグガアアァァア!!!!』
「男はどうだって良いんだよ、でも美少女はダメだ! 勿体ない!」
「びしょ!? うっ……/// な……なるほど…… 魔王同盟が女の子ばかりの理由が分かった」
『グルルウウウゥゥゥゥウウウウアアア!!!!』
「あ? なんだって?」
「だからキミは……」
『ギャアアアアアアアアアアァァァ!!!!!!』
帝王獅子がうるさくて声が全く聞こえない…… てか、二人とも俺達に気付いてない? あの位置からは俺たちが見えないのか?
「……ウルサイ! 邪魔!! 弐拾四式血界術・四式『血糸断頭』」
キリシマ・カミナが腕を振ると、帝王獅子の首に巻きついていた糸が細かく震えだした気がした……
次の瞬間――
ズバン!!!! ビシャッ!!
帝王獅子の首は落ちていた……
「あ、ヒドイ、ここまで大きくなるにはきっと400年以上掛かってるだろうに……」
「うるさい、後からそんな事言うな、それに400年くらいある男の苦悩の500年に比べたら大したこと無い」
「?? 何の話?」
「降参するなら教えてやる、ある男の絶望に彩られた半生の物語を」
「いや…… 別に興味ないや……」
そんな言葉を残して、二人は再び遠くへと去っていった……
最後まで俺達に気付くこと無く……
しかしそれも無理はない…… 帝王獅子の顔の真ん前に居た俺達は、ヤツが最後に吐き出した火傷しそうなほど熱い血液を全身に浴びて真っ赤に染まっていたのだから……
キリシマ・カミナ…… 絶対殺す!