第206話 訪問
---有栖川琉架 視点---
コンコン!
研究室の扉がノックされる…… この部屋に客が来るのは珍しい。
「…………」
そして神那は何故か一回目のノックを無視する、その間に来客がどういった人物か観察しているようだ。
だがその観察の結果、無視されるノックは一回じゃ済まない、大抵の場合無視され続ける。
でもその場合、相手はノックし続けるか騒ぎ出したりする。諦めて帰る人は稀だ。
ちなみに騒ぎ出す人は大抵ロクな要件じゃない。
つまり神那が無視する客は、神那にとって面倒臭い相手だということだ。
でも今日は違う、すぐに反応を示した。
もしかしてさっき言ってた第12魔王からの使者だろうか? もしそうなら予知が使える私が出るべきだ。
対応しようとするミカヅキさんの代わりに戸を開く。
「は~~~い……」
ガララ……
そこに居たのは三人、一人は教頭先生、後の二人は知らない人…… でもさっき見た……
あの変な飛行機から出てきた二人だ。
「こ…こ…こちらになります!」
教頭先生は私を無視して後ろの二人に話しかけてる、え? そういう説明はノックの前にしといてください…… 出たのが私でよかった、神那だったら何かしらの制裁が加えられてたと思う。例えば…… 髪の毛を毟り取る……とか。
「教頭先生、ご苦労様でした。もう下がってくださって結構ですよ?」
「は…はい、分かりました、それでは失礼致します」
教頭先生はあからさまにホッとした表情を浮かべると、そそくさと去っていった…… 脅されてたのかな?
普通の人に見えるんだけど…… 何者だろう?
「突然の訪問、失礼いたします。
こちらにギルドD.E.M. の皆さんが居られると伺ったのですが?」
「あ、はい、居ります……です」
「少々お話を伺っても宜しいでしょうか?」
「えーと……」
話を聞きに来ただけ? そんなワケ無いよね? あんな派手な登場して……
「その前に名乗って頂けませんか? 何処のどちら様か」
いつの間にか神那がすぐ後ろに居た…… てか、顔が近い……うぅ///
「スイマセン、ココではちょっと……」
そう言うと女性は周囲を見渡した、廊下では名乗ることも出来ない人なの?
危ない人には見えないけど……
「………… 分かりました、では中へどうぞ」
神那にしては珍しくあっさり迎え入れた。
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二人掛けのソファーに女性一人が座り、男性の方はその斜め後ろに立っている。
その向かい側のソファーに私と神那が並んで座り、ミカヅキさんが私の斜め後ろに立っている…… 斜め後ろに立つ決まりでもあるのだろうか?
ちなみに紅茶は私と神那と座っている女性の3人分しか出してない、立ってる人にお出しするのもおかしいよね? こんな時どうすればいいかセバスに聞いておけば良かった。
白ちゃんとミラさんは窓際の辺りからこちらを窺っている。
「まず自己紹介からしましょう、私はセリーヌ・R・シューメイカー、後ろに居るのはランスフォード・リフォードといいます。
突然の訪問にも拘らずお時間を作ってくださった事に感謝いたします」
「……霧島神那です」
「あ…有栖川琉架でしゅ!」
噛んじゃった……
「霧島神那、有栖川琉架…… 創世十二使の序列六位と七位……」
! それを知ってるってコトはオリジン機関の関係者?
「私はレイフォード財団、異世界学部門の統括並びに会長秘書を行っています」
「レイフォード……財団?」
レイフォード財団と言えばオリジン機関最大の出資者、そのトップである会長の秘書? そんな人が何でわざわざやって来たんだろう?
