第211話 第12魔王 ~招かれざる客~
シニス世界― 第12領域・北西・グラネウス大地……
彼らはそこに居た、ただの偶然か…… 何かの運命に導かれたのか…… それは誰にもわからない……
ただ、一般人が寄り付かない場所にも関わらず彼らはそこに居た……
「勇者様…… 地図を寄こしてください」
「だ……大丈夫だ! こっちで合ってる! このまま真っすぐ行けば50kmほど先に村がある! ……ハズだ」
「昨日も同じようなセリフを聞きましたよ? 距離は10km程でしたけど……」
勇者率いるギルド「ブレイブ・マスター」の面々だ。
彼らはA級討伐依頼の帝王獅子討伐にわざわざこんな所に来ていたのだ。
第12領域最強の生物である帝王獅子討伐…… しかしその生息域には元から人は居住しておらず、この依頼は名声の為にあると言っていい。
時折、この依頼を受けるギルドはある、しかし帰るものは僅かだ……
また帰還した者も帝王獅子の発見には至らなかったのだ、中には討伐したと吹聴する者もいたが、討伐証拠部位を持ち帰ったものは誰もいない。
記録にある討伐の達成は実に500年も前まで遡る、歴代勇者でも最強と言われた29代目勇者の記録である。
力が受け継がれ、少しずつ確実に強くなっていく勇者に…… 歴代最強の勇者がナゼ過去の人物なのか?
諸説あるが、勇者在任期間中に打ち立てた功績によると言われている。
今代の…… 49代目勇者ブレイド・アッシュ・キース・アグエイアスは、その伝説の勇者にあやかろうとしているのだ。
パーティー構成も偶然ではあるが伝説のパーティーと一緒である、人族・人族・炭鉱族・妖精族であった……
近年…… 何人もの魔王が討たれている……
しかし本来魔王を倒す役割の勇者である自分は一人も倒していない……
それどころか無様にヤラれてばかりだ、生きながらえていることが奇跡なのだ。
そんな自信を喪失している勇者がふたたび立ち上がるために選んだ試練が帝王獅子討伐だったのだ。
仲間にしてみれば非常に迷惑な話である。
帝王獅子は人に被害をもたらす訳でもない、そもそもその生息域は人が一切寄り付かない僻地・グラネウス大地だ。
戦争が終わって間もない今の時期に、こんな僻地にわざわざやって来るギルドはブレイブ・マスターの他には居ない。
更に状況を悪くしているのが勇者の先導にある。
勇者ブレイドは先頭を歩くのが好きだ、彼いわく「隊列の一番前は勇者である自分以外考えられない!」と言う。
このパーティーにおいて勇者の役割はタンク兼アタッカー、先頭を歩くのも悪く無い…… だがこの隊列には非常に大きな問題がある…… それは……
勇者ブレイドが馬鹿なことだ。
道は当然のように間違えるは……
罠は当たり前のように踏み抜くは……
そして不運が運命のように振りかかる……
「ダンジョンでは決して勇者を先頭にするな」がブレイブ・マスターの掟である。
ちなみに空を飛べ、小さく罠にかかることが殆ど無い妖精族のタリスがスカウトの役割を担っている。
しかし外ではその限りではないので、ブレイドに好きなだけ先頭を歩かせている。
今まではソレで問題は無かった…… それも当然だ、フィールドでは道を歩くだけ…… 迷う筈がない。
普段から人が行き交う道に罠などある筈がない。
襲いかかる不運だけはどうしようもないが……
しかしグラネウス大地には道がない。
始めから人が訪れないのだから……
いつもの感覚で勇者を先頭に歩かせたら…… ドコにいるのか分からなくなった。
「いいからさっさと地図を寄こせ! ブレイドは隊列の一番後ろだ!
殿は重要な役割だぞ?」
「まっ…待ってくれ!! 大丈夫だから!! あの丘の向こうには人がいるから!!」
「さっきと言ってることが変わってるぞ? もう諦めたらどうだ?」
「大丈夫!! 大丈夫だから!! ちょっとだけ!! 後ほんのちょっとだけ!!」
そう言ってブレイドが丘の向こうを指差した瞬間、その方向から眩い光が放たれた!
そしてその直後……
丘の向こうから炎の巨人が顔を覗かせた!
