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レヴオル・シオン  作者: 群青
第四部 「転移の章」
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第208話 対面

 そこはピラミッドの中の様な空間だった……

 頂点の高さは150メートル位あるだろうか? その頂点部分に光り輝く何かがぶら下ってる…… この光量…… 本物の太陽よりは劣るモノの人工太陽?の様なものだろうか? 魔科学技術なのか……魔導技術なのか…… 検討もつかない。

 しかしこの狭い空間内を照らすには十分すぎる代物だ、実際に外にいる様な感覚に見舞われる。


 ピラミッド状の空間内部には小規模ながら芝生の庭に僅かな木々、花壇なんかもある。空中庭園を彷彿とさせる……

 そして空間の中央には屋敷、ハーレムパレスやホワイトパレスに比べれば全然小さいが、それでも立派な屋敷が建っている。

 外観は城と呼ぶには少々小さいから屋敷と呼んだが、石造りの建物は教会っぽい印象を受ける…… 何と言うか、石造りの教会からあの背の高い塔を取っ払った感じか。


 あの屋敷の建築資材はどこから運んで来たんだろう?

 俺達が歩いてきた狭くて長いあの通路か?


 いや、それは別にどうでもイイか……


「改めまして、ようこそD.E.M. のみなさん。

 ここが『第7プレイス・タミアラ』です」

「第7プレイス・タミアラ?」

「はい、ここはレイフォード財団がデクス世界で発見した、魔科学では解明しきれない不思議な場所…… 全部で10ヵ所存在する内の一つです」


 デクス世界で全10ヵ所…… 俺の予想では第三魔導学院地下の魔宮や、第一魔導学院地下の聖域もそれに含まれる。


 今まで沈黙を守っていたセリーヌ女史が教えてくれた、さすがに説明無しで済ます事は出来ないと思ったのか? 或いは場所以外の事なら説明しても良かったのか?

 これは質問が解禁されたと考えて良いのかな?


「あ、本物の土の地面だ、樹も草も花も全部ホンモノ、まさに別荘って感じだね」


 琉架に言わせるとあの豪華な屋敷は別荘レベルらしい、俺の実家の魔王城・ローン24年残しより遥かに立派だ……

 でも大丈夫、ウチの実家は確かに小さいが、俺はシニス世界で一番優雅な魔王城を持っている。負けてなんか無いやい!


 しかしこの感じはやはり……


「それでは皆様、こちらへどうぞ……」


 そう言ってセリーヌ女史が屋敷の方へと歩き出す。

 しかし周囲には人の気配はしない…… そもそも生物のオーラが一切見えない。

 この空間にいる生命体は俺達D.E.M. のメンバー以外ではセリーヌ女史とランスフォードとか言う護衛の人だけだ、あと屋敷の中に一人だけ…… あれがレイフォード財団、現会長アイリーン・シューメイカーか?


 ちょっと待て、他に誰もいない?

 ホワイトパレスには何人ものメイドと執事がいた、ハーレムパレスにだって精霊がいた、アイリーン・シューメイカーは仮にもデクス世界で一番権力を持っている人物だ。

 身の回りのお世話をする人間が一人もいないのだろうか?


 いや…… 俺達の訪問に合わせて人払いをした可能性もある……が、場所柄 簡単に人の出入りが出来ない……

 考えられる可能性は、普段からお世話をする人間などいないのか、別の出入り口があるのか…… 或いは……


 なにせ俺たちはシニス世界最強のギルド、魔王を5人も倒してるんだから警戒されて当たり前、下手すりゃ兵士100人とか1000人とかに囲まれたコロッセオのような所で謁見するかと思ってたくらいだ。

 仮に逆の立場だったとしたら、俺でもそうする。魔王殺しが5人もやって来るんだぜ?

 もっとも友達100人は疎か10人も居ないから、結局いつものメンツで取り囲むだけだ。そのメンツも一人を除いて全員華奢だから集団リンチの現場には見えないだろう…… やっぱこのギルドに筋肉不要じゃね?