「今回我々が出向いた目的は、皆さんをお迎えに上がったのです」
あれ? ちょっと前にもこんな事があった気がする…… 見れば神那が苦虫を噛み潰した様な顔をしてる、きっと同じことを思い出してるんだ、そう…… 第2魔王の時だ…… そして出向いた先で魔王討伐を頼まれたんだ……
もし同じパターンだとすると…… いや、今の世界情勢からすると十中八九、出向いた先で待ってるのは第3魔王の討伐依頼だ。
神那は第3魔王とだけは敵対したくないってスタンスだし…… 正直私も極力関わりたくない……
でも第3魔王はこのまま放置しておく訳にもいかない…… 実際私たちはβアリアを追い払った、既に目を付けられてるかもしれない…… 或いは私達の存在に気付いてるかもしれない。
う~ジレンマだ。
「分かりました、伺いましょう」
「えっ!? か…神那?」
神那のコトだから、絶対にハッキリ断ると思ってた。
それでその後 色々あって渋々引き受ける事になるのがいつものパターン……
「レイフォード財団の会長さんにはコッチも用があるんだ」
「そう……なの?」
「あぁ、頼まなきゃいけない事もあるし……」
あ、もしかして私たちの裏切り者疑惑についてかな? 確かにレイフォード財団の会長さんならちゃんと話を聞いてくれるかもしれないし、もし味方についてくれたら力技で疑いを晴らすことも出来る。
でもその代り、魔王討伐させられる気がするんですけど…… 神那はそれでイイのかな?
「それで、会長さんはドコに居るんだ? 場所によっては簡単に行けないし、日数も掛かる。
まさか自ら大和にまで出向いている訳じゃ無いだろ?」
「えぇ、当然大和国外になります、ただ場所をお教えすることは出来ません。また移動に関しても外の景色を見せることは出来ません。
母の居場所は決して誰にも知られてはならないんです」
「ん? 母?」
「私の母はレイフォード財団、現会長アイリーン・シューメイカーです」
え?え? この人が会長さんの娘さん? 年の頃にして二十代後半位だろうか? その人の母親なら若くても50歳前後……
私、レイフォード財団の会長ってもっとずっと若いと思ってた。
「あぁ、ちなみに私と母は血の繋がりはありません、私は養女ですから」
「あ……そうなんですか?」
わざわざ教えてくれた、もしかして疑問が顔に出てたのかな?
「アイリーン・シューメイカー……か、レイフォード財団の会長といえば名前も、年齢も、性別も、人種も、全てが謎の人物だ、明かしてよかったのか?」
「どうせお会いすれば分かることですから、それに名前だけなら知っているという方は結構いますので」
チラリ……
こちらを見られた…… え? 私知らないよ? あ、でもお爺様とお婆様ならご存知かもしれない…… もしかしたら会ったこともあるかも。
「それで呼び出しが掛かってるのは俺と琉架だけなのか?」
「いえ、D.E.M. 全員です」
「全員?」
「はい、全員です。霧島神那、有栖川琉架、佐倉桜、如月白、ジーク・エルメライ、ミカヅキ、ミラ・オリヴィエ、霧島伊吹…… 以上8名、全員です」
よく知ってるなぁ…… それも帰還者が持ち帰った情報かな? 全員の名前が知られてるとは……
D.E.M. は一応解散したんだけど、サクラ先輩や伊吹ちゃんを巻き込むコトになっちゃった。
「出発はそちらの都合に合わせます、ただ出来るだけ早い方がありがたいです」
こちらの都合をちゃんと汲んでくれるらしい、威圧感を振り撒かないだけ第2魔王のお迎えよりは良心的だと思う。
「早くですか…… みんな予定があるだろうし、そもそも拒否する人がいるかも知れない」
「その場合は報酬を出すとお伝えください」
あ、多分サクラ先輩は参加するな……
---霧島神那 視点---
ギルドメンバーが全員、強制参加させられることになった…… どうして権力者ってやつはこうも傲慢なんだろうな? 自分が要求すれば全て思い通りになると勘違いしてる。
もっと謙虚になれよ、俺なんか魔王なのに裏切り者認定されて追い掛け回されたんだぞ?
俺のようなひねくれ者はこういう傲慢な奴を見ると反射的に反発したくなる…… そんな気持ちをグッとこらえて相手の要求を飲む。
ココで反発しても意味が無いからな、俺は大人だから、この茶番にも付き合ってやる。
さて、全員強制参加だ…… ウチの嫁達は俺が行くと言えばついてきてくれる……ハズだ。
ジーク辺りは呼ばなくても付いて来そうだな、伊吹も琉架が行くと言えば付いて来るだろう。
問題は先輩だな、いくら面倒見のいい先輩でもこれ以上 敵対魔王に関わるのは嫌だろう。
2年の留年と引き換えにようやく普通の女の子に戻れたんだから……
報酬を用意していると言うが、我々D.E.M. はカネでは釣られない、何故ならシニス世界から持ってきた財宝を売れば一生遊んで暮らせるカネを手に入れられるからだ!