「…………」
「…………」
「…………」
「ほ…… ほらな? 人……? 居ただろ?」
勇者パーティーの面々は固まっており、誰も勇者の戯言にツッコミを入れる事ができなかった……
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炎神が大きく腕を振り上げ殴りかかってきた、見た目はリアル巨人族サイズの炎の塊だが、その見た目に反してとにかく速い!
肉体を持たず、あくまで魔力と炎で構成されているからだろうか? まるで軽量級ボクサーのフットワークの様に軽やかだ。
そしてその一撃は一瞬で全てを炭化する程の火力を秘めている!
ズドォォォォォオン!!!!
ギリギリまで接近して反魔術を使えば、消し去れるのではないか?
そう思ったのだが……
「アッチィィィイ!!?」
熱過ぎて近寄れない……
「無駄よ、そもそも反魔術の技術を開発したのは私なんだから、その特性も理解している。
キミよりも……ね」
……と、いう事らしい。
俺が反魔術を使う事を想定して火炎魔術を選択したのだ、コレなら放射熱で近づく事すら出来ない。
やり難いなんてモンじゃ無い!
それに見てみろ! 俺がさっきまで立っていた場所を! なんか地面が溶けてる…… 命のやり取りはしないって話じゃ無かったっけ?
それとも俺はアレを喰らっても生き延びる事ができるのだろうか? そんな気は全くしない!
イヤだぞ、髪の毛が全部燃えてハゲになるのは!
「第2階位級 氷雪魔術『神剣・聖天白氷』シンケン・セイテンハクヒョウ!」
タイミングを見計らい、巨大な氷の宝剣を創り出す。
受け身に回っていても何れやられる、第1階位級と第2階位級にどれだけ差があるのか分からないが……
「穿て!!」
取りあえず真っ向勝負だ!
炎神の攻撃に合わせて宝剣を撃ちだす! 大きさではこちらが有利だが、果たして?
ドジュウウウゥゥゥゥゥーーーー!!!!
炎神のファイアパンチと、聖天白氷がぶつかり合う!!
まるでキノコ雲のような勢いで水蒸気が噴き出した。
不意に魔術コントロールの主導権が切れた…… どうやら巨大な氷の宝剣は全て水蒸気へと昇華されてしまったらしい。
ならば炎神の方はどうだ? 理想を言えば鎮火しててくれると有難い。そんな訳無いだろーが。
ブワッ!!
炎神が水蒸気の柱の中から堂々と歩み出てきた、しかしその両腕は消えていた。
どうやら右腕一本では足りなかったらしい、左腕も奪えた。
しかしなぁ…… 相手は触れるだけで即死級の炎の巨人だ、両腕がなくてもその攻撃力は然程変わらない、そもそもパンチよりキックの方がヤバイ、更にあの巨体でフライングボディプレスでもカマされたら大惨事だ。
「とにかく…… 厄介な方から殺らせてもらう」
「うん?」
「第2階位級 氷雪魔術『神剣・聖天白氷』シンケン・セイテンハクヒョウ」
「…………」
魔王リリスが憮然たる面持ちで見ている…… 俺が同じ魔術を使用したのがお気に召さない様だ。
しかし失望するのはまだ早い、ま、こちらを侮ってくれるなら殺りやすいが。
「穿て!!」
氷の宝剣は炎の巨人の胸目掛けて飛んで行く、このまま行けば上半身くらいは鎮火できるだろう。
もっとも俺の目的はそっちじゃ無いが……
「弾けて襲え!!」
炎神目掛けて飛翔していた100メートルを超える宝剣に、突然無数のヒビが入る。
次の瞬間には粉々に砕け散り、数百の小さな氷の刃に変わった。
「!?」
その刃は炎神を避けるように飛び、その背後にいた人物に襲いかかる、目標は魔王リリスだ。
ズドドドドドドドドドッッ!!!!
氷の刃は魔王リリスを完璧にとらえた。
着弾の瞬間、炎神も一瞬のウチに消え去っていた……
着弾地点の煙が上昇気流で巻き上げられ、炎に包まれた魔王リリスが姿を表す。
炎を自分の身に纏い、攻撃力も防御力も極限まで引き上げる、コレが炎神の…… 第1階位級の本来の使い方だ。
運命兄さんのギフトの超上位互換だ、威力が段違いすぎる……
「ふぅ…… ビックリし…!?」
予想外の攻撃で出来た僅かな隙を突いて次の攻撃に出る。
「反魔術!!」
「しまっ…!!」
パキィィィィィン!!