 まぁいい、人が居ないのならこちらにも好都合だ。

 俺の考えが正しければ……


「何か…… 寂しい所だね……」


 琉架がそんな事を言った、だが気持ちは分かる。俺も同じ印象を持った。

 周囲は虫の気配は愚か、風の音すらしない完全に無音の世界、俺達の足音だけが空間内に響いている。


「会長さんは一人でずっとココに居るのか?」


 答えてくれるか分からないが、一応聞いてみる。


「そんなコトありませんよ、お忙しい方ですから基本的に世界中を飛び回っています。

 ただし今は例外です」


 そう言えばオリジン機関の査問会的な老人会でも一人だけ電話参加だったな。


「皆様もご存知かもしれませんが、アリアはデクス世界に現れて直ぐにオリジン機関を狙いました。

 もしかしたらアリアの狙いはアイリーン会長だったのかも知れません。

 故に現在は身を隠しているのです」


 あり得る話だ、レイフォード財団の会長の身柄を押さえるということは、色んな意味で物事を優位に進めることが出来る。

 魔王マリア=ルージュの狙いは最初からソレだったのかも知れない、しかしデクス世界の裏切者もアイリーン・シューメイカーの居場所は分からなかったと……


 しかし今の話から彼女が半年間引きこもっている事が判明した。

 デクス世界で一番“力”を持っているのに、なんて勿体ない、色々出来る事もあっただろ?


「なるほど…… だからこんな所に引きこもってるのか…… それよりこの場所は本当に見つからないのか?

 デクス世界は既に半分近く第3魔王に支配されかかってる、どんなに巧妙に隠しても何れは……」

「それはあり得ません」


 ピシャリと断言された、よほど自信があるらしい。


「誰かがこの場所の情報を漏らさない限りは……!」


 そんな言葉と一緒に睨まれる…… この人もしかして俺たちにかけられた疑惑のこと知ってるのか? 確かに魔物に見つからずに海を渡る手段がるならアルスメリアの情報を得ていても不思議はない……


 不思議はないが……


 オゥコラ! オメーもか! 人に冤罪を着せるのか? どいつもこいつも善良な一魔王に非ぬ疑いをかけやがって!

 そもそも場所の発覚を防ぐ為に半日も掛けて移動してきたんだろ? コレで居場所が敵にバレたら俺達が悪いというよりお前たちがミスったんだ。

 その失敗を人に擦り付けるんじゃねーよ。


 確かにその気持ちは分かるがそういう感情は相手に向けるべきじゃない、コレから何かしらの交渉を行うなら尚更だ。

 俺の中でセリーヌ女史に小さな猜疑心が生まれた…… いや、最初から信用してないけど……


 しかし相手を信用してないのは向こうも同じだったようだ。


 屋敷の正面玄関にたどり着いた……

 そこでセリーヌ女史は振り返りこんなことを宣う……


「注意しておきますが、もし皆様が義母に危害を加える様なことがあった場合は覚悟しておいて下さい。

 ありとあらゆる手段を用い、その人を社会的に抹殺します」


 そんな事を俺の目を見ながら言った…… 明らかに俺個人に言ってる、他にこんなに人がいるのに…… ナゼだ?


「神那クン、おイタしちゃダメよ? 私はかばわないからネ?」

「おにーちゃんヤメテよね? その所為で私がクラスでハブられたりしたら責任とって死んでもらうから」


 先輩と伊吹は俺を切り捨てるらしい、やってもいないことで切られるのは納得がいかない。俺が一体何したって言うんだ?

 だが俺は気にしない、俺には付いて来てくれる嫁達がいるのだから…… 付いて来てくれるよね?


 セリーヌ女史はその様子を見て、満足そうな顔をして正面を向き直した、俺に味方が少ないのがそんなに嬉しいか?


「…………」

「?」


 何をしてるのかと思ったら、扉に設置された魔法陣に手をかざして何かしてる…… 恐らく鍵を開けてるのだろう。

 この屋敷は恐らく魔術的結界が施されており、外側からは干渉できない仕組みになってる。

 しかしその結界の防御力を上回る力をぶつけてやれば簡単に破れるだろう…… 中の人を守るためというより、中の人を閉じ込めているように見える。


 まるで牢獄のような……


 そんな屋敷を近くから見上げてみる、建物自体は石造りの2階建て、全体的に細かなレリーフや派手な装飾が見られる、思わず良い仕事してると唸りたくなるほどだった。

 こういうのなんて言うんだっけ? バロック建築?

 しかしこの様式…… 何となく見覚えがある。


「この作風…… ノエル=グラスランドの流れを汲んでいるんじゃないか?」


 ……と、それっぽい事を言ってみる、当然みんなに「ダレソレ?」って顔をされた。まぁ仕方ないか。


 カチン! と何かが外れる音がした。

 鍵が開いた……と言うよりも封印が解かれたと言ったほうが良いだろうか。


「それでは皆様、先程も申し上げましたが、くれぐれも粗相の無いようよろしくお願いします」


 またしてもセリーヌ女史と見つめ合ってしまった……

 嫁達が嫉妬したらどうする?