このご時世では場所によっては通貨が使えない地域もあるだろう、しかし大和でなら現金化も可能だ、本当は世界が平和な時にオークションにでも掛けるのが一番いいんだが、無いものを強請っても仕方ない。
つまりカネで先輩は釣れない、しかし報酬はカネだけとは限らない。
相手はレイフォード財団、しかもその会長様だ。それはつまりデクス世界で一番権力を持ってる人間と言い換えても良い。
そのコネは金では買えないものだ、例えば…… レイフォード財団はオリジン機関に出資していたように、魔導学院にも大きな影響力を持っている。
てか、ぶっちゃけ魔導学院は名目上は国際連合運営だが、その実態はレイフォード財団が運営している。
世間ではあまり知られていないが、魔術師育成やギフトユーザーの扱いなんか見てれば大体分かる。
つまり何が言いたいかというと…… 第三魔導学院に対する絶対的なコネが手に入るってことだ。
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学院からの帰りに先輩の自宅に寄ってみた。
チャイムを押した瞬間、家の中からドタバタと階段を降りる音が聞こえてくる……
僅か10秒ほどで先輩は家の外へ飛び出してきた、この人は何をそんなに慌ててるんだ? そんなに俺に会いたかったのか? オカシイな? 先輩とのフラグは建設予定すら無いというのに。
そんな先輩にレイフォード財団からの呼び出しについて話す、すると案の定……
「え~~~、わたし行きたくないんですけど…… 私達のギルドは一応解散したでしょ? 私はもう引退したのよ。
それにその呼び出しにノコノコ出てったらまた魔王討伐に巻き込まれるでしょ?
わたし…… 次こそは生き残れない気がする……」
先輩は当たり前のように拒否してきた、確かに第3魔王と戦えって言われたら俺だって拒否る。
だが先輩はまだ気付いていない…… このチャンスに。
「先輩はレイフォード財団にコネを持つ意味が分かってないようですね?」
「意味? そりゃコネは多いほど良いだろうけど、無くたって生きてけるからね…… お金はあるし……」
「そうですか? このコネを上手く使えば2学年飛び級とかでき…「行きます!!!!」…」
俺の言葉を遮ってサクラ先輩が参加表明…… チョロい。
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翌日の昼過ぎ……
我がギルドD.E.M. の全メンバーが第三魔導学院に集結する。
五大魔王は全員、学院の制服姿だ。俺は単純に着ていく服を選ぶのが面倒だったからだが、みんなは何でだろう? 俺が褒めまくったせいだろうか?
今度個別デートイベントを発生させてみんなに服をプレゼントしよう。俺の趣味を爆発させて!
それに比べて先輩と伊吹は実にラフな格好だ、完全に女子中学生の私服だ、ハートマークが付いてたり、フリフリが付いてたり、ピンク色だったり……
偉い人に会いに行くという意識は無いようだ。
まぁ第2魔王との謁見もいつもの格好だったしな…… すぐ隣にビキニ・アーマーを装備した人が居たから自分の服装など気にならなかった。
ちなみにジーク一人だけがいつものローブ姿だ…… すごく浮く……
この集団の中にいると、後ろから見た姿が全裸にコートを纏った変質者に見える…… やはりタンクトップとハーフパンツでも買ってやれば良かったかな?
…………
ジークがパッツンパッツンのそれらを着ている姿は、想像するだけでドン引きだ。取りあえず俺の家の半径200メートル以内での着用は禁止しよう。
「それでは皆様、宜しいでしょうか?」
セリーヌ女史は俺達の格好に特にコメントを述べることはなかった。どうでもいいのだろうか?
まぁ何か要望があるなら事前に言っとけって話だ。つまりどうでもいいのだろう。
学院にたまたま居合わせた生徒・教師に衆人環視されながらVTOLに乗り込む。
いい見世物だな……
こうして俺達は旅立った、この世界で一番偉い奴に会いに……