魔王リリスの炎の鎧を引っぺがす事に成功した。
魔術構成を変更した場合、炎の結界は消えもう一度貼り直さなければならない……と思った、結界の規模も展開範囲も修正するんだ当然だな、正解だったらしい。
「むぅ…………」
彼女は納得いかないって顔をしている、まぁ卑怯な不意打ちって言えないこともないからな。
「…………ウソツキ」
「嘘なんか吐いてないぞ? ちゃんと言ったろ? 「厄介な方から殺らせてもらう」って。
宣言通り厄介な方から攻撃した」
「ッチ!」
だから舌打ちするんじゃない、美少女なら美少女らしく「ふえぇ~!」とか言えよ、コレだから実年齢2400歳オーバーの旧世代魔王は…… 少しはウィンリーを見習えよ? あのロリBBAの可愛さを!
「そう言えばそんな報告もあったわね…… 霧島神那は卑怯な手を平然と使うって」
「卑怯とは何だ、戦略と言え戦略と」
卑怯とは失礼な! きっとあの使徒リーマンの報告だな、今度会ったら戦略的に追い詰めて制裁を加えてやる。
「とは言え…… 流石の魔力コントロール技術ね、第2階位級を発動後に分裂させ操作するなんて…… あんなこと私にも出来ないわ」
伝説の「魔導の祖」本人に褒められた…… これは誇っていいのかな?
魔王リリスは魔力微細制御棒を二刀流で使ってる、魔力コントロール技術では俺が上らしい。
フフン♪ 伝説を上回る男……か。自分の才能が怖いよ。
「それじゃ続きね。
第1階位級 雷撃魔術『雷神』トニトルス」
「…………」
凄まじい轟音と閃光に導かれ、新たな巨人が召喚された……
あ、ダメだ、魔術戦じゃ勝ち目ナシ。
前言撤回、伝説は簡単には覆らない……
如何に俺の魔力コントロールスキルが高かろうが、魔術戦で最も重要になるのは能力値、魔力総量だ。
魔王リリスは元から能力値の高い女性であり、魔王であり、全ての魔導魔術の生みの親である魔導の祖だ…… その能力値はもしかしたら琉架やミラに匹敵するかもしれない。
雷撃魔術は風域魔術や光輝魔術で完封できるが、それは第3階位級までの話…… それより上の階位の魔術を防げる保証はない。
当然、他の属性もそうだ、さっきみたいな不意打ち的に反魔術を決めるのは難しいだろう。
仕方ない…… 使うか。
普段なら自分の首を絞める事になるからやりたくないが、今回に限って言えば相手の方により痛手になるだろう。
魔神器から一本の鉄パイプに似た棒を取り出す。
そして魔力微細制御棒を使い、一見無秩序に放出される魔力を強引に制御下に置く。
「……?? ナニ?」
どうやらこの情報は持ってないらしい、だったら邪魔させないようにしないとな。
「今から俺がとっておきを見せてやるよ」
「とっておき? ……ふ~ん、面白そうじゃない」
こう言っておけば邪魔は入らない筈、結構神経使うからな……コレ。
自分の周囲の広がっていこうとする魔力を無理矢理押し留め、限界まで密度を上げる。
そしてソレが弾け一気に広がった。
「なっ!?」
先程呼び出された雷神は、その圧倒的実力を披露することなく霧散していった……
フハハハハ! 第1階位級 敗れたりっ!!
「な……何したの?」
「知ってるだろ? 反魔術領域だ」
「反魔術領域? キミ…… 人族だよね? なのに古代魔術が使えるの? もしかしてご先祖様に上位種族の血が混ざってたりするのかな?」
生憎、ウチのグランパは由緒正しき農家でね、その可能性は限りなく低い。
龍人族や妖魔族が野良仕事するとは思えない…… 全くイメージが湧かない。
ただし巨人族だけは畑仕事が好きそうなイメージがある、まぁサイズ的にやっぱりあり得ない。
「これは魔術というより魔法技能だな、魔力コントロール技術で反魔術領域を強引に再現したんだ」
「そんな……ことが……」
これで二人とも魔術が使えなくなった、ココからは能力戦だ。