 そんなに不安なら背後から心臓の位置に銃でも突きつけたらどうだ?


 俺たちはセリーヌ女史とランスフォード警備主任に挟まれる形で屋敷に入った。



 内部はやはり教会っぽい、光を取り入れるための天窓から神々しい光の帯が無数に伸びている……

 光の見え方まで計算に入れて造られてるようだ。

 そのまま真っすぐ奥へと導かれる。

 そして大きな扉の前で立ち止まる、セリーヌ女史がちらちらコチラを観てる……

 もう言いたい事は分かったからとっとと開けろや。

 いい加減にしないとジークに映画のオチを教えて暴れさせるぞ?


 フゥ…… と一旦息をつき、セリーヌ女史が扉をノックする。


「会長、お客様をお連れいたしました」


 しかし反応はない、中で死んでるなんてこと無いだろうな? 背中に刀が突き立てられてたりとか…… 磔にされてるとか…… 首チョンパされてるとか……


『入りなさい』


 しばらく待つと返事があった、どうやら死んでないらしい…… 当たり前か。


 その返事を聞きセリーヌ女史がゆっくり扉を開けた。


「失礼致します。会長、お客様をお連れいたしました」

「ご苦労様です」


 壁の一面が全てガラス張りの部屋、その光の中に一人の女が立っている…… 逆光でよく見えない…… 演出が第2魔王と被ってますよ?

 次第に眼が慣れてくるとその姿が浮かび上がってくる……


 その姿は…… どう見ても少女だった。


「え? アレが……じゃ無くって、あの人がレイフォード財団の会長?」

「嘘…… 私達とほとんど変わらないじゃない」


 先輩と伊吹が困惑している、それも無理はない。

 デクス世界で一番の権力者が十代少女なのだから。


 長い茶色い髪を後頭部でまとめ、スカートタイプのスーツを着用、そして顔を隠しているつもりなのかサングラスをかけている。

 ちなみに胸はそんなに大きくない。


 だが…… やはり間違いない。

 俺の予想通りだった。


「久し振りだな、え~と? アイリーン会長か」

「!?」


 この部屋にいる全員の視線が突き刺さる、俺を除いた全員だ、それはアイリーン会長も例外ではない。

 サングラスにより目は隠されているが、コチラを見ていることだけは理解る。


「え?え? 神那、会長さんに会ったことあるの??」

「あぁ、コレで三回目になるかな?」

「ッ!」


 アイリーン・シューメイカーが小さく息を呑む音が聞こえた。

 そして大きく息を吐くと……


「……はぁ…… いいえ、四回目になるわ……」


 アレレ? ハズレた……? しかし俺の記憶では過去に彼女と会ったのは二回だけの筈…… ソレ以外でもドコか出会っていたのか? 直接会ってるなら忘れないと思うんだが……

 つーか、みんなの前で恥をかかされた気分だ。俺の渾身のドヤ顔返せ!


「セリーヌ、ランスフォード、この部屋から…… いえ、屋敷から出て行きなさい」

「し…しかし御義母様! それは……っ!!」

「命令です。出て行きなさい」

「ぅっ…… わ……分かりました……」


 セリーヌ女史とランスフォード警備主任は項垂れた感じで部屋を後にした。

 しかし会長と呼んだり、義母と呼んだり、御義母様と呼んだり…… 全然統一できてない、彼女もまだまだ若いな。

 もっともその会長で義母で御義母様の方が遥かに若くみえるんだが……


 それとランスフォードも部屋を出て行く時、不安げな顔をしていた。もしかして彼も養子なのだろうか? まぁ男のコトなどどうでもいい。


「あの……神那?」

「あぁ」


 部屋を出て行った二人が、扉の外で聞き耳を立ててないことを確認する。オーラはしっかり屋敷の外へ移動していた。

 物凄く心配していたのに言い付けは守る、王様の命令は絶対!って奴だな。


 アイリーン・シューメイカーは沈黙を守っている。

 どうやら自分から言い出すつもりはないらしい…… またドヤ顔で説明したらハズレてました…… とかなったら嫌だな。

 いや…… コレは大丈夫、間違いないから!



「彼女こそが第12魔王リリス・リスティスだ」



 渾身のドヤ顔でレイフォード財団会長の正体を暴露してやった!




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